魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第三章

第119話 単独行動

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「貴様等! こんなことをしてタダですむと……ぐあ!?」
「はいはい、あなた達は捕虜ですからねー。大人しくしてください」
「お、お嬢ちゃんは捕まっていたんじゃ……」
「いえ、元々捕まっていませんけど?」
「あっさりしているなあ……」

 バスレーナがロビーに転がされているグライアードの騎士に認識をするよう告げていた。
 宿屋の主人が拘束されていないバスレーナを見て驚いているが『そういうものだ』と涼しい顔をしていた。

「く、くそ……艶っぽい女の声で呼ばれたと思ったらガキだったとは……」
「こっちは有無を言わさず踏み込まれたぞ」
「ゆ、油断した……」
「まあ、町人全員が人質みたいなものだからな。反撃が無いと考えるのもわからんでもない。外のデカブツという切り札もあるしな」

 呻くグライアードの人間にギャレットが笑いながら告げる。転がっている連中は忌々しいとばかりに顔を顰めていると、作戦を実行したエトワールの騎士達が口を開いた。

「ひとまずここは二人居ればいいでしょう。残りは屋敷へ。ギャレットさん達はどうするんです?」
「ちょっと行くところがあってな。こっちはこっちで動くよ」
「……大丈夫ですか?」
「見ての通りか弱い親子です。見つかっても散歩していたとでも言えば」

 ギャレットとバスレーナの親子が親指を立ててニカッと笑う。それを見て騎士が頷くと、宿に騎士二人を残してその場を後にした。

「どちらへ?」
「外に出る。後は何とかするから騎士様達は屋敷へ向かってください」
「やはり危険では……」
「だーいじょうぶですって! それじゃ行きますよ親父!」
「おう!」
「ええー……」
「元気な親子だな……では我々はザナック殿を追うぞ」

 騎士達は出口の方に走っていくギャレット達を見送った後、移動を開始する。
 バスレーナはチラリと後ろを振り返ってから、ギャレットへ話しかけた。

「ちゃんと向こうに行ったね」
「それでいい。どうせ今から俺達がやることは騎士さん達にゃ無理だしな」

 くっくっくと笑いながら、ギャレットは自分の上半身ほどの長さがあるハンマーを手にしていた。
 バスレーナはリュックを背負いなおし父親の後をついて駆けて行く。

 外壁に沿って陽が昇ってくる方角を真っすぐ進んでいく二人。早歩きで数十分ほど経過したところで目的のものを発見した。

「俺達も町の中で休みたいもんだ」
「仕方ねえだろ、持ち回りだし。副隊長殿も付き合ってくれているんだ、ローテ待ちといこうぜ」
「ふが……魔兵機《ゾルダート》は大事だからな……」
「寝てていいですぜ、副隊長」

 二人の目的、それは魔兵機《ゾルダート》だった。外壁の陰からこっそり様子を伺いつつ、話を耳にする。

「(数は四人か。機体の数どおりだが、パイロットというわけでも無さそうだな?)」
「(そうだね。副隊長ってのは乗るだろうから後の三人が乗れるかどうかってとこ)」
「(まあ、その時考えるか)」

 ギャレットとバスレーナは顔を見合わせて頷いた後、ゆっくりと移動を始める。

「(こそこそ……)」
「(ゆっくりな)」

 並ぶ魔兵機《ゾルダート》の前で焚火を囲んでいるので死角に回り込み背後へと向かう。

「若いお姉ちゃんと、こうエッチなことをしたいよな」
「正直すぎるなお前……」
「だって、しばらく家にも帰れないんだぜ? なんか役得が無いとよ」
「この町を制圧した後のこともある。とりあえず……ふあ、今は休んでおけ……」
「町を征服していく意味はあるんですかねえ」
「フレッサー将軍がそうしろと言っていたのだから陛下のお望みなのだろう。やることをするだけだ……」

 欲望と現実を口にしながらため息を吐くグライアードの面々。どこで聞いても一貫した命令を耳にするので指揮系統は混乱していない。
 だが、その内容において困惑は隠せないようだった。

「(……ふむ)」
「(どうしました親父?)」
「(いや、なんでもねえ。作戦開始だ、ぬかるなよ?)」
「(うぃっす)」

 バスレーナが敬礼をすると、こっそりと散開してそれぞれ魔兵機《ゾルダート》の足元に向かう。
 しかしそこで、バスレーナにアクシデントが訪れた。

「ぐるるる……!」
「うひゃ!?」
「……!? 誰だ! うお!? ヴィーゼウルフ!」

 魔兵機《ゾルダート》に乗り込もうとしたバスレーナに狼の魔物が襲い掛かってきたのだ。咄嗟に回避するも大きな声を出してしまったのでウトウトしていた者を含めて起きてきた。

