老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第175話 竜、渋々ついていくことにする

「私は気が進みませんね」
「ワシもじゃな」
「あーう?」
「し、しかし王族の息子かもしれないというのが分かってはこちらとしても、ダメでしたとは言えないのです。手ぶらで帰れとおっしゃいますか」

 事情を話したところ、トワイトは渋い顔をしてリヒト隠すように抱っこを強める。 
 ディランもそういうだろうと思っており、腕組みをして使者へ告げた。

「もしリヒトがそうだったとしても、はいそうですかと渡すわけにはいかん。母親の独断かもしれんが、父親がそれを知らないというのは正直、信じがたい。本当に会いたがっているのか、とな」
「ぬう……」

 使者は口をへの字にして呻く。ディランの言うことももっともであると頭ではわかっているからだ。

「確かにそう言われればこちらも黙るしかないですな。しかし、申し訳ないが言うことを聞いていただきたい。国にとって重要なことなのだ。もちろん、悪いようにはしないし、その子が陛下の孫だった場合でも育ての親はあなたたちにと打診してみよう」
「そう上手くいくかのう。まあ、実の親であればひとこと文句を言ってやりたい気もする。母さんや行ってみるとしようか」
「仕方ありませんねえ……もし、リヒトに不利益がある場合は、どうなるか。身をもって知ることになりますからお覚悟を」
「う……!?」
「あー♪」

 トワイトが珍しく鋭い目を向けて背中に大きな翼を出現させた。使者や騎士たちはその気配に足が竦み、寒くもないのに冷や汗をかいていた。

「ドルコント国にはドラゴンのことが知れ渡っているのかのう」
「は!? え、ええ、モルゲンロート陛下は諸外国にドラゴンについて書状を出しておりました……とても温厚な方だと……」
「さて、どうかのう。ならワシが馬車ごと送っていくから乗るいいぞい」
「「「え?」」」

 その瞬間、ディランが金色のドラゴンへ変身した。騎士たちがどよめいていると、フレイヤとエメリが駆けてきた。

「どうなさいましたか竜神様!」
「なにか問題が?」
「いや、リヒトがドルコント国の子供じゃというのでちょっと確かめてくる」
「え!? そ、そういえば捨て子だと言っていましたね……!?」

 フレイヤは謁見の内容を知らないため、もしかしたらそのことで来たのかと推察する。

「ちょっとお待ちを! 今、陛下へお伝えに行きます!」
「大丈夫じゃ。向かったことだけ伝えてくれるかのう」
「お説教をしないと!」
「それ、早く乗らんか」
「あ、は、はい……」

 使者や騎士たちが寝そべって背中を預けているディランの背へ馬車を乗せていこうとする。
 しかしさすがに三台は乗らないため、使者と数人の騎士だけが背に乗って戻ることに決めた。

「我々は後から戻ります」
「うむ。頼むぞ。ではディラン様、よろしくお願いいたします」
「承知した」
「うぉふ!」
「おう!? ア、アッシュウルフ……?」
「ウチの家族です♪」
「あい♪」

 使者が驚く中、ディランは上空へと向かう。
 やがて姿が見えなくなったころ、エメリが口を開く。

「竜神様にリヒト様、大丈夫だろうか。なあフレイヤ……っていない!?」
「さっきあっちの騎士さんのところに行ったぜ」
「あわわ!? 一人にするんじゃありませんよ……!」
「……今のエルフか?」
「褐色だったけど……」
「俺たちも戻るぞ。この国での用は済んだ。モルゲンロート陛下の耳に入る前に離れよう――」

◆ ◇ ◆

「なに!? ディラン殿がドルコント国の者と国へ行ったと!?」
「はい。最後に話したフレイヤがそう話しており、確かにドラゴンが飛んでいくのを見ました。……まさか、そういう事情で来ていたとは……申し訳ございません」
「近くにいたのに……」

 ディランが飛び立ってから数十分ほど経過した。
 フレイヤに報告を受けたルーブがモルゲンロートへ伝言をしたところである。
 
「良い。まさかディラン殿が来ているとはな。騎士たちには後ほど通達をしようと思っていたところだ。まさか直接連れていくとはな」
「あなた、これは抗議をすべきですわ!」
「うむ」

 モルゲンロートとしては後ほど夫婦と話し、ヴァールと一緒にドルコント国へ行ってもらうつもりだった。使者にもそう話していた。
 だが、ドルコント国の者たちはそれを聞かず、直接交渉して帰ってしまったのである。
 モルゲンロートとしてはひとまず向こうへ突っかかってもいいという口実ができたので焦らずに考える。

「……ヴァールとコレルに連絡を。バーリオを筆頭に騎士を五名招集してドルコント国へ向かってくれ」
「あ、あの陛下! 私も行っていいでしょうか! 事情を知らなかったとはいえ見過ごしてしまい……」
「フレイヤ、お前はエメリと仕事があるだろう。移動も含めて、依頼をする者へは考えてある」
「え?」
「トーニャ達を呼んでくれ」

◆ ◇ ◆

「――行くメンバーは?」
「トーニャとリーナ、そして俺だな」
「私とヒューシ、ユリは行かなくていい?」
「通常の依頼もしないといけないしな。城から前衛を派遣してくれるってさ」
「パパたちも変なのに絡まれたわねえ」

 ――報告を受けたモルゲンロートはすぐにガルフたちの屋敷へ人を派遣し、謁見からの事情説明を行った。
 まだ出発前だったため、依頼と二手に分かれることにしたガルフは自分とリーナをドルコント国へ行くように設定した。

「僕たちは依頼をこなす。荒事になるならレイカとユリは外しておくべきだろう」
「リーナはいいの!?」
『わたしは精霊だからいざという時はほら』
「ああ、そういうことか」

 透明化したリーナを見てレイカはなるほどと納得する。そこへヴァール王子とコレル、そして騎士たちがやってきた。

「トーニャさん申し訳ない。ディラン殿が飛んで行ったのであれば、こちらも相応のスピードでないと追いつけないのだ」
「大丈夫ですよ! ウチの問題でもありますしね」

 バーリオがトーニャへ言うと、問題ないと返していた。実の両親のことなので行けないよりいいと口をつく。

「ドルコント国か……」
「貴族主義の国だからコレルは居心地がいいかな?」
「ふん……最近は王子が圧政をしかないよう立ち回っているらしいからどうだかわからない」
「ははは、君は最近丸くなってきたから息苦しいかもしれないね」
「一応、私も貴族なんだがな……?」

 ヴァールはコレルに皮肉を言い、コレルはその言葉に口を尖らせる。ボランティアをすることで互いの変化があったのかもしれない。

「おや、お揃いでどうされたのですか? バーリオ様に騎士のみなさん……王子まで……?」
「ん? ザミールさんじゃねえか。どうしてこんなところに?」

 するとそこへ商人のザミールが屋敷に顔を出して来た。ガルフが意外だという感じで目を丸くして尋ねると、彼はちょうどお土産を持ってきたところだと答えた。
 ひとまずバーリオが口を開く。

「先ほど、ドルコント国の使者が謁見に現れてな。リヒト君がかの国の王子、オルドライデ様の息子かもしれないと言って来たのだ。連れてくるように言われたが陛下が一旦お引き取り願った。だが、運悪くディラン殿と出くわしたらしく、ドルコント国へ行ってしまったのだ」
「……! そんな馬鹿な……!」

 バーリオの説明でザミールが大声をあげて驚いていた。ガルフ達はびっくりしていた。

「おお!? めちゃくちゃ驚いているなあ。でも捨て子ってんならあり得るかなって」
「あ、いや、わざわざ他国へ捨てに来るだろうかと……」
「確かにな。実際は見るまでわからんらしい。しかし、なにがあるかわからん。我々はディラン殿を追いかけることにした」
「なるほど……えっと、私も着いて行っていいですか?」
「え? まあいいが……危険があるかもしれんぞ」
「構いません。……というか、リヒト君にお土産を渡せなくなるのは寂しいですからね」

 危険があるとバーリオが言うも、ザミールはこのまま行くという。
 馬車などは店にあるらしいのでこのまま行けるとのこと。

「それじゃ行くわよ……! パパに追い付くには結構飛ばさないと――」

 そしてトーニャがピンク色のドラゴンへ変身すると、出発者が乗り込んだ。
 少し浮き上がった後、低空でサッとドルコント国へ進路を取るのだった――
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