185 / 196
最終章:罪と罰の果て
その176 近づくとき
しおりを挟む「町ン中に入ったぜ!」
ガラガラと激しい音を立て、アスル公国の城下町へと突入した。月明かりの中、完全なる廃墟と化した町の中を一気に突き進む。城までは数百メートル。これが最初で最後のアタックだと、僕は覚悟を決める。
「そのまま真っすぐで正面の門だよ! ……やっぱり来たみたいだね」
「おっと、道を開けてもらうぜぇ!」
ドシュシュシュ!
空と地上から迫りくるデーモン達をガクさんがバリスタで蹴散らしていく。もちろん、ルルカさん達の魔法も頼もしい。
「キリがないね、ティリア同時にかけるよ! 《エクスプロード》!」
「《エクスプロード》!」
ドゴォォォン!
「ほっほう! 派手ですねぇ! いっちょわたしも! ”ケイオスフレア”!」
三人の魔法と技がほぼ同時に着弾し、爆心地付近のデーモンたちが霧散していった。そんな攻防も間もなく、僕達は正門の近くまで来ることができた。
「閉じられているな……」
「ならこれで!」
ガッ! ズドン!
「すごいな、一撃か……」
パイルバンカーの一撃で正門が粉々になり、城への通路が開かれるとカクェールさんが呆れたような声を出していた。まあ、こういう時のための武器だからね。
ここで二手に分かれるため、僕はクロスボウをカクェールさんに渡しておく。
「これは?」
「アマルティアはこの世界の武器では傷つかないんだ。だから、まだこの世界には無いクロスボウなら攻撃が通じるはずだよ。万が一遭遇したらこれで攻撃を仕掛けて欲しい」
「いいんですか? そっちがメインで戦うのに」
ティリアさんが心配そうに聞いてくるので、笑顔で答える。
「こっちにはパイルバンカーもあるし、刀もあるから大丈夫だよ。最後の手段もとってあるしね」
「わかりました……」
「大丈夫よ! レオス君の仲間を見つけて、私達がすぐ合流すればいいんだから」
「そうだね。時間が惜しい、ボク達は一階から探していくよ」
「よし、行こうティリア、フヨウ」
カクェールさんの合図で四人は城内へ侵入していった。それを見送った後、僕はヴァリアンとエレガンスの手綱を外して自由にする。
「ここまでありがとう。君達は城の中には入れないから、ここでお別れだ。デーモンたちが来ないとも限らないし、頑張って町まで逃げるんだよ」
「ぶるる!?」
「ひひーん!!」
「よしよし、お嬢様たちはわたし達が助けてきますから、お前達も生き延びるんですよー」
最後までついていくと言いたげだけど、場内に馬が走れるほど広い通路は無いので僕は首を振り、バス子が優しく鬣を撫でると、馬達は項垂れ、僕達から離れていく。そして、クロウ達に向いて頷く。
「行こう、目指すは謁見の間だ」
「おう!」
「せめて一撃でも……!」
ガクさんとクロウが拳を握り、城内へ走って行くと、カゲトさんもそれを追いかけようと歩き出す。そこへ僕が声をかけて刀を差しだす。
「カゲトさんにはこれを。ガクさんとクロウの格闘武器は作れなかったから、せめてカゲトさんには持っていて欲しい。最悪、僕がやられたら逃げて」
「……借り受けよう。だが、死ぬなよ?」
「そのつもりさ」
そう言って城の中へと入っていき、クロウ達に追いつく。一階のどこかで激しい爆発音が聞こえてくる。そう簡単に探させてはもらえないか……。これでカクェールさん達も標的になると思うと心苦しい。
だけど倒せば問題ないのだ、肩に担いだパイルバンカーとカバンを握りしめ、階段を駆け上がった。
◆ ◇ ◆
「きゃ!?」
どさっとベッドへ放り投げられたルビアが小さく呻く。起き上がろうと体を動かしたところでアマルティアが覆いかぶさってくる。
「ど、どきなさいよ! ……動けない……なんて力なの……!?」
『ははは。暴れても無駄さ。さて、久しぶりの女性だ、優しくできないと思うけど許してくれよ』
「誰があんたとなんか!」
