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第一章
第31話 疑惑
しおりを挟む「師匠、布はどれくらい必要?」
「結構必要じゃな。大きさは子供二人分くらいの幅のを穴に被せるつもりらしい」
「オッケー」
「あ! またシャルル様は仕事を! ここは我々がやりますから休んでいてください!」
「えー、国を取り戻すまでみんなと同じじゃない?」
「姫様は姫様です! レッツェ様が居たらそう言いますよ」
「確かにいいそうじゃのう。まあ、長旅じゃったから休んでおくのもいいじゃろ」
むう。
神経質な大臣の名前が出てあたしは仕方ないと、騎士と師匠からそそくさと離れていく。
お姉さまとわたしは宿の一番いいところを使わせてもらえるようになったけど、みんなが働いているのに黙ってのんびりなんてできるわけがないわよね。
……とはいえ、騎士に見つかるとうるさいし、町の人もあたしを認識しているからなかなか手伝わせてもらえないのよね。
子供と女性たちがやっている布の用意くらいはいいかと思ったんだけどダメだった。
「リクのところに……って言ったらあいつ怒りそうだしなあ」
ヴァイスという魔兵機《ゾルダート》に似た巨人と融合してしまったという異世界の人間、リク。
コクピットという操縦席になにか液体の入った筒のようなものがあり、その中に本来の姿が入っていた。
右半身が抉れてちょっと肉とかはみ出ていて気持ち悪かったわね……。
だけど顔は結構良かった。素直に言うと好みだった。
そんな人が助けてくれたんだからカッコいいと思うのは当然だったりする。
「まあ、会って数日だし顔以外はよくわかんないけどさ。でもいい奴よねリクは」
外壁の向こうで頭が見え隠れしているヴァイスを見ながらそう思う。自分のことよりあたし達の心配ばかりしている気がする。
「なんとか治療してあげたいわね。借りは返さないと気が済まないし」
エリクシールとかいう伝説の薬みたいなのがあればだけど、サクヤが言うにはこのままでもいつかは治るらしい。
今の方が役に立つとリクが言っていたけどそれはそう。でも彼一人に任せっぱなしも良くないと思う。
「対抗するには同じものがないと無理よねえ」
そんなことを考えていたからか、町の比較的広い場所に置いてある魔兵機《ゾルダート》のところへ足が向いていた。
ちなみにリクが抱えて入れて置いたという無茶ぶりだ。
「シャルル様、どうなさいましたか?」
「いやあ、戦いになったら魔兵機《ゾルダート》は来るわけだからさ、これ使えないかなって」
「……!? 馬鹿なことを言いなさんな!? 使えたとしても他のものが乗ります! 王女に危ない役目をさせるわけないでしょう……」
「リクも戦っているのに」
「彼には感謝していますが、それとは話が違います!」
ダメかあ。
せめて操縦方法だけでも覚えておけばいざという時に使えそうだけど。
「ね、グライアードの人。あたしに操縦方法を教えてよ」
「……そんなことができるわけないだろう」
「殺さないでいてくれるのはありがたいが、それとは話が別だ」
「ぐぬ……。なら、なんでエトワール王国を攻めて来たのよ」
「「……」」
二人の騎士は質問には答えなかった。
ただ、分かるのは『殺せ』とは言わないこと。この場合、意味合いがいくつかあって、必ず助けにくることを考えている。もしくはこの状況が理不尽だと思っているとかね。
前者が有力だけど、どうも連行している間から大人しいので気になってはいる。
「まったく。平民を巻き込んでくれちゃってさ。町も襲うし、それでも騎士なの?」
「……! それは! 命令だから……! 騎士は命令には――」
「よせ、ヘッジ。この結果が全てだ」
「しかし、ビッダー……」
ふうん。仕方なくって感じ? これはますます理由を聞きたいわね。
そう思いながら二人を見ていると、後ろから声がかかった。
「王女様ごきげんよう!」
「あら、ソウの町から一緒に来た冒険者じゃない」
「覚えていてくれたとは光栄です。いえ、こっちへ来るのが見えたのでついてきたんですよ」
「そうなの? まあ、情報は得られなかったから戻るけどね」
「あら、そいつは残念だ」
声をかけてきたのは三人の冒険者だった。特に用があるというわけではなく、グライアードの騎士に文句を言いにきただけみたい。
「……こいつらのおかげで俺達はこんな目にあったんだ。一発くらい殴ってもいいだろ?」
「ダメだ。確かに悔しいが、そんなことをすればこいつらと同じになってしまう。法で裁かなければならない」
「チッ、固いこと言わないでくれよ」
「はいはい、ダメだって言われたら諦める! これでもあたしは王女だからね。そういうのは見過ごせないわ」
詰め寄る冒険者とウチの騎士の間に割って入り、諫めることにした。
「確かにこいつらは仇だけど、指揮をしているのは国でしょ? そっちに喧嘩を売るべきだと思わない?」
「それは……」
「あたしは諦めていないわ。リクも居るし、こいつらを盾にしていつかグライアードに攻め込むわ」
「「盾にするな……!?」」
ヘッジとビッダーの二人が焦りながら口を開く。まあまあ悪くない反応だわね。
魔兵機《ゾルダート》をなんとかこっちも作れればいいんだけどなあ。
「さあさ、他の人達の手伝いでもしてよね。あたしは手伝ったら怒られる……ってあなた、どこを見ているの?」
「へ!? あ、ああ、いやあのデカブツかっこいいなってよ。行こうぜ、こいつらを殴れないんじゃ意味がねえ」
「……そうだな」
「はいはい行った行った!」
「シャルル様、それはちょっと……王女としてどうかと」
「そういうのはいいって。今はガエイン師匠の弟子、剣士シャルルよ」
お小言にそういって笑うと騎士がため息を吐いていた。ヘッジとビッダーの二人は呆れたような顔を向けてくる。するとヘッジの方が口を開く。
「……我々にもよくわからんのだ。確かに魔兵機《ゾルダート》を作れと言ったのは陛下だ。しかし国を守るために使うという話だった……にも関わらずことを起こした……」
「命令をしていたのは国王じゃないの?」
「だからわからないんだよ。俺達ゃ末端の騎士だ。行けと言われれば行くだけだからな。喋り過ぎたなあヘッジ。寝ようぜ」
それだけ言ってビッダーは腕を縛られたまま寝転がった。ヘッジの方も目を瞑ってこれ以上は話すつもりがないといった感じだ。
なんだか複雑? でも命令を下すのはウチだとお父さんだしそうじゃないのかしら?
「できたぞー! でかい兄ちゃんに持って行ってやろうぜ!」
「おー!」
そんなことを考えていると大きな布を抱えた子供たちが走り抜けていく。どうやらリクに渡しに行くらしい。
「……」
するとその光景をヘッジとビッダーが口をへの字にしてみていた。よく分からないけど、今はできることをしようか。
そう思いあたしは子供たちのところへ駆けるのだった――
◆ ◇ ◆
「……いけるか?」
「さあな。王女は連れていけたら行く。グライアードの騎士に見張りが少ないのは助かるな。あいつらを助けたら魔兵機《ゾルダート》とやらに乗り込んでグライアードの部隊に合流だ。そのまま逃がしてもらう」
「それでいいな。チャンスは少ない、戦闘が始まるまで近くで待つぞ」
――三人の冒険者はシャルルと話した後、脱出計画を練っていた。それぞれの思惑が交差するまであと数時間。
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