老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
137 / 385

第137話 竜、連れて行く

しおりを挟む
「おー、ドラゴンだ」
「あれはディランさんだっけ?」

 城へ降下してくるディランを見て、騎士や兵士たちがそんな声を上げていた。
 念のため剣を抜いているが、特に問題ないだろうと慌てている様子はない。
 そんな彼等はさておき、ディランは打ち合わせでドラゴン状態で着地してよいとされている。グラウンドのような訓練所へと降りた。

「ディラン殿!」
「おお、バーリオ殿か。すまぬな、舌の根の乾かぬ内にこの姿で来てしまったわい」

 そこへバーリオが駆けつけてくれた。彼は大きく手を振りながら問題ないと口にする。

「それで大丈夫ですぞ!」
「む、耳が遠くなってしまったかの」

 遠くてよく聞こえないとディランは頭を下げてバーリオに近づける。
 騎士達がどよめくが、指南役であるバーリオはたじろぎもせずに話しかけた。

「ここなら問題ありません。陛下にご用……それも早急なことと見受けられますが」
「うむ。その通りじゃ。む、もう来たか」
「遠目から見えておりましたしね」

 バーリオが苦笑しながら振り返ると、モルゲンロートとローザが走ってくるのが見えた。
 ディランのところまで到着すると、モルゲンロートが話しだす。

「ようこそディラン殿。歓迎します。というかガルフ君たちもいるのか? それと……?」
「こやつはワシの息子じゃ。ハバラ、挨拶を」
「初めまして、ハバラと申します」
「息子……ということは……」

 モルゲンロートが困惑しながらハバラに注目する。ディランは背中に居るハバラに挨拶をするように言うと降りてから頭を下げた。

「うむ。もちろんドラゴンじゃ」
「初めましてローザですわ! まあ! では一家お揃いに?」

 ローザが目を輝かせてハバラを見ていた。ディランは大きな頭で頷くと、モルゲンロートが話を続ける。

「まさか解禁した直後に息子さんが来るとは……それで、慎重なディラン殿がこの姿で来たのは理由があってのことか? 息子さんもここに住むとか?」
「いや――」

 ディランは手短に現状を伝えた。
 ネクターリンを採りに行くため、とある山へ行かなければならないこと。急いでいるため空を飛んでいくことを。

「じゃからちょっと飛んでくることを伝えに来た」
「なるほど……ちなみに場所は?」
「ここから遠い北西にある大きな山じゃ。名前は知らん。麓に町はあるが、人間が行けないような場所じゃ」
「ほほう」

 モルゲンロートが興味深げに顎に手を当てる。そこでローザが口を開いた。
 
「わたくしも連れて行っていただけないでしょうか?」
「は!? なにを言っているのだお前!?」
「ドラゴンに乗って少しの旅行……楽しそうです♪」
「いや、王妃様彼等は遊びに行くわけではありませんので……」
「そうだぞローザ。彼の妻を治すために行くのだ」

 ワクワクしているローザにバーリオとモルゲンロートがそれぞれ苦言を呈した。
 そう言われてローザはハッとし、しょんぼりする。

「そうですわね、申し訳ありません……」
「い、いえ。実さえ食べられればすぐに治るようなので」
「まあ、機会があればそういうのもアリかもしれんが。モルゲンロート殿次第じゃが」
「そうですな。では、こちらは承知しました。お気をつけて。ガルフ君達もな」
「ありがとうございます!」
「ではまた会おう」

 ハバラやガルフ達はまたディランの背中に乗り、音もなく上空へと舞い上がっていく。

「……なんというかあの姿だと尊大だな」
「人の姿だと普通のおじさんという感じですからな」
「いいですわねえ」

 小さくなっていくモルゲンロート達はそれぞれそんなことを呟いていた。
 そしてディランは雲の上まで一気に上昇した。

「いい人そうだったね父さん」
「うむ。世話になっておるわい。一国の王というのはどっしり構えて理解を示し、物事の判断を自分でするのが肝要じゃわい」
「陛下は俺達みたいな冒険者にも優しいからなあ。たまに心配になるぜ」

 ハバラはモルゲンロートを見て信用できる人のようだと判断していた。ディランもそうであることを返し、ガルフは人が良すぎて心配だと口にする。
 そこでヒューシが眼鏡の位置を直しながら話しだす。

「信頼してくれているということだ。それで雲の上まで来ましたが、良かったんですか?」
「場所は知っているからいいんじゃないの?」
『うんうん』

 ヒューシは地上が見えないが大丈夫だろうかと言う。しかし、先の会話で場所は知っているようだからとレイカが返す。

「昔のことじゃから何となくしか覚えておらんのじゃ。ただ、雲の上よりも山頂は高く、キリマール山よりもさらに高い。じゃからそれらしい山を散策する方向で頼む」
「わかったよ父さん」
「まあ、おっちゃんの速度ならすぐだろうしちゃっちゃと見つけて帰ろうぜ」
「そうじゃな」

 ディランは頷いた後、速度を上げた。
 
◆ ◇ ◆

「すー……」
「すぴー……」
「寝ちゃった。リヒト君も遊び疲れちゃったかな」
「ハバラに会うまでは元気だったけど、リコットちゃんと一緒にはしゃいだからかもしれないわね」

 一方その頃、自宅ではリヒトとリコットが並んで寝てしまっていた。
 途中まで太鼓の音に喜び、ひよこ達に目を輝かせていたのだが泣いていたこともありリコットが寝てしまった。
 それに釣られるかのようにリヒトもその場にコテンと寝転がってしまったのだ。

「リヒトはベッドに連れて行こうかしら……あらあら」
「あら」
「こけー」

 トワイトはベッドに二人はもみくちゃになりそうだとリヒトを抱っこしようとする。しかし、リコットがリヒトの袖をしっかりと掴んでおり、離そうとしない。
 下手に動かすとまた目を覚まして泣いてしまうかもしれない。

「うふふ、このままにしておきましょうか。あら、リヒトはでんでん太鼓を手放さないわね」
「お気に入りなんですねえ」
「わほぉん」

 そっとしておきましょうかとトワイトはリヒトから手を離して寝かせる。ダルが二人にタオルケットのようなものをかけるのを見届けると、トワイトとユリ、ペット達が静かに離れる。

「ソレイユさんも今は安定しているわね」
「原因、なんですかね? 産後の肥立ちにしては衰弱しているような……」
「エルフの熱病……」
「え?」

 トワイトはソレイユのベッドを見つめながらポツリと呟く。ユリが聞き返すと少し困った顔で口を開く。

「そういう病がエルフにはあるの。風邪よりも少しきつい症状なのだけど、体力が落ちている時に運が悪いと亡くなる可能性が怖いのよ」
「……! だ、大丈夫かな……早く戻ってきてよ……」
「ハバラの血を飲ませているみたいだから亡くなることは無いと思うけど、ディランの言う通り体力が落ちている時に飲ませると劇薬になるから実は早く欲しいわ」

 そう言うトワイトの顔は真剣だった。
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...