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第五部:終わりの始まり
その107 油断
しおりを挟む「で、エレナはどうしてあんなところに居たのよ?」
翌朝、リビングで朝食のパンにジャムをつけながら私は昨日の出来事について問いただしていた。
紙一重だったけど、ゲルスに見つかっていたら厄介だったであろう。
「え~と、部屋で寝ていたんですけどね~、物音がしたと思って~リビングへ出たら、頬をパンパンと叩くルーナさんが見えまして~。あ、きっとお手洗いに行くのが怖いんだと思って声をかけようとしたんですよ~。ずっと追いかけててやっと立ちどまってくれたのがあそこだったんですよ~」
「マジで!? 全然気づかなかった……というかお手洗いはこの部屋にあるんだから、外に出た時点で違うってわかるでしょうに……。後、お手洗いで怖がったりしないわよ! こちとら冒険者ですからね!!」
「というか、私に内緒でそんなことを……」
目玉焼きをツンツンと突きながら、相談しなかった事を寂しく感じているようだった。
「一応、脱出ルートの確認とかですよ。西の塔はちょっと野暮用で……」
するとアンジェリアさんが急にキリッとした顔つきになって真面目に話しだす。
「君はこの作戦の肝になるとエリックが言っていた。だから、あまり無茶をしないで欲しいんだ、ある意味最後のチャンスとも言える作戦だ、何かする時は城に融通の利く私を使ってくれ」
そうか、案内してもらっているていで、探りを入れるのは悪くないかもしれない。
隊長なら徘徊している騎士も従わざるを得ないし……。
「分かりました! それじゃ、次からお願いしますね!」
「うむ、任されたぞ。決して頼りにされなかったから言ったわけじゃないからな」
それを言ったら認めたようなものだけど……私はそれについて追求せず朝食を続けた。
それならまずはエリックに連絡を取ってもらわないと。
「そしたら昨日、西の塔で起きた出来事をエリックとライノスさんに話しておきたいんですけど連絡は取れますか?」
「そうだな、では後で外に居る男の騎士に頼んでおこう。外なら……足の速いイリスを使うか」
アンジェリアさんがもぐもぐとサラダを食しながらこの後の予定を考える。
一方エレナは、うとうとしながらミルクを私のコップに注い……溢れてる溢れてる!?
「エレナ!?」
ポットを奪い取り肩を揺さぶると、ふらふらとした足取りで壁際へ行く。
「あ、ルーナさん。大丈夫ですよ~、ちょっと昨日夜更かししたので眠いですけどね~」
「それは私じゃないから! 大時計だからね!」
間違えるにしても酷過ぎる。私はそんなストーンとした体型じゃない……。
……じゃないよね?
しばらくドタバタした朝食はまだ続くのだった。
ああ、アルファの町に帰りたい……レジナ達を撫でていたい……。
この後、アンジェリアさんが騎士へと伝達し、私はエリック達を待つことになる。
お昼を過ぎた頃に登城してくるのだが、予想外の事が起こり私は腰を抜かすことに……。
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<ビューリック城下町>
「割と早く到着できたわね」
「ええ、もう少し国境越えは面倒になるかと思ったんですけど」
城下町の入り口で話しているのはフレーレとフォルサの二人だった。
学院を出てから数日、ついに目的地であるビューリックへと辿り着いた。
「フフフ、私の出身が役に立って良かったよ」
フォルサがきちんとした身分証でを提示するとあっさりと国境を通ることができ、そのまま入国。馬車もノンストップでこの城下町まで来てくれた。
「探すアテはあるのかしら?」
「そうですね、一度臨時でパーティを組んだことがあるライノスという人と、この国に仕えている騎士でエリックと言う人を探しましょう。ベルダーというシーフの男の人も関与していますが、この国の人間では無いと思いますから、先の二人が早いと思います」
「そうか、なら情報収集だな。あそこに入ろう」
フォルサが指さした先には料理屋があった。
口元には少し涎が見える……気がした。
「……がくいんちょ……もが!?」
「ダメよ、ここは学院じゃないから学院長は禁止」
「分かりました……フォルサさん、お腹が空いただけですよね?」
「あそこのビーフシチューは絶品なんだ、是非君にも食べて欲しい」
