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第二百十四話 ひとまず安心というもの

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「あははは! 速いよハリヤー!」
「うぉふ♪」
「お前も逞しくなったよなあ」
「こっけー」
「鳴き声は変わらないのね?」

 ――翌朝。

 朝食を食べた後、庭に出てから改めてハリヤーとジェニファーの無事を確認した。
 そのままアニーがハリヤーに乗って領地内を駆けまわっていた。ちなみに本気で速く、割とはずれにある球場まで行って帰ってくるのに一分かからないのだ。
 シルヴァでも三分はかかるのでその速さは折り紙付きというやつだ。
 特に競い合っているわけではないので、シルヴァもフォルテも元気なハリヤーが見れて嬉しいといったところである。

 そしてジェニファー達だけど、見た目も鳴き声も変わっていない。けど、戦闘力は格段に上がっており、羽を動かすことでゆっくりだけど飛ぶことができるようになった。
 さらに、息を吸って大きく吐くと炎を出せるのでフェニックスと言われれば納得できる。

【ほおう、我の全盛期を思い出すな】
「こけっこー♪」

 フレイムドラゴンだったボルカノがジェニファー達と雄鶏を見て感心していた。あまり強くない魔物であれば一撃で灰にしそうだとか。

「ぴーよぴーよ」
「ぴ」
「ぴぴい」
「ヒヨコちゃんはまだ普通のヒヨコみたいですね」

 三羽を手に取り、バスレさんが微笑む。かなり懐いているのでかなり可愛い。
 
「そうなるとハリソン達が先に死んじゃうのは悲しいかもしれないなあ」
「それが生き物というやつだものね。ヴァンパイアロードの私も、ウルカちゃんもパパやお兄ちゃん達より後になるのは間違いないの。だから、その時が来た時の覚悟はしているわ」
「母さん……」

 少し寂しい顔で微笑む母さん。ずっと、それこそ父さんと出会うまで孤独だった母さんが恐らく一番寂しいのかもしれない。
 だから僕という似た存在が産まれたことを凄く喜んでくれたのだろう。

「こっけー!」
「お?」
「おや?」

 ジェニファーが声をあげると、雄鶏とひよこ達が集まっていく。そしてなにやら話をしたと思った瞬間、列を成して歩き出した。

「危ないよジェニファー?」
「こけ♪」
「大丈夫、ってことか……? オレ、ついていくよ」

 多分、無事を伝えるため牧場へ行ったのだろう。昨日の今日なのでフォルドが慌てて追っていく。
 そこですれ違ったセカーチさんと冒険者さん。それとラースさんにベルナさんがやってきた。

「元気じゃのう」
「おはようセカーチさん! 女神像のおかげでハリヤー達が助かったよ」
「なんのことかわからんが、それは良かったわい」
「みんな集まっている、ということは出発ですか?」
「そうなのよ。名残惜しいけど、お仕事が終わったし帰らないとね」

 バスレさんが尋ねるとサーラさんが少し寂しく笑いながらそう言う。一応、予定日は明日までだったけど今日にしたようだ。

「あまり長居すると帰りたくなくなってしまうからな。……また来る。ウルカ達も王都に来たらワシを尋ねてきてくれ」
「うん。本当にありがとう! あ、報酬を払わないと」
「ふん、ワシが子供から金を取るかよ。こやつからもらっておくわ」
「ははは、王都に戻ったら俺も転移するからその時にね」

 ラースさんが笑いながら答えると、セカーチさんがフッと笑い帽子の位置を直す。
 そこへハリヤー達と一緒にアニーが戻って来た。

「じいちゃんとばあば、どうしたのー?」
「アニーちゃん、私達おうちに帰るのよ。ありがとうね」
「え?」
「アニー、それとお前達もありがとう。楽しかったぞ」
「じいちゃん達行っちゃうのー……」

 アニーが物凄く悲しそうな顔になった。するとサーラさんがにこやかに微笑みながらハリヤーに乗ったアニーへ手を伸ばす。

「ふふ、また遊びに来ますからね。アニーちゃんも向こうへ帰るのでしょ? ウルカちゃんにまた会いに来ましょうねえ」
「うんー……!」
「泣かなかった。えらい」
【……】

 アニーは笑顔でサーラさんの手を握って頷いた。僕も泣くかもと思っていたからステラが拍手するのは分かる気がする。

「ゼオラ?」
【ん? ああ、アニーは偉いな。あいつは特に成長している気がするぜ】
「そうだね」

 なんか神妙な顔をしていたけど、僕のことかな? でも違うところを見ていたような気もする。

「ウルカの母として改めてお礼を申し上げますわ。私に変わり見守っていただきありがとうございました」
「次はお母様とももっと話したいわね」
「うむ。あなたの息子さんは立派じゃぞ」

 二人の言葉を聞いて微笑む母さん。こういう時はきちんとしているよなあと感心する。

「ではまた会おう!」
「また来てくれよ爺さん!」
「待ってますよ、冒険者の皆さんも」
 
 いつの間にかグラフさんや騎士さん達もセカーチさん達の見送りに来た。長いこと滞在していたから気の合う仲間みたいな感じになっていた。
 セカーチさんとサーラさんの二人は馬車に乗り込みながら手を上げていた。

「ウルカ様、俺達も楽しかったぜ。騎士殿達もありがとう、最後は引き分けだったのが惜しいがな」
「また来てやろうよ! もっとチームを増やしてリーグ戦ってやつをやりたいと思ってるし。賞品とか用意してさ」
「お、それは楽しそうだ。待ってるよ」
「ああ、くそ! 練習してえな! 王都でもやってくれよ? ラース様ならできるだろ。それじゃあな!」
「「「またな!!」」」

 冒険者さんと握手をすると騎士さん達が笑顔で見送り、来た時と同じように去って行った。
 少しは残りそうな感じだったんだけど、準備が必要だと今回は見送るそうである。

「また来てくれるかなー?」
「来るだろ。みんな野球が好きだったみたいだしな! オレももっと見たかったからなあ」
「そうね」

 フォルド達もそんなことを言う。ふむ、争いではなく競うという意味ではやはりスポーツはアリかな?

 そんなことを考えながら見えなくなるまで見送るのだった。
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