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56話 大人げない盤外戦術③

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「歌恋、最高の揉み心地だったわ。感じてくれたのも、すごく嬉しかった。でも――この勝負、あたしの勝ちよ!」


 彩愛先輩は私の胸から手を離し、すぐさまゲーム機を持って操作を再開する。


「はぇ?」


 丁寧な愛撫にすっかり蕩けてしまっていた私が状況を把握したのは、彩愛先輩がゴールした後だった。


「さすがにあそこから一位は無理だったけど、要はあんたに勝てばいいだけのことよ」


「いくらなんでもズルすぎますよ!」


「いきなり耳に息を吹きかけてきたやつに言われたくないわ!」


「うぐっ、それは確かに、そうですけど……」


「それと、改めて言わせてもらうわね。歌恋のおっぱい、何度揉んでも飽きない最高の揉み心地だったわよ!」


 嬉しいけど、いまの流れで改めて言う必要があったのだろうか。

 レースを続けているうちに、無自覚なままハイになっているのかもしれない。

 不思議な雰囲気のまま次のレースが始まり、中盤に差し掛かったところでまたしても物理的な妨害を受けた。

 意趣返しのつもりなのか、息を吹きかけながら耳たぶを甘噛みされ、私は危うくゲーム機を落としそうになってしまう。

 このままではマズいと思った私は、ゲーム内で彩愛先輩に対して妨害アイテムを使った直後に片手を離し、彩愛先輩の下半身に手を伸ばした。

 スカートの内側へ侵入し、下着と肌の間に手を滑り込ませる。

 この間、わずか一秒足らず。

 続けて中指を割れ目に沿わせ、手のひらを前後にスライドさせる。

 急を要するとはいえ、決して傷付けたりしないよう、優しく手を動かす。


「あっ、ひぁう、にゃ、にゃにをっ」


 彩愛先輩の口から驚きと甘い吐息が漏れ、先ほどの私と同じようにゲームの操作を完全に止めてしまう。

 心の中で謝罪しながら手を引き抜き、アイテム使用直後の地点で停止していた自分の分身を動かす。

 良心の呵責を感じつつも非情に徹し、コンピューターキャラを追い抜かして一位でゴールできた。


「ここまでやるとは、さすがに思ってなかったわ」


「すみません。勝つためとはいえ、いくらなんでも度が過ぎました」


 表面上だけではなく心から反省し、頭を下げて謝る。


「まぁ、別にいいわよ。正直に言っちゃえば、気持ちよかったし。でも、汚いから手とゲーム機はちゃんと拭きなさいよね」


「汚くないから大丈夫です」


 レースの合間に短いやり取りを交わし、いざ始まればゲームのプレイとは無関係なところで妨害を行う。

 そんなことを繰り返しているうちに、長かった激闘にも決着がついた。


「引き分け、か。なんか納得いかないわね」


「同感ですけど、こういうこともありますよ」


 画面に表示されている数十レース分の合計ポイントは、二人ともまったく同じ。紛れもない引き分けだ。

 お互いに息が少し荒かったり、頬が上気していたり、全身が軽く汗ばんだりしているのは、ゲームに熱中していたからというより、物理的な妨害行為によるところが大きい。


「あんなエッチな方法で相手の邪魔をするなんて……あたしたち、知らず知らずのうちに大人になったのね」


「今回の場合、大人げないって言った方が正しいと思いますよ」


「……確かに」


 久々のゲーム対決は、こうして幕を閉じた。

 思ってもみない展開になったけど、楽しかったのでまたやりたい。
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