51 / 62
鈴子のやりたいこと
しおりを挟む
不安定だった鈴子の精神状態も落ち着きをみせた頃、季節は既に秋になっていた。外は冬に向けて少しずつ気温も低くなり、朝晩はかなり気温が下がる日もある。
定職に就かないでフラフラする事を好まなかった鈴子は、元町の高架下にある環の店で店番をしたり、環の縫製の手伝いをしたりしていた。本当は何処かでまたウエイトレスか何かをしようとしていた鈴子だったが、ジェイが「何かあったらどうするんだ」と酷く反対し、自分の目の届く場所でならと、環の店で働く許可を「しぶしぶ」出したのだった。
「しっかし、スネークの過保護もここまでくると異常!」
奈菜は環の店に鈴子の顔を見に訪れる回数が増えて、時々店員と間違われるほどだ。
「ハハハ……。私は環さんのお手伝いが楽しいから別に気にしてません」
すっかりと環の作る服を着慣れた鈴子は、「ゴスロリ・パンクの店員さん」として顧客に知られている。勿論、普段は昔からのユルユル・ファッションで、店に出るときだけ環の作る服を着ているのだった。
「鈴子、ちょっとパターン引くの手伝ってくれへん?」
奥から環の声が聞こえる。鈴子は「はい!」と元気に返事をして、環の製図用テーブルに向かって行く。
「すみません~! この服の色違いありますか?」
店内に居た客が奈菜に尋ねる。それを慣れた様子で「はいはい、ちょっと待って下さいね」と接客する奈菜は「私も時給が欲しいくらい」と呟くのだった。
「鈴子、帰る時間だろ」
店にジェイが現れる。ジェイは鈴子が出勤する時は必ず店まで送り迎えをしているのだ。自分の店がまだ開いている時間に環の店は閉店するのだが、ジェイは純平に留守を頼んでまで鈴子を迎えに来るのだった。
「姫~! 騎士のお迎えですよ~!」
環は揶揄うように大声を張り上げる。鈴子は奥から恥ずかしそうに帰り支度をして出てきた。
「環さん……、恥ずかしいから止めてください」
鈴子の顔は耳まで赤くなっている。今日はパンクなロングTシャツにダメージデニムのショートパンツ。革のライダースジャケットにエンジニアブーツの鈴子。ジェイの横に立っても違和感はなく、寧ろ可愛いでこぼこカップルに見える。
ジェイも今日は皮のライダースジャケットにエンジニアブーツだったので、まるで揃えているかのようで「バカップルだ!」と奈菜が揶揄うのだった。
「ジェイ。今日、鈴子の背中の刺青見たで。エエできやんか! 完成まではまだかかりそうやけど、お前の代表作になりそうやなあ」
環はジェイを優しく見つめている。その視線を恥ずかしそうに見返すジェイは「ありがとうございます」と告げるのだ。その様子を見つめる鈴子は嬉しそうにジェイの手を握り、「帰ろう」と告げるのだった。
「鈴子、環さんの店で働くのは楽しいのか?」
歩きながらジェイが鈴子に尋ねる。鈴子はジェイの手を握る自身の手に少し力を入れた。それと同時にジェイを見上げると、既にジェイは鈴子を見つめていたのだ。
「うん、楽しい……。最近はパターンを引くのを教えて貰ってるの」
「鈴子がパターン? ああ、鈴子は真面目だから製図系にはもってこいだな。環さんもよく分かってるじゃないか」
「私に向いているの? そう思う?」
少し目を輝かしている鈴子は真剣そうにジェイに尋ねるが、ジェイはそれを見てハハハと笑い出す。
「俺がというか、鈴子はどう思うんだ? やってて楽しいのか?」
「……うん。接客より楽しい」
ジェイは鈴子の頭をポンポンと叩き「それが答えだろ」と鈴子に告げるのだった。
「鈴子。服飾のパタンナーになりたいなら、専門学校に行った方が良いかもしれないぞ。環さんに聞いてみろ」
鈴子は目をクリクリさせて頭を左右に振る。
「駄目よ。私みたいな地味な女が服飾の専門学校なんて、場違いにも程があるわ……」
「見かけなんて関係無い。鈴子次第だよ」
その言葉を聞いた鈴子は少し黙りこみ何かを考えているようだった。ジェイは「直ぐに答えを出さなくてもいい」と鈴子を抱きしめて担ぎ上げた。
「キャー! ジェイ! 何するのよ……!」
元町の街中でいきなり抱き上げられた鈴子は周囲の注目の的になった。しかも担ぎ上げている人物はモデルのような美形の長身の男なのだから、更に注目を浴びて遠くからも指を差されるのだった。
「お揃い着てるよ、あの二人!」
「何かのワンシーンみたい」
などの声も聞こえてきて、鈴子は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
「……もう、ジェイ下ろして!」
鈴子を数回グルグル回したジェイは「はいはい、姫様」と鈴子を地面に戻す。地面に戻った鈴子は、全速力でその場を離れて行き、ジェイから離れて行く。
勿論、鈴子の全速力などジェイにとっては早歩き程度なので、速攻で捕まってしまうのだった。
「鈴子~! 悪かったって。余りに鈴子が可愛いから『高い高い』がしてみたくなったんだよ。俺はされた事ないし、どんなものなのかなってさ」
昨日二人で見たドラマでそんな場面があったなと思い出した鈴子は、「もう……」と溜め息を吐いた。
ジェイは施設で育ったためか、親子のふれ合い的な経験をあまりしていなかった。それまでそういったモノにも関心は持たなかったし、見ようとも思わなかったのだが、最近はテレビで家族愛的なモノを見ると興味深そうにしているのだった。
テレビの中で子供が親と楽しそうに遊んでいる場面を、無言でジーッと観ているジェイを、鈴子は少し複雑な気持ちで見ていた。ジェイに家族愛について質問されても答えられない鈴子。ジェイよりはまだマシな環境だったが、それでも自分も愛されて育った訳ではないので、ジェイに正しく説明する事が出来ないのだ。二人で画面を見ながら頭を傾ける有様は滑稽だが、本人達は至って真剣なのかもしれない。
鈴子の頭を撫でるジェイ。鈴子はため息交じりに訪ねる。
「ジェイは私を子供扱いしたいの?」
「はあ? 何言ってるんだ! こんなエロい子供が居てたまるかよ! 毎晩、エロ過ぎて俺がもたないくらいだ!」
真顔のジェイは鈴子に訴える。裏通りに居るからと言っても、そとで「エロい」発言は恥ずかしくて、鈴子は「ジェイの変態!」と告げてまたしても走って逃げていくのだった。
定職に就かないでフラフラする事を好まなかった鈴子は、元町の高架下にある環の店で店番をしたり、環の縫製の手伝いをしたりしていた。本当は何処かでまたウエイトレスか何かをしようとしていた鈴子だったが、ジェイが「何かあったらどうするんだ」と酷く反対し、自分の目の届く場所でならと、環の店で働く許可を「しぶしぶ」出したのだった。
「しっかし、スネークの過保護もここまでくると異常!」
奈菜は環の店に鈴子の顔を見に訪れる回数が増えて、時々店員と間違われるほどだ。
「ハハハ……。私は環さんのお手伝いが楽しいから別に気にしてません」
すっかりと環の作る服を着慣れた鈴子は、「ゴスロリ・パンクの店員さん」として顧客に知られている。勿論、普段は昔からのユルユル・ファッションで、店に出るときだけ環の作る服を着ているのだった。
「鈴子、ちょっとパターン引くの手伝ってくれへん?」
奥から環の声が聞こえる。鈴子は「はい!」と元気に返事をして、環の製図用テーブルに向かって行く。
「すみません~! この服の色違いありますか?」
店内に居た客が奈菜に尋ねる。それを慣れた様子で「はいはい、ちょっと待って下さいね」と接客する奈菜は「私も時給が欲しいくらい」と呟くのだった。
「鈴子、帰る時間だろ」
店にジェイが現れる。ジェイは鈴子が出勤する時は必ず店まで送り迎えをしているのだ。自分の店がまだ開いている時間に環の店は閉店するのだが、ジェイは純平に留守を頼んでまで鈴子を迎えに来るのだった。
「姫~! 騎士のお迎えですよ~!」
環は揶揄うように大声を張り上げる。鈴子は奥から恥ずかしそうに帰り支度をして出てきた。
「環さん……、恥ずかしいから止めてください」
鈴子の顔は耳まで赤くなっている。今日はパンクなロングTシャツにダメージデニムのショートパンツ。革のライダースジャケットにエンジニアブーツの鈴子。ジェイの横に立っても違和感はなく、寧ろ可愛いでこぼこカップルに見える。
ジェイも今日は皮のライダースジャケットにエンジニアブーツだったので、まるで揃えているかのようで「バカップルだ!」と奈菜が揶揄うのだった。
「ジェイ。今日、鈴子の背中の刺青見たで。エエできやんか! 完成まではまだかかりそうやけど、お前の代表作になりそうやなあ」
環はジェイを優しく見つめている。その視線を恥ずかしそうに見返すジェイは「ありがとうございます」と告げるのだ。その様子を見つめる鈴子は嬉しそうにジェイの手を握り、「帰ろう」と告げるのだった。
「鈴子、環さんの店で働くのは楽しいのか?」
歩きながらジェイが鈴子に尋ねる。鈴子はジェイの手を握る自身の手に少し力を入れた。それと同時にジェイを見上げると、既にジェイは鈴子を見つめていたのだ。
「うん、楽しい……。最近はパターンを引くのを教えて貰ってるの」
「鈴子がパターン? ああ、鈴子は真面目だから製図系にはもってこいだな。環さんもよく分かってるじゃないか」
「私に向いているの? そう思う?」
少し目を輝かしている鈴子は真剣そうにジェイに尋ねるが、ジェイはそれを見てハハハと笑い出す。
「俺がというか、鈴子はどう思うんだ? やってて楽しいのか?」
「……うん。接客より楽しい」
ジェイは鈴子の頭をポンポンと叩き「それが答えだろ」と鈴子に告げるのだった。
「鈴子。服飾のパタンナーになりたいなら、専門学校に行った方が良いかもしれないぞ。環さんに聞いてみろ」
鈴子は目をクリクリさせて頭を左右に振る。
「駄目よ。私みたいな地味な女が服飾の専門学校なんて、場違いにも程があるわ……」
「見かけなんて関係無い。鈴子次第だよ」
その言葉を聞いた鈴子は少し黙りこみ何かを考えているようだった。ジェイは「直ぐに答えを出さなくてもいい」と鈴子を抱きしめて担ぎ上げた。
「キャー! ジェイ! 何するのよ……!」
元町の街中でいきなり抱き上げられた鈴子は周囲の注目の的になった。しかも担ぎ上げている人物はモデルのような美形の長身の男なのだから、更に注目を浴びて遠くからも指を差されるのだった。
「お揃い着てるよ、あの二人!」
「何かのワンシーンみたい」
などの声も聞こえてきて、鈴子は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
「……もう、ジェイ下ろして!」
鈴子を数回グルグル回したジェイは「はいはい、姫様」と鈴子を地面に戻す。地面に戻った鈴子は、全速力でその場を離れて行き、ジェイから離れて行く。
勿論、鈴子の全速力などジェイにとっては早歩き程度なので、速攻で捕まってしまうのだった。
「鈴子~! 悪かったって。余りに鈴子が可愛いから『高い高い』がしてみたくなったんだよ。俺はされた事ないし、どんなものなのかなってさ」
昨日二人で見たドラマでそんな場面があったなと思い出した鈴子は、「もう……」と溜め息を吐いた。
ジェイは施設で育ったためか、親子のふれ合い的な経験をあまりしていなかった。それまでそういったモノにも関心は持たなかったし、見ようとも思わなかったのだが、最近はテレビで家族愛的なモノを見ると興味深そうにしているのだった。
テレビの中で子供が親と楽しそうに遊んでいる場面を、無言でジーッと観ているジェイを、鈴子は少し複雑な気持ちで見ていた。ジェイに家族愛について質問されても答えられない鈴子。ジェイよりはまだマシな環境だったが、それでも自分も愛されて育った訳ではないので、ジェイに正しく説明する事が出来ないのだ。二人で画面を見ながら頭を傾ける有様は滑稽だが、本人達は至って真剣なのかもしれない。
鈴子の頭を撫でるジェイ。鈴子はため息交じりに訪ねる。
「ジェイは私を子供扱いしたいの?」
「はあ? 何言ってるんだ! こんなエロい子供が居てたまるかよ! 毎晩、エロ過ぎて俺がもたないくらいだ!」
真顔のジェイは鈴子に訴える。裏通りに居るからと言っても、そとで「エロい」発言は恥ずかしくて、鈴子は「ジェイの変態!」と告げてまたしても走って逃げていくのだった。
2
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる