決着は来世でつけると約束した勇者と魔王はお隣さんで幼馴染になる

八神 凪

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17.かつての仲間は、今

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「いたた……なんて馬鹿力だ……」
「大丈夫? 女性に迂闊なことを言わない方がいいわよ」
「リアムさんの言う通りね」
【いや、並みの人間なら失神ものだぞ今の拳骨は……】

 殴られたロイに女性二人が辛辣に返し、フィアームはロイを介抱していた。
 殴った音がまるでハンマーで岩を叩いたみたいな感じだったため、流石に驚いていたのだ。

【コブひとつない……丈夫か!?】
「勇者の記憶があるからかな?」
【あっても身体の強さとは関係ないだろう】

 フィアームが呆れながら正論を言い、ロイを立たせていた。
 そこでテリアが指を立ててから話を続ける。

「私が魔族になったのは自分の意思だからいいのよ。あなた達の記憶にある人間と魔族の戦いからだいたい六十年とちょっと。かなり世間の認識は変わったわよ。今日の新入生も異種族が結構いたわよ」
「そういえば、確かにエルフや魔族らしい皮膚の色をした子がいたわね」

 リアムが腕組みをして不意にクラスのある方に視線を合わせていた。

「確かにレオンとアルケインが戦っていた時代だと他種族は他種族同士でって感じだったもんな。こうやって集まることは無かった」
【うむ。そのあたりは私とテリア、バラエナにアガン、オリビアが尽力したのだよ】
「へえ、敵対していた人間と魔族は確執があったでしょうに。私……アルケインは征服することで統一できると考えていたけど」
【実際、勇者とアルケイン様の功績は大きかった――】

 フィアームが言うには、魔族は人間より強く、魔王に至っては勇者という存在が居て初めて勝負になるほどだった。
 その二人が倒れてしまった今、魔族が人間を蹂躙するのは難しくない。しかし、また勇者のような人間が現れた場合はその限りではない。
 生き残った勇者パーティと、ヴァンパイアロードのフィアームとオークキングのバラエナが各国の王へ通達し、ほぼ全員が納得した。
 征服するつもりだった魔王は死んだことで、魔族の居た土地も一つの国として認め、意思疎通のできる魔族は人間を攻撃しないとした。
 
「なるほどね。魔族側で奔走したのが魔王の下にいた二人というわけだ」
【散々『魔王様が死んだのにお前達だけ生き残って』などと言われもしたが、まあ、なんとか国としてやっているよ】
「てことは一応、魔王みたいなのはいるの?」
「ええ。年単位の指名・立候補制になっているからなりたい者が選挙をする感じね。今は穏健派が強いみたい」
「……あの時点だと、ハーピー族とか妖精族あたりか」
【ああ、そうだな。争いを好まぬ魔族もいたからな】

 苦労はあったが、こうやって学院の教員をやれるくらいには平和になったのだと、テリアとフィアームは両手を合わせて得意気に笑っていた。

「アガンさんとオリビアさんは? テリア先生と違って普通の人間だろ?」
「残念だけどその通りよ。アガンは三年前に亡くなったわ。いいヤツだったんだけどね。オリビアはまだ生きていて息子さん夫婦と暮らしているわ」
「そっか」

 アガンは亡くなったが家族は居たとのことで、孫もいるとのこと。ロイが記憶にある彼を思い出し、少しだけレオンの寂しさを覚えることになった。
 
「アガンさんは明るかったもんな。レオンの支えになっていたところがあるかな。オリビアさんは普通に美人だったみたいだな。あれで極悪魔法を使うんだから恐れ入るよ」
「お孫さんはあなた達と近い歳ね。遠いところだから会うことはないと思うけど。それにしても本当にレオンの記憶があるのね……」
【リアムさんもアルケイン様の記憶がある、と】
「ええ。バラエナは怖い顔だけど、実は一番紳士なのよねえ。オーガ族のグラマイトは豪快に負けたけど、気のいい奴だったから勇者達も殺さなかったのよね」
【そのとおりでございます】

 フィアームは懐かしい名前を聞き、その通りだったことをリアムが口にしたので微笑んでいた。

「さて、レオンの記憶があるのは分かったけど、ここでは一人の生徒だからそのつもりで!」
「分かってますよ。ただ、記憶にある二人だったから話しておこうと思ってさ。でも相談事もあるんだ」
「相談事?」
「ええ」

 そこでレオンとアルケインの記憶がとても邪魔であることを告げる。
 このせいでお互いは決着をつけろと頭に響いていることなどを打ち明けた。

【なんと……】
「決着って……」

 その瞬間、二人がドン引きした顔でロイとリアムの中に居る勇者と魔王を見た。
 
「なんか追い払う方法とかないもんかなあって」
「そうそう。強くはなったけど、決着をつけろ……ってうるさいのよね」
「うーん、記憶だからねえ」
【憑き物というわけではないから難しいと思う。決着はつかないのか?】

 ロイとリアムが顔を見合わせた後、ふん! とそっぽを向いた。
 そして――

「……九百八十六戦、全部引き分けだ」
「あと少し……あと少しだったのに……!!」
「マジ?」
【確かに最終決戦の勇者と魔王様の戦いは拮抗していたが……】
「あ、もしかして二人は恋人同士?」
「「ち・が・う!!」」
「わあ!?」

 恋人同士という言葉に怒りをあらわにし、テリアがその剣幕に驚いてフィアームの背中に隠れた。

【……ふむ、こちらでもなにか考えておこう。今日のところは帰るのだな】
「え? ……あ」

 そこで少し遠くからロイとリアムを呼ぶ両親ズの声が聞こえて来た。二人は結構時間がかかったかと肩を竦めて移動を始めた。

「明日からよろしく!」
「ええ。気を付けて帰ってね」

 テリアは笑顔で二人を見送り、フィアームと残された。
 そこでフィアームが顎に手を当ててふと口にする。

【そういえばリアムさんは『強くなったけど』と言っていたな……まさか魔王様の強さを持っている、とか】
「まさか……でも九百八十六戦って……」

 テリアたちは冷や汗をかきながら立ち尽くすのだった。
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