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カイルの場合。【4】
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「──父様」
「お、どうしたカイル。マデリーンとデートじゃなかったのか?」
騎士団の仕事の休み時間に俺が父を訪れる事は殆どないので、指揮官室に俺がやって来た時、父は意外そうな顔をした。
ヒューイおじさんも一緒にコーヒーを飲んでいた。
「よお色男! 何だ、元気ねーじゃねえか」
軽く手を上げたヒューイおじさんは、俺は昔はかなりモテたんだぞーと自慢していたが、経験値が高いので今でも仕草の一つ一つが格好いい。きっと今でもモテてるんじゃないかと思う。
いわゆる美形で渋いオジサマって感じだ。
ヒューイおじさんもいるのは心強い、と俺はホッとした。こういう話は父よりヒューイおじさんの方が得意かも知れない。
「デートはマデリーンがまだ仕事中なのでこれからです。実は少し父様とヒューイおじさんにご相談が」
俺は床に正座をして頭を下げた。
「……はああ? おい待てカイル、お前マデリーン嬢と婚約して、結婚までもうあと半年もないのに、キスの1つもしてないのか? ねえバカなの? 死ぬほどバカなの? それとも今流行りの草食系なの?」
「ヒューイ、俺の息子だぞ。少しは気を遣え」
「32まで後生大事に持ってたファーストキスも童貞もリーシャちゃんに奪われるようなテメーの息子だから心配してんだよこっちは!」
「……済まない。だがリーシャに奪われたと言うかこちらから捧げたと言うかだな──」
「やかましいわ。後から情けなさを一途な純愛に変換してんじゃねえよ。向こうから手出ししてこなきゃ絶対に何もしないで悶々としてたヘタレの癖に」
「……まあ返す言葉もないな」
父が32までキスも未経験とか初めて知った。
良かった、ヒューイおじさんが居てくれて。
「あの、それで、こう、さりげなーくそういう雰囲気に持って行く方法をご教授願えれば、と」
何度もチャレンジしようとしたのだ。
だが、鍛練しようとか、皆で釣りだー、とかいい雰囲気になりそうだと思うと何かしらぶち壊すような出来事が起きるのだ。
もしかするとマデリーンは昔馴染みの俺が一方的に好きで婚約を主張したのを余り良く思ってないのかも知れない。友情はあっても愛情はないとか。ツラい。
だがそうであっても俺が一生一緒に居たいのはマデリーンしか考えられないので、どうにかフレンドでなくラブな方面にも進みたいのである。
勿論キス以上は結婚するまで我慢だが、運が良ければ少々ディープな感じを望んでいたりする。
あのぷっくりした唇に触れたい、舐め回したいという煩悩が日増しに強くなるばかりなのだ。
だが無理に押し通してマデリーンに嫌われたら立ち直れないので、むやみに本能のまま進むことも出来ず、こうして先人の教えを乞うている訳である。
「……ほー、なるほどねえ。
まあ折角マデリーン嬢がこっちに来てるんだし、頂けるモノは頂かないとなあ」
恥も外聞もなくコクコク頷く俺を見たヒューイおじさんは、チョイチョイと指を動かし、耳を貸せと言う仕草をした。
膝立ち体制でそそそと近づくと、俺の耳元で、
「女性はな、夕暮れと夜が一番その気になる事が多い。夜景なんかも悪くないぞ。あと少し位ワインを飲むとリラックスするぞ。
それになあ、男性には少しはリードして欲しいもんだ。お前は婚約してるんだ。
別に悪いことする訳じゃないんだし、いい男なんだからぐいっとやっちまえ!」
と囁いた。
そうだよな。いずれは結婚するのだ。
いつまでもキス位でビクビク相手の反応ばかり窺うような夫というのも未来の王配としてどうなのか。
このままではいけない。
「──頑張ってみます」
「よっ男前! それでこそ次期王配だ! 突き進め!」
「ありがとうございました! ……父様、もし夕飯までに帰れなくても母様に何とか誤魔化しておいて」
俺はヒューイおじさんにパワーを貰って元気良く立ち上がった。
「……おう。まあ頑張れ」
「では昼休み中に失礼致しました!」
ビシッ、と最後だけ敬礼をすると、俺はウキウキした気分で指揮官室を後にした。
「おいヒューイ」
「何かなー?」
「大丈夫なのか? 気安い付き合いをさせて戴いてるといえ、マデリーンは未来の女王陛下だ。余り強引に進めるのは問題じゃないか?」
ヒューイはカップに残ったコーヒーを飲み干すと、
「マデリーン嬢はどうみてもカイルにベタぼれじゃんか。むしろカイルは理性が有りすぎだ。お前の若い時を見てるようでモヤモヤする。
恋はもっとこう、激情に流されてもいいだろうが。
いやー青春だねえ。
ミランダと俺の若い頃を思い出すわ」
「俺がリーシャとキスしたのは19なんて年頃じゃないからまだ早いような気もするが」
「ダークと一緒にすんな。アイツは超イケメンで中身が真面目なダークという稀にみる逸材だぞ?
