決着は来世でつけると約束した勇者と魔王はお隣さんで幼馴染になる

八神 凪

文字の大きさ
15 / 48

15.スパルタな予感

しおりを挟む
「さて、全員席についたな。私はアセーファ。このAクラスの担任を務めることになった。よろしくな」

 気だるそうな目と、ソバージュがかかったオレンジのボブ。白衣を来た妙な恰好の女性はそう名乗った。
 まだゴルドが呻いているがアセーファは構わずに話を続ける。

「ひとまず親御さん達は講堂に残ってもらい、どういったカリキュラムをするかといった話を聞いてもらっている」
「なるほど」
「今日は顔見せだけなのでこの後、教科書などを渡したらまた合流して帰宅だ」

 その瞬間、教室がざわめきだす。
 ラッキーといった声や、眠かったんだよねといった感じである。

「暢気ねえ」
「ま、こんなものじゃない?」

 リアムが肩を竦めているとフィーシアが微笑みながら返していた。アセーファが手を叩くとざわめきがぴたりと止まる。

「まあ、初日くらいはな? 明日から勉強に魔法、剣に運動と絶え間なく授業が始まるんだから」

 くっくと肩を揺らして笑うアセーファに、生徒の一人が手を上げて質問を投げかける。

「先生はなにか受け持つんですか?」
「私かい? 私は一応、物理をすることになっているよ」
「物理……」
「あー、確かに賢そう……」

 そう聞いてロイは勇者の記憶から物質や物体について学ぶものだったかなと胸中で呟く。そういえば白衣はそんな感じに見えなくもない。
 だが、続けてアセーファから出た言葉は驚くべきものだった。

「物理だよ。こう、相手をどう破壊するかという授業だ。ふふ、楽しみだねえ」
「「「「そっちか……!!?」」」

 ポケットから取り出したこぶし大の大きさをした石を取り出してから粉々に握りつぶした。

「なら先生と模擬戦なんてのも?」
「おや、今のを見てやる気になったのかい? 将来有望だね。名前は」
「ロイです」
「よろしく。さて、それじゃついでに自己紹介も聞かせてもらおうか――」

 アセーファはロイの質問にニヤリと笑みを浮かべてから頷いた。そうして一人ずつ自己紹介を促した。
 ロイとリアム以外で村から来たという子は居らず、殆どが町の子でそこそこ裕福な子か貴族だった。

「ゴルド・トレインだ。宰相の息子なのでお前達、俺の取り巻きになれば……いてえ!?」
「学院長の話を聞いていなかったのか君は? この学院において権力は意味を成さない。それがまかり通ってしまえば簡単に差別が生まれるからね」
「うぐぐぐぐ……こ、この」
「うーん、さすがはテリアといったところか」

 ロイはかつての勇者パーティだったころの彼女を思い出して苦笑する。テリアは平等にといつも口を酸っぱくして言っていたのでその名残りだなと。

「僕はそれがいいけどね。友達に命令とかしたくないし」

 ミトラがそう言うと、アセーファは指を立ててから口を開く。

「まあ、貴族がここで信頼できる仲間を作って部下にしたり、平民が貴族のお坊ちゃんの護衛になったりなんてのはよくある話になってきたね。横柄にならなくなる、という理由でこの学院に預ける親御さんもいるくらいだ」
「なるほどね」
「くっ……見るんじゃない……!」

 リアムがニヤニヤしながらゴルドに視線を移すと、彼は顔を隠しながら激昂していた。

「そういえば辞める人も多いって聞いたけどそうなんですか?」
「ふむ。いい質問だよフィーシア。……実際、ついてこれなくて辞める者は多い。くんれ……授業はそれなりにキツイとだけ言っておくよ」
「だ、大丈夫かなあ……」
「異種族も入れるこの学院は色々な者が居る。だから誰かに勝てて、誰かに撒けることもあるだろう。しかし、全部は出来なくていい。自分に出来ることをしっかり見極めてくれればいいと、私は思うよ」

 アセーファはドヤ顔でうんうんと頷き、自論を口にしていた。生徒たちは『はぁ~』と感嘆の声を上げていた。
 そこで外から入ってきたチャイムの音が教室に鳴り響く。

「おっと、今日はこれくらいだな。明日から本格的なくんれ……授業が始まる。皆、心してかかるように。ここで学べば冒険者以外の仕事にありつけるからな」

 話はまた明日以降にしてやろうと言い、ロイ達は教室から解放された。
 教科書などは後ろにある鍵付きのロッカーに入れておいても構わないということだ。

「これからどうする?」
「町の雑貨屋に行くー」
「ウチは家の手伝いだよぉ」
「遊びに行くか! 明日から大変そうだし……」

 そしてすぐにこれからどうしようかと計画を話し合う生徒達の姿があった。
 明日から頑張る……そういう雰囲気を出している中、ロイは教室の外へ向かう。

「帰るのかい?」
「そうだな。父さん達と合流して帰ると思う。……ちょっとやりたいことはあるんだけど」
「ふうん? なら私達と町に出ない? 折角友達になったし、ね?」

 ミトラが帰るのかと尋ね、ロイはそのつもりだった。しかし、相変わらずロイの腕を取ってフィーシアが町へ行こうと提案して来た。

「また今度ね。お父さん達を送って家に帰らないといけないし」
「あん! もう、リアム邪魔しないでよ」
「邪魔してないわよ」

 フィーシアをロイから引き剥がし、家へ帰るとリアムが言う。口を尖らせたフィーシアにまあまあとミトラが諫めていた。

「ま、そういうことだから今日は帰るぜ。またな」
「うん! 気を付けてね」

 ミトラに見送られてロイは立ち去り、リアムはその後を追う。
 帰る予定ではあった。しかし、目的は別にあり、二人は学院長と副院長を探して視線を動かす―― 
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...