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最終部:タワー・オブ・バベル

その340 ルーナ、動く

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 「くぅぅぅ!」

 「大丈夫かフレーレ! 何だ!? 床が……壁も……!?」

 <任せろ>

 キメラが爆散し、フレーレが余波を受け止め、段々勢いが弱くなってくると、レイドが辺りの異変に気づき声を上げる。その声に反応したカームが、気絶したアイリとシルキーを背中に乗せ、フレーレの襟首を咥えて宙に浮く。その直後フロア全体がどろりと崩れ、足元がフッと消えた。

 「……! ワイヤーで!」

 「これは、木か!? くそ、落ちてたまるか!」

 「やれやれ……僕はゴナティソと戦って疲れてるんだけど……ね!」

 「ハッ!」

 ノゾムがワイヤーで枝のような場所へ引っかけて固定し、レイドは床に落ちていたセイクリッドセイバーを回収し、それを突き刺す。カイムは足場へ飛び移り、エリックも悪態をつきながらそれぞれ落下を免れていた。

 「ふう、盾が挟まってくれたから助かった……大丈夫か、ニールセン、ユウリ」

 「僕はうまいこと枝みたいなのに引っかかったから問題ないよ、それよりも……」

 ユウリは枝にまたがるようにして難を逃れていた。そしてニールセンをチラリと見る。

 「くっ……私が居ながら聖女様が攫われるとは……! くそ!」

 レイドと同じく剣を刺してぶら下がっているニールセンが枝に拳を叩きつけていた。そこへ、おおきな木の幹のようなものにがっぷりと、まるでセミのように掴まっているヴァイゼがスススと、降りてきて窘める。

 「今回は仕方あるまい。取り返せばいいだけだ……どうやら、あそこから上の階へ行けるようだぞ」

 ヴァイゼの視線を皆が追うと、そこに上の階に続いく階段の残骸が見えていた。目を細めてレイドが口を開く。

 「セイラのことだから心配ないと思うが……急ごう。もう夜みたいだし、休憩をする必要があるかもしれない」

 「休憩なんていりませんよ! すぐ行きましょう。ホイットは私が必ず斬ります……!」

 「……あまり気負うと足元をすくわれるぞ? 慎重に行こう」

 珍しく興奮するニールセンをノゾムが窘め、一行は次の階を目指し、程なくして足場のある場所へと辿り着いた。

 「落ちてたら確実に死んでいましたね……あのキメラがスイッチだったんでしょうか……村人さんも本当だったか分からずじまい……」

 フレーレが階下を見ながら爆散したキメラのために祈りを捧げるのを見届けた後、レイド達はその場を後にし、76階へと足を踏み入れた――


 ◆ ◇ ◆


 ボヒュ――


 「あら? 塔の壁が崩れ去ったわ。何かあったのかしら?」

 フードを被った三人組がナイトメアキャットのリンの背中に乗り、塔の外壁を垂直に上がっていた。頭上で崩れる音がしたので上を見たところ、どこかの階で壁が無くなっていることに気付いた。

 「うおおお、高い高い高い!?」

 フードの一人がリンの首にしがみつき、叫ぶと、もう一人が杖で頭をポカリとやりそれを窘めた。

 「静かにしなさい。暴れると落ちますよ? では、あそこにしますか?」

 「そうね。もう少し上を目指したかったけど、無理矢理成長させたリンちゃんもここら辺が限度でしょうからね。リンちゃん、あそこまでいける?」

 「にゃーん」

 ぶわっと羽を広げてリンは再び上昇する。声は嬉しそうだが、かなり疲れているようで、速度はかなり遅かった。
 程なくして、三人と一匹は75階の、木のようなものがあるフロアへ降り立つ。


 ◆ ◇ ◆


 <拠点>


 「あ、これはいけない」

 「どうしたんですか?」

 着々と完成しつつある鍛冶場の前で、ふとヘスペイトさんが「あちゃー」といった様子で呟く。私が尋ねると、頭を振りながら答えてくれた。

 「いや、どうもセイラが捕まっちゃったみたいでね。しかもさらった相手はヴィオーラの騎士団長だったホイットらしい。セイラはホイットの趣味じゃないから、国王に元に連れて行くと思う。そうなると、狡猾なあの男のことだ、レイド達は足元をすくわれるかもしれないな」

 「ど、どうして分かるんですか?」

 冷静に、しかも今見て来たかのような説明に驚く私。というかセイラが攫われたなら早く助けに行かないと!?

