やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第31話『なぜか、見えない』

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 なんとも言えない空気に包まれて、居たたまれなくなっている頃合いに。
彦名ひこな司令と朔摩義兄さくまにいさんが現れたので、全員敬礼する。

「やあやあ~、みんなご苦労さま。待たせちゃってごめんねぇ。───副司令、お願いできる?」
「はい。……総員、休め。これから教主様よりおおせつかった指示を説明する」

朔摩義兄さんは、ベルフェゴールの方を注視したまま話し続ける。

「先刻の通り、《地の行路ゆきみち》を通過することは出来ない。
そのため我々《天渡衆あまわたりしゅう》が地上を抜けて、彼を連行することになった。
移動に適した人材だけが全速力で向かっても、三日はかかるだろう」

「「「!!!」」」

 全員「まさかそれは無いよね?」と不安に思っていた内容だったため、緊張感が増す。
当然それを見越していただろう司令も義兄にいさんも、表情を変えないままだ。

「今回は最も安全を確保できる人員のみ、ごく少人数で構成する。
通常は彦名司令と私が同時に狩衣を着用することはないが、例外とした。
他の人員は三名───狭土さづち八兼はちがね、そしてくれない。危険だが引き受けてくれるか」

 正直、ちっとも予想してなかった。
アイツと不本意ながらも友達って言い張ってるのが、そんなに効いたんだろうか。

(狭土さんと八兼は狩衣かりぎぬも実績も優れているから、理解できる……。
そこに俺? ニワトリ的な存在で、昨日食われかけたばかりだけど……お忘れなの?
いやまあ、クズが何かしないか見張れるから、願ったり叶ったりではあるけども)

隣にいた八兼は涼しい顔で「はい」と答え、狭土さんは「もちろんです」と光栄そうだ。
「俺でいいんですか?」とか無駄口きける雰囲気ではない───と思っていたら。
大人しくしていた柚芽ゆめが口を開く。

「休職中の身でありながら差し出がましいですが、よろしいでしょうか」
「何だ」

義兄さんは、彼女が反対することも見越していただろう。変わらず冷静な声だ。

「紅の狩衣であるキジは、ご存じの通り昨夜から首を負傷しています。
医療本部でも治療しましたが、全快には数日が必要です。
可動域が狭いままでは、周囲を十分に警戒できません」

「理解している。そのため遺物の輸送用である荷馬車を加工し、紅と彼──ベルフェゴールには搭乗してもらう予定だ。既に構築本部が作業を開始している」

「…………」

「紅、問題はないか」

俺にだけ分かるくらいの、「断ってもいい」という空気を朔摩義兄さんは出したけど。
当然「ありません」と答えたので、やっぱり心配をさせてしまうのだった。

「───質問が無ければ続ける。
道中、通過点となる《伊予いよ》ならびに《淡路あわじ》の里へ休息のため立ち寄る。
さらに特例として、意識交換後の人間体は《地の行路》を通過できることとなった。
何日も狩衣姿のままでは危険なため、それぞれの里で人間体に戻った後、ふたたび移動する」

指名された俺たち三名が、「了解しました」と答えると、彦名司令がいつになく張り詰めた声で言った。

「危険なことを頼んでしまって、ごめんねえ。僕の名誉にかけて──絶対、君たちに怪我はさせないから」

 その後は「出発は明日の早朝五時」ということで、見張り役以外は解散となって。
明日の荷造りをしなければ、と義兄さんと一緒に帰宅しようとすると(司令が「朔摩くんも帰って休んで~」と言ったので)、なぜか八兼と柚芽も付いてくる。

(ええー……まさか、………また尋問??? え、しかも三名で? 
柚芽はさっき聞かないでくれたけど、どんな流れになるか分からないし……勝てるワケなくない?)

当たり前かもしれない危機に怯えながら、四人で歩く。
そして、俺の緊張を察して助けてくれたのは、やっぱり柚芽だった。

「えっと、道中のお弁当とか、どうするんですか? やっぱり食べないとか……?」

「そうだね。数日くらい俺たちは問題ないから──。まあ、いざとなったら虫でも草でも食べるかもね?」

と義兄さんが微笑みながら答えると、八兼が「えっ」と疑問を呈した。

「そりゃ、俺たち犬や馬はそうでしょうけど。クレって鳥でしょ? 大丈夫なんですか?」

すると柚芽が得意げに言う。

「んふふ、お兄ちゃん。小鳥と同じと思ってるの? ユキちゃん──キジはすごいんだよ。
二週間も絶食できたって報告があるくらいなんだから!」

と、タヌキ顔の彼女はいつ仕入れたんだ?という知識を披露して、そういう所を調べていなかった迂闊な俺まで「えっ」と反応してしまう。

(そうなの? 虫を食べ続ける覚悟、してたんだけど。ユキチぃ……お前、やるな?)

「体が大きいし、脂肪も蓄えられるからなんだろうね。とっても賢いし、すっかり懐いてくれて。
 ──私、都に行くから。すぐに忘れられちゃう、寂しいなって思ってたけど。
あっちでユキちゃんとも、みんなともまた会えるのは嬉しいな。それどころじゃないのにね」

と、遠慮がちに言う彼女に、三人とも目を細めたのだった。

 柚芽のお陰で和やかに我が家へ帰宅。
とりあえず着替えるか、と自室に戻ろうとしたら………。

「あ、葉っぱ入りそう」

と八兼が俺の後ろ襟を、クイッと引っ張ろうした。

(!!!! あ、契約書………! 見られたらヤバい………!)

そう思って、思わず過剰に「引っ張るな!」と反応してしまって───。

「「「……………………」」」

無言の三人が見つめてくる。
刺さるような視線、これは………本当にまずいのでは。
おそらく内容は読めないはずだけど、今度こそきちんと説明しないと許されなくなるだろう。

(え、もしかして。契約違反で、俺………あのクソ悪魔の奴隷になるの?)

脳内で「紅くん、足もんでぇ?」とふざけた命令をされる未来を思い浮かべて、俺はすっかり涙目になりそうなのに、三人は口を揃えて言う。

「「「脱いで」」」

「い、いやです………」

「いいから脱ぎなさい。やっぱりあの男に、何かされたのか」

「殴られたりした? だから見せたくないんだろ?」

「手当しないと。そのあと、私があの人にもっと酷いこと───二度と笑えなくなること、してくる」

「ゆ、ゆめぇ……。やめて………」

三人に服を引っ張られて、「大人としてカッコつけたいから、墨入れちゃいました」という苦しい言い訳で行こうと悲壮な決意をし。
ビクビク震えながら上半身を脱ぐと───。

「「「……………」」」

「あ、あの。これはですね」

「───特に何も無いね?」

「なんだったの、クレのさっきの反応」

「良かった…………びっくり、させないで」

(えっ…………。これ、見えてない? なんだ~良かった、そういうことかぁ~!)

きちんと説明しなかったクズをどう罵倒ばとうしようか考えていたけど。
誰にも見えないから特に何も言わなかったのか、と安堵あんどする。そして。

「お、俺も年ごろなので──。触られたり、脱いだりするのは恥ずかしい、かな」

と言えば。三人ともなぜか「それはそうだね」と温かい目線で納得してくれたのだった。って、余計恥ずかしいわ!

(なんだったんだ、この騒動は………。──それにしても、見えない仕様って悪魔に得か? 逆だと思うんだけどな)
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