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因縁渦巻く町

後悔という未来(前)

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 「あれ? どうしたんだろう真っ暗だ」
 「本当だ。ファルミさんは家に居るはずよね。もう迎えが来ちゃったのかしら?」

 置いていかれても屋敷に行けばいいだけなのでそれは構わない。けど、ファルミさんやトゥランスさんが僕達を一緒に連れて行かないということはないはずなんだよね。
 一応、様子を伺うため近づいてみると――

 「おかしいわ家の扉が開いている……」
 「うん。プリメラは僕の後ろに来て」

 玄関が開いたままで真っ暗というのは流石に僕でもおかしいと思う。強盗とかそういうのがあるらしいし、杖を前にしてゆっくりと家の壁に張り付く。

 「……気配は無い」
 「まさか死んでたり……」

 僕はそのまま無言で家の中へ足を踏み入れると、リビングで人が倒れているのを見つける。

 「ファルミさんだ」
 「え!? ……しっかりしてください!!」
 
 部屋に光球ライティングで灯りを出すと、細々とした息を吐きながらファルミさんが口を開く。

 「あ、ディン君にプ、プリメラちゃん……」
 「なにがあったんですか?」
 「ディン、今はそれどころじゃないわ! お医者さんに――」
 「だ、だいじょ……ごほっ……ジェ、ジェイドが連れていかれて……」
 「連れていかれた!? い、一体誰に」
 
 プリメラが抱き起すとファルミさんの頬に殴られたような痕があり、僕の頭が熱くなるのを感じる。その直後、玄関から声が聞こえてきた。

 「なんだ? 先生、ジェイド君、いませんか」
 「トゥランスさん! こっちへ!」
 
 プリメラが大声で叫ぶとトゥランスさんと数人の人間が入ってきて驚きの声を上げた。

 「先生!? これはどういうことだ!」
 「今、僕達も帰ってきたらこの状態で。ファルミさん、ジェイドさんはどこかへ連れていかれたんですね」
 「う、うん……ごほっ……ごほっ……覆面をしていて強盗かと思ったけどなにも盗らないでジェイドを……止めようとしたんだけど……」
 「目的がわからんが……それどころじゃないな。先生を病院へ連れていく。お前達はジェイド君の行方を。そう遠くへは行っていないはずだ。ギルドに怪しい男が居ないか頼みに行け」
 「「はっ!!」」

 僕はその話を聞きながらプリメラへ言う。

 「僕もジェイドさんを探してくるよ。多分、すぐ見つかると思う」
 「え? ……ディン?」
 「ファルミさんを頼むよ。トゥランスさんプリメラをお願い」
 「あ、ああ。大丈夫か?」
 「僕も冒険者ですし、遅れは取りませんよ」
 「そうじゃなく――」
 「行きます」
 「待っ――」

 トゥランスさんとプリメラがなにかを言いたかったようだけど、僕はなにかに突き動かされるように飛び出していく。どのくらいの時間が経ったとしてもジェイドさんの跡を辿れるはずだ。

 「……集中すれば魔力は顔と同じで個性があるってじいちゃんが言ってたっけ……胸の魔石、賢者の石がある僕なら追える――」

 ◆ ◇ ◆

 「行ってしまったか……」
 
 トゥランスさんが心配そうな口調でファルミさんを抱きかかえて馬車へと向かう。
 彼の心配はディンが危ない目に合うという訳じゃない、と思う。
 なぜなら、外へ出る前のディンの顔は険しいものになっていたからだ。
 
 ……私も初めて見た表情の変化。

 今まで口元に変化はあったし、笑みを浮かべているなと思うことはあったけど、今日みたいに眉間に皺を寄せて笑っているのは今まで無い。

 魔法人形であるディンは人間に近い。けど、感情というものには疎く、自身でもよく分からないと言っていた。

 「……怒ってた、のかな」
 「ん?」
 「い、いえ……ファルミさんしっかりしてください。今、病院に……ファルミさん……?」

 ◆ ◇ ◆

 「おらよ……っと!」
 「がっ……!? お、お前らは……」
 「ふん、あの邪魔してくれた女の息子だったとはなあ。娘が居なかったのは残念だが今回は仕方ねえ、急ぎだったし」
 「オリゴー様の……命令か?」

