68 / 377
第五部:終わりの始まり
その90 本質
しおりを挟む午後からの訓練は比較的軽く、魔力を極限まで使い切って少し回復したらまた枯渇させると言うものであった。魔力の総量を上げたいならこれが一番だと、マジックアローのみでフォルサと戦いを繰り広げていた。
「は、はあ……! あ、当たらない!?」
「狙いが甘いわね! これで私が攻撃していたら君はもう二十回は死んでるわね♪」
フレーレも狙いが悪いわけではない。単純にフォルサが早すぎるのだ。
「そろそろ限界ね、今日はこれくらいにしましょう。さ、明日と明後日でどう仕上がるか楽しみだね。聖魔光は使えるようになって欲しいけど……」
そう言いつつ、校舎へと戻って行くフォルサ。
「あ、ありがとうございました……」
フレーレは膝をついて息を整える。
確かに魔力はあがるだろう、でもこれでトラウマが克服できるとは思えなかった。そんなフレーレの顔は複雑である。
<(ぴー。大丈夫? こんなことしてたら死んじゃうわよ……)>
「これくらいはまだ大丈夫ですよ。明日からが怖い所ですね……」
そして翌日、フレーレの予感は見事に的中する。
「今日はドラゴンゾンビを倒しに行きましょう」
ピクニックにでも行くかのようなノリで軽く言うフォルサ。ドラゴンと言えば最近ファウダーと戦ったことが記憶に新しいが、フレーレは直接戦闘をしていない。
「またそんな無茶を……というかこの辺りに居るんですか?」
「ええ、いつの間にか裏山の洞窟に棲みついていてね。この辺は学院があるから人があまり来ないけど、いつ暴れてもおかしくないからこの機会に倒しておこうと思って。君の訓練にはちょうどいいかと思って」
「は、はい……」
二人で裏山を歩いていくと、段々空気が淀んできているのが感じられた。
フレーレは授業で習った事があり、恐らくドラゴンゾンビの瘴気だろうと思いながら進む。
ジャンナは伊達に不死鳥ではないらしく平気そうだった。
「ここですか……」
洞窟に辿り着き、中から呻き声のようなものが聞こえる。間違いなく何かがここに棲んでいるのは間違いない。
「じゃあ、一つルールを課しましょう。君はドラゴンゾンビ相手にヒール、またはシニアヒール以外は攻撃をしてはいけない。殴ったりしたら、その分私が君を殴ろう」
「え!?」
「以上だ、では先頭を頼むわよ」
「わ、わたし回復魔法は……」
「まあできなくてもいいわよ? その時は死ぬだけだし」
まさかこれがトラウマの克服法だとでもいうのか、フレーレは心臓をドキドキさせ、冷や汗をかきながら前へと進む。
「(ショック療法……?)」
そんな言葉が脳裏をよぎった頃、目標へと辿り着く。
フシュルルルルル……
巨大な体躯が横たわっており、所々の肉が腐って骨が見えている個所などもある。フレーレは一瞬「う」と口を押えて後ずさるが、フォルサがそれをさせてくれなかった。
「さ、それじゃ行ってみようー♪」
「は、はひ!」
慌てて噛んだが、事態はそれどころではない。
フシュルルルル……
「アンデッドに回復魔法は通用すると聞いたことはありますが……<ヒー……>」
魔法を唱えようとしたところで、ドラゴンの寝息がピタッと止まり、その目を見開く!
ゾンビになったとは言えドラゴン。気配を感じて寝たふりをして近づいてくるのを待っていたのだ!
「ガアアアアア!」
「え!? 起きて……! きゃあ!」
間一髪でドラゴンの噛みつきを回避し、フレーレは地面に転がる。
「ほら、次が来るわよ! 君は油断が多いな」
「くっ! <ヒー……ッル>!」
唱えた途端頭ががガンガンする、しかし何とか唱え終える事ができ、ドラゴンは後ずさる。
「グギャアァァァァ!?」
「や、やった!」
<ぴ! まだよ!>
ジャンナが叫ぶと、ドラゴンがさらに攻撃を仕掛けてくるところだった! しかしヒールの効果はあったようでじゅうじゅうと肉が溶けて行く音が聞こえていた。
「う、ぐ……! <シ、シニア……ヒール>!」
「ギャアアム! グギャアア!」
一瞬怯んだが、今はもうない双眸がフレーレを見た気がした。そして怯みながらも攻撃を仕掛けてくる!
