やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

文字の大きさ
28 / 34
第1章

第27話『匂う』

しおりを挟む
 ………というのが、現状で。
あれから朔摩義兄さんと帰宅する間、俺は生きた心地がしなかった。尋問されるに違いない。
だけど、意外にも義兄さんはそのことには触れず。

「今日は地上で危ない目に遭ったんだ、ゆっくり休むんだよ」
「もしかしたら見張りの件で、少し処罰があるかもしれないけど。あまり気落ちしないようにね」
「しばらく俺は帰れないだろうから、八兼や柚芽を泊めて過ごすといい」

と、異常に甘やかされた。いつもなら相当叱って来るはずなのに。

(──いっそ、殴り飛ばして欲しかった。俺の……色んな嘘を重ねるだろう未来ごと)

だから(一方的に俺だけ)気まずい雰囲気こそ残っているものの、せめて《地の行路》まで見送ろうと決めたのだった。
………ベルフェゴールに「余計な口を利くな」と釘を刺したい、というのもある。

◆◆◆◆

《地の行路》とは、里同士をつなぐ長大な地下通路。酸素の供給に膨大な電力を使うらしい。
非常に厳格に管理されており、一定の肩書を持つか、特殊技能もち、あるいは都へ招かれるほど優秀な学生でなければ、通ることが許されない。

(大人気の歌姫だった白梅姉さんは、わりとよく使ってたから。入口までは、よく見送ってたな……)

しかし、この世界における最大の行事である、《祭り》の時だけは例外で、二十年に一度だけ自由に人々が行き交うことができる。
俺はまだ体験したことがないのだけど、それはまあ大変な賑わいだとかで。

それぞれの里が独自色を打ち出した催しや特産品を誇り、みんなこの日を心待ちにしている。人生に四度体験するのが人類にとって最も幸せなことの一つとして、挙げられるくらいに……。

◆◆◆◆

そんなことを考えているうちに、朔摩義兄さんと《地の行路》に到着した。ここに来るのは久しぶりだ。
すでに彦名司令と保衛本部長は到着しており、義兄さんとふたりで敬礼する。
───もちろん警備のため、秩序保全局員のほとんどが集まって、八兼と休職中の柚芽までいた。
俺たちが最後ということで、義兄さんが口を開く。

「若輩の身でありながら、遅参しまして申し訳ございません」
「ううん~、まだ全然予定より早いよ。僕たち年寄りは早起きでダメだねえ」
「お早う、朔摩副司令。件の男もすでに到着しているから、時間前だが出発しようか」

専用車の中を覗くと、金髪の頭がちらりと見えた。
身じろぎもしないことから、厳重に縛られてるんだろう──いや、アイツのことだから、眠ってるだけかもしれないと考え直す。

(さすがに話せる機会は作れないか。付いていって監視しないと、本当はみんなが心配だけど……。
4名しか乗れない以上、現実的に俺が割り込める余地はない、か)

もっと何か方法は無かっただろうかと、少し落ち込む。これからはもっと頭を使わないと。

都へ行くまでは、道中《伊予》と《淡路》という二つの里を経由する必要がある。
それぞれ魅力的な特色のある場所らしいけど、今回はもちろん観光など出来るワケもなく。一気に進むらしいから、それはそれで大変だろう。

そうして彦名司令、保衛本部長、朔摩義兄さんが乗り込んだ後。
全員が敬礼をし、さあいざ行かんとなった時────。

「この車両では通行が許可されません」

と、《地の行路》を自動制御する機械から告げられた。
近くに控えていた管理員が慌てて、機材をあれこれと調べている。
どうやらお隣の伊予と、都にも通信を入れているようだ。

◆◆◆◆

「この車両では通行が許可されません」

(もう一時間近く経ってるけど………。まさかベルフェゴールが壊したのか? 
いや、それは出来ない契約のはずだし。万が一、契約に穴があったとしても……。
アイツが都、というか教主様に会いたがらない理由が無い気がする)

彦名司令が「ちょっと一回、僕らは降りましょうか~」と言い、困惑した顔の保衛本部長、無表情の朔摩義兄さんと一緒に降車する。

「この車両では通行が許可されません」
「んっん~、じゃあお客人にも降りてもらいましょうかねえ」

保衛本部の人員に引っ張られた悪魔……両手両足に電子錠をかけられて眠っている──も降車。起きる気配が無い。

「専用車両から通行許可の信号を受信しました」
「「「「……………………」」」」

(誰が見ても原因はコイツじゃん───! 何やってんだよ!!!)

