103 / 115
『向こう側』へ
しおりを挟む「修ちゃん!」
「真理愛……! 八塚、どういうつもりだ」
『ふふ……』
『向こう側』へ通じる穴の前で真理愛を捕えたまま離さず、ハーテュリア……聖剣の女神と名乗った八塚に叫ぶ。だが、不敵に笑うだけで答えようとしない。
膠着状態の中、母ちゃんが杖を肩に置いてから目を細めて口を開く。
「どういうこと……? あなた、怜ちゃんよね? てっきり聖女カレンの生まれ変わりと思っていたんだけど?」
『最初はその予定だったんだけど、私がちょっと変えさせてもらったのよ』
「か、変えた……?」
<どういうこと……?>
結愛とフレーメンが呟くと、八塚がにたりと口を歪めて得意気に語り始めた。
それも、とんでもない話を。
『シュウ達が勇者パーティとしてドラゴン討伐を行ったわよね? そして聖剣をそこの駄猫に食べさせて倒して共倒れ』
<だ、駄猫……>
『私としてはそのまま聖剣を回収できればそれで良かったんだけど、そこでトラブルが起きた。本来還るべき魂がこの世とあの世の狭間に行った後、別のなにかとして生まれ変わるんだけど……シュウの勇者としての力が大きかったのかしらね。カイザードラゴンの魂と聖剣が一緒に混ざり合って向こうの世界から消えたの』
<あの時、確かに我は聖剣で爆散して死んだが、そんなことがあったというのか?>
スメラギが訝し気に前足を組んで言うと、八塚が冷たい目で続ける。
『それがあったのよ。私も想定外、まさか魂に取り込まれるとは思わなかったからね? そこから私は聖剣を追って転生することに決めた。だけどただ転生するだけだと私が『向こう側』に戻れない。そこで、考えたのよ、勇者パーティを一緒に送ろうってね』
「……なるほど、あんたは自分の目的の為に修君や刃鋼さん達を利用したというわけか。それでも女神か? 魔王よりもやることがえげつないな」
「魔王って悪いことするやつばかりじゃないけどね。それでも、あんたのやっていることは最悪ね。人生を弄ぶなんてね」
仁さんとアサギさんが嫌悪感を隠さず、吐き捨てるように言う。
だが、
『別にいいじゃない。神である私の役に立つのよ? 光栄だと思って欲しいわ』
「こいつ……」
本気でそう思っている顔だ。
最悪とはこのことだろう。
「どうして俺達をわざわざ……」
『もちろん向こう側へ戻るため。記憶が戻れば魔法も使えるし、帰る手段としては最適でしょ? まあ、どうやってその話をするか考えていたんだけど、クソ国王が魔王と手を組んでこちらへの扉を開いてくれてから覚醒できたわね♪』
「なんですって……!?」
<にゃんと……!?>
母ちゃんが驚愕の声を上げるが、俺や猫達もその言葉には驚いた。
国王だけでこちらへ来れる技術があることに疑問があった。もちろん、八塚を助ける時に魔王が出てきたことでその可能性はあったものの……
『まあ保険みたいなものだったけど、ね。そしてあなた達の魂は無事現世へ。時間差で生まれ変わったんだけど、一つあることを思いついた』
「あること?」
『そう、あること。本来ならこの体に聖女の魂が入り、真理愛の体を私が使う予定だった。だけど、それじゃ記憶を取り戻しても向こう側へ戻るための記憶を呼び起こすことは難しいと判断したわ。お金持ちだから、事件に巻き込まれないだろうし、下手をするとあなた達と会わない可能性もあった』
そう言って笑う八塚に、俺はピンと来て焦る。
「まさかあの誘拐事件!?」
『そうよ、ある意味自作自演……女神と聖女、だいたい似たようなもんだから魔族を釣るのは簡単だったわ。そしてついにシュウ、あなたが目覚めてくれた。これで概ね準備が整った。そして後は散ったドラゴン達を探すだけ……それもすぐに見つかって助かったけどね?』
「れ、怜ちゃん……」
首を傾げながら笑顔を出す八塚に、真理愛が不安げな顔で呟いた。
「なら、真理愛がカレンってことか。記憶が戻っていないのはどうしてだ?」
『そりゃ能力を取り戻されたら困るからよ。この子は向こうで『使わせてもらう』から。さて、そろそろおしゃべりは終わり……私が向こうへ飛んだら後を追ってくる? あのクソ国王と魔王は私がケリをつけておくから無理しなくていいわよ?』
「……真理愛を返してくれたら構わねえよ」
『それは、ダメ。この子は連れて行く。それと――』
八塚が手をかざすと、スメラギが宙に浮いてバタバタと暴れ出した。
<うお!? か、身体が>
「スメラギ……! チッ!?」
『聖剣は返してもらうわ。向こうでゆっくり取り出してあげる。まあ、ドラゴンに戻ったら使えるし』
<おのれ……お嬢……それが本性か!>
『ふふ、眠っている魂があるけどね? 借りているだけだし』
「まさか獅子身中の虫だったとは……」
若杉さんが冷や汗をかいて言う。そう、そしてこいつはいわゆる招かれざる魂なのだ。
転生と言っているが、実際に死んでいないのはこいつだけ。
だから本来、真理愛に入っていた魂を自分と八塚の体に入れて、カレンを真理愛に仕立て上げたらしい。
「そこ動くな! スメラギ、聖剣を取り出すぞ!」
<う、うむ!>
『させない……! 弾け飛べ!』
「ぐっ!?」
「修ちゃん!? 怜ちゃん、離して! 離してよ!!」
俺が魔力で吹き飛ばされると真理愛が暴れ出し、八塚が渋い顔をする。
『力はまだ私が上よ、近づけると思わないことね』
「へへ、確かに正面からは無理だろうが……」
『……? な、に!?』
「修! 受け取れ!」
<うおおお!?>
八塚の横から急に現れ、体当たりを仕掛けたのは霧夜だ!
真理愛が捕まった瞬間、あいつは八塚の視界から消えて回り込んでいた。
影が薄いと侮ることなかれ、真面目に気配を消すのは得意だったりする!
「出ろぉぉ! セイクリッドセイバー!!」
「修ちゃん!」
『くっ、暴れるな!』
「う……」
「離せよ八塚!」
「うるさい……! ……くそ、一緒に落ちろ!」
「あ!?」
「霧夜!?」
マズイ、向こう側に落とされた!?
直後、聖剣が俺の手に現れ、スメラギが巨大化していく。
「すぐに追うぞ!」
<うむ、皆の者乗るのだ!>
スメラギが屈むと背に俺達家族と猫が乗る。
そこで仁さんが叫ぶ。
「こっちの穴はまた開けるようにアサギが調査をする! 気を付けてな!」
「皆さんお気をつけて!」
「ブランダ、また会おうな!!」
「行け!」
別れを惜しむ暇はない、俺達は小さくなっていく扉をスメラギに乗って通り抜けた……!
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ダンジョン配信スタッフやります!〜ぼっちだった俺だけど、二次覚醒したのでカリスマ配信者を陰ながら支える黒子的な存在になろうと思います〜
KeyBow
ファンタジー
舞台は20xx年の日本。
突如として発生したダンジョンにより世界は混乱に陥る。ダンジョンに涌く魔物を倒して得られる素材や魔石、貴重な鉱物資源を回収する探索者が活躍するようになる。
主人公であるドボルは探索者になった。将来有望とされていたが、初めての探索で仲間のミスから勝てない相手と遭遇し囮にされる。なんとか他の者に助けられるも大怪我を負い、その後は強いられてぼっちでの探索を続けることになる。そんな彼がひょんなことからダンジョン配信のスタッフに採用される。
ドボルはカリスマ配信者を陰ながら支えようと決意するが、早々に陰謀に巻き込まれ危険な状況に陥る。絶体絶命のピンチの中で、ドボルは自分に眠る力を覚醒させる。この新たな力を得て、彼の生活は一変し、カリスマ配信者を陰から支え、奮闘する決意をする。果たして、ドボルはこの困難を乗り越え、配信を成功させることができるのか?
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる