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第九十二話 これは、いいものだというもの
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「ふう、ふう……」
「こう積雪があると行軍も大変だな。例の洞窟はまだ先か?」
「後、数時間ってところだ。馬は寒さに強いから助かるぜ。獣人の兄ちゃんはあったかそうだけどな」
「はは、俺は寒がりでね。毛皮は触った人の方が暖かいみたいだ」
総勢二十名の討伐隊が雪の中、行軍していた。積雪は2㎝程度で馬もそれほど労せず進んでいく。
その中で一人だけ獣人のトリーアの毛皮を羨ましいと口にする冒険者に笑いながら返す。
そういえばこたつに入っている時にアニーちゃんがよく膝に乗ってきたなと思っての返答だ。
そんな彼に近づいて防具の隙間から見えている毛皮をもふる冒険者達。
さて、トリーアはそんな彼らと共にファイアリザードを含む魔物の討伐のため依頼を受けてここに居る。
約束通りウルカにファイアリザードの魔石を取ってくるためと生活費のためである。
「そういやウルカ様の世話になっているんだってな。貴族なのに気さくな一家だから戸惑うだろ?」
「ああ……やっぱりそうなのか?」
「そうね。双子の息子さんも学校で偉そうにするわけでもないし、下の子は賢すぎてヴァンパイアハーフなんだけど町のために色々やってくれるわ」
「ロドリス様は自分で店をやってるしなあ……」
「クラウディア様もリンダさんといいコンビで周辺の国を抑止してくれているんだぜ?」
「そ、そうか」
世界でもトップクラスの戦力が常駐している町なので戦争など起こそうものなら余裕で返り討ちに遭うのが目に見えているとトリーアは身体を震わせる。
ヴァンパイアロード・クラウディアは魔族の中でもトップクラス。その美貌を手に入れようと迫ったどこかの王はアンデッド軍団に攻められてボロボロになったとか。
他にも村ひとつを全員眷属に変えた、などという噂もあったくらいだ。
そして対にとも言える冒険者リンダは規格外の戦闘力を持つ。狂暴・凶悪と呼ばれるブラックドラゴンを剣一本で倒したとか、言い寄ってきた王の国の騎士を半壊させるというような話もある。
「……両方とも男関連で国を破壊しかけたんだよな……旦那はどうやって射止めたんだ?」
「ロドリス様もクライトさんも別に強かったりしねえからなあ。いや、クライトさんはギルドマスターにふさわしい実力はあるんだぜ? でもリンダさんと比べたらなあ」
「案外、守りたくなる男が良かったんじゃないかな?」
女性冒険者が口にした言葉で男達が顔を見合わせて肩を竦めていた。そんな軽口を叩けるこの町の冒険者はいい奴らが多いなとトリーアが笑う。
そんな話をしながらさらに行軍し、目的地である洞窟へと到着。それぞれの馬を近くの木に手綱を繋ぎ、荷台に乗っていた冒険者も降りて背伸びをする。
「それじゃここの守りはお前達で頼むよ」
「ああ。気をつけてな」
そこで五人が馬や荷物を監視するため残ることになり、トリーアを含む十五人が中へ行くことに。そこでトリーアが『あ』と犬歯がたくさんある口を開いてから肩から下げている鞄に手を入れる。
「これをウルカ様から預かってたんだっけな」
「お、なんだそりゃ? 手袋じゃないか」
「これはトリーアさん用っぽいわね、大きいし。……形が肉球……可愛い……」
「でも他のは普通に指のやつだな」
トリーアが出したのは毛糸の手袋でウルカから預かったものだ。折角だからと一緒に行く冒険者の分もいくつか作り、トリーアに渡していた。
「全員分は無いみたいだな。ウルカ様のことだ、なんか仕込まれているんだろ?」
