老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
175 / 385

第175話 竜、渋々ついていくことにする

しおりを挟む
「私は気が進みませんね」
「ワシもじゃな」
「あーう?」
「し、しかし王族の息子かもしれないというのが分かってはこちらとしても、ダメでしたとは言えないのです。手ぶらで帰れとおっしゃいますか」

 事情を話したところ、トワイトは渋い顔をしてリヒト隠すように抱っこを強める。 
 ディランもそういうだろうと思っており、腕組みをして使者へ告げた。

「もしリヒトがそうだったとしても、はいそうですかと渡すわけにはいかん。母親の独断かもしれんが、父親がそれを知らないというのは正直、信じがたい。本当に会いたがっているのか、とな」
「ぬう……」

 使者は口をへの字にして呻く。ディランの言うことももっともであると頭ではわかっているからだ。

「確かにそう言われればこちらも黙るしかないですな。しかし、申し訳ないが言うことを聞いていただきたい。国にとって重要なことなのだ。もちろん、悪いようにはしないし、その子が陛下の孫だった場合でも育ての親はあなたたちにと打診してみよう」
「そう上手くいくかのう。まあ、実の親であればひとこと文句を言ってやりたい気もする。母さんや行ってみるとしようか」
「仕方ありませんねえ……もし、リヒトに不利益がある場合は、どうなるか。身をもって知ることになりますからお覚悟を」
「う……!?」
「あー♪」

 トワイトが珍しく鋭い目を向けて背中に大きな翼を出現させた。使者や騎士たちはその気配に足が竦み、寒くもないのに冷や汗をかいていた。

「ドルコント国にはドラゴンのことが知れ渡っているのかのう」
「は!? え、ええ、モルゲンロート陛下は諸外国にドラゴンについて書状を出しておりました……とても温厚な方だと……」
「さて、どうかのう。ならワシが馬車ごと送っていくから乗るいいぞい」
「「「え?」」」

 その瞬間、ディランが金色のドラゴンへ変身した。騎士たちがどよめいていると、フレイヤとエメリが駆けてきた。

「どうなさいましたか竜神様!」
「なにか問題が?」
「いや、リヒトがドルコント国の子供じゃというのでちょっと確かめてくる」
「え!? そ、そういえば捨て子だと言っていましたね……!?」

 フレイヤは謁見の内容を知らないため、もしかしたらそのことで来たのかと推察する。

「ちょっとお待ちを! 今、陛下へお伝えに行きます!」
「大丈夫じゃ。向かったことだけ伝えてくれるかのう」
「お説教をしないと!」
「それ、早く乗らんか」
「あ、は、はい……」

 使者や騎士たちが寝そべって背中を預けているディランの背へ馬車を乗せていこうとする。
 しかしさすがに三台は乗らないため、使者と数人の騎士だけが背に乗って戻ることに決めた。

「我々は後から戻ります」
「うむ。頼むぞ。ではディラン様、よろしくお願いいたします」
「承知した」
「うぉふ!」
「おう!? ア、アッシュウルフ……?」
「ウチの家族です♪」
「あい♪」

 使者が驚く中、ディランは上空へと向かう。
 やがて姿が見えなくなったころ、エメリが口を開く。

「竜神様にリヒト様、大丈夫だろうか。なあフレイヤ……っていない!?」
「さっきあっちの騎士さんのところに行ったぜ」
「あわわ!? 一人にするんじゃありませんよ……!」
「……今のエルフか?」
「褐色だったけど……」
「俺たちも戻るぞ。この国での用は済んだ。モルゲンロート陛下の耳に入る前に離れよう――」

◆ ◇ ◆

「なに!? ディラン殿がドルコント国の者と国へ行ったと!?」
「はい。最後に話したフレイヤがそう話しており、確かにドラゴンが飛んでいくのを見ました。……まさか、そういう事情で来ていたとは……申し訳ございません」
「近くにいたのに……」

 ディランが飛び立ってから数十分ほど経過した。
 フレイヤに報告を受けたルーブがモルゲンロートへ伝言をしたところである。
 
「良い。まさかディラン殿が来ているとはな。騎士たちには後ほど通達をしようと思っていたところだ。まさか直接連れていくとはな」
「あなた、これは抗議をすべきですわ!」
「うむ」

 モルゲンロートとしては後ほど夫婦と話し、ヴァールと一緒にドルコント国へ行ってもらうつもりだった。使者にもそう話していた。
 だが、ドルコント国の者たちはそれを聞かず、直接交渉して帰ってしまったのである。
 モルゲンロートとしてはひとまず向こうへ突っかかってもいいという口実ができたので焦らずに考える。

「……ヴァールとコレルに連絡を。バーリオを筆頭に騎士を五名招集してドルコント国へ向かってくれ」
「あ、あの陛下! 私も行っていいでしょうか! 事情を知らなかったとはいえ見過ごしてしまい……」
「フレイヤ、お前はエメリと仕事があるだろう。移動も含めて、依頼をする者へは考えてある」
「え?」
「トーニャ達を呼んでくれ」

◆ ◇ ◆

「――行くメンバーは?」
「トーニャとリーナ、そして俺だな」
「私とヒューシ、ユリは行かなくていい?」
「通常の依頼もしないといけないしな。城から前衛を派遣してくれるってさ」
「パパたちも変なのに絡まれたわねえ」

 ――報告を受けたモルゲンロートはすぐにガルフたちの屋敷へ人を派遣し、謁見からの事情説明を行った。
 まだ出発前だったため、依頼と二手に分かれることにしたガルフは自分とリーナをドルコント国へ行くように設定した。

「僕たちは依頼をこなす。荒事になるならレイカとユリは外しておくべきだろう」
「リーナはいいの!?」
『わたしは精霊だからいざという時はほら』
「ああ、そういうことか」

 透明化したリーナを見てレイカはなるほどと納得する。そこへヴァール王子とコレル、そして騎士たちがやってきた。

「トーニャさん申し訳ない。ディラン殿が飛んで行ったのであれば、こちらも相応のスピードでないと追いつけないのだ」
「大丈夫ですよ! ウチの問題でもありますしね」

 バーリオがトーニャへ言うと、問題ないと返していた。実の両親のことなので行けないよりいいと口をつく。

「ドルコント国か……」
「貴族主義の国だからコレルは居心地がいいかな?」
「ふん……最近は王子が圧政をしかないよう立ち回っているらしいからどうだかわからない」
「ははは、君は最近丸くなってきたから息苦しいかもしれないね」
「一応、私も貴族なんだがな……?」

 ヴァールはコレルに皮肉を言い、コレルはその言葉に口を尖らせる。ボランティアをすることで互いの変化があったのかもしれない。

「おや、お揃いでどうされたのですか? バーリオ様に騎士のみなさん……王子まで……?」
「ん? ザミールさんじゃねえか。どうしてこんなところに?」

 するとそこへ商人のザミールが屋敷に顔を出して来た。ガルフが意外だという感じで目を丸くして尋ねると、彼はちょうどお土産を持ってきたところだと答えた。
 ひとまずバーリオが口を開く。

「先ほど、ドルコント国の使者が謁見に現れてな。リヒト君がかの国の王子、オルドライデ様の息子かもしれないと言って来たのだ。連れてくるように言われたが陛下が一旦お引き取り願った。だが、運悪くディラン殿と出くわしたらしく、ドルコント国へ行ってしまったのだ」
「……! そんな馬鹿な……!」

 バーリオの説明でザミールが大声をあげて驚いていた。ガルフ達はびっくりしていた。

「おお!? めちゃくちゃ驚いているなあ。でも捨て子ってんならあり得るかなって」
「あ、いや、わざわざ他国へ捨てに来るだろうかと……」
「確かにな。実際は見るまでわからんらしい。しかし、なにがあるかわからん。我々はディラン殿を追いかけることにした」
「なるほど……えっと、私も着いて行っていいですか?」
「え? まあいいが……危険があるかもしれんぞ」
「構いません。……というか、リヒト君にお土産を渡せなくなるのは寂しいですからね」

 危険があるとバーリオが言うも、ザミールはこのまま行くという。
 馬車などは店にあるらしいのでこのまま行けるとのこと。

「それじゃ行くわよ……! パパに追い付くには結構飛ばさないと――」

 そしてトーニャがピンク色のドラゴンへ変身すると、出発者が乗り込んだ。
 少し浮き上がった後、低空でサッとドルコント国へ進路を取るのだった――
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...