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春が去っていく孝太郎に手を振っていたので円香は尋ねた。
「……今の派手なイケメン、先生の知り合いですか?」
「あ……彼が、その……恋愛経験豊富そうな友人です……アドバイスくれた……」
円香が、なるほどですね、と噛みしめるように言って黙り込む。
「あ、すみません。先生の友人があまりにもかっこよくて話そうとしてた事が頭から飛んでしまい……」
「はは……やっぱりかっこいいですよね、彼」
「あのご友人はもしかして、家がご近所ですか? 先生のご自宅この近くでしたよね」
「あ、はい……実はアパートのお隣さんで」
なるほど、とつぶやいた円香が少し迷ったように、話を続けた。
「もし差し支え無ければ、1話を描く前にあのご友人と手を繋いでみて頂くことってできますか?」
「え!?」
「変なこと言ってすみません。ただ、先生男性と手を繋いだ事ありますか?」
「あ……無いです」
「もし私が男性ならば今繋げば済む話なんですけど、あいにく女なので……男性が自分より少し手の大きい男性と初めて手を繋いだ時の心象描写があればもっと、もっとよくなる気がしたんです。男性が自分より大きな手の人と手を繋ぐことってあまり無いじゃないですか」
男性どころか女性とも手を繋いだことなどない春が困った顔を見せると円香がフォローを入れる。
「あ、絶対ではないです! そもそも異性愛者の男の先生にBLの執筆というご無理お願いしているのは重々承知ですし、現状も最高ですから! ネームそのままでも大丈夫です」
打ち合わせを終えて喫茶店を出ると孝太郎からラインが来ていた。
【すみません! 場所聞いてたから気になって覗いてしまいました。お仕事お疲れ様でした】
【いえ、今からお仕事でしたか?】
【はい、いってきます! また夜に】
今日はいつもより家を出る時間が早い。もしかして同伴出勤というやつだろうか、などと彼の行動を探るようなことを考えそうになり春はふるふると頭から振り払った。春が食事をするのはほぼ孝太郎とだけだが、孝太郎は仕事上いろんな人と食事しているはずだ。そのことは忘れないようにしなければいけないなぁ、と心に留める。
“先生のご友人があまりにもかっこよくて話そうとしてた事が頭から飛んでしまいました”
円香の言葉が、春の頭に妙に残っていた。友人の孝太郎を褒められるのは嬉しいことのはずなのに、胸にチクッとした痛みを覚える。もしかして担当編集が彼を褒めた事に嫉妬心を抱いたのか? と考えてみたが別に円香に作品以外を褒められたいと思ったことなど無いし、ホストの孝太郎と女性ウケで張り合うなどおこがましいにも程があるとわきまえているのでそれは無い。それに孝太郎がかっこいいことなんて円香に言われずとも十分わかっている。どうしてかわからない胸の痛みに、春はただ首を傾げるのだった。
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円香が、なるほどですね、と噛みしめるように言って黙り込む。
「あ、すみません。先生の友人があまりにもかっこよくて話そうとしてた事が頭から飛んでしまい……」
「はは……やっぱりかっこいいですよね、彼」
「あのご友人はもしかして、家がご近所ですか? 先生のご自宅この近くでしたよね」
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なるほど、とつぶやいた円香が少し迷ったように、話を続けた。
「もし差し支え無ければ、1話を描く前にあのご友人と手を繋いでみて頂くことってできますか?」
「え!?」
「変なこと言ってすみません。ただ、先生男性と手を繋いだ事ありますか?」
「あ……無いです」
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男性どころか女性とも手を繋いだことなどない春が困った顔を見せると円香がフォローを入れる。
「あ、絶対ではないです! そもそも異性愛者の男の先生にBLの執筆というご無理お願いしているのは重々承知ですし、現状も最高ですから! ネームそのままでも大丈夫です」
打ち合わせを終えて喫茶店を出ると孝太郎からラインが来ていた。
【すみません! 場所聞いてたから気になって覗いてしまいました。お仕事お疲れ様でした】
【いえ、今からお仕事でしたか?】
【はい、いってきます! また夜に】
今日はいつもより家を出る時間が早い。もしかして同伴出勤というやつだろうか、などと彼の行動を探るようなことを考えそうになり春はふるふると頭から振り払った。春が食事をするのはほぼ孝太郎とだけだが、孝太郎は仕事上いろんな人と食事しているはずだ。そのことは忘れないようにしなければいけないなぁ、と心に留める。
“先生のご友人があまりにもかっこよくて話そうとしてた事が頭から飛んでしまいました”
円香の言葉が、春の頭に妙に残っていた。友人の孝太郎を褒められるのは嬉しいことのはずなのに、胸にチクッとした痛みを覚える。もしかして担当編集が彼を褒めた事に嫉妬心を抱いたのか? と考えてみたが別に円香に作品以外を褒められたいと思ったことなど無いし、ホストの孝太郎と女性ウケで張り合うなどおこがましいにも程があるとわきまえているのでそれは無い。それに孝太郎がかっこいいことなんて円香に言われずとも十分わかっている。どうしてかわからない胸の痛みに、春はただ首を傾げるのだった。
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