「隠す気も無いんですか!?」
<ぴー。大丈夫かしらねえ……>
仕方なくフレーレはフォルサに連れられ、料理屋”ピーコック”へと足を運んだ。
中は普通の料理屋で、その昔フォルサがこの町に住んでいた頃に通っていたと嬉しそうに話していた。
「いらっしゃい! あいにく席が空いていないんだ、相席で良ければ案内するけどどうする?」
「もうこれ以上待ちきれないので相席で」
<ぴ!? 決断が早すぎる……>
フレーレの胸元で一部始終を見ていたジャンナが呆れた声を上げていた。
そのフレーレも困った顔で見ていたが、空腹の学院長に逆らうのも面倒なので黙っていることにした。
そして案内された席に行くと……
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「ライノスはお父上には話ができたのかなー?」
「もぐ……ああ、例の件を伝えたら好きにしていいと言われたよ。……自分の事は気にするな、ともな」
エリックとライノスは学生時代通っていた料理屋で朝食を採っていた。
食パンにスクランブルエッグと紅茶というシンプルなものだ。朝は忙しい人も多いので、席は満席だった。
そんな中、無理を言って二人は端っこの席を使わせてもらっていた。
「止めなかったのは意外だったねー。危ない事をするな、とか言いそうなのにー」
「……言われないわけないだろ? でも国王の傍若無人ぶりやエレナを人質同然に利用するのを許せない、そう説得して納得させたよ」
「じゃあ、協力をしてくれるー?」
「いや、そこは難しいらしい。俺も知らなかったんだけど、父さんに監視がついているらしい。下手に動きを出すと悟られるから手伝えないとな」
「……この話を聞かれた可能性は?」
「監視も及ばない私室の奥だから問題ない。父さんもそこは保証してくれた」
「確実とは言えないけどねー。ルーナちゃんも城に入れたし、そろそろ行動を起こす必要があるかー……じゃあ俺は今夜にでも同志を集めて計画を実行に移す話をするとしようー。決行は三日後、ライノスはベルダーに伝えてくれ。僕はルーナちゃんを……」
そこまで話してから、おばさんが申し訳なさそうに二人へ話しかけてくる。
「あんたたち、すまないんだけど二人相席いいかい? 女の子二人だ、嬉しいだろ?」
「ええ、オレは構いませんよ」
ニコリと微笑み、ライノスがエリックの隣へ移動する。
エリックは女の子と聞いて髪型を整えていた。
おばさんがその二人を呼び、席へと着く。
「良かったわね、良い人達で! ありがとう、助かったわ!」
女性が即座に席に着いて二人に微笑みかける。美人だな、ライノスは思っていた。
だが、続いて現れた女性を見てエリックとライノス二人が目を見開く。
「もう……あ、すいません騒がしく……て……」
<ぴ!?>
「き、君は!?」
「あ、ああー!? ラ、ライノスさんとエリックさん!!! み、見つけましたよ!! 学院長、さっき言ってた二人ですよ! かくほ! かくほー!!」
ライノスとエリックの前に現れたのはフレーレとフォルサだった。席についた女性は見たことが無いが、きっと知り合いなのだろうと推測しつつも、ここで騒がれるのはマズイと冷や汗を流していた。
さて、どうやって逃げるか。そう思った矢先の事……。
「フレーレ、静かにしないと周りの方に迷惑よ? まずは座りなさい。それと……あなた達」
「は、はい?」
「逃げたら追うから覚悟していてね♪ この町は私の育った町なの。地形は全て把握しているから『絶対に逃がさない』わ。あ、ビーフシチューあります?」
のんきな話し方だが、魔力か気合いか……謎のプレッシャーに襲われて二人は逃げるどころではなくなってしまったのだった。
「(お、おい、誰なんだよーこの人は……)」
「(し、知らない……ダンジョンの時にも居なかったし……)」
タダ者ではないと悟り、二人は逃げるのを止め成り行きに身を任せる事にした。
まさかこの短期間で追ってくるとは……冷や汗をかきながらもエリックは計画の変更を考えていた。
「(フレーレちゃんをルーナちゃんと一緒にするか? 一緒に居る女性が何者かは分からないけどー、二人とも見た目は国王に気に入られるはず……暴れてもらって内部から崩す、か?)」
クーデターの決行まで、後三日。
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