やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第23話『契約成立』

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 |紫の瞳をした悪魔は、話がついたとばかりに上機嫌で手を叩いた。

「はい! じゃあこんな感じで契約しよっ。いや~、魔素まそが出てくるの、楽しみだなぁ。
 良かった良かった。ありがとねぇ、くれないくん」

(そういえば、コイツの一番の目的はソレっぽかったよな。なんだかすっかり忘れてた)

ベルフェゴールが俺に手をかざして、聴き取れない謎の言葉をつぶやいている。
すると、奇妙な黒い霧が周囲を包んで───まとわりついたソレが、俺と悪魔の中に入っていったかと思うと。……うん。

「……特に何か起きた感じはしないな。っていうかお前、強制送還されなかったのか」

結構ガッカリした。コイツがうっかり嘘ついてたら楽なのにな、って。

「!? この後に及んで、まだぼくのこと疑ってたの……?
 今のはね、契約内容をお互いに刻みつけたんだよぉ。
 契約書を発行するとか、下書きにあったけど。紙じゃ失くすこともあるでしょ?」

なるほど、それはまあそうか。……よし。
俺は椅子から立ち上がると、寝台に座っていた悪魔を──思い切り拳で殴り飛ばした。
柚芽の動きをなぞって、腰の捻ったイイやつが入ったと思う。

「……ちょっとぉ!? なんで!?」

涙目になりながら上目遣いで俺をにらむ悪魔に、さらりと言ってやる。

「本当にやり返さないのか、一応確認しようかと。
 おいクソ悪魔? 殴り返してみろよ」

「無理だって分かってるでしょ!
 そりゃ契約がきちんと作用するって安心させてあげたいけど……。
 こういうの、《悪魔の証明》って言うんだよぉ! 
 とりあえず前払い分の一項目くらい、読んでみたら!?」

「指図するな」

そう強気に吐き捨てたものの、どうにも不安がぬぐえない。
裁判所だとか第三者の立ち合いだとか、そういう措置がとれる状況じゃないので……。
「この契約は何に担保たんぽされるんだよ」と確認したら、「悪魔契約法にのっとってるんだよぉ」と言われた。なんだよソレ。

(とにかく『ラツィエルの書』は8回しか使えない貴重な引換券だから、慎重にいかないと……。
 契約がきちんとされてるのか、時々試して自分を納得させるしかない)

難しい顔をして考え込んでいたらしい。悪魔は「眉間にシワ~」と俺の顔に触れた。

「触るな」
「………ねぇ、ぼくが穏便に契約したかった理由って、魔力の節約だけじゃないよ?
 出来ればちゃんと納得してほしかったの。じゃないと、一緒に目的に向かって頑張れないでしょ?
 機械生命体がいなくなれば、きみたちの世界だって良いこと尽くめじゃない」

当然、その通りだった。
しかも『ラツィエルの書』があれば、亡くなった人だって………。そう思った俺の空気を察したのか、優しい声音で語りかけてくる。

「これからは仲良くしよぉ? いきなりは難しくても……まずはベルって呼んでよ?」
「呼ばない。お前の今後次第で考える」

警戒を解くつもりはないけど、これから他人の前でやり取りすることも多いだろう。
特に朔摩さくま義兄にいさんたちの前でこの調子だと、色々勘繰られてしまう。上手くやらないと、と思い直した。

……ふと。余計なことでも質問せずにはいられないので、聞いてみる。
 
「なあ、契約書に盛り込んだ条文、『ラツィエルの書』を俺が正式にもらった時のやつなんだけど。
 後でモメたらお前が責任とるって書いた所、なんで修正したがらなかったんだ?」

もちろんコイツに拒否されたら困ったところなんだけどさ。
だって後から本来の持ち主(神?)にイチャモンつけられるのは勘弁だし。必要な所だけ読み終わったら返却するのは構わないけど。

「ん~? 別にいいよぉ、気にしてくれるの? 初めてぼくに優しくしてくれたね」
「そうじゃない。普通に考えて、又貸しの又貸し……どころか譲渡なんて、友達でもキレられる」

それにしても気持ち悪い発想する男だな。露骨に苦い顔をしておく。

「あははぁ、友達って! ……大丈夫だよ。ぼくら悪魔は、神への反逆者って言ったでしょ? 
 ──それにぃ、僕の失態?の責任は、上司であるサタンがとるべきじゃない? 
 又貸ししたのは、そもそもアッチだしぃ」

それは言えてるかもしれない。でも、やっぱり。

「お前の上司、かわいそう」
「いやいや、部下に一方的に無茶ぶりしてくる方も、大概じゃない!?」

それも言えてるかもしれない。大体、ベルフェゴールは適任だったのか? 
信頼とは程遠い存在をだと思うけど……悪魔はみんな大体こうなんだろうか。

そう思って、じっと見つめてみると。相手は何やら思い出したように俺に尋ねてきた。

「………そいえばさぁ、さっきね。きみの端末こわしたり、扉イジったりした時に気づいたんだけど。
 |《颯《はやて》》って何ぃ? 管理者情報のトコにあったの~」

よくもまあ抜け抜けと……と若干イラつきつつ。
もう機械類をイジられる心配はないから、教えてもいいかと判断して答える。
どうせこの先、知るだろうし。

「いまの教主様のお名前だ。すべての人工知能を含む機械類を設計・管理されている。
 都にいらっしゃって、全局を束ねるお方で──俺たち人類の最高責任者ってところか」

お名前ってあんまり聞かないから、忘れてたな。
アッサリ答えたせいか、悪魔はやたらウキウキと反応する。

「! なるほどぉ、さしずめ君たちの偉大なる《神》ってトコ? 
 人類を見守り、支えて、導く……みたいな。
 そういうプログラム、つくりをしてる印象なんだよねぇ」

うーん、正直ピンと来ない。
知らないものに似てるかって聞かれても、そりゃ困るだろと呆れる。

「その《神》とかいうのに相当するかは分からないけど。
 おひとりで一切をになわれてるから、偉大な存在ではあるか」

「───えっ、ひとり? ひとりで全部、年中無休のワンオペってことぉ? 
 どんなブラック企業よ、そっちの上司のが、かわいそう……」

なぜかギョッとした顔をされた。そんなにおかしなことなのか?
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