蛇と刺青 〜対価の交わりに堕ちていく〜

寺原しんまる

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鈴子のやりたいこと

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 不安定だった鈴子の精神状態も落ち着きをみせた頃、季節は既に秋になっていた。外は冬に向けて少しずつ気温も低くなり、朝晩はかなり気温が下がる日もある。


 定職に就かないでフラフラする事を好まなかった鈴子は、元町の高架下にある環の店で店番をしたり、環の縫製の手伝いをしたりしていた。本当は何処かでまたウエイトレスか何かをしようとしていた鈴子だったが、ジェイが「何かあったらどうするんだ」と酷く反対し、自分の目の届く場所でならと、環の店で働く許可を「しぶしぶ」出したのだった。


「しっかし、スネークの過保護もここまでくると異常!」


 奈菜は環の店に鈴子の顔を見に訪れる回数が増えて、時々店員と間違われるほどだ。


「ハハハ……。私は環さんのお手伝いが楽しいから別に気にしてません」


 すっかりと環の作る服を着慣れた鈴子は、「ゴスロリ・パンクの店員さん」として顧客に知られている。勿論、普段は昔からのユルユル・ファッションで、店に出るときだけ環の作る服を着ているのだった。


「鈴子、ちょっとパターン引くの手伝ってくれへん?」


 奥から環の声が聞こえる。鈴子は「はい!」と元気に返事をして、環の製図用テーブルに向かって行く。


「すみません~! この服の色違いありますか?」


 店内に居た客が奈菜に尋ねる。それを慣れた様子で「はいはい、ちょっと待って下さいね」と接客する奈菜は「私も時給が欲しいくらい」と呟くのだった。


「鈴子、帰る時間だろ」


 店にジェイが現れる。ジェイは鈴子が出勤する時は必ず店まで送り迎えをしているのだ。自分の店がまだ開いている時間に環の店は閉店するのだが、ジェイは純平に留守を頼んでまで鈴子を迎えに来るのだった。


「姫~! 騎士のお迎えですよ~!」


 環は揶揄うように大声を張り上げる。鈴子は奥から恥ずかしそうに帰り支度をして出てきた。


「環さん……、恥ずかしいから止めてください」


 鈴子の顔は耳まで赤くなっている。今日はパンクなロングTシャツにダメージデニムのショートパンツ。革のライダースジャケットにエンジニアブーツの鈴子。ジェイの横に立っても違和感はなく、寧ろ可愛いでこぼこカップルに見える。


 ジェイも今日は皮のライダースジャケットにエンジニアブーツだったので、まるで揃えているかのようで「バカップルだ!」と奈菜が揶揄うのだった。


「ジェイ。今日、鈴子の背中の刺青見たで。エエできやんか! 完成まではまだかかりそうやけど、お前の代表作になりそうやなあ」


 環はジェイを優しく見つめている。その視線を恥ずかしそうに見返すジェイは「ありがとうございます」と告げるのだ。その様子を見つめる鈴子は嬉しそうにジェイの手を握り、「帰ろう」と告げるのだった。


「鈴子、環さんの店で働くのは楽しいのか?」


 歩きながらジェイが鈴子に尋ねる。鈴子はジェイの手を握る自身の手に少し力を入れた。それと同時にジェイを見上げると、既にジェイは鈴子を見つめていたのだ。


「うん、楽しい……。最近はパターンを引くのを教えて貰ってるの」

「鈴子がパターン? ああ、鈴子は真面目だから製図系にはもってこいだな。環さんもよく分かってるじゃないか」

「私に向いているの? そう思う?」


 少し目を輝かしている鈴子は真剣そうにジェイに尋ねるが、ジェイはそれを見てハハハと笑い出す。


「俺がというか、鈴子はどう思うんだ? やってて楽しいのか?」

「……うん。接客より楽しい」


 ジェイは鈴子の頭をポンポンと叩き「それが答えだろ」と鈴子に告げるのだった。


「鈴子。服飾のパタンナーになりたいなら、専門学校に行った方が良いかもしれないぞ。環さんに聞いてみろ」


 鈴子は目をクリクリさせて頭を左右に振る。


「駄目よ。私みたいな地味な女が服飾の専門学校なんて、場違いにも程があるわ……」

「見かけなんて関係無い。鈴子次第だよ」


 その言葉を聞いた鈴子は少し黙りこみ何かを考えているようだった。ジェイは「直ぐに答えを出さなくてもいい」と鈴子を抱きしめて担ぎ上げた。


「キャー! ジェイ! 何するのよ……!」


 元町の街中でいきなり抱き上げられた鈴子は周囲の注目の的になった。しかも担ぎ上げている人物はモデルのような美形の長身の男なのだから、更に注目を浴びて遠くからも指を差されるのだった。


「お揃い着てるよ、あの二人!」

「何かのワンシーンみたい」


 などの声も聞こえてきて、鈴子は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。


「……もう、ジェイ下ろして!」


 鈴子を数回グルグル回したジェイは「はいはい、姫様」と鈴子を地面に戻す。地面に戻った鈴子は、全速力でその場を離れて行き、ジェイから離れて行く。


 勿論、鈴子の全速力などジェイにとっては早歩き程度なので、速攻で捕まってしまうのだった。


「鈴子~! 悪かったって。余りに鈴子が可愛いから『高い高い』がしてみたくなったんだよ。俺はされた事ないし、どんなものなのかなってさ」


 昨日二人で見たドラマでそんな場面があったなと思い出した鈴子は、「もう……」と溜め息を吐いた。


 ジェイは施設で育ったためか、親子のふれ合い的な経験をあまりしていなかった。それまでそういったモノにも関心は持たなかったし、見ようとも思わなかったのだが、最近はテレビで家族愛的なモノを見ると興味深そうにしているのだった。


 テレビの中で子供が親と楽しそうに遊んでいる場面を、無言でジーッと観ているジェイを、鈴子は少し複雑な気持ちで見ていた。ジェイに家族愛について質問されても答えられない鈴子。ジェイよりはまだマシな環境だったが、それでも自分も愛されて育った訳ではないので、ジェイに正しく説明する事が出来ないのだ。二人で画面を見ながら頭を傾ける有様は滑稽だが、本人達は至って真剣なのかもしれない。


 鈴子の頭を撫でるジェイ。鈴子はため息交じりに訪ねる。


「ジェイは私を子供扱いしたいの?」

「はあ? 何言ってるんだ! こんなエロい子供が居てたまるかよ! 毎晩、エロ過ぎて俺がもたないくらいだ!」


 真顔のジェイは鈴子に訴える。裏通りに居るからと言っても、そとで「エロい」発言は恥ずかしくて、鈴子は「ジェイの変態!」と告げてまたしても走って逃げていくのだった。


 
 
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