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第1章
第26話『友人』
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ベルフェゴールの異様さ(と義兄さんの迫力)に面食らっていた、保衛本部長が話し出す。
「専用車には四名しか乗れない。お前のように異様な人間を、ただ乗せるのは危険すぎる。
そこで、少々手荒な真似をさせてもらうが、我慢しろ」
そう言うなり、押し倒された悪魔の片足を掴んで、短刀を取り出す。
(げっ、腱を切ろうとしてる!?)
なのにも関わらず、悪魔は紫の瞳を細めてニヤニヤしている。
(お前、これが終わったら演技指導だからな!? どうするこれ、放っとくべきか、止めるべきか。
コイツちゃんと血は出るのか? これ以上異常者だと、幽閉ってこともあるのか?
昨日から考えること多すぎて、もう頭回らないんだけど……!)
考えがまとまらないまま、俺はつい、「待ってください!」と止めに入ってしまった。
「………何かね? 一時的に痛みと不便で困るかもしれないが、都で完全に治療できる」
そう偉い人は答える。ま、まあそれはそうなんですけど……。
「え、えっと」
「紅、下がってろ」
朔摩義兄さんの、有無を言わさぬ口調が耳に届く。こちらを一切見ていないせいで、余計に威圧感がある。
(──もういいか。機械生命体の破壊が遅れたところで、この世界の人がそう困ることもないし)
疲労も限界に近いので、雑に思い直す俺。「はい、すみません」と謝ってアッサリと諦めた瞬間。
「紅くん~、僕たち仲良しになったよねぇ? 助けてぇ~」
と、ベルフェゴールがのたまった。
(はぁ? この勘違い野郎………。嘘じゃなければ、何言ってもいいと思ってるのか)
かばった割に冷たい視線を向けてしまった俺を悪魔は見つめて、さらに言い募った。
「このままじゃぼく困っちゃう~、おねがいっ」
「!!!!!」
皮肉なことに、さんざん契約内容を怪しんでいた俺自身の心が実感してしまった。
コイツの言う「おねがい」を聞いた途端、擁護しなければという耐え難い焦燥感に包まれる。
(そうか、これが『納得』ってことか………!)
思わず口を開いてしまう。
「あの、俺、コイツがそんなに悪いやつとは思えないんです。………その、実は友達に……なって」
「紅君、だったか。今はそういう問題ではないのだ」
保衛本部長が至極真っ当なことを言う。いや、おっしゃる通りです。
「地上にいたのは怪しいですけど! 同じ人間じゃないですか、話せば分かるって、言うか。
………ここまで酷いことされるのは、見てられないっていうかぁ………」
見てられないのは、俺の下手クソな庇い方である。
この人は知らないけど、俺は「怪しいヤツは見捨てよう」派だったワケなので、我ながら言葉に重みが無い。
憎たらしいことに、足をつかまれている悪魔は、心底愉快そうに高みの見物を決め込んでいる。
(コイツ、めちゃくちゃ楽しんでやがる………!)
義弟の奇妙な態度に違和感を覚えた義兄さんが、ここでようやく俺に目を向けて言う。
「脅されてるのか」
「!」
「何を盾にされている」
「………………」
「───何も心配しなくて良いから、言いなさい」
家族だから。様子がおかしいことに、気づいて当たり前なのかもしれないけど。最後の一言がいきなり優しい声だったから、ちょっと泣きそうになってしまった。
(…………俺がもっと上手くやらないと、大切な人に心配をかけてしまう)
そう意識を改めて、俺は義兄さんの目を真っすぐに見て言った。
「違います、副司令。地上でこの男をどうするか議論した際、誰よりも連れ帰るのを反対した身だったため、発言に淀みが生まれてしまいました。───本当に、友人となったのです」
「……………………」
「疑われるのも無理はありませんが、異世界から来たという彼と、読書という共通の趣味を見つけてしまいまして。つい夢中になって、彼方の物語に聞き入っておりました。
見張りの交代を申し出ておきながら、実に弛んだ態度でした」
「…………では、なぜお前は閉じ込められていた」
「それは、彼が《魔法使い》なる者だと主張しましたので。証拠を見せるよう、焚きつけてしまいました。この件もお騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」
「……………………」
悪魔は実におかしそうな声音で、「ぼくもごめんなさぁい」と言っている。殺意が湧く。
この状況で朔摩義兄さんを騙すことは、どの道できない。だから「それ以外の人」にだけ理屈が通るように話したつもりだった。
あえて部下として報告する俺を見て、義兄さんは怒るどころか、凪いだ表情を見せる。………悲しい思いを、させてしまったのかもしれない。
成り行きを見守っていた彦名司令が、場違いに明るい声で話しはじめた。
「んん~。気づけばもう、外が明るくなってきたじゃないですか~。さすがに皆さん、お疲れでしょう。都に出発するのは明日の朝九時として、今日は見張り以外、休息を取るとしませんか?」
俺は思わずホッと安心してしまった。もうそいい加減休みたかったから……。司令は続ける。
「異界の方には申し訳ないですけど、鎖につながれたままでお休みくださいねえ。
もう手荒なことはしませんから、発言も一切禁止というのを呑んでくれませんか~?」
やっぱり意外と押しが強い。そう、コイツにはもう黙っててほしい……司令、一生ついていきます。
それに対して、ふざけた態度だったベルフェゴールは「うん、分かりましたぁ」と元気よく……笑っていない目で返事をした。頼むから消えてくれ。………「悪魔は死なない」というのが本当だったのが、心の底から残念だ。
「専用車には四名しか乗れない。お前のように異様な人間を、ただ乗せるのは危険すぎる。
そこで、少々手荒な真似をさせてもらうが、我慢しろ」
そう言うなり、押し倒された悪魔の片足を掴んで、短刀を取り出す。
(げっ、腱を切ろうとしてる!?)
