パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
84 / 377
第五部:終わりの始まり

その106 ルーナは見た

しおりを挟む
 
 むくり……。


 夜、みんなが寝静まった後に私は起き上がる。

 もちろん西の塔に行ってみるためだ。
 それだけではなく、警備状況も調べておく必要がある。脱出の機会が来るのはどの時間になるか分からないからね。

 エリックの息がかかった騎士であれば気にする必要は無いんだけど、その時がそうであるとも限らない。
 準備は念入りにやっておくのが冒険者の鉄則だ。


 ……ってレイドさんが言ってた!

 
 「……それにしても最近よく面倒事に巻き込まれるわね、ホント」

 レイドさんやフレーレが居れば笑って「ルーナだからね」と返してくれそうだが、今は一人。ふいに寂しさが込み上げるが頬を叩き、自分を鼓舞しながら部屋を出た。

 蝋燭の明かりだけが頼りの廊下を慎重に歩き、庭へと赴く。

 「≪ナイトビジョン≫」

 夜になるとやはり見張りは増え、庭を一定の間隔で回る者、門で待機する者と様々だ。昼間は門番さんくらいだったんだけどね。

 私は客人だから別にこそこそする必要は無いけど、この時間だし見つかるのも面倒だ。
 柱の影と草むらをうまく使って西側の外壁へと移動する。

 西の外壁へ到着し、壁に沿って進む。
 
 「……これ、私だけならいつでも逃げられるんじゃないかしら……」

 月明かりを背に塔を目指すが、外壁側には人っ子一人いない。
 流石に塀を飛び越えるような事は出来ないけど、門番を回避さえすれば案外補助魔法を駆使してビューリックから抜ける事も難しくは無いのではと思う。

 「私が狙われてなければここに来ることも無かったんだけど、ね」

 ベルダーの誘いにわざわざ乗ったのはそこが大きい。でなければここには来なかった。
 レイドさんやフレーレに何かあったら私は多分ショックを受けると思うし……。

 そんな事を考えながら、程なくして西の塔へ到着。一番の懸念点だった扉もすんなりと開いた。

 うーん、警備も居ないし鍵もかかっていない。中を見られても問題ないから?
 あのゲルスとかいうヤツならもっと警戒しそうだから、本当にただの賢者様なのかしら?

 塔の一番下はエントランスのようになっていて、そこから螺旋状の階段を登るようになっていた。
 中は真っ暗だが、ナイトビジョンのおかげで先を見る事はできる。

 外から見た限りかなり高い建物だったから最上階までは結構かかった。
 途中、いくつか部屋があったけどそこは鍵がかかっていたのでとりあえず登るしかない……。


 「(明かり……?)」

 螺旋階段の終わりが見え、奥に扉があるのが見えた。
 どうも開いているようで、中の明かりがだだ漏れ。私はそっと扉へ近づく。

 「(人の気配、さてどんな人物が……)」

 
 !?

 

 「久しぶりのビューリックですね。特に荒らされた形跡もなし、と。ほっほっほ、下の研究施設は鍵をかけていますしこちらはまだ隠れ蓑として機能しそうですね」

 「油断するなよ? 国王は味方だが、俺達を良く思ってないヤツは山ほどいるはずだ。胡散臭いとな」

 「大臣の事ですか? まあ娘を人質として脅迫していますし問題ないでしょう。ほっほっほ、実験用のマウスを爆散させて娘を同じ目に合わせると言った時の顔は傑作でしたね」

 「はは、あれな! 城の重役はそれでだいたい黙ったから今後もイケる手だ。知らぬは国王のみってか!」


 ビンゴ!

 アントンとメルティちゃんを殺した張本人でベルダーが追っている人物、ゲルスだ!

 それともう一人居る……?

 会話の内容から察するにエレナのお父さんが逃げ出さない理由はゲルスが脅していたからね、これはライノスさんに知らせないと。

 問題はどう仕込んでいるかだけど、身体の中に何か爆発物を入れられていたら……。
 色々と考えが浮かび、悩むが尚も会話は続いていた。

 「で、次はどうする?」

 「そうですね……エクセレティコのギルドは私を追撃してくるはず。すぐにここに辿り着くとは思えませんので、少し準備をしてからエクソリアを探しましょうか」

 「ルーナは?」

 「今はいいでしょう。女神の封印を全部解いた後に捕獲すれば目的は達せられますしね。どちらかと言えばディクラインを警戒するべきでしょうか。ルーナを狙っているのは同じですからね」

 「(パパ? でもパパなら『私を狙う』必要は無いと思うけど……うーん、もう一人の顔が見えない! もうちょっと……)」



 トントン…… 
 
 身を乗り出そうとした時、いきなり肩を叩かれた!!


