私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
42 / 121
2章 私と萌恵ちゃんは恋仲である

14話 悪夢の後

しおりを挟む
 ――真菜なんて大嫌い。あたしの前から消えて――

「っ!」

 最悪の気分で目を覚まし、飛び跳ねるように上体を起こす。
 気温はそれほど高くないのに、パジャマは汗でびしょびしょだった。
 隣ですやすやと眠る萌恵ちゃんの寝顔を見て、幸せな気持ちになると共に心の底から安堵する。
 私はついさっきまで、悪夢の中にいた。
 萌恵ちゃんに嫌われ、延々と私の嫌なところを述懐され、フラれた挙句にいつの間にか荷造りを終えて家を去られ、学校に行っても無視される。
 あまりにも衝撃的な内容だったせいか、映像として脳裏にこびりついている。
 目を閉じると萌恵ちゃんの嫌悪感に満ちた表情が浮かんでしまい、気軽に瞬きもできない。
 耳を塞いでも、萌恵ちゃんの声で紡がれた「嫌い」という言葉が痛いほど頭に響く。
 忘れたい夢に限って、なかなか頭から消えてくれない。
 パジャマに染み込んだ汗が冷たい。このままだと風邪を引いてしまう。
 汗を流し少しでも気分を晴らすため、私はシャワーを浴びることにした。

***

 汗を流しても、気分はスッキリしない。
 一抹の不安を抱きながら布団に戻り、さっきと変わらず就寝中の萌恵ちゃんを見て胸を撫で下ろす。
 よかった。夢だと分かっていても、シャワーから戻ったら私の前からいなくなっているんじゃないかと怖くてたまらなかった。
 布団に潜り、身を寄せる。

「まなぁ、おはよ~」

 どうやら起こしてしまったらしい。

「萌恵ちゃんっ」

 考えるよりも先に、体が動いていた。

「んむぅっ!?」

 寝起きで困惑する萌恵ちゃんを強く抱きしめ、唇を奪う。
 朝のあいさつにしてはいささか激しいキスは、逆に私の心を落ち着かせてくれた。

「ごめんね、萌恵ちゃん。急にこんな……ビックリしたよね」

 ムードもなにもない不意打ちの口付けについて、素直に謝罪する。

「確かにビックリしたけど、それ以上に嬉しかったよ~。でも、なにかあったの?」

「実は――」

 隠すことでもないので、私は説明のため口を開いた。
 悪夢を見たこと。
 シャワーを浴びている最中に堪え切れず泣いてしまったこと。
 悲しみを上書きするようにキスをしたこと。
 途中で声を詰まらせながらも、ゆっくりと、すべて伝える。
 萌恵ちゃんは冷やかしたりバカにしたりせず、真剣に聞いてくれた。

「そっか……大丈夫だよ、真菜。現実のあたしは絶対に真菜のそばから離れないし、どんなことがあっても嫌いになんてならないから」

「も、萌恵ちゃん……」

「真菜、大好き。世界で一番好き。優しいところが好き。一緒にいるだけで幸せで、なにをしても楽しいから好き。温かな笑顔が好き。ちょっと変わった性癖も好き。サラサラの銀髪も、愛らしい顔も、華奢な体も、甘い匂いも、かわいらしい声も、全部好き。嫌いなところなんて一つもない。もしまた怖い夢を見ても、それを忘れるまでギュッてしてあげる」

 萌恵ちゃんは私を抱きしめ、言い聞かせるように優しく囁いてくれた。

「……うん……うんっ。ありがとう。私も、萌恵ちゃんのこと大好きっ」

 吐息を鼻に感じる距離で発された言葉の一つ一つが、耳から全身に伝わり、心の奥にまで浸透していく。
 気付けばもう、悪夢の残滓は跡形もなく消えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...