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「お誕生日だったんですか?」
春が尋ねると絵梨花は、ううん、とあっさりと答えた。
「店用の誕生日。他の子との兼ね合いで先々週が私のイベントだっただけよ。ね、孝太郎~! いいでしょ」
そう圧をかける絵梨花に孝太郎が、わかりました、と折れる。絵梨花は、やったー、と立ち上がった。そして絵梨花は40万円のアルマンドを追加で2本頼もうとしたが、それは孝太郎が止めた。
「嬉しいですが、やりすぎです。アルマンドじゃなくてマバムにしませんか? フレーバーも多いし朝まで楽しく飲めますよ」
マバムというのは甘口のスパークリングワインだ。1本40万円のアルマンドとは違い、1本5万円と抜き物の中では安価なお酒だ。
「いいの? 今日は春くんまで巻き込んでいっぱいわがまま聞いてもらってるし特別に、と思ったんだけど」
「無理して欲しくないんです。絵梨花さんとはこれからも長くお付き合いしたいので」
孝太郎がそう言うと絵梨花は、わかった、と笑った。
「じゃあマバムのパッションとモヒートとライム持ってきて! 今日は朝まで3人で飲むわよ~!!」
「あ、モヒート! ぼく好きなやつです」
目を輝かせた春に絵梨花も、よかった、と笑う。
――…結局絵梨花はマバムを計4本入れた。孝太郎と絵梨花は楽しく酔っ払い、自然と春が介抱役に回る。散らかったテーブル席で春は、駄目です、と隣の孝太郎を小声で叱る。
「なんでそんなん言うん、春さん……おれこんな好きやのに……好き、好きです、ほんまに好きなんです」
ベロベロに酔った孝太郎はさっきから春への愛をこれでもかというくらい訴え、春を抱きしめようとしている。それを春はなんとか食い止めていた。
「ッ……絵梨花さんが動画撮ってますから……孝太郎くんが後で恥ずかしくなっちゃいますよ」
スマホのカメラを2人に向けた絵梨花は、気にしないでー、とご機嫌にけたけた笑っている。
「なんであかんの……春さぁん……おれのこと好きやないんですか。ほんまは絵梨花さんみたいな可愛い女の子の方がええんですか?」
「キャー! 浮気相手になった気分! 続けて!」
スマホ片手に脚をバタバタさせながらはしゃぐ絵梨花を尻目に春は孝太郎を押しのけながら半ばヤケに言った。
「好きですって、孝太郎くんが大好きです。だから止めるんですよ。黒歴史になっちゃいますから……!」
「黒歴史になんてなりません。だっておれが春さん大好きなんほんまの事ですもん。おれ人生でこんなに好きになったことないんです。好きです。大好きです」
そう言って春の頬を愛しげに撫でてじっと見つめる孝太郎を絵梨花はずっと動画に収めている。
「顔がいいので離れてください!!!」
そう言って抵抗する春は孝太郎に水を差し出す。
「ほら、飲んでください」
孝太郎は春を見つめながら、飲ませて、と少し掠れた声で甘える。も~! と春は声を上げる。
「孝太郎くん酔ったらいつもこんないやらしい感じになるんですか!?」
ハッとして絵梨花は慌てて孝太郎のフォローをした。
「今日は特別よぉ~。こんな孝太郎見るの初めてなんだから! 彼氏がいるから気が緩んじゃったんじゃないかな」
春が満更でもなさそうに、もう、と呟いたので絵梨花はホッとする。そうこうしているうちに閉店時間が近づき、照明がほんの少しだけ明るくなった。会計の金額を春に見られないように絵梨花はこっそりと離れて支払いを済ませる。席に戻ってきた絵梨花に春は、ごちそうさまでした、と恐縮しつつ頭を下げた。
「いいのよ~。こちらこそごちそうさまでした」
そう絵梨花は春にご機嫌に言った。絵梨花の目の前では、腰に甘えるように腕を巻き付かせた孝太郎が春の膝の上ですやすやと眠っている。その姿を絵梨花は連写で撮っていた。春はおずおずと絵梨花に言った。
「……あの、その写真……1枚もらってもいいですか?」
「いいよ~i phone? 1番よく撮れてるのエアドロップで送るね」
そう言って絵梨花は春に写真を送った。
「ありがとうございます」
そう言って嬉しそうな表情を覗かせた春に絵梨花は、可愛い、と悶える。帰宅して昼過ぎに目覚めた孝太郎は、絵梨花からラインで送られてきていた大量の動画で自分のやらかしを知り、1人悶絶した。しかし絵梨花から一緒に送られてきていたテンションの高い感謝の長文ラインを読んだら、まぁいいか、と思えたのだった。
春が尋ねると絵梨花は、ううん、とあっさりと答えた。
「店用の誕生日。他の子との兼ね合いで先々週が私のイベントだっただけよ。ね、孝太郎~! いいでしょ」
そう圧をかける絵梨花に孝太郎が、わかりました、と折れる。絵梨花は、やったー、と立ち上がった。そして絵梨花は40万円のアルマンドを追加で2本頼もうとしたが、それは孝太郎が止めた。
「嬉しいですが、やりすぎです。アルマンドじゃなくてマバムにしませんか? フレーバーも多いし朝まで楽しく飲めますよ」
マバムというのは甘口のスパークリングワインだ。1本40万円のアルマンドとは違い、1本5万円と抜き物の中では安価なお酒だ。
「いいの? 今日は春くんまで巻き込んでいっぱいわがまま聞いてもらってるし特別に、と思ったんだけど」
「無理して欲しくないんです。絵梨花さんとはこれからも長くお付き合いしたいので」
孝太郎がそう言うと絵梨花は、わかった、と笑った。
「じゃあマバムのパッションとモヒートとライム持ってきて! 今日は朝まで3人で飲むわよ~!!」
「あ、モヒート! ぼく好きなやつです」
目を輝かせた春に絵梨花も、よかった、と笑う。
――…結局絵梨花はマバムを計4本入れた。孝太郎と絵梨花は楽しく酔っ払い、自然と春が介抱役に回る。散らかったテーブル席で春は、駄目です、と隣の孝太郎を小声で叱る。
「なんでそんなん言うん、春さん……おれこんな好きやのに……好き、好きです、ほんまに好きなんです」
ベロベロに酔った孝太郎はさっきから春への愛をこれでもかというくらい訴え、春を抱きしめようとしている。それを春はなんとか食い止めていた。
「ッ……絵梨花さんが動画撮ってますから……孝太郎くんが後で恥ずかしくなっちゃいますよ」
スマホのカメラを2人に向けた絵梨花は、気にしないでー、とご機嫌にけたけた笑っている。
「なんであかんの……春さぁん……おれのこと好きやないんですか。ほんまは絵梨花さんみたいな可愛い女の子の方がええんですか?」
「キャー! 浮気相手になった気分! 続けて!」
スマホ片手に脚をバタバタさせながらはしゃぐ絵梨花を尻目に春は孝太郎を押しのけながら半ばヤケに言った。
「好きですって、孝太郎くんが大好きです。だから止めるんですよ。黒歴史になっちゃいますから……!」
「黒歴史になんてなりません。だっておれが春さん大好きなんほんまの事ですもん。おれ人生でこんなに好きになったことないんです。好きです。大好きです」
そう言って春の頬を愛しげに撫でてじっと見つめる孝太郎を絵梨花はずっと動画に収めている。
「顔がいいので離れてください!!!」
そう言って抵抗する春は孝太郎に水を差し出す。
「ほら、飲んでください」
孝太郎は春を見つめながら、飲ませて、と少し掠れた声で甘える。も~! と春は声を上げる。
「孝太郎くん酔ったらいつもこんないやらしい感じになるんですか!?」
ハッとして絵梨花は慌てて孝太郎のフォローをした。
「今日は特別よぉ~。こんな孝太郎見るの初めてなんだから! 彼氏がいるから気が緩んじゃったんじゃないかな」
春が満更でもなさそうに、もう、と呟いたので絵梨花はホッとする。そうこうしているうちに閉店時間が近づき、照明がほんの少しだけ明るくなった。会計の金額を春に見られないように絵梨花はこっそりと離れて支払いを済ませる。席に戻ってきた絵梨花に春は、ごちそうさまでした、と恐縮しつつ頭を下げた。
「いいのよ~。こちらこそごちそうさまでした」
そう絵梨花は春にご機嫌に言った。絵梨花の目の前では、腰に甘えるように腕を巻き付かせた孝太郎が春の膝の上ですやすやと眠っている。その姿を絵梨花は連写で撮っていた。春はおずおずと絵梨花に言った。
「……あの、その写真……1枚もらってもいいですか?」
「いいよ~i phone? 1番よく撮れてるのエアドロップで送るね」
そう言って絵梨花は春に写真を送った。
「ありがとうございます」
そう言って嬉しそうな表情を覗かせた春に絵梨花は、可愛い、と悶える。帰宅して昼過ぎに目覚めた孝太郎は、絵梨花からラインで送られてきていた大量の動画で自分のやらかしを知り、1人悶絶した。しかし絵梨花から一緒に送られてきていたテンションの高い感謝の長文ラインを読んだら、まぁいいか、と思えたのだった。
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