 「俺はこのとおり幽霊みたいな存在だ。で、セイラの中にいるアーティファと繋がっているんだよ。彼女は精霊みたいなものだからこれくらいは余裕なのさ。さて、レイド達を待っていようかと思ったけど、これはあまり良く無い展開だ。塔へ行って合流しよう」

 リュックサックを背負い、歩き出すヘスペイトさん。

 「わ、私も行きますよ! みんな、おいで!」

 「がう!」

 「わんわん!」

 「きゅきゅん!」

 「きゅっふん!」

 「ルーナちゃんには悪いけど、そのつもりだったよ。レイドに何か言われたら俺が止めてあげるから安心していいよ。それじゃ、行こうか」

 「はい!」

 装備を整え、拠点を出る私達。

 ちょうど入り口付近でウェンディとイリスに会ったので経緯を説明して塔へ行くことを告げた。

 「ここは任せるであります! 隊長が無事か見て来て欲しいのでありますよ!」

 「頑張ってねー!」

 後ろを振り返りながら手を振って拠点を出て、すぐに80階への転移陣を踏む。ヘスペイトさんは幽霊だけど踏めるのかな? と思ったら、あっさり転移してきた。

 「あっちが階段です、行きましょう」

 パパがどこかへ飛ばされた冥界の門が静かに佇む80階。開けてみたい気もするが、今はそれどころじゃないので、階段へと向かい一気に駆け上がる。

 「そういえば、どうしてわざわざ助けに行くんですか? 苦戦するかもしれないけど、ウチのお父さんもいるし、戦力は悪くないと思うんですけど」

 「ああ、多分勝てると思うよ。だけど、懸念点はそこじゃなくて、時間なんだよ」

 「時間?」

 71階への扉を開けながら聞き返すと、ヘスペイトさんが頷く。

 「うん、時間だ。あいつらは人間を魔物に作り替えることが出来るみたいだけど、もしセイラが変えられたらとんでもない化け物ができるんだ。聖女というのはそれなりに特別で稀少――」

 と、言いかけたところで巨大な三つ首の蛇に襲われる!

 「うわ、パイロンスネークじゃない!? レジナ!」

 「ガウウウ!」

 「わぉーん!」

 私が合図すると、即座に右と左の頭へレジナとシルバが襲いかかる。残るは真ん中! 訓練の成果、見せてや、る?

 愛の剣を抜いて突撃しようと踏み出そうとする前に、真ん中の頭は叩き潰されていた。攻撃をしたのは――ヘスペイトさんだった。

 「ヘスペイトさん、それ……」

 「ん? これかい? 俺は鍛冶師だからね、剣や槍は造るけど自分じゃ使えないんだ。慣れているコレが一番いい」

 パイロンスネークを一撃で叩き潰した巨大な鎚を軽々と持って言うヘスペイトさん。まさか戦えるとは……でも、幽霊ならダメージも受けないし結構強いかも?

 「ガウガウ」

 「わん!」

 私が考えていると、残りの頭を潰した二匹が尻尾を振って褒めてくれと近づいてくる。

 「よしよし、流石ね! それじゃ急ぎましょう! 人が歩いた後があるから、多分こっちです!」

 「お、頼もしいね。行こうか。さっきの話の続きだけど、セイラが魔物化する以外にもう一つ厄介なことがある」

 「ここって近隣の森に似ているわね……厄介なこと、ですか?」

 「それはセイラの体を使って武器を造ること。骨なんかを使ってね」

 「考えたくないですけど……でも、そういうのって分かる物なんですか?」

 「……そうだね、俺はすでに試したから」

 フッと遠い目をしてヘスペイトさんが呟く。試した……? まさか!?

 「レイドさんのお母さんを……?」

 「そう、彼女が死んだ時……素材にした。それがレイドに託された剣、セイクリッドセイバーなんだ」

 「ええー!?」
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