ルビアは足を使って蹴り飛ばそうとするが、ベッドの上では力が入らずに少し体を退けるだけだった。蹴りをにやにやと笑いながら受け、やがてルビアが諦めると、ルビアの足の間に自分の足を差し入れて顔を近づける。
「う……」
『終わりかい? なら、こちらの番だね』
「や、やめなさい……!」
胸を鷲掴みにされ、嫌悪の表情を浮かべるルビア。助けはこない。このまま慰み者になってしまうと、思わず身体が震える。だが、その時、ルビアの指輪が赤く光り、アマルティアを炎に包む。
『なんだ、これは?』
ベッドから離れ、炎を手で払いながら眉を潜めてアマルティアが呟いた。振り払われた炎は形を成し、真っ赤な炎の狐へと姿を変える。
<無粋なヤツじゃな。まあ、神とはこんなものかもしれんが>
「チェイシャ!」
<うむ>
チェイシャが振り向かずに答えると、アマルティアがニヤリと笑いチェイシャへと話しかけた。
『炎の精霊かい? 困るな、久しぶりの楽しみを邪魔されちゃたまらないよ。うっかり殺しちゃうじゃないか! はははは!』
<ぬぐ……!?>
アマルティアが手を振り下ろすと、突風のような風が巻き起こりチェイシャの肩口を吹き飛ばし、チェイシャが小さく声を上げる。だが、その場から動こうとはしない。
『ふうん? どういうつもりだい?』
<こやつはわらわの主人じゃ。危険があれば助けるのは当然じゃろう? それに、貞操をやるわけにはいかん>
「ちょ……!?」
ルビアが抗議の声をあげようとしたが、チェイシャの次に放った言葉で目を大きく開けた。
<どうやら、レオス達が到着したようじゃ。わらわはあやつが来るまで、ここでルビアを守るだけでええ!>
直後――
ズドォォォン!
と、レオスがパイルバンカーで正門を破壊する音が城内に響いてきた。チェイシャから目を逸らさずアマルティアが口を開く。
『……思ったより早かったかな? いいよ、そいつと遊ぶのは後にしよう。レオス達を半殺しにして、あいつの前でゆっくりとしてあげるよ』
そう言って部屋から出て行くアマルティア。緊張が解けたルビアがベッドへへたり込みながらチェイシャへ言う。
「レオスが来たの……?」
<うむ。……う……>
「大丈夫!?」
<流石は腐っても神じゃわい……魔力をごっそり削られてしもうた……>
「……ありがとう」
<気にするな、それよりここから出られんか?>
チェイシャの言葉に、ルビアはドアを開けようとするがドアはびくともしなかった。
「……ダメか……レオス、大丈夫かしら……?」
<勝算があってもなくても助けに来たというところか? 良かったのう、愛されておるぞ>
「や、やめてよこんな時に! エリィに悪いわ。せめて、あの二人には逃げて欲しいわね……」
窓ガラスも突き破れず、途方に暮れるルビアはそう口にするのだった。
◆ ◇ ◆
「敵がいねぇな。謁見の間はどこだ?」
「三階だよ。エスカラーチが改造したんだろうね、謁見の間って普通は一階にあるものだし」
なにかを演出したかった、とは考えにくい。多分、広い謁見の間なら戦いやすいと思ったんだろう。それを上階においておけば途中で魔物に襲わせて追い返すこともできるしね。
「罠、かな?」
「そもそも実力があるからそうは思えないけど……」
「……待て、誰か来るぞ」
僕とクロウが話していると、カゲトさんが止まれと合図し、僕達は階段の途中で立ち止まる。暗闇の中から歩いてきたのは――
「アレン! それにレオバール!」
「レオスか。まさか本当に来ているとはな」
レオバールが呟くと、肩に担いでいた人影がもぞもぞと動き、叫び出した。
「レオスさん!? 助けに来てくれたんですね! この変態! 早く降ろしなさい! ……ひゃあ!?」
「ベルゼラ!?」
まさかの僥倖、僕達は最優先救出事項のベルゼラを発見した! でも、この二人の真意はいったい……?
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる