やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第32話『ぼくときみだけ』

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 夕方まで、四人で他愛のない話をした。どうしてもあの悪魔──ベルフェゴールの話は避けられなかったけど。

「それにしてもオレ、あんなに綺麗な男は初めて見た。っていうか女の人でも中々いないでしょ」

と言うのは八兼はちがね
そういえばそうだった、《汚染》なんて権能(?)あるくせに、見た目は整っている。
それに対して朔摩さくま義兄にいさんは興味なさげに、

「───確かに隊員たちの間でも、一目惚れしたらしい人は何人か居たね。
危険だからそういう者は、彼の見張りに付かせてないけれど」

と答えた。

(そうなんだ……それは、見る目がちょっとアレなような。ああいうのを、禍々まがまがしいっていうのでは)

柚芽ゆめは髪の毛をクルクルいじりながら、

「ん~……たしかに、金髪も紫の瞳も、里で見たこと無いですよねえ。
動くたびにキラキラするし、うっかり好きになっちゃう人がいても不思議じゃないかも? 
───私はちっとも好みじゃないけど! もちろん!」

と力説する。
きっと俺に向けてるんだろう、そういう所が可愛いなと素直に思う。

「それにしても、教主様が地上を行けって命令するのは───正直、意外だった」

と気になったことを話題に出してみる。義兄さんは気まずそうな顔をして、

くれないがそう思うのも無理はないね。───里へ連れ帰る判断をした俺や彦名ひこな司令も。
放置するのは良くないと思いながら、その後どうするべきか正解が分からなかったんだ。
…………「友人」になったのであれば、聞き苦しい話だろう。
でも。俺は最初、いざとなれば殺せば良いと思ってた」

そう、穏やかじゃない言葉を並べる人に、俺とおそらく二人も「まあそうだろうな」と納得する。
義兄さんの根っこは情熱的だけど、任務となると極めて合理的な指示を出すから。

「………触っても感触が無いのは、紅の報告で分かってた。
だからあの鎖には電気を通してみたり、薬物も注入してたのだけれどね。
何をした所で、一切の効果が無いのも大山津さんから報告を受けていた」

(すでに色々、拷問してたのか………。仕事が早い……って。
なのに扉を蹴破った後、あんな物理的に抑え込んでたのか。───たぶん、俺に近づかせないために)

そう理解して、肩身の狭い思いをしている俺を横目に、義兄さんは続ける。

「それなのに、緩い警備になってしまって。見張りの者や、紅には申し訳ないことをした。
どうやら俺や司令の通信が、正常に届いていなかったらしくてね。
こちらも「保衛本部と連携して小屋を包囲しろ」という指示に、「了解」という受信をしていて。
───言い訳に聞こえるかもしれない、でも。俺はあの男の仕業じゃないかと思ってる」

(それは正解だと思う……。黙っておくしかないけど)

「とにかく、俺たちに手落ちが幾つもあって。済まなかった、もう一人にはさせないから」

頭を下げようとする朔摩義兄さんなんて見たくないから、「そういうの、やめようよ!」と制止する。

「ねえ、副司令。明日またご指示があると思いますけど………。
オレと狭土さんのどちらかも、荷車に乗れるって思ってイイんですよね? 
クレとあの人の、二人で乗せたくない」

そう言う八兼に対して、

「ああ、それに彦名司令も基本的に搭乗される。俺の警護を、どちらかの犬に任せる算段だ」
と義兄さんは答えて………。

(司令か~! いや、いつも超頼れるんですけどね? 狩衣が………ね? 信じてますけど……うん)

と、失礼な感想を抱いてしまう。
上界任務をまだご一緒したことないから、そう思ってるのはたぶん俺だけだろう。でも。
だって─────タヌキだから。

 翌朝、指示通りに集まった六名は、既に狩衣姿となったワケだけど(首がまだ痛い)。
保衛本部に引っ張って来られて眠そうだったベルフェゴールは、こちらを見るなり目を見開いた後、クスクス笑っている。

「ええ~……。聞いてたけどぉ、みんなホントに可愛くなっちゃったね?
こんなに色んな動物を引き連れるなんて、ぼく……オーディンになった気分だよぉ」

と、意味不明なことを言っている。

「あ、でもさぁ。こんな状態のきみたちと、どうやってお話するの?」
「ごめんなさい、説明が漏れていましたね。……この通信機を耳に挟んでください。
 皆さんは神経で通信をしているのですけど、《受信》は訓練していない、あなたでも出来ますから」

そう言って大山津さんは、黒い耳掛け式の機器を渡した。
うっかりを装っているけど、たぶん義兄さんたちから「事前に言わなくて良い」と指示を出されてたんじゃないのかな。確証はないけど。

「へぇ、こういう便利なものもあるんだ。………作った教主様に会えるの、すっごく楽しみ」

悪魔がニヤニヤしながら装着すれば、

【早く乗れ】

朔摩義兄さんから、短い発信がされた。ベルフェゴールは上機嫌に乗り込んで……。
すぐさま俺にだけ通信を入れてきた。

【いわれたとおり、きみとだけのつうしんもできるように、いじっといたよ。きこえる?】
【ああ、聞こえる。……ハチ? ハチ? よし、大丈夫そうだな。
 紛らわしいから、次からお互いだけの通信は、冒頭に音が鳴るようにもしてくれ】
【※ これでいいかなぁ?】

(よし、これでやりやすくなったな……)

昨日、小屋から出ていく前。俺は今後のことを考えて、あらかじめコイツに許可を与えておいた。
厠の紙片に書いて密かに渡したのは、

[神経通信機を渡されたら、二人だけの会話が出来るように改造しろ]

犯罪者の気分にはなったけど、毎度毎度、話す機会を作るのは労力がかかりすぎるので。
仕方がない、と割り切った。
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