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第五部:終わりの始まり

その100 残した者、残された者

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 「というわけで、今はこうしてここに居るんです。満足しましたか!」

 はあはあと肩で息をしながらレイドは女性に幼少期から今までの事を全て話していた。
 何故か喋らせててしまう気迫がその女性にはあった。

 そして女性関係の食いつきが一番いいようだが、残念、この歳になるまでレイドに女性の影はまるで無かった。

 「もう28歳でしょ? 枯れてるんじゃないかしら?」

 昨日今日会った女性にそんなことを言われ、へこんでいいやら怒っていいやら複雑な思いで口をへの字に曲げていた。

 「……」

 「そのルーナちゃんとフレーレちゃんが今は一番近い女の子なのね。で、助けに行くルーナちゃんが本命と……」

 「あの、その言い方はちょっと……」

 二股をかけているみたいな感じで嫌だとレイドは言う。

 「え? 妹の事はその子が居なくても何とかなるんでしょ? でも助けに行くってことはそういうことなんじゃないの?」

 「あれ? そうなのか……いや……そうだったのか!?」

 <(しっかりするのじゃ、いいように乗せられているぞ……)>

 チェイシャに言われ、ハッとなるレイド。
 どうしてこの男はルーナ達が居ないとこうなのか、とため息をついていた。

 「ごほん……ルーナちゃんは仲間ですから……」

 「……ふーん? さて、おばさんは満足できたし、少し仕事をするわね。覗いちゃだめよ?」

 そう言って奥へと戻って行く女性。何度か聞いたが、名前ははぐらかされ教えてもらっていない。

 「はあ……何だったんだ……」

 <お主を息子だと思って接してるんじゃないのかのう。ほれ、同い年くらいじゃと言っておったろう?>

 「村長の奥さんはそんなことなかったんだけどな……」

 <村長の奥さんがいくつかは分からんが、もう感覚的には孫くらいじゃろ。父母とはまた接し方が違うんじゃろ……>

 「それはお前が嫌いな母親も同じ、か?」

 <……>

 何か思う所があるのか、チェイシャはレイドの膝から降りて部屋の隅で丸くなった。
 嘆息し、レイドは寝ているファウダーを起こしてシチューを食べるように言う。

 「起きろファウダー、飯を食い損ねるぞ」

 <んあ……おはよう……シチュー? オイラ好きなんだよね……>
 むにゃむにゃしながらファウダーもシチューを食べ始めるのを確認後、レイドは玄関のドアを開ける。

 「……確かに天候は少し回復した、か?」

 相変わらず視界は悪いが吹雪と言うほどの天候では無かった。
 それでも出歩くには不自由と感じ、仕方なくドアを閉めた。

 <まだ回復しないの?>モグモグ……

 「ああ、でも明日まで回復しなければ出発しよう。あまり時間をかける訳にはいかないしな」

 するとまた奥の部屋から例の音が聞こえてきた……。


 シャーコ……

 シャーコ……

 一瞬ビクッとなる一同。チェイシャがレイドの足元まで逃げて来ていた。

 「……仕事と言ってたな……一体何の仕事なんだ?」

 <止めておくのじゃ、世の中には知らない方がいい事もあるのじゃ……>

 ブルブルと震えるチェイシャを尻目にレイドは扉へと近づいていく。

 「……」

 トントン、とノックをするが返事は無い。

 「すいません、ちょっと聞きたい事が……」

 レイドがおもむろにドアを開けると……


 シャーコ 

 シャーコ


 先ほどの女性が一心不乱にレイドのディストラクションを研いでいたのだ!


 「あ!」

 「あ!?」

 ピタリと作業を止め、怒りながらレイドに食って掛かる。

 「ダメじゃない! 見たらダメだって言ったのに!」

 「あ、その……音が気になって……後、それは俺の剣……」

 そう言われて女性はポンと手を打ち言った。

 「ああ、そうかも。ごめんなさいね、いつもは一人だから気が付かなかったわ」

 そして再び剣を研ぎ始める女性。それを見てレイドは少し苛立たしげに言った。

 「……俺の剣を勝手に砥いでどうするつもりだ? 返してくれ」

 「まあまあ、おばさんに任せておきなさい」

 まるで聞く耳を持たない女性に言っても無駄かと、仕方なくその辺にあった椅子に腰かける。
 何故かあまり怒る気にならないのは、この人の性格のせいだろうか?
 