「ウォフ!!」
「この!」
「あわわわ」
「下がっているんだ!」

 狼の数はそれほど多くなかったので騎士達がすぐに一頭を倒し、残りも程なくして討伐。逃げた個体もいるが追いかけずに見逃した。

「ふう、大丈夫だったか? ……あれ? 居ない……?」
「あそこに居るぞ!」
「うへ!?」

 バスレーナがそろりと逃げ出そうとしたところで見つかってしまい、首根っこを掴まれた。

「こんなところでなにをしていた? 見たところ冒険者でもなさそうだが……」
「いえ、お手洗いに行こうと思って歩いていたらここに……」
「そんなウソあるか!? 怪しい奴め。ガキだからとて容赦はせんぞ?」
「そんなことを言って! あたいにあんなことやこんなことをするつもりでしょう!」
「ガキだと思っていたが……そうだな……一応、女だし体に聞くか」
「ひぃ、言わなきゃよかった!?」

 すぐに立ち上がり逃げ出そうとするも、そこは鍛えた騎士。鎧を着ていてもバスレーナを捕らえるには十分だった。
 彼女は髪を掴まれてしまった。

「いたっ!? なにするんです!?」
「逃がすと思うか? どちらにせよ怪しい奴を放置するわけにもいかんのでな」
「むう……!」

「まいったな、どうするか」

 ギャレットはそんな娘の姿をコクピットから見ていた。助けに行くには魔兵機《ゾルダート》はでかすぎる。人質に取られたら厄介だと。

「かと言って降りて行ってもバスレーナが捕まっているから同じことだし」

 腕組みをして考えるギャレット。冷静なようだが冷や汗をかいて『なにができるのか』を考えていた。
 運が悪かったといえばそれまでだが、あまりにもタイミングが悪すぎた。

「仕方ない、こいつを動かして蹴散らすか。……ん?」

 すぐに動いてバスレーナを回収する。そう決めた瞬間、眼下で異変が起きた。

「ぐあ!?」
「ナイフ……! 何者か!」
「あの隙間を!?」
「おっと、チャンス!」

 髪を掴んでいた騎士の手首にナイフが刺さっていた。ガントレットの隙間を縫う神業に驚いている隙にバスレーナが腰を低くして走り出す。
 リュックがあるので後ろから斬られる心配はないと真っすぐに魔兵機《ゾルダート》へ。

「あ、こら! そいつに触るんじゃない!」
「えっと、多分ここに……おお、一緒だ」
「なに!?」

 太もも付近にあるスイッチを操作するとコクピットに上がるための足かけワイヤーが降りてきた。
 バスレーナはすぐに飛び乗ると、魔石の力によるウインチが動き出す。
 
「なんであんなガキが動かせるんだ……!?」
「あたいは天才である……!!」
「退避だ! 副隊長、応戦を!」
「うむ……! あ!?」
「悪いな、こっちはしばらく動かせねえよ」
「だ、誰だ!?」

 4機の魔兵機《ゾルダート》はギャレットとバスレーナに盗まれ、残った機体はギャレットの手によりうつぶせに倒され、コクピットが開かない状態にされてしまった。

「さて、町の中に居る騎士はすでにある程度捕縛しているぞ。隊長さんもそれほど持たないと思うが抵抗するかい?」
「副隊長……!」
「……くっ、ひとまず確認せねば。撤退するぞ!」
「あらら、なら掴まえないといけませんねえ」
「「「うおお!?」」」

 ギャレットとバスレーナは魔兵機《ゾルダート》を上手く動かし、逃げようとした騎士達を捕獲した。

「う、動けん……!?」
「しばらくそのままでおねがいしますねー。親父、どうする?」
「少し待とう。失敗していたらこいつらが交渉材料になるかもしれんしな」
「ですね。そういえばさっきのナイフは誰だったんだろ」
「さあなあ」

 ギャレットはそう言って目を細め、暗がりを見る。居ないかと認識したところで一人考える。

「(部品も含めてこっちを抑えておきたかったので、単独行動をしたが上手くいったな。バスレーナが捕まったときは焦ったが、あいつらには感謝だ)」

 そして肩を竦め、一人呟く。
 
「さて、どっちに転ぶかな……? ここと魔兵機《ゾルダート》をこれだけ抑えれば少なくとも反撃はできそうだが――」
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