184 / 196
最終章:罪と罰の果て
その175 最後の足止め
しおりを挟む「そうですよ! あなたのアイドル、バス子――」
ベシッ!
「うわあ!? バス子さんが悪魔に叩かれて馬車から落ちた!?」
「構わなくていいよ、すぐ復活するから! それより手綱をお願い!」
「わかった!」
少し一緒に旅をしていたからか、バス子のことはわかっているらしいクロウがすぐに気を取り直して手綱を取ってくれた。僕はセブン・デイズを抜いて悪魔に斬りかかる。
「グギャォォォ!?」
確実に殺すなら剣が一番いいので、あえてクロウと交代した形にしたのだ。
「レオス、後ろは任せろ」
「お願いします!」
次々と馬へ向かって来る悪魔達を、僕とカゲトさんが切り伏せ、ガクさんのバリスタも撃ち落としていく。ルルカさん達の方も近接戦闘ができないフヨウさんが馬を操っているので、ふたりが攻撃に専念できていた。
それが三十分ほど続いたころ、ようやく月明かりを拝むことができた。そう、全滅させることができたのだ。
「どうどう! 無理させちゃったね」
「ひひん……」
「ぶるる……」
流石にヴァリアンとエレガンスも頭を垂らして荒い息を吐いていた。周囲をカゲトさんが警戒しつつ、僕達は馬車を寄せて飲み物を口にしていた。
「ふう……」
「ぎゃははは! あれすげぇな! この戦いが終わったら俺に売ってくれよ、いい魔物避けになるぜ」
「ほら、お前達も飲んで」
「ぶるる♪」
かなり急いでいたからか、大魔王城まであと一息とというところまで来ており、僕は城の方へ目を向けてごくりと水を飲む。そこへカクェールさんが声をかけてきた。
「あいつら、まったく手ごたえが無かったな。それとあのガクさんが使っていた武器、凄かったな」
「ただの足止めだと思います。逆に言えば僕達がここに来ていることがバレている、ということでもあります。だからカクェールさん達も捕捉されている……」
「ま、気にするな。元々そういうつもりだったんだ。エリィ達を助けたらすぐ合流するからな」
「ありがとうございます。その前に決着をつけるつもりですけどね」
「ぎゃはは! 言うじゃねぇか! よし、時間が惜しい。俺の予想じゃ、あの大軍をこの短時間で始末できるとは思ってねぇはずだ。油断しているところに突っ込もうぜ。剣聖のやつをぶっとばしてぇな」
僕の話を聞いて、ガクさんはレオバールに怒り心頭だった。ネチネチと振られた女に執着するのと、僕に逆恨みをするのが許せないのだそうだ。その話をしたときにカゲトさんがビクッとしていたりする。まあガクさん、さっぱりしてるしなあ。
それはともかく、時間が惜しいというのは同意なので、僕は頷いてから口を開く。
「それじゃ行こう」
「『それじゃ行こう』じゃありませんよ! 少しは心配してくれてもいいじゃないですか!」
「あ、バス子」
激戦ですっかり忘れていたバス子が僕の目の前に降りてきて、頬を膨らませていた。そのまま僕に指を突きつけて詰め寄ってくる。
「なんで逃げ出したりしたんですか! お母さまが相当心配していましたよ? あんな大けがで……って治ってる……旅ができるような体じゃなかったでしょうに」
「ああ、ちょっといい薬をもらったんだよ。それより悪魔達のところに戻ったんじゃないの?」
「レオスさんが居なくなったから探してたんですよ! ……あっちはレオスさんのお父様が行ってくれました」
は? 僕は間の抜けた声を一瞬あげ、バス子の言葉を反芻する。父さん? 父さんって僕の……?
「え!? なんでさ!?」
「レオスさんをコテンパンにするわ、未来の嫁をさらうわとかでめっちゃ怒ってましたよ? 顔は笑みを絶やさないんですけど、空気がピリッとしていました」
「うーん、父さんがねえ……」
いつもへらへらとして母さんに怒られてばかりの姿しか知らないから、騎士団長の父さんは想像できない。とりあえず父さんにはアマルティアに対する攻撃手段がないけどどうするつもりなんだろ?