「らしい。指の第一関節と第二間接部分、裏表に弱い火魔石を板状にして織り込んでいると言っていたな。全員分無くて申し訳ないともね」
「私つけるー! あ、これ凄い……!? ほんのり温かいから指がかじかむことは無いよ。剣士がつけた方がいいかも」
女性冒険者(魔法使い)がそう言うと一度外すと、男達(剣士)は頷いて装備する人間を決める話し合いを始めた。
女性がつけた手袋を争奪するという、一瞬、揉める場面があったものの順調に取り決めがされ、大剣使いを優先に、斧、剣と軽い武器の人間が装備する。
「……指が動かしやすいのに温かい……」
「すげえな……これ、売ってもらえないかなあ」
「これをあっさり預けるウルカ様……心配だぞ」
「確かに」
「信用されていると思うことにするよ……」
かなり便利な品物なので場所によっては高く売れる。トリーアが持ち逃げするという可能性もゼロではないと、トリーア自身を含めて『心配だ』と口にする。
そんな思いをしながら冒険者が洞窟内へアタックをかけ、少し奥へ行ったところで魔物達に遭遇する。
「おいでなすったな。俺が盾になるから皆さんは遊撃を頼む」
「オッケーだ。無理するなよ」
トリーアが獣人用ヘルムのバイザーを下げて大盾を前に構えるトリーアに倣い他の冒険者も武器を構えて備える。
「ギシャァァァ!」
「行くぞ!」
まずはこちらに気づいて向かってきたクレイグシックルと呼ばれるオオカマキリ二匹を相手取るトリーア。
「ふん……!」
先行してきた一匹が右の鎌を振り下ろし、それを盾でガード。そこへ別の冒険者が脇から出てきてその鎌を切り上げて落とす。
「そら!」
「ギィシャァァァァ!?」
「ギギ……!」
「お前の相手はこっちだぜ! 『氷結の刺突よ敵を貫け』<アイスニードル>!」
追ってきたカマキリに氷魔法を撃ちこんで絶命させ、右鎌を失った方も程なくして頭を割られて倒れる。
「このままの陣形で行こう!」
トリーア達は突き進み、岩さえ砕く強靭な顎を持つガリーアント、大ムカデのジャイアントピードといった昆虫系の魔物が多く、それを各々の弱点を狙い倒していく。
そんな中、今回の目当てを発見。
「居たぞ、ファイアリザードだ!」
「って、ええ? ちょっと多くない!?」
「だから討伐隊が組まれたんだっての。うおっと!?」
その瞬間、ファイアリザードの群れからブレスを吐きかけられ冒険者達が驚く。盾を前にしたトリーアがブレスを受けながらシールドチャージを行いながら口を開く。
「魔法を!」
「わかったわ! 『起これ氷の嵐よ』<ブリザード>!」
「シュウウ……!」
女性冒険者の魔法で手足に霜が付き動きが鈍くなる。『凍らせるまでにはならないか』とぼやく中『上等だ!』と斧と大剣を持った冒険者が、盾でブレスを抑えているトリーアの両脇から飛び出し首を落とす。
「ナイス!」
「油断するな! 上だ!」
「くっ!?」
壁に張り付いていたリザードがスッと、トリーアの右横へ移動してきて口をカパッと開く。ブレスの態勢だと気づいたが盾は間に合わない。
別の冒険者が斬りつけるが素早く移動し的を絞らせてくれなかった。
「来る……!」
「ボォアアアア!」
放たれたブレス。
トリーアは咄嗟に剣を捨てて手をかざした。火傷はするだろうが顔への致命傷は避けられるとの判断。
しかし――
「え」
「マジか」
「おおお……!?」
手袋は燃えることなくブレスを受け止めていた。
「だ、大丈夫か!?」
「あ、熱くない! ……なら!」
「グギャ!?」
トリーアはそのまま壁に張り付いていたリザードの口へ拳を突っ込みブレスを止める。動きも封じることができたため、近くにいた男が胴体を切り裂き、リザードは絶命する。
「無効化したのか……?」
「わ、分からん。けど、これ盾が無くても防御できるぞ……」
「またすげえもの作ったなウルカ様……」
冒険者達は冷や汗をかきながら呆れる言葉を放つ。そのまま洞窟を突き進み――
「こう積雪があると行軍も大変だな。例の洞窟はまだ先か?」
「後、数時間ってところだ。馬は寒さに強いから助かるぜ。獣人の兄ちゃんはあったかそうだけどな」
「はは、俺は寒がりでね。毛皮は触った人の方が暖かいみたいだ」
総勢二十名の討伐隊が雪の中、行軍していた。積雪は2㎝程度で馬もそれほど労せず進んでいく。
その中で一人だけ獣人のトリーアの毛皮を羨ましいと口にする冒険者に笑いながら返す。
そういえばこたつに入っている時にアニーちゃんがよく膝に乗ってきたなと思っての返答だ。
そんな彼に近づいて防具の隙間から見えている毛皮をもふる冒険者達。
さて、トリーアはそんな彼らと共にファイアリザードを含む魔物の討伐のため依頼を受けてここに居る。
約束通りウルカにファイアリザードの魔石を取ってくるためと生活費のためである。
「そういやウルカ様の世話になっているんだってな。貴族なのに気さくな一家だから戸惑うだろ?」
「ああ……やっぱりそうなのか?」
「そうね。双子の息子さんも学校で偉そうにするわけでもないし、下の子は賢すぎてヴァンパイアハーフなんだけど町のために色々やってくれるわ」
「ロドリス様は自分で店をやってるしなあ……」
「クラウディア様もリンダさんといいコンビで周辺の国を抑止してくれているんだぜ?」
「そ、そうか」
世界でもトップクラスの戦力が常駐している町なので戦争など起こそうものなら余裕で返り討ちに遭うのが目に見えているとトリーアは身体を震わせる。
ヴァンパイアロード・クラウディアは魔族の中でもトップクラス。その美貌を手に入れようと迫ったどこかの王はアンデッド軍団に攻められてボロボロになったとか。
他にも村ひとつを全員眷属に変えた、などという噂もあったくらいだ。
そして対にとも言える冒険者リンダは規格外の戦闘力を持つ。狂暴・凶悪と呼ばれるブラックドラゴンを剣一本で倒したとか、言い寄ってきた王の国の騎士を半壊させるというような話もある。
「……両方とも男関連で国を破壊しかけたんだよな……旦那はどうやって射止めたんだ?」
「ロドリス様もクライトさんも別に強かったりしねえからなあ。いや、クライトさんはギルドマスターにふさわしい実力はあるんだぜ? でもリンダさんと比べたらなあ」
「案外、守りたくなる男が良かったんじゃないかな?」
女性冒険者が口にした言葉で男達が顔を見合わせて肩を竦めていた。そんな軽口を叩けるこの町の冒険者はいい奴らが多いなとトリーアが笑う。
そんな話をしながらさらに行軍し、目的地である洞窟へと到着。それぞれの馬を近くの木に手綱を繋ぎ、荷台に乗っていた冒険者も降りて背伸びをする。
「それじゃここの守りはお前達で頼むよ」
「ああ。気をつけてな」
そこで五人が馬や荷物を監視するため残ることになり、トリーアを含む十五人が中へ行くことに。そこでトリーアが『あ』と犬歯がたくさんある口を開いてから肩から下げている鞄に手を入れる。
「これをウルカ様から預かってたんだっけな」
「お、なんだそりゃ? 手袋じゃないか」
「これはトリーアさん用っぽいわね、大きいし。……形が肉球……可愛い……」
「でも他のは普通に指のやつだな」
トリーアが出したのは毛糸の手袋でウルカから預かったものだ。折角だからと一緒に行く冒険者の分もいくつか作り、トリーアに渡していた。
「全員分は無いみたいだな。ウルカ様のことだ、なんか仕込まれているんだろ?」
「らしい。指の第一関節と第二間接部分、裏表に弱い火魔石を板状にして織り込んでいると言っていたな。全員分無くて申し訳ないともね」
「私つけるー! あ、これ凄い……!? ほんのり温かいから指がかじかむことは無いよ。剣士がつけた方がいいかも」
