私がガチなのは内緒である

ありきた

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3章 一線を越えても止まらない

17話 貧乳

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 私たちの朝は、恋人とのキスで始まる。
 寝不足だろうと筋肉痛だろうと関係なく、幸せが栄養となって全身に活力がみなぎる。
 二人して上体を起こし、うーんと唸りながら腕を真上に伸ばす。
 その瞬間、ふと視界の端にぶるんっと弾む膨らみが映った。
 真隣にいるため面と向かって目撃したわけじゃないけど、素敵な光景をありがとうと言いたい。
 ただ、改めて胸囲の格差を実感する。
 なんとなく胸に手を当て、さして揉み心地がいいわけでもない微かな膨らみを揉む。
 ……揉むという表現は間違いかな。私の胸、揉むほどないし。
 色や形にはちょっとした自信があるものの、萌恵ちゃんの魅力には遠く及ばない。

「ま、真菜、もしかして……お、おなにー、してるの?」

「ちっ、違うよ!?」

 とんでもない誤解を招いてしまったらしく、慌てて否定する。
 私がどういうふうに自分を慰めるか説明したことがあるから、いまの行為を見て勘違いしてしまうのも無理はないのかもしれない。

「そっか~。ちょっと残念」

 萌恵ちゃんは一縷の卑猥さもない純粋な声音で、ふふっと笑う。
 喜んでもらえるなら、見せても――いやいや、ダメだ。いまの考えは忘れないと。

「あ、そうだ。萌恵ちゃん、私の胸を揉んでくれない?」

 決して平日の朝から欲情しているわけではない。
 まぁ、ムラムラしていないと言えば嘘になるけど、少なくとも目的は別のところにある。

「へ?」

 私の意図を知るはずもない萌恵ちゃんは、唐突すぎる要求に瞬きを繰り返した。
 やっぱり、こればっかりは説明しないと伝わらないよね。

「好きな人に揉んでもらうと大きくなるっていう迷信、試してみたくて」

 もう迷信って言っちゃってるけど、もしかしたら奇跡が起きる可能性だってある。

「あ~、そういうことだったんだ。うん、いいよ! でも、揉まれて大きくなるなら、二人ともとっくに体より胸の方が大きくなってるんじゃない?」

 きっと無意識なんだろうなぁ。
 萌恵ちゃん、サラッととんでもなく大胆なこと言ってる。

「それは私も思った。だから、今回は『大きくなれ』って念じながら揉んでほしいの。萌恵ちゃんが気持ちを込めてくれれば、効果がありそうな気がするっ」

 早口でまくし立て、いつになく語調が強まる。
 決して貧乳であることを気にしているわけじゃないけど、巨乳への憧れは捨てきれない。

「う、うん、分かった」

 珍しく、萌恵ちゃんが気圧されている。
 朝はなにかと忙しい。善は急げだ。
 パジャマを脱いでブラを外し、萌恵ちゃんの方に体を向ける。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「よ~し、頑張る!」

 萌恵ちゃんはグッと拳を握り、気合いを入れた。かわいい。
 バカげた思い付きに付き合ってくれる健気な恋人に、引き締めた表情がつい緩んでしまう。

「んっ」

 伸ばされた両手が左右の乳房に添えられ、反射的に体がピクンッと跳ねる。
 これは愛撫ではないと自分に言い聞かせ、痺れるような快感を意識の外に逃がす。
 体が反応を示してしまうのは、意思とは無関係だからどうしようもない。

「おっきくな~れ、おっきくな~れ」

 萌恵ちゃんは一定のリズムで手を動かしつつ、私が要求した言葉を唱えてくれている。
 さっきから先端部分の自己主張が激しい。萌恵ちゃんは誠意を持って対応してくれているのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 内から湧き上がる性衝動を抑制するには、思考を別の方向に働かせないと。
 最近覚えた雑学でも思い返してみよう。
 身近な調味料、七味唐辛子についてだ。
 うどんなどに何気なく使っているけど、なにが入っているのか。
 百人に訊ねれば、唐辛子だけは全員が即座に答えられるだろう。
 問題は残りの――。

「あぁんっ❤」

 へ、変な声出ちゃった。
 気を取り直して、と。
 残りの六つは、山椒、胡椒、黒ゴマ、芥子の実、麻の実、陳皮が主だ。
 ただしそれが絶対というわけではなく、青のりや紫蘇が加えられることもあるらしい。

「真菜、ごめん。今回はこれぐらいで終わってもいい?」

「え、どうして?」

 突然ピタリと、萌恵ちゃんの動きが止まる。
 胸から手を離し、少し困ったような表情を浮かべてうつむいてしまった。

「真面目にやってるつもりだったんだけど、どうしてもえっちなことを考えちゃうの。ほんとにごめん! うぅっ、真菜は真剣なのに、あたしって最低だ~っ!」

 萌恵ちゃんは頭を抱えて布団に倒れ、ゴロゴロと転がり回る。
 その様子がなんともかわいらしくて、微笑ましくて。
 爆発寸前だった情欲が、優しく温かな気持ちに変換されていく。

「萌恵ちゃん、落ち着いて。実は私も同じような状態だったから、そんなに重く受け止めることないよ」

「ほ、ほんと? あたしのこと、軽蔑してない?」

「もちろん。それに、私の体を触ってえっちなことを考えてくれるなんて、恋人として嬉しい」

「よかった~! あ、そうそう。自覚してないみたいだけど、真菜の胸ってふにふにもちもちで、犯罪級の触り心地なんだよ? 我慢しなきゃって思っても、あたしには無理!」

 見るからに安堵した萌恵ちゃんが、開き直ったように断言する。
 我慢できないというのは、私にとって至上の褒め言葉だ。
 最愛の恋人がここまで言ってくれるのなら、貧乳のままでも胸を張って生きられる。
 これからも胸のことで弱音を吐いたり劣等感に苛まれたりするだろうけど、萌恵ちゃんがいれば心配はいらない。

「萌恵ちゃん、ありがとう」

 私も布団に横たわり、萌恵ちゃんの顔を胸に押し付けるようにして抱きしめる。
 服を着ていないのに、寒さなんて微塵も感じない。
 今日も一日、明るい気分で過ごせそうだ。

***

 のんびりしすぎた結果、学校がアパートの目の前でよかったと改めて痛感するのだった。
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