やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第6話『人類でさえなければ良い』

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 はるか昔に大地を踏みしめていたらしい人類は、機械生命体によってほぼ殲滅せんめつされ、生き残った人々はみな地下空間で生きることになって。
この世界は誰が名付けたか、《高天原たかまがはら》──その名の通り空も大地も、まるで彼方かなたの高みにある。

(それでも先人たちのおかげで、今の地下生活は快適そのもの)

点在する八つの居住地をすべて足しても人口は1万人程度で──。
地上時代に比べて、規模はずいぶん小さくなったようだけど。

(地上の本でよく見る「戦争」だとか「疫病えきびょう」だとか「飢饉ききん」だとか「貧困」だとかさ。そういう物騒なものとは無縁だよなあ)

必要なものは支給され、環境は美しく整備され、病気やケガも無償で治してもらえて、犯罪もほとんど発生しない。
すべては都にいらっしゃる、まだ見ぬ教主様が管理する人工知能が支えてくれてるワケで。

(たまに「もう少し運動しましょう」って連絡が来たり、イロイロ筒抜つつぬけなのか?っていう不安はあるけど……。それをおぎなってあまりある平和、だよな)

こんな理想的な世界だから、危険をおかしてでも「機械生命体を倒して地上へ戻ろう」なんて主張する者は現れない。

(俺だって地上には憧れてるけどね?
 出来そうもない勇敢ゆうかん妄想もうそうは、物語の中だけで楽しむのが正解ってもんだろ。……それに)

おそらくかつての人間たちは、過度に肥大ひだいした欲望の果てに、機械生命体を生み出してしまったんだろう。
地上時代はいつも、無いものねだりで争ってる印象だ。

同じあやまちを犯すのは良くない。
俺は「るを知る」っていうのが、幸せの秘訣ひけつだと思うから。
この日常さえ守れたら、それだけでいい。

またしても手元の本の一節を思い返す。

うしなったものを取り戻すことこそ人生、かあ──。
 まあ代わりの存在を求めずにはいられない、って意味でもあるんだろうけど。姉さんの代わりはいないし、死者を蘇らせる……なんてのも現実的じゃない)

「……この本、いまいち」

そうつぶやいて、柚芽ゆめお手製のフクロウっぽい怪物が描かれたしおりを挟んで閉じ、着物のふところにしまった。

夢物語を読むのは好きだけど、それを現実に持ち込む気は一切ない。

◆◆◆◆

 本日分の日光浴を済ませた俺は、明日の検査に向けて早めに休もうと、あい色の羽織はおりについた草を払う。

学生の身分を卒業し、今は春休みなので夜更よふかしをしがちだったけども。
そろそろ就職するんだから改めないと。

(そう、俺は──《天渡衆あまわたりしゅう》になって地上へ出る……たぶん!)

明日は一年に一度の、十八歳になった者すべてが受ける適正検査実施日。
あらゆる仕事の中で何に向いているかを示すだけじゃなく、花形職…《天渡衆》の一員になれるかどうかの合否が出るのだ。

それは地上へ出ることが許された唯一の存在─―鳥獣ちょうじゅうの身体で空を舞い大地をる彼らは、みんなの憧れの的。

地上には無慈悲に人類を殺戮さつりくし尽くしたという機械生命体が今も跋扈ばっこしているけど、おもむく方法が一切ないというワケでもない。
要はのだから。
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