やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第33話『伊予の里へ』

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 朝早いのに、当然のごとく送りに来た柚芽ゆめが手を振る。

「絶対ケガしないでね……! 都で待ってるから…………」

要らないと言ったのに、「お弁当、痛まないものだけにしたよ」と積み込まれて。
でもまあ、これくらいの重量じゃ朔摩さくま義兄にいさん───馬にとっては、まったく負担じゃないだろう。

【それじゃ朔摩くん。僕たちは乗せてもらって悪いけど、お願いしますねえ】

そう発信する彦名司令に対して、

【了解しました。それでは出発します】

と義兄さんも答える。さらに。

【わー、地上でも結局グータラしながら移動できるなんて、最高だねぇ!】

とベルフェゴールからも入り………。
隣にいた狭土さづちさんが「えっ」と驚いた様子。
俺は俺で、痛めた首をつい、勢いよく向けてしまった。人間らしくするって約束しただろ。

【※ おい!!! 普通はすぐに上手くやれないんだよっ!】
【※ んふふ、ダテに悪魔やってないよぉ。これくらい余裕~! それにこの……タヌキだっけ? モフモフのおじさんは、気にしてなさそうだしぃ】

確かに。彦名司令ときたら、ごそごそと毛づくろいをしている。可愛い………。
首から下げた石帯に光る珊瑚さんごがなければ、司令の威厳はまるで見当たらず、ただの癒し系でしかない。

【無駄な発信をするな。お前は口でしゃべればいいだろう】

義兄さんから、手厳しく当然の注意をされて「そうだったねぇ~」と答える男は、どこまでも楽しそうだ。
実際、おそらくはコイツの願った通りに事が進んでいるんだろう。

俺と契約して、魔素とかいう食料のモトのようなものを確保し。
ついでに契約者となった俺に助力させるよう、人類を盾にした脅しをかけ。
目的である機械生命体の情報を得るために、教主様と会う算段を取った。

(図々しいし、寝汚いし、ふざけたヤツだけど──。普通の十八歳に過ぎない俺が、太刀打ちできる相手じゃ無さそうなのは、認めるしかない)

だからこそ俺は、前払いで受け取った『ラツィエルの書』で出来ることを模索しないと。

(早々に異世界に帰ってもらうために、禁止事項に抵触させる誘導は出来るか?)

暴力や機械への干渉はさせられない。……そうなると、嘘をつかせる、か。何の言葉が有効だろう。

(あるいは、機械生命体を破壊できる強化もアリだよな)

普通はそっちの方が《高天原》の人類にとっては良いことだし、とは素直に思う。

(地上時代の戦争で使われた何かの作り方……は、資料全然ないからな~……。
当時の被害規模的に、刀とかだけって感じじゃない。ああ、知識足りなさそう。精神崩壊は絶対避けないと)

義兄さんや八兼はちがねがどれだけ悲しむか。
柚芽との約束もある、自分を粗末に扱うのは良くないだろう。

 うーんうーんと、鳥頭で熟考していると………鼻をふんふんと鳴らしていた彦名司令から、

【副司令、ここで止めてくれませんかね~】

と指示が入って、義兄さんはゆっくりと歩みを止めた。

 あれ、どうしたんだろうと思っていると。ぴょこんと司令が荷車を降りて──大きな倒木に近づいていく。そこには。

(!? え、あれって……いや、マジで!? ああ~! 司令~!!!?)

可愛いタヌキ姿の、かの人は………あの、茶色い物体──。食べたら誰でも、どんな生き物でも必ず出すやつ……がうず高く集まっている場所に、低い姿勢で鼻を鳴らしながら近づいていく。

護衛のために近くに控える八兼は、なんだか心を無にしているように見える。そりゃ犬は鼻いいし、キツいよな………って、あぁ、まさかこれ……。

(そういえば、隊員のみんなの狩衣になった動物について。柚芽の影響で調べるようにしてたけど。
 ──これ、タヌキの《溜めフン》ってやつか。タヌキ同士で情報共有が出来るっていう、優れもの)

まさか、司令もそんな事が出来るとは……。さすがに筑紫の里の《天渡衆あまわたりしゅう》をたばねるだけあって、狩衣かりぎぬとの修練は相当こなされたんだろう。

【ん~、この辺りは良くないね。熊とか狼とか、危ない生き物多そうだから。副司令、速度上げられそう?】
【はい】
【それじゃ狭土くんが並走ってことで、八兼くんと交代してねえ】
【了解しました】

(なるほど、これが安全を確保できる少数の人員ってことか。俺だけ役立たず──!)

まあ、これ以上ユキチに怪我をさせたくないので、「俺も空飛んで偵察します」とか余計なことは言わず、考え事に集中する。

それからも幾つかの場所で、彦名司令が………アレを嗅いで下さったので。
機械生命体もほとんど見かけることなく、夕暮れになる前。
伊予との間の海をつなぐ、《天の浮橋》のうちの一本を渡った。

【今日はここまでにしようか~】

と司令から指示が入り、初めての野営をする。
見張りはもちろん交代で行うことになったため、【せめてそれくらい、俺に一番やらせて下さい】と荷車から顔を出して進言したけど。

夜目よめが一番利くのは、夜行性のタヌキ……僕だからねえ】
【順番で言えば、圧倒的に司令、狭土・八兼、俺───大きく落ちて、くれないだ】
【まあ、トリ目って言うくらいですしね】
【クレ、大人しくしてなよ。頭出すのやめな】
【うう…………】

と、あまりにも情けない。なんで俺、連れてきてもらってるんだろ。そういえば聞いてなかった。

トボトボと荷車の奥へ戻れば───道中、ずっと眠っていた悪魔は一向に起きる気配が無いので……。
これはもう八つ当たりするしかないと思い、その手を啄んで思い切り引っ張った。
普通の人間なら千切れていたかもしれない。もちろん罪悪感は無い。

「───もうちょっと、優しい起こし方でもいいよぉ?」

どうせ痛くないだろ。

見張りくらい手伝え、と心の中で毒づきながらも、「友達」の設定を思い出し。
すぐ傍に親友がいるので、しぶしぶ「クルル……」とさえずって身を寄せておく。
───すると。あたたかいハチ犬が寄り添ってくれて、眠りについた。

このあたたかな存在が、現実味のない現実から……逃げずにいさせてくれる。
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