「痛っ!」
「どうした、自分にかけてみたらどうだ?」
フォルサはフレーレにヒールかけろと言うが、口をつぐんだままフレーレは答えを返せなかった。
涙は出っ放し、目は血走っておりそれほど戦闘していないがすでに満身創痍の様相に見える。
「!?」
隙を見逃さずドラゴンはフレーレに噛みつこうとするが、それをメイスで鼻先を殴り追い返す。
「殴ったね? ルールはルールだ」
「うあ!?」
フォルサはフレーレの後ろへ回りこみ、背中へ拳を叩きつける。
<フレーレ!?>
「ん? 喋る鳥とは珍しいわね? とりあえずそれは後ね。さあ、どうするのかしら?」
フレーレは咳き込みながら考える。
「(回復魔法は使える……そしてドラゴンゾンビには効く……だったら……!)」
「ギャ?」
フレーレがダッシュしてドラゴンの懐へ潜りこむ! それを許すまいと爪で引っ掻いて来た!
ザシュ!!
「っ……! <シニアヒール>!!」
肩をかすめるが、致命傷ではない。フレーレはそのままドラゴンゾンビに手をかざし、回復魔法をを唱えていた!
「ギャオォォォォォン……!」
ズゥゥゥゥゥン……
全身の肉を溶かしきって、ドラゴンゾンビは骨だけになりバラバラになった。
「やった……やりましたよ学院長!」
飛び上がって喜ぶフレーレ、シニアヒールを使った後だが頭痛は無かった、しかし……。
「まあ、45点というところだな。自分に使ってみろ」
「? は、はい<ヒール> う……」
少し頭痛がしたが、何とか回復は出来た。
「で、出来ました! これなら……」
「これならなに? 死にに行くつもり?」
フォルサは呆れた様にフレーレへと言葉をかける。まあ座れとドラゴンの骨に腰掛けていた。
そしてじっと目を見て問いかける。
「……治癒の心は?」
「はい!? えっと、慈愛の心……です」
「そうだ。確かに君はドラゴンゾンビを倒した。だが、その時の心はどうだった?」
「無我夢中で何も考えていなかったと思います」
正直な言葉だった、いきなり回復魔法だけで戦えと言われて考える余地などなかったからだ。
「そう、では一度それを置きましょう。それじゃ聞くけどドラゴンゾンビに回復魔法は効く。それは君がトラウマを負ったという、回復魔法を使って傷口が広がった事と同じだとは思わない?」
「あ!」
「からくりは分からないけど、傷口を壊死させているとかそういうことかもしれないわね。でも、そこもどうでもいいの。重要なのは『回復魔法』が必ず癒すものではないということ。アンデッド相手には攻撃魔法よりも効く」
「……それが慈愛と何が?」
「アンデッドとは生前の恨みや妄執、後悔といった感情で出来上がる。それを楽にさせてやるのも慈愛だとは思わない?」
「……」
「君がトラウマを負った状況とは少し違うけどね。君は回復魔法を使った時は相手を思いやっていたはずよ? だから考え方の本質は同じだという事なのよ」
「でもわたしは回復どころか……」
フレーレは俯くが、フォルサの厳しい言葉がさらに続いた。
「自惚れちゃダメよ? 回復魔法にも限界はあるわ。アントンと言う男がかけられた、回復魔法を逆にするという悪意がそれ以外にもあるかもしれないし、そもそも魔法が効かない体質の人だってどこかに居るかもしれないわよ?」
「じゃあ……! じゃあそんな時はどうするんですか!? 回復魔法なんてあっても使えなかったら意味なんてないじゃないですか!」
フレーレは泣きながらフォルサに食ってかかる。それを見て困った顔をしながらフォルサは続ける。
「信じるのよ。自分の力は間違いない、必ず回復するんだって、自分を信じる。その勇気が大切なのよ」
「勇気……」
胸元にあるクロスを無意識に握り呟く。
「それでもダメなら仕方ないじゃない? 回復魔法使いだって万能じゃないのよって、笑い飛ばすくらいでいいのよ」
「そう、そうなんですね……あの校訓の『慈愛』は自分自身の事も含まれている、そう言う事ですね?」
「君がそう思うならそうなんじゃないかしら? さて、君の果たした成果が出たようよ」
「え?」
その時、ドラゴンゾンビから一つの光が現れた。
27
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。
秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」
私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。
「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」
愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。
「――あなたは、この家に要らないのよ」
扇子で私の頬を叩くお母様。
……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。
消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。