朔摩義兄さんがゴミを見るような視線と共に、ベルフェゴールに低い声で尋ねる。

「起きろ。どういうことだ」
「………んん? ───え? 何があったのぉ?」
「白を切るな。機材に魔法とやらを使ったのか?」
「な、なんでぼくがそんな面倒いことするの。それに紅くんと、約束したよ? 
今後一切、許可なく設備をイジったりしないってぇ。人にも、何にもしないよ」

契約があるから本当だろうけど、おそらくこの場の全員が、信用しようのない言い訳をするので……見かねて俺も口を出す。

「あ、あの。俺もコイツが何かしたとは思えません。
 魔法がどこまで何を出来るかはさておき、こうして大人しく電子錠をかけられたままなワケですから」
「確かに何でもできるなら、すでに脱出しているでしょうねえ」

さすが司令、聡明です……知れば知るほど信頼してしまう。そして、このお方は言葉を続ける。

「しかし困りました、都からは絶対に連行するよう、珍しいことに強く通達されているのです。
こうしていても仕方ありませんから、秩序保全局に戻ってもう一度どうするか考えましょう」

そうして、またベルフェゴールは連行され………現場は解散されることになった。

◆◆◆◆

彦名司令は、最後に意外な指示を出してくれた。

「紅くん、昨日の今日でお疲れかもしれませんが……。お客人とになったのでしょう?
 今日は出来るだけ、一緒に居てあげてくれませんか? 君の安全のために、見張りは増やします」
「!!! 了解しました」

この人、考えが読めない時あるな……とはいえ良かった。
自分から主張すると怪訝に思われるだろうと、諦めていたから。
朔摩義兄さんは、あからさまに嫌そうな顔をしてたけど、気づかなかったフリをする。
あの表情は分かる、俺のことをひたすら心配している……。

(ごめん、義兄さん。……これから、しばらく嘘つくこと増える。みんなも、すみません)

◆◆◆◆

偉い人たちを見送った後。ふたたび引っ張られていく悪魔に小声で「厠に行かないと漏れる、って嘘ついていいぞ。っていうか言え」と許可を与えた。

さらに両脇の保衛隊員に「中まで俺が付いていきます」と言うと、先ほどの彦名司令の一言があったためか、意外とあっさり足の電子錠を外して許可された。有難い。
外扉には待機されたけど、中の手洗場に入ってようやく二人になれたので、詰問してみる。

「手短に答えろよ? なんでさっき通行できなかったんだ」
「ぼく、ほんとに何もしてないってばぁ」
「それは分かってる。思い当たることは無いのか? あれか? 悪魔は概念だから、ってやつか?」
「ん~……。たぶんだけど、ぼくの権能のせい、かなあ。
さっきの通路ってさ、密閉空間な上に遠いところまで繋がってるんでしょ?」

質問の意図がイマイチ分からないけど、回答する。

「そうだけど」
「ってことはぁ。広さもあって、一応出入口もある居住区よりも、空気の管理は徹底的にされてるはず~」
「そうだろうな」
「………あのね、ぼくは《怠惰の悪魔》なワケですよ」
「そうらしいな。───時間が無いから手短に、って言っただろ。端的に言え」

なんだかグズグズ言っているので急かすと、ようやく白状した。

「───つまりね、だらしないってことから、権能に《汚染》っていうのがあるのぉ。
だからこそ、機械生命体のプログラムも汚染できるワケで………。
決して、汚いという単純なソレではなくてぇ……」
「………つまりお前が、空気にとって良くない、臭いって判断されたのか?」

コイツ、見た目は金髪だの紫の瞳だので、やたら華美な割に。
異臭こそ特にしないものの、思わず鼻をつまんで小言を加える。

「理由は分かった。あと人間らしい演技、もう少し真面目にやれ。下手くそか?」
「そ、そっちこそ、もう少しお友達っぽくしてくれない!? 
態度がぜんぜんなってない………臭いっていうのも、イジメの始まりなんだからねぇ!?」

さあ、これからどうなるのか。『ラツィエルの書』で何を調べるかも、早いうちに決めないと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...