「おい、レオス、その嬢ちゃんは誰なんだよ?」
「え? ああ、僕の仲間のバス子だよ。この世界に無理やり召喚された悪魔達のひとり」
「お見知りおきをダンディなおじさま!」
「悪魔? さっきの敵の仲間か?」
ガクさんの目が細められ、低い声を出すが、バス子は気にせず話を続けた。
「あれは使い魔ですね。わたし達が使役するデーモンという下級悪魔です。恐らく取り込んでいるわたしの仲間から作り方を覚えたんでしょうね」
「なるほどな。よろしく頼むぜ」
「こちらこそ。後は――」
「話は移動しながら話そう。馬達も整って来たみたいだ」
カクェールさんの言葉に頷き、僕達は再び移動を始める。
バス子の話によると、近辺にある悪魔達のアジトに父さんと悪魔達は集まっているらしい。その内大魔王城に来てくれるというけど、それがいつになるかわからないので結局は運任せになりそうだ。バス子が戻ってくれると助かるんだけど、このまま一緒に行くそうだ。
「お嬢様のピンチですしね。というより、かなり前にメディナさんのメモ帳で戻っているので、先に行っているかもしれませんね」
「ええ? だったら急がないとアマルティア相手は本当に無理だって!?」
「まあまあ、アガレスさんも居ますし、そう簡単にやられたりしませんよ」
僕の横で能天気に言うバス子にクロウが尋ねる。
「バス子さんの仲間って何人くらいいるんだろ?」
「確か十三人くらいでしたっけ? 本当は七十二柱いるんですけど、その内何人かだけがこっちに来ているんですよ。ライオン頭が被っている人とか。直接戦闘ならマルコシアスさんが来てくれると助かるんですけどねえ」
「レジナさんの旦那さんだっけ。強いんだ」
「格闘と斧は相当なもんですよ? レオスさんの悪神モードにはとてもじゃないけど勝てませんけどね」
「へえ……」
格闘、と聞いてクロウがうずっとしているのがわかった。うーん、強くなることに貪欲だなあ……ある意味羨ましいと思いながら馬車を走らせる。父さん、今どこに居るんだろう? 悪魔達と共闘できるなら僕の作った武器はかなり有効打になりそうだ。
◆ ◇ ◆
<悪魔達のアジト>
「……君は誰だい?」
「俺はライフセイバー。アマルティア様のしもべのひとり。悪いが、お前達にはここで死んでもらうぞ? レオスとかいうガキと合流されては厄介だからな」
「アジトを知られているのはわかっていたから不思議ではないが、貴様ひとりか?」
悪魔達のアジトで突撃計画を立てていたアシミレートとアガレス達のいる会議室へやってきたのはアマルティアのしもべだった。
「ふはははは! 貴様らなどひとりで十分よ。それに、わかっていて逃げ出さないとは愚かな奴らめ。ここで一網打尽にしてくれるわ!」
ライフセイバーが高笑いをして手に持った大剣をアシミレート達につきつける。すると、どこからともなくデーモンたちが姿を現した。
そこでアガレスがさもおかしいと言わんばかりに口を開いた。
「なるほど、アシミレート殿の言う通り、我等が敵は戦闘のプロではない、か。よく分かりますな」
「だよね? いやあ、こんなに簡単に引っ掛かってくれると僕も嬉しいよ。あははは」
「何がおかしい!」
ガキン! と、鋭い踏み込みでアシミレートに迫るが、あっさりと剣で受け止められる。
「う……動かない……」
「ライフセイバーとか言ったっけ? 気づかなかったかい? このアジトに入ってから悪魔達に会わなかったってことに」
「それが……どうした……」
「君は罠に嵌ったんだよ。ここには僕とアガレスさんしかいない」
「なんだと? じゃあ他の悪魔は……」
ヒュン……
その瞬間、笑みを消したアシミレートがゆらりと動き、一瞬でライフセイバーの後ろを取っていた。直後、剣を鞘に納めるアシミレート。
「いつの間に……!? だが、後ろががら空きだぞ!」
「それでどうやって僕を攻撃するつもりなんだい?」
「あん? この剣で……」
と、振り下ろしたがアシミレートには届かなかった。いや、そもそも剣を掴んでいた腕が無かったのだ。
「な、これは!?」
「君が探しているのはこれかな?」
アシミレートの左手に、ライフセイバーの肘から下があり、ぼたぼたと血を零していた。
「俺の……腕……!?」
直後、ライフセイバーの左腕が飛ぶ。
「うぐあ!?」
「他の悪魔はどこか? もちろん大魔王城だよ。アジトを襲撃してくるだろうことはわかっていたからね。ま、君一人ってのは予想外だったけど、おかげで楽をさせてもらった」
「あ、悪魔ならまだしも、お、お前のような人間に……」
「そういうのは関係ないかな? 君の主はうちのレオスを殺しかけただろ? 僕は怒っているんだよ。神だか何だか知らないけど――」
ブシュ!
「僕の大事な子供にそんなことをしてくれちゃ仕返しをしないわけにはいかないじゃないか」
そんなことを言いながら、アシミレートは目にも見えぬ速さでライフセイバーを細切れにした。ライフセイバーが倒れたことでデーモンたちも霧散する。
「……いやはや、恐ろしい男だ。敵に回してはいけないタイプだな」
「あはは、僕は安全ですよ? ……僕の大事なものを傷つけない限りはね。それじゃアガレスさん、行きましょうか。レオスも近くまで来ているみたいですから、行ってあげないと」
「ああ。いくぞカイ君」
「~♪」
決してライフセイバーは弱くなかったとアガレスは前を歩くアシミレートの背中を見ながら胸中で呟く。これならこの男を主軸にして勝てるかもしれない。そう思わせるだけの実力がアシミレートにはあった。
そして舞台は大魔王城へと移っていく――
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる