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因縁渦巻く町
後悔という未来(後)
しおりを挟む「ディン君……どうして」
「家に帰ったらファルミさんが倒れていてジェイドさんが連れ去られたと聞いたんだ。この人たちは……見たことあるな」
「てめえはババアを助けに来たガキ! そういやヒドゥンを応援していたな……」
押さえつけている男が脂汗をかきながら首を無理やり曲げてそんなことを口にする。そうだファルミさんに絡んできたごろつき達だ。
「というか今、ジェイドさんを殺そうとしていたけど、ファルミさんの手伝いでそこまでする必要があるとは思えないよ、とりあえず警護団に引き渡す必要がありそうだ」
「違うんだディン君、これは俺のせいでこうなっている……」
「そうなんだ? よくわからないけど帰ろう、今はプリメラ達がファルミさんを病院に連れて行っているんだ」
「病院……良かった……」
「ただで帰れると……ぐお……!?」
腫れあがった顔で呟くジェイドさんを拘束から解くため、僕は組み敷いていたごろつきを片腕で持ち上げて別のごろつきへ投げつけてロープを外していく。
「なんだ、あの力……」
「構わねえ一緒にぶっ殺すだけだ」
「くっ……」
ジェイドさんが立ち上がって呻くけど僕は彼を守るように立ってごろつき達へ言う。
「そんなものを抜いても僕は殺せないよ? 諦めて捕まってくれると助かるんだけど」
「ガキが言うじゃねえか。戦闘が出来るやつはいねえし、人質もたくさんいるんだぜぇ?」
「ひっ……た、助けてくれ……!」
「え? なんでですか?」
「え」
眼鏡をかけた男が懇願してくるけど意味が分からない。
「僕の知り合いはジェイドさんだけだから他の人を助ける理由はないと思うけど」
「お、おま、それでも人間か!?」
「さあね」
ま、どちらにせよここを切り抜けるにはごろつきたちを倒すしかないから同じことになると思う。人間を殺そうとした奴等をそのままにしておく理由もないし。
――なによりファルミさんに酷いことをしたこいつらを許すつもりは、ない。
そう思った僕は最後の言葉と同時に身を低くして前進する。
「お、こい――」
「ハッ!」
「ごぶ!?」
まずは一人。
しゃがんで人質を取っている男の横に立っていた隙の大きいごろつきの顎を打ちぬいて気絶させる。ちょっと鈍い音がしたけど死なないから安心して欲しい。
そのまま回し蹴りでしゃがんでいる男の後頭部を攻撃し昏倒させておく。
「おうううう!!」
「そこは『うおおお!』じゃないの? っと、それ」
「ぎゃあああああ!? う、腕が逆に曲がって……!?」
「折れたくらいでそんなに騒がなくても。それじゃ残りも――」
「ひっ!?」
というわけで一気に残り三人のごろつきを叩きのめしてやりロープで縛ってやり事なきを得た。
「ふう」
「つ、強いなディン君……杖だから魔法使いと思っていたのに」
「冒険者ですからね。プリメラのところへ戻るまでこれを使ってください」
「あ、助かるよ。他の奴等にも使っていいかい?」
ジェイドさんの言葉に頷いて僕は一度外に出てみることにする。
ここは裏路地の建物の一角で、恐らくトゥランスさんから頼まれた冒険者達もその辺にいるはずなので手伝ってもらおう。
「っと、ちょうどいいところに。おーい!」
「ん? おお、君は!」
浮遊泳で確認し、トゥランスさんと一緒に働く人間がこの付近に居たので声をかけてから現場へ人を呼んでもらった。
「こいつらはヒドゥン様に雇われていた……一体なにが目的で……?」
「……それは――」
「とりあえず先にプリメラのところへ行こう。病院の位置は僕わからないから」
「あ、ああ……そうだな。すみません、ここはお願いします」
集まってくれた人間達は早く行ってやれと笑い、僕達は急ぎ病院へと向かう。
プリメラに回復魔法を使ってもらえば顔の腫れも治るだろう。
「こんばんは、どうされましたか?」
「すみません、ファルミという女性が運ばれたと思うんですが……」
「あ! ……は、はい、こちらへ……」
目が泳ぐ女の人が僕達をファルミさんが居るところへ案内してくれ、灯りの寂しい通路を歩いていき、とある部屋へ近づいてきたとき――
「うああああん! あああぁぁ!」
「プリメラ? 泣いているのか」
「……まさか……」
なにかを察したジェイドさんが女の人を押しのけて部屋へ駆けこんでいき、僕もすぐに後を追う。
「プリメラ!」
「あ、ああ……ディン! ファルミさんが……ファルミさんが!」
「ファルミさんがどうしたんだい?」
「ファルミさん……死んじゃったよう……! うあああああ!」
「え?」
プリメラの言葉を受けて僕は文字通り固まった。ロープを掴んで泣きじゃくる彼女に目を向けた後、ジェイドさんを見ると――
「か、母さん……嘘だろ……」
「すまない、急いで連れてきたのだが……間に合わなかった……」
「あ……あ……あああああああああああああああああ!!」
動かないファルミさんに抱き着いて泣き崩れていた。
死んだ? ファルミさんが? さっきまで話していたのに。
じいちゃんの時も胸がざわついたけど、今はそれどころじゃない……
「胸が……痛い……痛いよプリメラ……」
「ディン……うん、うん……」
泣きじゃくるプリメラに僕はそれを言うのが精いっぱいだった。
◆ ◇ ◆
――ファルミさんが死んだ。
僕達はトゥランスさんと一緒に馬車で彼女の遺体を自宅へ連れていき、ベッドに寝かせると、報せを聞い領主様も家へ。
「おお……馬鹿な……なぜ先生が!! ごろつき共はなんでこんなことをした!」
「取り調べが先だヒドゥン。ディン君に手ひどくやられていたから明日になるだろうが――」
「いえ、その必要は……ありません……」
「どういうことだ?」
目を見開いて下を向いているジェイドさんがポツリと呟き領主様が眉をひそめた。すると少しずつ真相を話し始めた。
「……俺はヒドゥン様を領主から引きずりおろすための組織に、入っていました」
「なに!?」
「ヒドゥン。……続けてくれ」
「組織自体は町の不満を持つ人間が集まってできたもので大した力は無かった……だけど――」
だけどそこへオリゴー様が入り込み、ジェイドさん達の生活のため領主選で戦うから協力しろと言ってきたらしい。
そこまではあり得なくはないとトゥランスさんが言う。しかしその後が良くなかった。
「……母さんやディン君、プリメラさんが頑張ったから勝てるはずだった領主選が危うくなってきた。だから母さんの息子である俺に……ヒドゥン様を殺せと……」
「な、なんと……!? じゃ、じゃああの時、執務室へ来たのは……」
「そのつもりでした。極刑にならないよう手はずを整えるとは言ってたけど、母さんに犯罪者の息子を作るわけには……。けど結局……」
「そうか。オリゴーがか……トゥランス、これを陛下に伝えて貴族の座から降ろせるか?」
「できなくはない。ここまでの事態を引き起こしているし、口封じも失敗しているから証人も多い」
追い落とすなら可能だとトゥランスさんが口にした瞬間、領主様が少し考えて立ち上がる。
「そうだな。……よし、今からオリゴーの屋敷へ行くぞ」
「このままだと夜中になるぞ?」
「いい。もし私がオリゴーならこの結果をどこかで監視させておいて報告をもらっているはずだ。そして失敗した。恐らく国外へ逃亡を図るはずだ」
「……確かに」
「先生を殺した犯人を逃がすわけにはいかん。行くぞ」
トゥランスさんが頷き移動を始める。
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