 「あの~ルーナさん? こんなところでどうしたんですか~?」

 「わひゃあ!?」

 振り返ると何とエレナだった!!

 「(どうしたって、それはこっちのセリフよ!?)」

 「誰かいるのですか!!」

 私が焦っていると、部屋の中から怒鳴り声が聞こえてきた! マズイ!

 こうなったら……!

 「に、にゃ~ん……」

 渾身の鳴き真似! どうだ!?

 「……猫ですか」

 いよっし! 今の内にこっそり帰るわよ!

 なんて思っていたのが甘かった。

 「などと言うわけありませんね! 猫ではなくでかいネズミのようですね!」

 ドゴォォン!!

 魔法で目の前の扉が吹っ飛ぶのを見て背筋に冷や汗が流れる!

 「(やっぱダメか!? ≪フェンリル・アクセラレータ≫! ≪パワフル・オブ・ベヒモス≫!」

 私は心の中で補助魔法を使い、エレナを抱きかかえて螺旋階段を駆け下りた!!

 「あ~れ~」

 気の抜ける声を出しながら目を回すエレナ。んもう、どうしてこんなところに居るのよー!!

 「待ちなさい! 大人しくしていれば解剖して実験材料にしてあげますよ!」

 ゲルスが暗闇の中に逃げた私を追いかけてくる。
 しかし、そこは私の補助魔法! イリスには追いつかれたが、ゲルスには有効のようで声がどんどん小さくなっていく。
 
 しばらくしてエントランスが見えた!

 「飛ぶわ!」

 「はい~?!」

 階段を降りずに、ショートカットをするため階段から飛び降りる!
 
 「≪ドラゴニック・アーマー≫」

 着地寸前で、アーマーを張り衝撃を無くす。その直後、上からマジックアローが降り注いできた!

 ヒュ……!

 ザザザザザザザン!

 カキン!

 「あっぶな!?」

 アーマーが無かったら一発もらってた!!

 「でもここから出れば!!」

 開けっ放しになっていた扉を抜け、念のため後ろ蹴りをして閉めてから外壁沿い……ではなく茂みの方へと逃げ込んだ。

 そのままゆっくりと隠れながら移動し、庭へと辿り着いた。追撃は……ないみたいね。

 「はあ~……危なかった……あそこで私だとバレたら解剖一直線だったでしょうね……あ、エレナ大丈夫?」

 「ハラホロヒレハレ~」

 「……」

 目を回していた。

 その後、庭を警備していた騎士に見つかり、『エレナにお手洗いの場所を教えてもらっている途中、エレナが貧血を起こした』と説明して事なきを得て、そのまま自室へと帰る事に成功した。

 それにしても大当たりか、運がいいのか悪いのか……出来ればアンジェリアさん経由でライノスさんかエリックを呼んでほしいけど……。ゲルスが居るならクーデターに成否に大きく関わる。そんな予感がしていた。



 ---------------------------------------------------



 ルーナが部屋へ戻る数分前

 ゲルスはエントランスで立ち尽くしていた。

 「ほっほ、逃げ足が速いネズミですね」

 「チッ、どこのどいつだ……」

 「私を警戒している者は少なくありませんから何とも。ただ、牽制はしておいた方がいいかもしれませんね。明日は国王に帰還を報告しましょう。それとなく大臣や重鎮に探りを入れてみます」

 「もう国ごと奪っちまえばいいじゃねぇか」

 「それだと私を危険分子として各国から討伐に来るでしょう。特にアルファの町のギルドに口実を与える事になりますしね。まだ私も人間レベルの強さでしかありません、相手にするのは骨が折れるのですよ」

 「そんなもんかね?」

 そんな独り言を呟きながらゲルスは自室へと戻る。
 
 事態は少しずつ、だが確実に進行していた。
 そして翌日、ルーナを探す二人組が城下町へ現れる。その二人がエリックと邂逅するまで、後数時間。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。