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第八十九話 話が広がっていくというもの

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と、いうわけで僕達はお昼のパスタをサッと平らげて父さんのお店へと向かうことになった。

【せっかくだし全属性の魔石とか買えねえかな】
「あれば買ってもいいけど、水とか使い道があんまり思い浮かばないかな」
「ござるはー?」
「オオグレさんはお留守番よ、骸骨はやっぱり怖いからね」

 タイガを膝の上に乗せてもふっているアニーにステラが返答する。オオグレさんはもう少しで母さんのシャドウゲイトを習得できそうな感じらしい。僕達の訓練に付き合っているからそっちがおろそかになっているのだとか。
 まあ町に出られないくらいだから今はいいと本人は笑っているし、母さんも急ぎで覚える必要はないと自由にやっている。

「最初はあんなに怖がっていたのになあ」
「ござるはいいホネだもん!」
「ああ、人として認識はしてないんだなやっぱり」

 父さんが苦笑しながら骨扱いされたオオグレさんを思い描いていた。そんな話をしながらお店へ到着。そこに見慣れた大きな体が目に入る。

「パンダさん!」
「トリーアさん、買い物ですか?」
「おお、ウルカ様にロドリオ様じゃないですか。ちょっと雑貨を買いに。フライパンに穴が開いてしまいましてね」

 店に居たのはトリーアさんでどこにいても目立つ体躯だからすぐわかった。どうやら生活道具を買いに来たらしい。

「依頼は?」
「今日は一人で出来そうなのが無かったから諦めてきたよ。寒くなると魔物も動きが鈍くなるから狩りはあんまりなかった」
「この辺は平和だから仕方ない。少し前にゴブリン騒動があったのが珍しいくらいだからな」
「あれはびびったぜ……」

 フォルドが例の騒動を思い出して複雑な表情を見せていた。そこで店員のエラさんが口を開く。

「そういえば少し北に行ったところに洞窟があるんですけど、そこにファイアリザードがたくさんいるって話ですよ」
「へえ、さっきちょうど魔石の話をしてた時にファイアリザードの魔石が欲しいって言っていたばっかりなんだよね」

 びっくりするくらい都合がいい話が舞い込んできたけど、寒さに弱いファイアリザードが洞窟やダンジョンに潜り込むのは珍しいことではないらしい。
 たまたまファイアリザードが多く目撃されたというだけみたいだ。

「ファイアリザードの魔石をどうするんだい?」
「あのこたつに使うんだ。ファイアリザードの魔石の方がいいらしいから」
「へえ。あれは凄く助かっているから面白そうだな……」
「あれはこたつというのか……売れるかな……」

 トリーアさんはステラと一緒で寒さに弱いらしくこたつで寝てしまうこともあるらしい。魔力が切れて熱がなくなったら目を覚ましてしまうとのこと。風邪を引きそうだ。
 父さんはすでに販売方法を考えている様子……。まあ作れるならまたザトゥさんに骨格を作ってもらうけど。
 
「ファイアリザードかあ、あいつのブレスは毛につくと燃え広がるから苦手なんだよなあ。あ、これとこれをください」
「ありがとうございます!」
「それじゃ俺は戻るよ」
「うん、またね」

 こたつのことを考えているとトリーアさんがフライパンとフォークを買って店を後にし僕達は手を振って彼と別れる。

「むう、もう一回こたつを見てみないと……」
「父さん、魔石! 魔石を見せてよ」
「お、ああ。エラ、仕入れたやつを持ってきてくれないか?」
「かしこまりました!」

 そして持ってきてもらった魔石をゼオラが物色を始める。

「うわ、勝手に浮いた……!?」
「僕に憑いている幽霊が持ち上げたんだよ。どう、ゼオラ?」
【うーん、質がちょっと微妙だな。悪くないのもあるけど。これとこれはこたつに使えるか】
「あんまり質が良くないかもって」
「なるほど。まあ大量仕入れだとそういうのもあるからなあ。一級品を手に入れるなら自分で狩るか、冒険者がギルドに売りに出したものを買うしかないな」

 しかしギルドで買い取ったものは市場に出るより武器や防具の素材にされることが多いとのこと。それに魔石を保有する魔物は概ね強力なため高額でもある。
 ちなみにゴブリンは弱い部類になるので魔石は保有していない。

「こたつに使えそうなものだけ買うよ」
【親父さんには申し訳ないと謝っておいてくれ。結構高かったろうしな】
「だって」
「ははは、ウルカが欲しいと言っていたしこれくらいはね。それに他でも売ることはできるから気にしないでくれ」
「それならいいけど……はい、これで足りる?」

 父さんがそう言って笑っていた。息子とはいえお金はきちんと払うのだ。エラさんがきちんとしているわねと褒めてくれた。

 外に出ると風と雪が強くなってきたので今日のところはみんなを送っていこうと馬車を進ませていく。

「ばいばーい!」
「また行くぜー」
「うん、あんまり寒いときは止めといてよ?」

 後はステラだけだとギルドに足を運ぶ。

「ただいま」
「お、ステラちゃんか。パパは会議中だよ」
「大丈夫。それじゃあウルカ君、またね」
「うん。相変わらずリンダさんは居ないんだね」

 僕が周囲を気にしながらそう口にすると受付のお兄さんが両手をやれやれとしながら言う。

「あの人は忙しいからね。今も東の方で雪虎の討伐に出ているし。帰ってくるのは二日後かな?」
「ママは過労死しないか心配」
「いつもいないもんね……」
「それじゃ家へ帰るとしよう。こたつについてもう少し話を――」

 父さんが僕の頭に手を置いてからやっぱりこたつを売り出そうとするようなことを言い出す。僕はザトゥさんが心配になるな。

「うーん、冒険者に討伐依頼を出しておこうか。遠い地域だけど無茶な繁殖をされても困るしね」
「依頼書を作成しましょう」
「よろしく頼むよ」

 そう踵を返したところでクライトさんの声が聞こえてきた。

「パパ」
「ん? おお、ステラちゃんおかえりー! やあ、ロドリス様とウルカ君も」
「こんにちは。なにかお困りごとで?」

 ステラを抱っこし、父さんと僕に気が付いたクライトさんと挨拶を交わす。先ほどの会話が聞こえていた父さんが尋ねると、

「ああ、北の洞窟に魔物が集まっているらしいんだけど少し駆除しておかないといけない状況かもって話ですよ」
「それってファイアリザード?」
「お、よく知っているね。ただ、それだけじゃないから困るんだ。忙しくなりそうだよ」

 どうやらファイアリザードの討伐依頼が出るらしい。そのままステラを連れてギルドマスターの部屋へと戻っていく。

「またねーステラ!」
【せっかくだし一つくらい欲しいな】
「ファイアリザードを討伐か、資金を出せば受けてくれる冒険者も居るだろうから安心だな」
「誰かに頼んで一個くらい売ってもらえないかな?」

 自分で行くのは無理でも買うのはできるからね。後ろ髪を引かれつつ、僕達はギルドを後にするのだった。
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