 レイドがそんな事を思っていると、砥ぎながら女性は自分の話を始めた。

 「……私は体が弱くてね。鍛冶生産の恩恵を貰ったけど全然活かせなくて。結婚してから流行り病にかかって村を追い出されたの。感染したらまずいだろうってね。だからこんなところで暮らしているのよ」

 「そう、なんですか……」

 「ええ、もう病気は大丈夫だから安心して……子供はその時に……よし、終わったわ。この剣……とんでもないわね……どこで手に入れたか知らないけど」

 「それは、嘆きの谷と言われている谷に出る魔物を退治する依頼を受けた時に手に入れた物ですけど……」

 「そう、これを使う時は注意して。これは人の悪意や嫉妬、憎しみを吸収して強くなる魔剣……いいえ、妖剣よ。その心を持って振るうと『飲まれちゃう』かもしれない」

 「そ、そうなんですか!? 知らなかった……」

 <(自分の使う剣くらいちゃんとしとかんかい!)>

 「(い、いや研ぎ師に出してもそんな事は一言も……。でも、変な感じはしてたからセイラの墓に封印していたんだぞ)」

 一応何かを感じ取っていたらしいレイドは魔王戦以降、使ってないと言う。
 
 「あなたは優しいから大丈夫だと思うけど、用心に越したことは無いわ。恐らくこの剣、対になるものがあるはず……」
 
 なにやらぶつぶつと言い始める女性。そして何かに気付いたように奥から一本の剣を持ってくる。

 「この剣をあげるわ、これを使いなさい。ディストラクションはカバンにしまっておくといいわ。カバンも私が剣が収納できるよう改造しておいたし」

 「これを?」

 レイドが剣を抜くと、磨き抜かれた素晴らしい刀身をした両刃の剣だった。柄の装飾も金色に輝き、装飾用としても使えるだろうと思った。
 少し振るってみるととても軽く、切れ味も申し分無さそうである。