女性冒険者(魔法使い)がそう言うと一度外すと、男達(剣士)は頷いて装備する人間を決める話し合いを始めた。
女性がつけた手袋を争奪するという、一瞬、揉める場面があったものの順調に取り決めがされ、大剣使いを優先に、斧、剣と軽い武器の人間が装備する。
「……指が動かしやすいのに温かい……」
「すげえな……これ、売ってもらえないかなあ」
「これをあっさり預けるウルカ様……心配だぞ」
「確かに」
「信用されていると思うことにするよ……」
かなり便利な品物なので場所によっては高く売れる。トリーアが持ち逃げするという可能性もゼロではないと、トリーア自身を含めて『心配だ』と口にする。
そんな思いをしながら冒険者が洞窟内へアタックをかけ、少し奥へ行ったところで魔物達に遭遇する。
「おいでなすったな。俺が盾になるから皆さんは遊撃を頼む」
「オッケーだ。無理するなよ」
トリーアが獣人用ヘルムのバイザーを下げて大盾を前に構えるトリーアに倣い他の冒険者も武器を構えて備える。
「ギシャァァァ!」
「行くぞ!」
まずはこちらに気づいて向かってきたクレイグシックルと呼ばれるオオカマキリ二匹を相手取るトリーア。
「ふん……!」
先行してきた一匹が右の鎌を振り下ろし、それを盾でガード。そこへ別の冒険者が脇から出てきてその鎌を切り上げて落とす。
「そら!」
「ギィシャァァァァ!?」
「ギギ……!」
「お前の相手はこっちだぜ! 『氷結の刺突よ敵を貫け』<アイスニードル>!」
追ってきたカマキリに氷魔法を撃ちこんで絶命させ、右鎌を失った方も程なくして頭を割られて倒れる。
「このままの陣形で行こう!」
トリーア達は突き進み、岩さえ砕く強靭な顎を持つガリーアント、大ムカデのジャイアントピードといった昆虫系の魔物が多く、それを各々の弱点を狙い倒していく。
そんな中、今回の目当てを発見。
「居たぞ、ファイアリザードだ!」
「って、ええ? ちょっと多くない!?」
「だから討伐隊が組まれたんだっての。うおっと!?」
その瞬間、ファイアリザードの群れからブレスを吐きかけられ冒険者達が驚く。盾を前にしたトリーアがブレスを受けながらシールドチャージを行いながら口を開く。
「魔法を!」
「わかったわ! 『起これ氷の嵐よ』<ブリザード>!」
「シュウウ……!」
女性冒険者の魔法で手足に霜が付き動きが鈍くなる。『凍らせるまでにはならないか』とぼやく中『上等だ!』と斧と大剣を持った冒険者が、盾でブレスを抑えているトリーアの両脇から飛び出し首を落とす。
「ナイス!」
「油断するな! 上だ!」
「くっ!?」
壁に張り付いていたリザードがスッと、トリーアの右横へ移動してきて口をカパッと開く。ブレスの態勢だと気づいたが盾は間に合わない。
別の冒険者が斬りつけるが素早く移動し的を絞らせてくれなかった。
「来る……!」
「ボォアアアア!」
放たれたブレス。
トリーアは咄嗟に剣を捨てて手をかざした。火傷はするだろうが顔への致命傷は避けられるとの判断。
しかし――
「え」
「マジか」
「おおお……!?」
手袋は燃えることなくブレスを受け止めていた。
「だ、大丈夫か!?」
「あ、熱くない! ……なら!」
「グギャ!?」
トリーアはそのまま壁に張り付いていたリザードの口へ拳を突っ込みブレスを止める。動きも封じることができたため、近くにいた男が胴体を切り裂き、リザードは絶命する。
「無効化したのか……?」
「わ、分からん。けど、これ盾が無くても防御できるぞ……」
「またすげえもの作ったなウルカ様……」
冒険者達は冷や汗をかきながら呆れる言葉を放つ。そのまま洞窟を突き進み――
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