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『向こう側』へ
しおりを挟む「修ちゃん!」
「真理愛……! 八塚、どういうつもりだ」
『ふふ……』
『向こう側』へ通じる穴の前で真理愛を捕えたまま離さず、ハーテュリア……聖剣の女神と名乗った八塚に叫ぶ。だが、不敵に笑うだけで答えようとしない。
膠着状態の中、母ちゃんが杖を肩に置いてから目を細めて口を開く。
「どういうこと……? あなた、怜ちゃんよね? てっきり聖女カレンの生まれ変わりと思っていたんだけど?」
『最初はその予定だったんだけど、私がちょっと変えさせてもらったのよ』
「か、変えた……?」
<どういうこと……?>
結愛とフレーメンが呟くと、八塚がにたりと口を歪めて得意気に語り始めた。
それも、とんでもない話を。
『シュウ達が勇者パーティとしてドラゴン討伐を行ったわよね? そして聖剣をそこの駄猫に食べさせて倒して共倒れ』
<だ、駄猫……>
『私としてはそのまま聖剣を回収できればそれで良かったんだけど、そこでトラブルが起きた。本来還るべき魂がこの世とあの世の狭間に行った後、別のなにかとして生まれ変わるんだけど……シュウの勇者としての力が大きかったのかしらね。カイザードラゴンの魂と聖剣が一緒に混ざり合って向こうの世界から消えたの』
<あの時、確かに我は聖剣で爆散して死んだが、そんなことがあったというのか?>
スメラギが訝し気に前足を組んで言うと、八塚が冷たい目で続ける。
『それがあったのよ。私も想定外、まさか魂に取り込まれるとは思わなかったからね? そこから私は聖剣を追って転生することに決めた。だけどただ転生するだけだと私が『向こう側』に戻れない。そこで、考えたのよ、勇者パーティを一緒に送ろうってね』
「……なるほど、あんたは自分の目的の為に修君や刃鋼さん達を利用したというわけか。それでも女神か? 魔王よりもやることがえげつないな」
「魔王って悪いことするやつばかりじゃないけどね。それでも、あんたのやっていることは最悪ね。人生を弄ぶなんてね」
仁さんとアサギさんが嫌悪感を隠さず、吐き捨てるように言う。
だが、
『別にいいじゃない。神である私の役に立つのよ? 光栄だと思って欲しいわ』
「こいつ……」
本気でそう思っている顔だ。
最悪とはこのことだろう。
「どうして俺達をわざわざ……」
『もちろん向こう側へ戻るため。記憶が戻れば魔法も使えるし、帰る手段としては最適でしょ? まあ、どうやってその話をするか考えていたんだけど、クソ国王が魔王と手を組んでこちらへの扉を開いてくれてから覚醒できたわね♪』
「なんですって……!?」
<にゃんと……!?>
母ちゃんが驚愕の声を上げるが、俺や猫達もその言葉には驚いた。
国王だけでこちらへ来れる技術があることに疑問があった。もちろん、八塚を助ける時に魔王が出てきたことでその可能性はあったものの……
『まあ保険みたいなものだったけど、ね。そしてあなた達の魂は無事現世へ。時間差で生まれ変わったんだけど、一つあることを思いついた』
「あること?」
『そう、あること。本来ならこの体に聖女の魂が入り、真理愛の体を私が使う予定だった。だけど、それじゃ記憶を取り戻しても向こう側へ戻るための記憶を呼び起こすことは難しいと判断したわ。お金持ちだから、事件に巻き込まれないだろうし、下手をするとあなた達と会わない可能性もあった』
そう言って笑う八塚に、俺はピンと来て焦る。
「まさかあの誘拐事件!?」
『そうよ、ある意味自作自演……女神と聖女、だいたい似たようなもんだから魔族を釣るのは簡単だったわ。そしてついにシュウ、あなたが目覚めてくれた。これで概ね準備が整った。そして後は散ったドラゴン達を探すだけ……それもすぐに見つかって助かったけどね?』
「れ、怜ちゃん……」
首を傾げながら笑顔を出す八塚に、真理愛が不安げな顔で呟いた。
「なら、真理愛がカレンってことか。記憶が戻っていないのはどうしてだ?」
『そりゃ能力を取り戻されたら困るからよ。この子は向こうで『使わせてもらう』から。さて、そろそろおしゃべりは終わり……私が向こうへ飛んだら後を追ってくる? あのクソ国王と魔王は私がケリをつけておくから無理しなくていいわよ?』
「……真理愛を返してくれたら構わねえよ」
『それは、ダメ。この子は連れて行く。それと――』
八塚が手をかざすと、スメラギが宙に浮いてバタバタと暴れ出した。
<うお!? か、身体が>
「スメラギ……! チッ!?」
『聖剣は返してもらうわ。向こうでゆっくり取り出してあげる。まあ、ドラゴンに戻ったら使えるし』
<おのれ……お嬢……それが本性か!>
『ふふ、眠っている魂があるけどね? 借りているだけだし』
「まさか獅子身中の虫だったとは……」
若杉さんが冷や汗をかいて言う。そう、そしてこいつはいわゆる招かれざる魂なのだ。
転生と言っているが、実際に死んでいないのはこいつだけ。
だから本来、真理愛に入っていた魂を自分と八塚の体に入れて、カレンを真理愛に仕立て上げたらしい。
「そこ動くな! スメラギ、聖剣を取り出すぞ!」
<う、うむ!>
『させない……! 弾け飛べ!』
「ぐっ!?」
「修ちゃん!? 怜ちゃん、離して! 離してよ!!」
俺が魔力で吹き飛ばされると真理愛が暴れ出し、八塚が渋い顔をする。
『力はまだ私が上よ、近づけると思わないことね』
「へへ、確かに正面からは無理だろうが……」
『……? な、に!?』
「修! 受け取れ!」
<うおおお!?>
八塚の横から急に現れ、体当たりを仕掛けたのは霧夜だ!
真理愛が捕まった瞬間、あいつは八塚の視界から消えて回り込んでいた。
影が薄いと侮ることなかれ、真面目に気配を消すのは得意だったりする!
「出ろぉぉ! セイクリッドセイバー!!」
「修ちゃん!」
『くっ、暴れるな!』
「う……」
「離せよ八塚!」
「うるさい……! ……くそ、一緒に落ちろ!」
「あ!?」
「霧夜!?」
マズイ、向こう側に落とされた!?
直後、聖剣が俺の手に現れ、スメラギが巨大化していく。
「すぐに追うぞ!」
<うむ、皆の者乗るのだ!>
スメラギが屈むと背に俺達家族と猫が乗る。
そこで仁さんが叫ぶ。
「こっちの穴はまた開けるようにアサギが調査をする! 気を付けてな!」
「皆さんお気をつけて!」
「ブランダ、また会おうな!!」
「行け!」
別れを惜しむ暇はない、俺達は小さくなっていく扉をスメラギに乗って通り抜けた……!
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