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第五章:スヴェン公国都市
その69 怪しい場所と怪しい男
しおりを挟む<とりあえず風曜の日>
――時計塔
「わあ、素敵な建物ですね」
「本当、高さもあるし眺めが良さそうだけど……立ち入り禁止、ね。ギルドで聞いた通りです」
エリィが見上げて感嘆の声をあげ、ベルゼラが同意した後に封鎖された入口の鎖に掲げられている看板を見て呟いた。
見た目は風車小屋のような筒形の建物で、囲いの中にあった。建物には所々に窓があり、一番高い場所の中央に時計塔の名の通り大きな時計が時間を刻んでいた。横の大きさも結構あるので中も結構広いだろうと想像できる。
「どうして立ち入り禁止なんでしょうね? 特に傷んでもいないようですけど……」
「うーん、最近封鎖されたみたいだし、怪しいんだよね。何とか見れないかなあ」
「ソレイユさん、あまり無理はしない方が――」
「こら! 何をしている!」
「ひゃい!?」
僕が囲いの中に入ろうと手をかけたところで怒鳴られてしまい、つい声を出してしまう。恐る恐る声のした方を向くと、
「ここは立ち入り禁止だ。看板が見えないのか?」
見回りの兵士、という感じかな? 騎士にしては若く、何となく見習いというイメージがあり、ぼさっとした短めの茶髪はあまりお手入れをしていないように見える。
「い、いやあ、僕達この町は初めてでして、この建物が立派だったから入ってみたいなあって」
「そうです! 私も入ってみたいです! キャハ★」
「ど、どうして立ち入り禁止なのですか? 見たところ問題があるように見えませんけど」
エリィの謎のテンションにびくっとしたベルゼラが兵士さんにおずおずと尋ねると、兵士さんはやれやれとため息を吐いてから僕達へ言う。
「立派なのは間違いないな。今の公王様が産まれた時に当時の公王様、御父上が記念で建てたものなんだ。城に近いのはそのためさ。現公王のディケンブリオス様が子供のころは良くここで騎士を連れて遊んでたらしいぞ。……で、立ち入り禁止になった理由も公王様なんだけど、訳は俺達みたいな城仕えの兵士には聞かされていない。側近クラスなら知っているかもしれないけどな」
割と聞きたいことを教えてくれる親切な人だなあ。公王様にとって思い出の場所……何かしらの戦闘で壊されたくないからというのは考えられるけど……
「人の出入りは?」
「ん? 立ち入り禁止になってからは一度も出入りをしているのを見たことは無いかな。もちろん俺以外の連中もだ。お前達みたいなのが入らないようしっかり見張っているからな! ほら、遠目から見るだけにするんだ」
「ケチで・す・ね。あは!」
エリィが兵士さんの肩を指でちょんと触り上目遣いでそんなことを口走り、僕は慌てて引き寄せる。兵士さんの顔が若干強張っていたからだ。僕達がここから離れるまでこの人は動かないだろう。
「色々ありがとうございました。行こう、二人とも」
「は~い★ またね、お兄さん」
エリィがパチっとウインクして僕に付いてくる。ベルゼラは――
「……」
時計塔の後ろに聳え立つ城を無言で見上げていた。
「どうしたのベル?」
「え? な、何でもありませんよ。次はどこへ行きましょうか?」
「ヘイ、ベル、顔が怖かったよ!」
「ちょっと時計塔を見て考えができたから、ルビア達と合流しようか。後、何かうざいからそのキャラは止めようエリィ」
「えー! 頑張っていつもと違う私を演出したのに!」
「逆に怪しいからさ……広場にルビアが居るはずだ、そっちへ行ってみよう」
口を尖らせて納得いかない表情のエリィを引っ張って歩きだす。広い町だけど、広場は中央にあるのですぐに到着。
「あ、ここ雰囲気がいいですね! 天気もいいし、デート日和です」
「こんな時じゃなかったらゆっくりするんだけどね。さて、ルビアはどこかな」
「ルビアさんはシルバ君を連れているからすぐわかりそうな……あ、やっぱり」
あそこですとベルゼラが指さす先にはドレスメガネ姿のルビアが居た。だけど、
「何か男の人に話しかけられてますね? 何か情報を聞いてるんですかね?」
「いや、シルバが牙を出しているし、ルビアも怒ってない? 急ごうか」
僕達は早足で近づいていくと、段々二人の話し声が聞こえてきた。
「だから、あたしはデートはしないって言ってるでしょ? 付いてこないでくれる?」
「きゅん! がるるる!」
「あはは。気の強いところも魅力的だなあ、ちょっとお茶をしながら話をするだけだよ。いいじゃないか」
「しつこい人は嫌いだから相性は最悪ね。シルバ、特別に噛みついていいわ」
「きゅん!」
ガチガチ!
「おっと! 危ない危ない! さっきこの町のことを聞きたかったみたいだって言ってたし、そのことでもいいから付き合ってくれないかなあ」
「あんたさっき『この町には旅行で来た』って言ってたじゃない。何も知らないでしょ? ……というかタイムオーバーね。連れが戻ってきたわ」
「連れ?」
「お待たせしましたルビィ!」
「お散歩は楽しかった? ってこの人は?」
顔は知られていなくても名前は知られている聖職二人は人前でだけ偽名を使うことにしていた。ちなみにルビアはエリィにならいルビィと。エリィはエリザベスと呼ぶことに決めていたりする。
それはともかく、ルビアに声をかけていた男は、目の細いみるからに優男といった風貌で、ほぼ間違いなくナンパだろう。
「ううん、いいタイミングよ。というわけだからさよなら♪」
「きゅーん!」
ルビアがおかしそうにべーと舌を出すと、シルバが真似をして舌を出す。というかずっと出てるけどね。すると男は僕達を見て一瞬沈黙した後、笑って口を開く。
「あはは! これはまた可愛い子ばかりだね。おっと、これは失礼。俺はフェイ、よろしく頼むよ!」
「あ、はい」
フェイ、と名乗った男は僕に握手を求めてきたので握り返すとにこりとほほ笑む。
「満足した? さ、お昼にでも行くわよ」
「いやいや、こんな可愛い子ばかりでは心配だ。俺もお供させてもらいたいね? タチの悪い奴隷商に騙されるかもしれないしね?」
そこで訝しむようにエリィが呟く。
「奴隷商、ですか? この町に奴隷商のお店があるんでしょうか?」
「さあ? でもこれだけ大きい町ならあるんじゃないかな?」
「公王様は良い人ですし、それは無いのでは? 行きましょう皆さん。何だかんだ口実をつけてあなたが私達を売り飛ばすとも限りませんしね」
「おっと、そう返されるとはね! 今日のところは引くよ。ルビィ、また会おう」
スチャッっと手を上げてウインクをしたフェイは踵を返して去っていく。それを見送る僕達。だけど、ルビアは嫌そうな顔で呟く。
「チャラいのは好みじゃないのよね。アレンもあんな感じだったからもうこりごりよ」
「あはは。アレンは本当に酷かったね。ルビアは美人だからすぐ見つかるよ」
「きゅんきゅん!」
シルバが何かを主張しているが狼の鳴き声では何も分からないなと苦笑していると、ルビアがニヤリと笑って口を開く。
「ふーん。じゃああんたが付き合ってよ」
「ごほ!? 何を言うのさ! もう、冗談はいいから……ほら、エリィも怖い顔をしないの」
「うふふ、困ったお姉さんですね」
「怖いって!? で、そっちは何か収穫があった? 悪いけどあたしはあいつに付きまとわれていたから全然よ」
「僕達も大した情報じゃないけどね。長期戦になりそうかも」
「ふうん? じゃ、レジナさんとバス子を探しますか。お昼も食べたいしね」
「あ、この町は新鮮な牛乳と卵で作るシチューが美味しいみたい。それにしません?」
案内紙をしっかり読んでいたベルゼラの提案でお昼が決まり、レジナさんとバス子を探すため町を歩き出す。あの二人は商店街に行っているはずだからちょうどいいかな。
……さて、あのフェイという男、気を付けないといけないかな? 僕と握手した時の表情……面白いおもちゃを見つけたって顔だった。ややこしいことにならないといいけど……
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