お隣どうしの桜と海

八月灯香

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お隣同士の海と桜 ふうふ編

成人式

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冬は憂鬱気味になる。

寒いのがとにかく苦手な俺は冬は極力動きたく無い。

と思っていた。

高校にいた時は矢作という人間暖房器具に休み時間ごとに張り付いていた。

桜は筋肉もあるし元々の体温が高いから冬はそんな嫌じゃ無いとかいって、めちゃ薄いシャツにアウター一枚で平気だったりする。


俺はマジで無理。


って思ってたら、今はめちゃくちゃいい素材が出ていて、ペラペラなのに保温性が凄いのがある。
発熱もする。
スポーツメーカーから出てるインナーを桜がくれた。
凄い…何これ…!!!
薄手なのに感動するくらいあったかい!!!

って思ってたんだけど、貰って気に入って愛用してたのにいつのまにか無くなってる。

無い無い探してたら桜が

「あれ着てると海がくっついてくるの減るから没収」

とか言ってきた。

おい!やめろ!文明を知った身体になんて事を!!

俺はなんとか桜を説得した。

とりあえず家では着ないから返してと願い出た。

家でも着てるけどまた没収されかねないから家で積極的に桜に張り付く事にした。

無意識に桜で暖とってたんだな俺…わはは

桜は一緒に暮らしててもこうなるんだな…。







成人式の準備、男の子は楽そうでいい、女の子達は随分前から着物やら小物やら揃えるのも大変そうにしてるって母さんが俺の同級生の親から聞いてきてた。

「一生に一回だもんなー。」

とは言うものの、こういう式典は女の子が着飾って主役なんじゃないのかと思っていた。

ところが俺はというと、親達と桜がヤイヤイずっとやってて成人する当の本人がほとんど蚊帳の外なんだけど…

「スーツと袴どっちがいいかな。」

「スーツも細いから似合うと思うのよねー。」

「わたし海くんの袴姿見たぁい!七五三の時可愛かったんだもん~~!」

「スーツだったらシングルもいいけどダブルでクラシックスタイルもいいよね」

「あ~~~見えるね。」

「ウミ写真集作る?俺デザイン全部するよ。」

いらんいらん。
トレーディングカードとか作る?じゃ無いよいらないって。

おじさん今年の二十歳になる誕生日も仕事と並行して俺を祝う準備に睡眠削って当ててフラフラになってたじゃんか。

信じられない事に今年の誕生日、壁サイズの大漁旗発注してたんだよ。
俺と、ソールバルグ家と夏野家全員の似顔絵の入ってるやつ。

凄すぎて笑ったけどプリンターですったやつじゃなくて本格的な染め物だったからもうなんかマジマジと見ちゃったよな…
あれいくらしたんだよ…

グンナーおじさんは自ら作業増やして自分の首を絞めていくスタイルそろそろやめてほしい。
一日の為にかける熱意がやばい。

しかも今年は架空の寿司屋だったんだけど、すんごいでっかいマグロの塊とか出てきてびっくりしたよな…
菜奈ちゃんと母さんがはちまき頭に巻いて握り寿司出してくれて楽しかったけど。

ちなみに湯呑みと手拭いも作られてた。

「どっちかに決めずに両方着せたらいいんじゃない?
着なかった方カメラマン頼んで前撮りしたらよくない?」

よくない?じゃねーよ桜が一番乗り気になってんじゃねーよ。
どうせならタキシードとかパターン変えて3着くらい着ちゃう?じゃねーよ。

「式典の間は何着せる?それこそ紋付きか。」

「袴も2パターンくらいあってもいい気がして来た…」

いいよ1パターンで!!

「あの…盛り上がってるところすみませんけど、好きに決めて貰っていいんだけど出来たら楽にスーツでお願いします…」

俺のお願いの一言はまぁ、そうかって親達を一瞬冷静にさせたように思えたけど、菜奈ちゃんが「えっ!海君袴着ないの?」って可愛いく言ってきたから袴にする事になった。

七五三再びになる気がするんだけど菜奈ちゃんが言うならそうするわ。


式典当日はキリッと寒い晴れの日になった。

俺の正装は空色の綺麗な羽織の紋付袴が準備されていた。

着付けは桜の知り合いのヘアセットと着せ付け出来る俺らの関係を知ってるゲイの人にお願いしてわざわざ家で着せ付けてもらった。

なんでかって?

肌着はきてるけど、俺の腹とか腿の付け根とかは皮膚病か?ってくらい跡つけるやつのせい。
背中側にもついてるんだよ…。

俺の身体に跡がなくなるのは夏どっかいく可能性あるときと家族旅行らへん。
そのほかは喘がされて知らん間にマーキングみたいに吸われてんだよ。
別にスケベしてない時にも風呂とかで気紛れにつけられる。

流れ作業みたくみんな一斉に着せ付けられるとこで着せつけてもらって、なんかの拍子に不特定多数に見られるのも困るし「夏野さん皮膚が…」とか言われて見ろ。
俺のメンタルが死亡するわ。

親も最初は着物借りた所で着付けしてもらうか?って言ってたんだけど、俺が青い顔し始めたのに気が付いた桜が知り合いに頼みたいって言ってくれた。

こんな事なら自分で着替えられるスーツにしといたら良かった…
菜奈ちゃんのお願いに弱いばっかりに…!

「似合うわぁ~~おめでたいわね~~!ハイ出来上がり!」

「ありがとうございます。」

着付けが終わって髪の毛もセットしてもらってなんか一人だけ和装で家で浮いてる感凄いな。

「あーん海君かっこいい~!」

菜奈ちゃんが喜んでいるから良かった。
グンナーおじさんが車出してくれてソールバルグ家と夏野家全員で会場まで着いて来た。

「後でまた迎えに来るから。」

桜と親達はちょっと喫茶店行ってくるわ~と会場を後にした。

矢作とガンちゃんと秀一と入り口で待ち合わせてる。
3人とも中学が一緒だから式典も一緒なんだよな。
先週会った時より全員ちょっと大人びた顔立ちになんとなくなってた。

「海君袴似合うね!」

「矢作もスーツきまってんじゃん、ガンちゃん真っ白な羽織袴ガラ悪。」

「親父がこれ着ろってうるさかったんだよ。」

「秀一も羽織袴着るのかと思ってた。」

「いやー、なんか試しに着たら将棋指す人みたいだなって思ったら笑っちゃってもうダメだった。」

この3人とはたまに会ってるからなんか久しぶり感も無くて緊張しないからいい。

矢作は二人とは中学の時仲良かったわけじゃないけど、今日岩ちゃんと秀一と話してる限りは相性悪くなさそう。

二十歳で正式に酒が解禁になるから3人誘って呑むの楽しみだな。

ホールに大量の成人が揃っている。
式は滞りなく進んで、中学の時の担任達がお祝いを述べてくれた。

女の子達はみんな着飾ってて華やかだ。
同級生達もみんな見知った顔から大人になってる。

式典が終わって会場の外はちょっとした同窓会状態になった。

夜に同窓会あるみたいだけど、桜が「行ってきたら?」って言いながらもちょっと嫌そうにしてたから俺は行かない。
そのかわり家で成人祝いの宴会が待っている!

"お疲れ様、駐車場居るから焦らずどうぞ"
って母さんからメッセージ来たから駐車場行くか、と思ったら

「夏野君!」

と同じクラスだった女子から声をかけられた。

「飯島?うわー、綺麗になって。」

飯島紗雪は俺より背が低くて小柄で大人しい印象の女子だった。
そして俺と同じで小柄なまま、成人を迎えていた。

化粧してるからとかじゃなくてどこかで殻を破るタイミングがあったんだなってわかるくらい綺麗になってて驚いた。

古典柄の入った白地にピンクのグラデーションのはいった振袖がよく似合っている。


「久しぶりだな!」

「はぁ~~~!夏野君に綺麗って言ってもらえて嬉しいなぁ。
この後の同窓会来るよね?」

「いや、俺行かないんだわ。」

「え、来ないの?」

飯島が目を見開いてから少し視線を落とした。

「そっか…そっか…来ないのか~……あ…あのね…私中学の時夏野君の事好きだったんだよね~。」

「え!マジか。」

素直に驚いた後に笑顔になった。

飯島は県外に出て就職してるって。
今やってる仕事辛くて辞めたい時もあるんだけど、やりがいあるし向いてるのもなんとなく感じてるから頑張るって。
緊張してるのか早口で飯島が話した。

「夏野君、連絡先交換してくれないかな…!」

「いいよ。」

ってスマホ出した時に飯島が俺の結婚指輪に気がついた。

「指輪…。」

「ん?あ、うん、俺結婚してんだわ。」

飯島の目が見開いて表情が一瞬曇った気がした。

「うわぁ~~~~そっかぁ~~~あ~~~~」

と悲痛な声を上げ始めてびっくりした。
ちょっと遠巻きに見てた飯島と仲良い女子二人が近づいてきた。

「紗雪!どうしたの?夏野君と連絡先交換できた?」

「…夏野君結婚してた…」

飯島がそう言った瞬間女子の目が俺の左手に集中した。

「え!!!」

「うそ。」

飯島がちょっと涙目になってるし…!!

「あ~~!ごめん夏野君困らせる気は無いけどキツイ~~~!」

飯島は成人式で俺と会うのをめちゃくちゃに楽しみにしてたって。
会ったら、連絡先交換して実は未だに持ってる想いを伝えたかったって。
今日、顔見たらやっぱり今も好きだって思ったって。

俺がフリーだったらロマンスはここで始まってたのかと思ったね…。

明日とか一緒にご飯食べるとか時間作ってくれないかって言われたけど、想いを今も持ってるって聞いた後だと無理だな…

「ごめんな。俺、パートナー大事にしないとだからさ…。
不安にさせたく無いんだよな。」

そういうの桜が察知した後何かが起こりそうで怖いし…

「夏野君の奥さん羨ましい。」

って飯島が泣き笑いで言った。




「海君が女の子泣かしててビビった。」

一部始終を見てた矢作が近寄って来た。

「俺もビビったわ、目立つ様な女子じゃなかったけど飯島めちゃくちゃ綺麗になってんの見た?
矢作隣のクラスだったから覚えてないか。
桜が居なかったら間違いなく行ってたな。」

「覚えてないね。
でもちゃんと断ってて海君偉かったねぇ。
ご飯くらい行って良かったんじゃないの?」

「いやー、気を持たせる事になりそうだしダメだと思う。
好きな相手と飯なんておれだったらその後期待しちゃうもん。
桜が知ったら不安になりそうだし。」

「あー、海君軟禁とかされそうだね。
とか言ってたらソールバルグさん迎えに来てんじゃん。」

ほら、って矢作が向いてる方に顔を向けたら、彼女を迎えに来てるっぽい人達と、親達に混じって背が高い男がこっちに近づいて来てる。
サングラスして顔隠してるけど全身の造形が良すぎて目立つから注目されてんじゃねーか。
脚が長いんだって。

着飾った女子達が色めきだって目で追ってる。

「矢作君成人おめでとう。」

「ソールバルグさんありがとうございます。」

ニコって笑った桜が俺のほっぺたにキスした後左手をとって唇を押し当てた。

「海、成人おめでとう。」

「おい」

周りが軽くザワザワしてたのが止んだだろそういうのは表でやんなって…

桜がサングラスしてる目で俺の後ろの何かを見てるな。

後ろ振り向いたら飯島達が驚愕の顔でこっち見てた。



やりやがったなコイツ…






ちょっと離れた駐車場に向かう間、矢作が桜にちゃんと断ってましたよとか説明してやんの。
こういう時矢作は俺がまずい目に遭わないようにってしてくれるんだよな。

桜は満足そうに矢作の話を聞いてた。

んでもって桜は人が大量に居る中俺の手を離さないでやんの。
俺も振り解いたりとかしないんだけど。

…飯島が俺に話しかけてた現場完全に見てたってことだよな。

すれ違う人からの成人おめでたいわねーっていう祝福の空気の後になんで手繋いでんの?
って感じで見てくる。

「あれ水泳の人だ」って言ってる人も何人かいたな。

矢作と解散しても車までずっと手は繋がれたままだった。

スマホがブーっと震えたなとおもったら"成人祝いにド級の牽制"って矢作からメッセージ来たし桜は車の中で笑いながら親達に「海が告白まがいされてた」とか言ってた。




海が成人式を迎える。
何を着せようかの家族会議が楽しくて白熱してしまう。

俺はいろんな海が見たい。

楽にスーツがいい、と海は言ったが、母さんが袴姿見たいと言ったら海はじゃあそうする。
と答えた。
昔から海はうちの母親のお願いに非常に弱い。

どうせ一回しか着ないからレンタルで済ませるのはいいとして、今度は色味で話し合いになったが、海らしい青い羽織があって、海以外の全員がそれで納得した。

「着付け何時集合になるのかしらね、これレンタルしたとこ持って行ったらやって貰えるって書いてあったけど…」

「集合…?」

「女の子じゃないから流れ作業で男の子はまとめて着付けになるかもねぇ。」

楓さんが衣装セットの中に入っていた用紙を確認しているのを見て海の顔色がどんどん悪くなっていった。

海の身体には俺がつけたキスマークがある。
それを見られる事になるかもしれない事に青ざめていた。

「あ、楓さん、不特定多数の所で海を着替えさせるの俺が嫌なので知り合いに頼んでもいいですか?」

「急でも大丈夫かな。」

「大丈夫です。仲良い人だし、ヘアセットも着付けも出来るの確認済みなので。」

「そう?ならお願いしちゃおっかな。」

海はホッとした顔になっていた。

当日、羽織袴を着せ付けられた海は少し緊張した面持ちだった。
左手には結婚指輪がはまっている。

「大人認定されるって不思議な気持ちだな。」

今日から大っぴらに飲酒解禁だ!って親達に言っていた。

本来なら式典が終わってから同窓会があるようだが、俺は自分の時を思い出してしまって海を行かせるのが嫌だった。

同窓会とは名ばかりの飲み会で、酔った同級生の女に擦り寄られた。

「ねー、一回だけでいいからしようよぉ。」
酒に酔って身体を押し付けてこられた。
その女は結婚指輪をはめて居た。

トイレで盛ってる奴らも居た。

行ってきたら?と海に言ったが、海は何かをかぎ取って「俺行かない。」と言った。

「そしたら家でお祝いの飲み会しようか!」

と楓さんが言ったのでホッとした。

きっと、今の海を見て変な気を起こす奴は必ず出る。
成人式、という特殊な環境で、久しぶりに会う同級生に一度だけの関係の誘いをかけられるかもしれない。

想像するだけで怒りが湧くし、気持ちが落ち込む。

式場まで海を送り届け、車から後ろ姿を見送った。

仲のいい友人3人がすぐに海に近寄ってきて揃って会場に入って行った。

式典の間は5人で喫茶店に入って時間を潰した。

「そろそろ終わるね。メッセージ入れとこうかな。」

海を迎えに再び会場へと向かった。
なんとなく胸騒ぎがする。

「俺迎えに行ってくる。」

車を出て駐車場から式場の出入り口を目指した。

大量に人は居たが、海をすぐに見つけられた。
同級生らしき女に話しかけられていた。

…うなじがざわついて不快感が沸いた。

女が何か食い下がって居たようだが、海は首を振って断ってる様子だ。

矢作君がすぐに海に話しかけてからすぐ側まで来て居た俺に気が付いた。

「矢作君成人おめでとう。」

「ソールバルグさんありがとうございます。」

俺はすぐに海の近くに居る、さっき海に話しかけて居た女を見た。
名残惜しそうにずっとこっちを見ている。

海の頬に唇を押し付け、左手にも同じ様にした。

「海、成人おめでとう。」

「おい」

こちらを見て居た女が驚いた顔になった。

そうだ、よく見ろ。
お前がちょっかいをかけた海は俺の物だ。

海が後ろを振り返った後、俺をみた。

そのまま左手を引いて駐車場まで連れて行く。

「あの、ソールバルグさん、海君ちゃんと誘い断ってましたんで…」

海が俺を不安にさせる様な行動を取らないのは理解している。
ただその海にちょっかいをかけて来る存在が許せない。

腹が立つのは止められなかった。

「矢作じゃあまた今度なー!」

「海君また!ソールバルグさん失礼します。」

駐車場で矢作君と解散したが手は離さなかった。

「桜、本当になんもねーよ。」

と言って海は車に乗り込んだ。

親達がなんかあったのか聞いてきたから、

「海が告白まがいされてた。」

と言うと海はギョッとした顔を一瞬していた。 
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