 ――あの時、玄関から押し入ってきた男たちに拉致された俺は目隠しをされて椅子に縛られている状況だ。しかも母さんに難癖をつけていたらしい男に殴られた。
 この時点でオリゴー様の手の者だと分かった。
 だけどなんでごろつきを……? 組織の仲間が刺客としてくると思っていたんだけどな……だから警戒を強めていたし店にはあまり立ち寄らなかった。

 だけどその答え合わせはすぐに判明する。

 「そこはご想像にお任せというこったな。ま、すぐにわかる」
 「どういうこと……。っ!?」
 
 その瞬間、目隠しが外され目の前の光景に息を飲む。
 俺じゃなくてもそうだろう、なぜなら組織の仲間たちが縛られ、血だらけで倒れているのだから。
 周辺には数人ごろつきがニヤニヤと笑いながら立っているのが目に入った。

 「な、なんで……!?」
 「ジェ、ジェイドか……オリゴー様は役に立たなかった俺達を……切り捨てる、らしい……」
 「だってよ。ヒドゥンを殺そうとしたことを知っている人間は生かしておかないってやつらしいぜ。奴隷商に売るか、始末するってところだな」
 「奴隷……って禁止されているはず……」
 「別の国じゃわからないよなあ。ま、ババアの息子は殺せと言われているからオレたちの気が済んだら楽になれるぜ」
 「や、やめ……ぐあ!?」

 失敗した俺を生かしておかない、か……。襲撃が無かったことに安心していた俺が馬鹿だった。
 さっさとトゥランスさんあたりに相談して保護してもらうべきだったんだ……裏切ったという気持ちがそれをさせなかった

 「おらぁ!!」
 「あぐ……」

 どこで間違えた?
 ……いや、最初から分かっていたんだ。組織に入り、母さんの治療費のために人を殺せと言われて断らなかった。
 殺せば良かったのか? それで母さんが後ろ指を刺されるようなことになっても?
 
 「ババアも死にかけていたみたいだし後を追えるなあ!」
 「……!!」
 「ぐあ!? てめえ……」
 
 そうだ、母さん……引き留めようとして蹴られていた……打ち所が悪かったらまずい……。

 「ふー……ふー……。こ、ここから出ない、と……」
 「ジェ、ジェイド……」
 「チッ、マザコン野郎が……もういい、こいつらへの見せしめでもあるからな。さっさと殺すか」
 「そうだな……。へ、へへ……魔物はあるけど人を殺すのは初めてだぜ……」
 「そうなのか? 結構簡単に死ぬんだぜ」
 「うあああああああああああああ!!」

 物騒な会話を繰り広げるなか、椅子に縛られたまま立ち上がった俺は近くの男に体当たりを仕掛ける。

 「うお!? ふん、レストランのコックがオレ達に勝てるかってんだ!」
 「うぐ……!?」

 押さえつけられた俺は首元にダガーを突き付けられ冷や汗を流す。刃がぴたりと当てられ、少し力を入れれば大出血を起こす部分だ。

 「や、めろ……!?」
 「へへ、知ってるか? 血って暖かいんだぜ」
 「あ、ああ……」

 まずい、本気で殺される……! だけど体を押さえつけられて動けない俺に抗う術はもう、無い。
 
 「う、ぐ……」
 「なんだ、泣いてんのか? ま、それももう終わりだ。ちょっと苦しいがすぐ楽になる――」

 男が舌なめずりをして力を入れた瞬間、俺は目を瞑る。
 助けは……来るはずないか……ここがどこかも分からない……んだ……。

 冷たい刃が俺の首を裂く――

 「危ない危ないっと」
 「があ!?」
 「な、なんだお前!? ぎゃ……!?」
 「な……!?」
 「ジェイドさん、危ないところでしたね。間に合って良かった」

 ――ことはなく、俺の首に刃を突き立てていた男の顔面を床に叩きつけながらディン君がそんなことを言った。
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