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第八十八話 冬はやはりこれが必要であるというもの
しおりを挟むパンダ獣人のトリーアさんが秘密基地へ住み始めた。
一応、両親の許可は得るべきだとあの日はしばらく秘密基地でくつろいだ後、屋敷へ連れて行き母さんに話を通した。
「あら珍しいシュウマーなんていつぶりに見たかしら」
「ご存知なのですね。お……私はトリーアと申します。ご子息の手がけた住処をお借りしたいと思いここへ参りました」
「あそこは使うのウルカちゃん?」
「ううん、今のところすぐ使う予定はないよ」
「なら、ウルカちゃんの言うことをしっかり聞くなら構いません」
「ありがとうございます!」
という感じでOKをもらえた彼は嬉しそうだった。
ちなみに母さんがヴァンパイアロードであること、僕がハーフであることを伝えると冷や汗をかいて見比べていた。田舎に住んでいるのに存在は知られているんだなと思う。
というわけで新しい住人が増えたわけだけど、基本的にあまり変わり映えはしない毎日である。
【よーし、休憩だ! 風の魔法は一通り問題なく使えるな】
「お、今日もやってるな。……あ、どうも」
【こんにちはでござる】
「パンダさんこんちはー!」
「おう、アニーは今日も元気だな」
2、3日もすればそれなりに慣れて池で訓練をする際に挨拶を交わすくらいはするようになった。結局アニーはパンダという単語を覚えたままそう呼んでしまう。
僕が言うのもなんだけど四歳ならそんなものかもしれない。
謝罪するとトリーアさんは諦めたようで笑いながら『仕方ないなあ』と言ってくれた。できた獣人さんだ。
「あれ、今日はどこかへいくの?」
「町に依頼を受けにいくんだよ。食料も買わないといけないしな」
「いってらしゃーい」
という感じである。
秘密基地内も寒さ対策として暖炉を作ったけど、その他に毛布やカーペットを設置し、僕の知識から『こたつ』と『座椅子』を作ってみた。
トリーアさんの身体に合わせて大きめのものだけど、魔力を通して熱を発する魔石を利用したこれは、
「ぬくい……」
寒さに弱いステラに大人気だった。
訓練には参加するけど、やはり寒いと集中力が持たないらしく休憩はすぐに秘密基地へ潜り込んでこたつむりと化すのだ。
逆にアニーはこたつに入っていると暑いらしく半そでかぼちゃぱんつ状態でのみ潜り込む。
「にゃー……」
タイガがこたつで丸くなるので仕方ないと言った感じ。
「わふ……」
「シルヴァ、お前もか」
「こ……こけ……」
ジェニファーもこたつテーブルの上でうとうとするくらいには暖かいらしい。やはり冬はこれだろう。
【外は風が強いな、今日の訓練はおしまいにしよう】
【で、ござるな。フォルド、もう少し端へ……】
「師匠は骨だから入らなくてもいいだろ」
【雰囲気でござるよ。全然見たことも聞いたこともないのにこれは故郷を思い起こさせる道具……。お茶はないでござるか?】
「水浸しになるからあげないよ」
がっくりと項垂れるオオグレさんはさておき、僕もこたつへ足を入れる。普通のこたつより大きく作ってあるので余裕で入れる。
ステラが寝そべって一つ占拠していて、アニーとタイガが、フォルドとオオグレさん、そして僕の四か所すべてが埋まる。
「暖炉が無くてもこたつがあれば十分だよね……」
【うーん、暑さ寒さを感じないからなんか悔しい】
「ゼオラししょーこっちへ来るのー」
【へいへい】
アニーに呼ばれてふわりと飛ぶゼオラ。その瞬間、僕の足に誰かの足が当たった。
「お? 誰の足だろ? うりゃ」
「あははは!」
「アニーのか。それそれ」
「くすぐったいよぅ。あははは!」
【……】
「ホネホネしい!? オオグレさんだろ!?」
【ばれたでござる】
「いや、流石にカチカチだしわかるって……」
隣に座っていたフォルドが呆れた顔でオオグレさんを肘でつついていた。するとこたつの熱がだんだん下がってきた。
「っと、もう魔力を補充しないといけないか」
「結構すぐよね」
「熱を保たせるやり方はゼオラに教わったからできるけど、長持ちはしないんだよね」
ステラが首だけ出して僕に尋ねてくる。それに対してゼオラが難しい顔で腕組みをしながら口を開いた。
【魔石の質と属性も大事だからなあ。ファイアリザードとかサラマンダーみたいなやつを倒して手に入れられればって感じなんだけどな】
「それは強いの?」
「倒す気だ……!」
ステラがむくりと起き上がり不敵に笑うと、フォルドが目を丸くして驚いていた。
こたつの為にやりそうな雰囲気なので僕も苦笑する。
【サラマンダーは火山に行かねば難しいでござるな。ファイアリザードもこの時期はダンジョンに引きこもっているはず】
【ま、サラマンダーはいわずもがなで強敵だし、ファイアリザードでも子供だけでは行かせられないけどな】
「残念……」
「あ、アニーも!」
ステラがそれだけ言うとサッとこたつへ潜り込んで姿を消す。魔石を手に入れて自宅にも作ってほしかったと真似して潜り込んだアニーへ話していた。
「兄ちゃん達ならどうなの?」
【ああ、ファイアリザードなら問題ないな】
サラマンダーは普通に兄ちゃんズでも無理なんだと今のセリフで分かる。まあ火山なんて危険なところへ行くわけにもいかないしこたつはこの微妙な性能のままでいこう……
「おーい、みんなここに居るのかい?」
「あれ? 父さん?」
今日の訓練は終わりだしトリーアさんが帰ってくるまでまったりするかと思った矢先、そこへ父さんがやってくる。
「ああ、やっぱりここ……ってなんだいこれは? またウルカが作ったのか?」
「うん。こたつって言うんだ。入る? 靴をそこで脱いでからになるけど」
「おじさんこんちはー!」
「うわ、びっくりした!? アニーちゃんか。ありゃ、ステラちゃんも?」
「こんにちは」
父さんを招き入れたので二人が僕のところへ来て、タイガが父さんのところから顔をにゅっと出した。
「それで父さん、どうしたの?」
「ウルカに魔石を頼まれていたろう? 仕入れられそうだからいくつ欲しいか聞きに来たんだよ」
「あ、本当? ありがとう父さん。その中にサラマンダーとかファイアリザードの魔石がある?」
「うーん、個体別かあ……。商会に来てもらった方がいいかもしれんな。まだ昼だし、ご飯を食べたら行くか」
訓練も無いし特に問題ないことを伝えると僕達は一度屋敷へと戻る。トリーアさんはまだ帰ってこないので合鍵で扉を閉めておこう。
いい魔石はゼオラがわかるし面白いのが手に入るといいな。
10
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