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因縁渦巻く町
入れ違い
しおりを挟む領主選の勝利が確定しその日、町は……割と普通で、領主様達だけ大騒ぎだったらしい。
「まあ、今までと変わらないからそんなもんよ。お祭り騒ぎは本人たちだけってね」
「お祭り騒ぎ……?」
「え、お祭りも知らない……? いいことがあったり記念の日に町の人とかがパーッと騒ぐのよ」
「騒ぐのは迷惑なんじゃないかな?」
「あ、そうなんだけど――」
プリメラの説明ではなんか楽しいらしいということだけ分かった。町の人が総出で騒ぐなんて想像がつかないや。
そんな僕達はお昼ご飯を食べてからギルドへ向かっている最中である。
次は王都になるけどその前に時間があるならとカレンさんとプリメラの両親の手がかりが無いか聞き込みを行うため。
ファルミさん達と一緒に王都へ向かう手はずは整っているんだけど、今日は用意されたお金を取りに行く予定だったりする。
本当はお金が用意できた時点で持ってきてくれるはずだったんだけど、領主選に勝ったのでパーティを開こうという提案をもらいファルミさんが承諾したため取りに行く形になったというわけ。
パーティは夜なので昼間は時間があるということなのでプリメラと久しぶりに出かけている。
ジェイドさんの仕事納めが今日なので王都へは明日か明後日には旅立つ。
「王都まで行ったらお別れかあ、ちょっと寂しいわね」
「寂しい、か。よくわからないけど、ファルミさん達と過ごせなくなるのはこう胸のあたりがドキドキするよ」
「その感覚がそうだと寂しいと思うんだけど、人間って難しいからね……嫌いなんだけど離れられないとかあるし」
「変なの。嫌いなら一緒に居なきゃいいのに」
「だから難しいのよ。さて、それじゃ話を聞かせてもらいましょうか――」
僕達はギルドの扉を開けて受付カウンターへ。
「いらっしゃい。依頼ならそこの掲示板に書いてあるから選んで持ってきてくれ」
「いえ、依頼じゃなくて情報収集を」
「情報だと?」
熊みたいな男に話しかけるとよくわからないといった感じで首を傾げたのでまずは僕からと写真を机に置いて言う。
「昔、魔王を倒したという人を探しています。名前はカレンさん。他にも勇者さんの行方がもし分かれば……ご存じないですか?」
「これはまた……古い写真だな。勇者に魔王とは俺もまだ産まれてない時代か、爺さん連中が好きそうな話だ」
「お爺さん、ですか」
「ああ。八十年以上前だ、当時ガキだった連中が伝えているわけよ。ま、俺は詳しいことは知らないが、迫害を受けたって話くらいなら知っているが。おい、お前達は勇者達がどうなったか知ってるか?」
男はそのあたりに居た冒険者に尋ねるも口をそろえて『そんな昔の人間は知らないよ』とか『もう死んでいるんじゃないか』というもので、知る人は居なかった。
「ウチの爺さんも少し前に死んじまってな。お前みたいなのに話すのが好きだったんだが惜しいな」
「いえ。聞いた限りだと若い人よりお年寄りを狙った方がいいと思いましたから先々で聞いてみます」
「「言い方!?」」
「ん?」
なにかおかしなことを言っただろうか? 僕が首を傾げていると、プリメラが咳ばらいを一つしてから口を開く。
「それじゃ今度は私が。えっと両親を探していてどこに行ったか分からないんですけど……」
「それはまた……冒険者かい?」
「いえ……父はジョウイ、母はマテリアと言うんですが、ご存知ないでしょうか?」
「名前だけだとなあ。しかし聞いたことがあるような……手がかりは他に?」
プリメラは少し考えてから俯きがちに答える。
「いえ、でしたら大丈夫です。もし先ほどの二人、もしくはどちらでもいいんですけど出会うことがあればプリメラが探していたと伝えてください」
「ああ、分かったよ」
写真もないし名前だけでは難しいと他の冒険者も首を捻りながら言い、しばらく色々な人と話してみたもののその場に居た人間達では分からなかった。
ま、勇者達みたいに珍しい人間じゃなければそうなるかと僕達はギルドを出る。
「やっぱり一筋縄ではいかないわねー」
「カレンさんの故郷を知っている人も居なかったしね。でも話を聞くべき人の指針が出来たのは良かったかも」
「そうね」
「プリメラの方は他に目立つ特徴とかないのかい?」
「……多分、王都までいけば分かる人がいるかもね」
「そう? ならやっぱり王都へ早く行った方がいいかもね。さ、今日は御馳走が食べられるし早く戻りましょ」
そんな話をしながらすっかり暗くなった町を歩いていく。そろそろ帰ってパーティに行かないとと笑うプリメラと僕はファルミさんの家へ――
◆ ◇ ◆
「そろそろ戻ってくるかしら?」
「そう、だね」
「最近どうしたのジェイド? 窓の外ばかり気にしてるけど」
「ん……いや、ちょっとね……二人が戻ってこないなって」
俺は母さんへ適当な返答をして椅子へ腰かける。
そろそろ迎えが来るころかもしれないのでディン君とプリメラさんが戻ってこないと困るのは事実なので誤魔化せたかと胸をなでおろす。
……結局、俺はヒドゥンを殺せずそのまま過ごして来た。
すぐに出立したかったけど金の準備と仕事を休止するのが難しく残っていたがいつ報復が来るか怯えている。
王都へ行くには金が必要なのもあって出立は不可能。身を隠すのも理由を説明できない時点で説得が難しかった。
そのまま領主選が終わり、二日経ったものの組織とオリゴー様に動きはない。
下手に動けば俺が告発ができる。そのダガーも持っているから警戒をしているのだと思う。
……今日のパーティーは迎えも来るし、金を受け取ったらそのまま町を出ようと考えていて母さんを含めた三人には話をしている。
ヒドゥン達にはオリゴー様のことは言っていない。告発すれば良かったのかもしれないけど、俺が組織に関わっていたことを知られるのは……怖かった。
今日さえ乗り切れば後は王都で暮らせばオリゴー様も手は出しにくくなるはず。
「あら、帰ってきたみたいね」
「母さん俺が――」
俺がそう言った瞬間、玄関が物凄い勢いで開け放たれた――
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