老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第136話 竜、実を探しに行く

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「ネクターリンはこの山みたいなところで採れるわ」
「そうなんだ? 昔、あたしが甘いものを食べたいって言ったらパパが採ってきてくれたわよね。この山にもあるの?」
「残念じゃがこの山にはない。人の登れないような大きな山にしか生息しない面白い実なのじゃ」
「まあ、俺達は飛べるから大丈夫だな」
「こういう時、便利だなあ……」

 ドラゴン一家の会話にガルフが苦笑する。
 いわゆる霊峰と呼ばれるような人が寄り付かない、曰くがついている山に出来るのだと言う。
 ただ、空を飛べる彼等にそこは問題ないとハバラは笑顔で拳を握る。

「じゃあすぐに採りに行けば問題ないってことね」
「わほぉん」

 ユリがダルの顎を撫でながらそう言うと、ディランは頷いてから口を開いた。

「うむ。場所は覚えておる。早速出発するか」
「ドラゴンになるなら一応、陛下に言っておいた方が良くない? 他国でしょ?」
「なにを言っているんだトーニャ。別に国に縛られているわけではないし、気にする必要はないだろう?」
「あー、兄ちゃんは知らないから説明するわね」

 トーニャが妹らしく現状、両親と自分が置かれている状況を掻い摘んで話す。ハバラは少し驚いていたが、先に里へ行っていたので納得していた。

「確かに竜の里を追い出されて別の地域に行ったらその国に挨拶は必要か……ううむ、里もエルフの森も特殊だから思いもよらなかったよ」
「なんだかんだで人間の数は多いから、共存するなら話し合いが一番ね」
「うふふ、トーニャちゃんがレイカちゃん達と一緒に居るからそうなるものね」
『まあヒューシは嬉しいだろうけ――むが!?』
「ん? いまなんて?」
「なんでもない。では僕達は帰るとしよう」

 ドラゴン一家の現状は国民として扱ってもらえていると聞いたハバラはそういうのも必要かと言い、トーニャとのやり取りにトワイトが微笑んでいた。
 そこでリーナがなにか言いかけたところ、ヒューシが口を塞いで帰ると口にする。

「? どしたのヒューシ? 帰るのはいいけど、ソレイユさんも連れていくの? 寝かせておいた方がいいんじゃない?」
「そうだな……しかし、早く食べさせたい気もする……」
「ドラゴンが何頭も飛んでいくより、お父さんとハバラだけでもいいと思うわ。私が看病とリコットちゃんを見ておくわね」
「母さん……そうだな。じゃあ父さん、頼むよ」
「うむ。まずはモルゲンロート殿のところへ行くか」

 出発を決めるディラン。メンバーは息子と二人だけで、まずは挨拶に行ってからだと言った。そこでガルフとリーナが口を開く。

「秘境みたいなところに行くんだろ? いいなあ」
『ディランお父さん、わたしも行ってみたいなあ』
「遊びに行くんじゃないんだから」
「ん? 行くか? どうせ飛んでいくからワシは構わんぞ」

 二人が行きたいと言い出し、レイカが呆れた様子で宥める。しかし、特についてきても問題ないと返していた。

「あ! じゃあ行きますー!」
「俺も!」
「ええー? 戻るんじゃないの?」
「なんか面白そうじゃね? ヒューシも人の来ない山とかなら珍しい草とかあるんじゃないか? というかネクターリン自体、珍しいと思うけど」
「ふむ……確かに」
「ちょっとヒューシも?」
 
 ガルフの見解にヒューシも興味が出たらしい。顎に手を当てて考えていると、ハバラが手を上げて言う。

「すまないけど急ぎたいんだ。行く者だけついてきてくれるか?」
「オッケーだ!」
「ならパパ達が出た後、あたしは帰るわ」
「あーう?」
「ちょっと出てくるわい。リヒトはみんなと一緒におるのじゃ」
「うー」

 ハバラの提案に全員が頷き、リヒトがどこかへ行こうとするディランを見て唸る。
 置いて行かれるのだと感じ、少々ご不満の様子だ。

「あう」
「お母さんと一緒に待ちましょうね♪ ほら、リコットちゃんも居るし」
「きゃう」
「あーい」
「「ぴよー!」」

 とりあえず行くのは諦めたらしいリヒトは再びリコットに顔を向けて遊び出す。
 ひよこ達もリヒトに合わせ、ヤクトやルミナスもベッドの縁に顔を出してリコットに構いだした。

「では行くぞい」
「行ってらっしゃいー」

 今の内にとディランとハバラ、ガルフとリーナ、ヒューシとレイカが着いてきた。
 トーニャとユリやペット達は留守番となった。

「じゃあ俺が……」
「いや、この国だとワシの姿が一番見られておるからワシに乗るのじゃ」
「なるほど。……父さんの背中に乗るのも久しぶりだな」

 ディランがあっという間に金色のドラゴンに姿を変えると、ハバラやガルフが乗り込む。

『わーい! 大きい!』
「すげえな! あ、そういや自己紹介してなかったな。俺はガルフ。ディランのおっちゃん達やトーニャには世話になってる」
「ハバラだ。まさか人間の冒険者と知り合いになっているとは思わなかったよ。妻のためよろしく頼む」
「ヒューシです。いや、なんか便乗するみたいで申し訳ない」
「本当よ。私はレイカです」

 背中で自己紹介をしているメンバーをよそにディランは上空へ。そのまま空気抵抗も無く、王都に向かって飛ぶ。

「おお……トーニャと違って風に当たらないな……?」
「魔法で障壁を作っておるからじゃ。トーニャも出来ると思うが、特別急ぐこともなければやらんかもしれんのう」
「ドラゴンすげえな……」
「とか言っている間に王都が見えて来たぞ……」
「モルゲンロート殿には許可されておるからこのまま城へ向かう」

 そしてディランはすぐに城へ到着する――

◆ ◇ ◆

「あい!」
「うー♪」
「うふふ、可愛い~。ってそうか、兄ちゃんの娘ってことはあたし叔母さんになるんだ」
「そういえばそうねー。トーニャちゃんはまだ結婚しないの?」

 一方そのころ、残ったリヒトとリコットを見てトーニャが目を細める。そこで自分の立ち位置を思い返して驚愕する
 そこでトワイトが結婚を口にするが、本人はというと。

「あたしはまだかなあ。相手も居ないじゃない?」
「ウチのは?」
「ヒューシ? うーん……人間ってあまり長生きできないからなあ。兄ちゃんの結婚相手はよく選んだと思うわ」
「それもそっかあ。ヒューシ、多分トーニャが好きだと思うんだけど。ねーダル?」
「わほぉん……」
 
 それよりもお前はどうなんだと言いたげにユリの頬に肉球を押し当てるダル。
 
「ヒュ、ヒューシが? う、うーん……本人から聞かないとユリだと信用ならないわね。ねーリヒト?」
「あーい?」
「ふぐ……ああああああん!」
「ああ、ごめんごめん! リコットちゃん、人見知り凄いわね……兄ちゃんに似ているけどエルフっぽいっちゃっぽいか」

 リヒトの横に行くと、トーニャを見たリコットが激しく泣いた。エルフも迫害などはしないが最初は疑ってかかることが多いと言う。

「ユリもいい人見つけないとねえ」
「うーん、中々いないのよねえ。むぎゅ、ダル、やめてよー」
「うふふ、ちょっとお茶を入れてくるわね。リヒト達を頼むわ」

 恋人の居ない二人の会話を微笑ましく思いながらトワイトが椅子から腰を上げる。
 
「そういえばパパとの出会いは聞いたこと無いなーどうなの?」
「内緒です♪」

 トーニャが興味深いことを尋ねるが、トワイトは扉のところで振り返り、頬に指を当てながらそんなことを言うのだった。
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