なのにも関わらず、悪魔は紫の瞳を細めてニヤニヤしている。
(お前、これが終わったら演技指導だからな!? どうするこれ、放っとくべきか、止めるべきか。
コイツちゃんと血は出るのか? これ以上異常者だと、幽閉ってこともあるのか?
昨日から考えること多すぎて、もう頭回らないんだけど……!)
考えがまとまらないまま、俺はつい、「待ってください!」と止めに入ってしまった。
「………何かね? 一時的に痛みと不便で困るかもしれないが、都で完全に治療できる」
そう偉い人は答える。ま、まあそれはそうなんですけど……。
「え、えっと」
「紅、下がってろ」
朔摩義兄さんの、有無を言わさぬ口調が耳に届く。こちらを一切見ていないせいで、余計に威圧感がある。
(──もういいか。機械生命体の破壊が遅れたところで、この世界の人がそう困ることもないし)
疲労も限界に近いので、雑に思い直す俺。「はい、すみません」と謝ってアッサリと諦めた瞬間。
「紅くん~、僕たち仲良しになったよねぇ? 助けてぇ~」
と、ベルフェゴールがのたまった。
(はぁ? この勘違い野郎………。嘘じゃなければ、何言ってもいいと思ってるのか)
かばった割に冷たい視線を向けてしまった俺を悪魔は見つめて、さらに言い募った。
「このままじゃぼく困っちゃう~、おねがいっ」
「!!!!!」
皮肉なことに、さんざん契約内容を怪しんでいた俺自身の心が実感してしまった。
コイツの言う「おねがい」を聞いた途端、擁護しなければという耐え難い焦燥感に包まれる。
(そうか、これが『納得』ってことか………!)
思わず口を開いてしまう。
「あの、俺、コイツがそんなに悪いやつとは思えないんです。………その、実は友達に……なって」
「紅君、だったか。今はそういう問題ではないのだ」
保衛本部長が至極真っ当なことを言う。いや、おっしゃる通りです。
「地上にいたのは怪しいですけど! 同じ人間じゃないですか、話せば分かるって、言うか。
………ここまで酷いことされるのは、見てられないっていうかぁ………」
見てられないのは、俺の下手クソな庇い方である。
この人は知らないけど、俺は「怪しいヤツは見捨てよう」派だったワケなので、我ながら言葉に重みが無い。
憎たらしいことに、足をつかまれている悪魔は、心底愉快そうに高みの見物を決め込んでいる。
(コイツ、めちゃくちゃ楽しんでやがる………!)
義弟の奇妙な態度に違和感を覚えた義兄さんが、ここでようやく俺に目を向けて言う。
「脅されてるのか」
「!」
「何を盾にされている」
「………………」
「───何も心配しなくて良いから、言いなさい」
家族だから。様子がおかしいことに、気づいて当たり前なのかもしれないけど。最後の一言がいきなり優しい声だったから、ちょっと泣きそうになってしまった。
(…………俺がもっと上手くやらないと、大切な人に心配をかけてしまう)
そう意識を改めて、俺は義兄さんの目を真っすぐに見て言った。
「違います、副司令。地上でこの男をどうするか議論した際、誰よりも連れ帰るのを反対した身だったため、発言に淀みが生まれてしまいました。───本当に、友人となったのです」
「……………………」
「疑われるのも無理はありませんが、異世界から来たという彼と、読書という共通の趣味を見つけてしまいまして。つい夢中になって、彼方の物語に聞き入っておりました。
見張りの交代を申し出ておきながら、実に弛んだ態度でした」
「…………では、なぜお前は閉じ込められていた」
「それは、彼が《魔法使い》なる者だと主張しましたので。証拠を見せるよう、焚きつけてしまいました。この件もお騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」
「……………………」
悪魔は実におかしそうな声音で、「ぼくもごめんなさぁい」と言っている。殺意が湧く。
この状況で朔摩義兄さんを騙すことは、どの道できない。だから「それ以外の人」にだけ理屈が通るように話したつもりだった。
あえて部下として報告する俺を見て、義兄さんは怒るどころか、凪いだ表情を見せる。………悲しい思いを、させてしまったのかもしれない。
成り行きを見守っていた彦名司令が、場違いに明るい声で話しはじめた。
「んん~。気づけばもう、外が明るくなってきたじゃないですか~。さすがに皆さん、お疲れでしょう。都に出発するのは明日の朝九時として、今日は見張り以外、休息を取るとしませんか?」
俺は思わずホッと安心してしまった。もうそいい加減休みたかったから……。司令は続ける。
「異界の方には申し訳ないですけど、鎖につながれたままでお休みくださいねえ。
もう手荒なことはしませんから、発言も一切禁止というのを呑んでくれませんか~?」
やっぱり意外と押しが強い。そう、コイツにはもう黙っててほしい……司令、一生ついていきます。
それに対して、ふざけた態度だったベルフェゴールは「うん、分かりましたぁ」と元気よく……笑っていない目で返事をした。頼むから消えてくれ。………「悪魔は死なない」というのが本当だったのが、心の底から残念だ。
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