 カバンも手に取り見ると、奥が謎の拡張をしていてディストラクションがすっぽり収まっていた。

 「こんな凄い剣貰えませんよ!? 後どうやってるんですかこのカバン!?」

 「ふふ、いいのよ。おばさんのわがままに付き合ってもらったしね! さ、他に仕事があるからあっちへ行っててね」

 「い、いやそれでも……」

 「はいはい、後から聞いてあげるから、今は仕事の邪魔をしないで、ね?」

 笑いながら諭すようにそう言って女性はレイド達を追いだした。
 
 パタン

 ドアが閉まるのを確認してからチェイシャが喋りはじめる。

 <何とも不思議な……その剣、かなり業物じゃぞ? ちょっと怪しいが……>

 <オイラはあの人好きだけどね、何かお母さんみたいで、ふあ……>

 レイド達は再び囲炉裏の前に座り、そんな話をする。

 「それもそうだが、ディストラクションが悪意を吸収する剣だったとは……あれ、俺あの人に剣の名前を言ったっけ……ふあ……ああ、まだ眠いな……」

 <ん? まだ恐らく昼前じゃぞ? ……む……わらわも眠気が……>

 <ぐー……>

 すでにファウダーは熟睡しており、続いてレイド、チェイシャが眠りについた。
 全員が寝入ったところで、女性が隣の部屋から出てくる。


 「ふふ、良く眠っているわね……気を付けて、いってらっしゃい……」

 女性は悲しそうな顔でレイドの顔を見るのだった。





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 <……きろ>


 <……おきろ……>


 「うーん……」

 <起きろー!!>


 「うわ!? チェイシャか!? ふあ……一体どうしたんだ?」

 <ど、どうもこうも無いよ! 周りを見て!>

 ファウダーが叫ぶので寝ぼけ眼で周りを見ると……


 「え!? ど、洞窟? 俺達は小屋で……」

 自分の体を見ると、いつの間にか鎧を装備しており囲炉裏など見る影も無かった。

 <時計を見てみるのじゃ……>

 チェイシャに言われて時計を見ると、遭難してから30分ほどしか経っていなかった。
 それをみてゾッとするレイド。

 「ん? この剣……」カチャ……

 だが、腰に装備された剣はあの女性がレイドに渡してくれたものだった。慌ててカバンを開けるとディストラクションも入っていた。

 「夢じゃない……? チェイシャ、ちょっと俺の頬を叩いてくれ」

 <む? こうか?>

 「ぐあ!?」

 バチン! と勢いよく叩かれたレイドは地面に転がった。
 狐につつままれたような話だが、ぶっ叩かれたレイドは夢ではないと悟った。

 <ま、まさか、幽霊……>

 <そ、そんな訳ないじゃろ、わらわ台所で押さえられたし>

 二匹がそんな話をしているのを横目にレイドは洞窟の外を見ていた。

 「お、吹雪は止んでるぞ! 出発しよう!」

 <お主、マイペースじゃのう……少しは気にならんのか……>

 「……気にはなるけど、別に害があった訳じゃないだろ?」

 <うん、シチュー美味しかったしね>

 思い出して涎を出すファウダー。それを聞いてチェイシャがため息をついて言った。

 <ホントお主は……ディストラクションに飲まれる事はなさそうじゃのう……>

 チェイシャとファウダーがレイドに追いつき一緒に外に出ると、外は快晴だった。

 「見ろ! あそこ、町が見えるぞ! いつの間にかビューリックに入ってたんだな」

 レイドが指さした方を見ると、小さくだが町が見えていた。
 少し急だが、崖を降りると町まで行く事が出来そうだ。

 「それじゃまた吹雪が来ない内に急ごう」

 <……そうじゃな>

 <うん!>

 レイド達は不思議な体験をし、山を降りはじめた。
 
 ほどなくして城下町へと辿り着くレイドは、同じくビューリックを目指していたフレーレと再会することになる。
 
 そしてルーナへと物語は移る。







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 下山するレイド達を見守る人影があった。


 「行ったのかい?」

 「……あなた……ええ……」

 後ろから来た男性に声をかけられ、振り返ったのはあの女性だった。

 「髪の色は私似だし、目元はあなたそっくりだったわよ? すぐ分かったわ」

 それを聞いて微笑み、さらに男性は続ける。

 「言わなくて良かったのか?」

 「今更ですし、ね。元気な姿を見られただけでも良かったわ。あなたは会わなくて良かったの?」

 「はは、ずいぶんと世話を焼いていたのにその言い草かい? 俺は……合わせる顔がないよ、あの子達を捨てたようなもんだからね……」

 「そう……。というかあの子、ちょっと天然な所があって心配だわ」

 「セイラは、居なかったのか?」

 「ええ、でも生きてはいるみたい。レイドより元気な性格をしているみたいだから会えなかったのは残念だけど、レイドとも偶然みたいなものですしね……後、少し心配なのは助けに行こうとしている女の子は──よ、多分」

 風で肝心なところは聞こえなかったが、表情を見て男性は察したようだ。

 「俺の剣が役に立てばいいが……」

 「私達の子供だもの、大丈夫よきっと」

 「……そうだな……しかし、鍛冶生産は俺のジョブなのに嘘をついて」

 「嘘に本当のことを混ぜると分かりにくいのよ?」

 「ははは、聖女様の言う事じゃないな」

 「私は別にそんな恩恵欲しくなかったわ。あなたと子供たちと、幸せに暮らせればそれだけで良かったのよ。だから私は恩恵と言うシステムを憎むわ。聖女と言うだけで追い回される身にもなって欲しいものね。その上、レイドもセイラも勇者や賢者だなんて! 恩恵なんて人の生き方を縛るだけ……この世界にはもう必要ないのよ……」

 「アーテファ、後は彼らに任せよう」

 「そうね、ヘスペイト……レイドそれにセイラ、元気でね。あなた達を置いて死んでしまった私達を許して……」

 そう言って山の奥へと歩きながら男性と女性は姿を消した。









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 今より少し昔



 エクセレティコより西方にある国に聖女という珍しい恩恵を貰った女の子が居た。

 その子はすくすくと育ち、とても美しい女性に成長した。

 そんな珍しい恩恵を持ち、美しいという噂を聞きつけ、時の国王が妻に欲しいと言いだす。しかし女性は幼馴染の鍛冶師が好きで離れたくない。

 何度も結婚は断るが王は諦めず、いよいよ強引な手を使い始めた頃、二人は逃げ出すことを決意。
 
 その事に怒った王は二人を追いかけるように命じ、見つけ次第殺せと告げたのだ。

 逃げて逃げて、ようやくエクセレティコの国境付近まで逃げ切り、安心した時、悲劇は起きた。

 二人は追いつかれた兵士に矢を射られて負傷してしまう。

 それでも追撃を振りきって国境を抜け、ある村へと辿り着くことができた。

 村では良くしてもらい一命をお取り留め、しばらく村で平和に暮らし、その内、女性は出産をする。

 しかし女性はその頃から容体が悪くなっていき、そして村に流行り病が蔓延し始めたのだ。

 村人はよそ者が来たからだと、二人と子供を追い出した。

 追い出された二人。

 女性は自分がもう長くないことを悟り、どこか静かな所で暮らそうと山を目指した。

 その途中にあった村で宿を取ると、村長夫妻が親身になってくれ、夫妻にここで暮らさないかと提案されたが首を振る。

 しかし、小さい子供達には山での生活は苦しいのではないかと諭され、村での暮らしを始める。

 女性はしばらく幸せに暮らしていたが、容態は回復せず息を引き取った。

 残された男性は悲しみにくれていたが、やがて手紙を残して女性の遺体と共に姿を消し……そのまま帰ってくることは無かった……。





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 【聖女の補足】

 今回出てきた聖女は、恩恵だけ持っていて、特に修行などもしていないので、回復魔法などは使えません。
 人より少し勘のいい程度(自分の子供だと直感で分かる等)の人間です。
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