むしろよくあの年まで童貞も唇も食われずに守り抜いたもんだと尊敬するわ。
俺なら速攻でアチコチ味見に行ってたな」
「……シャーロッテにお前の父さんは唇にも下半身にも節操という鍵は付いてなかったと伝えておこう」
「俺の家族仲を壊そうとするの止めて。ミランダも暫く口利いてくれなくなるからほんと止めて。若気の至りだから。ほんと調子に乗ってごめんなさい」
俺が部屋を出てから、父にヒューイおじさんが目を潤ませてペコペコ謝っているとはつゆ知らず、
(ヒューイおじさんは女性関係は頼りになるなー)
などと気持ちを高揚させたままマデリーンとのデートに向かうのだった。
「お、どうしたカイル。マデリーンとデートじゃなかったのか?」
騎士団の仕事の休み時間に俺が父を訪れる事は殆どないので、指揮官室に俺がやって来た時、父は意外そうな顔をした。
ヒューイおじさんも一緒にコーヒーを飲んでいた。
「よお色男! 何だ、元気ねーじゃねえか」
軽く手を上げたヒューイおじさんは、俺は昔はかなりモテたんだぞーと自慢していたが、経験値が高いので今でも仕草の一つ一つが格好いい。きっと今でもモテてるんじゃないかと思う。
いわゆる美形で渋いオジサマって感じだ。
ヒューイおじさんもいるのは心強い、と俺はホッとした。こういう話は父よりヒューイおじさんの方が得意かも知れない。
「デートはマデリーンがまだ仕事中なのでこれからです。実は少し父様とヒューイおじさんにご相談が」
俺は床に正座をして頭を下げた。
「……はああ? おい待てカイル、お前マデリーン嬢と婚約して、結婚までもうあと半年もないのに、キスの1つもしてないのか? ねえバカなの? 死ぬほどバカなの? それとも今流行りの草食系なの?」
「ヒューイ、俺の息子だぞ。少しは気を遣え」
「32まで後生大事に持ってたファーストキスも童貞もリーシャちゃんに奪われるようなテメーの息子だから心配してんだよこっちは!」
「……済まない。だがリーシャに奪われたと言うかこちらから捧げたと言うかだな──」
「やかましいわ。後から情けなさを一途な純愛に変換してんじゃねえよ。向こうから手出ししてこなきゃ絶対に何もしないで悶々としてたヘタレの癖に」
「……まあ返す言葉もないな」
父が32までキスも未経験とか初めて知った。
良かった、ヒューイおじさんが居てくれて。
「あの、それで、こう、さりげなーくそういう雰囲気に持って行く方法をご教授願えれば、と」
何度もチャレンジしようとしたのだ。
だが、鍛練しようとか、皆で釣りだー、とかいい雰囲気になりそうだと思うと何かしらぶち壊すような出来事が起きるのだ。
もしかするとマデリーンは昔馴染みの俺が一方的に好きで婚約を主張したのを余り良く思ってないのかも知れない。友情はあっても愛情はないとか。ツラい。
だがそうであっても俺が一生一緒に居たいのはマデリーンしか考えられないので、どうにかフレンドでなくラブな方面にも進みたいのである。
勿論キス以上は結婚するまで我慢だが、運が良ければ少々ディープな感じを望んでいたりする。
あのぷっくりした唇に触れたい、舐め回したいという煩悩が日増しに強くなるばかりなのだ。
だが無理に押し通してマデリーンに嫌われたら立ち直れないので、むやみに本能のまま進むことも出来ず、こうして先人の教えを乞うている訳である。
「……ほー、なるほどねえ。
まあ折角マデリーン嬢がこっちに来てるんだし、頂けるモノは頂かないとなあ」
恥も外聞もなくコクコク頷く俺を見たヒューイおじさんは、チョイチョイと指を動かし、耳を貸せと言う仕草をした。
膝立ち体制でそそそと近づくと、俺の耳元で、
「女性はな、夕暮れと夜が一番その気になる事が多い。夜景なんかも悪くないぞ。あと少し位ワインを飲むとリラックスするぞ。
それになあ、男性には少しはリードして欲しいもんだ。お前は婚約してるんだ。
別に悪いことする訳じゃないんだし、いい男なんだからぐいっとやっちまえ!」
と囁いた。
そうだよな。いずれは結婚するのだ。
いつまでもキス位でビクビク相手の反応ばかり窺うような夫というのも未来の王配としてどうなのか。
このままではいけない。
「──頑張ってみます」
「よっ男前! それでこそ次期王配だ! 突き進め!」
「ありがとうございました! ……父様、もし夕飯までに帰れなくても母様に何とか誤魔化しておいて」
俺はヒューイおじさんにパワーを貰って元気良く立ち上がった。
「……おう。まあ頑張れ」
「では昼休み中に失礼致しました!」
ビシッ、と最後だけ敬礼をすると、俺はウキウキした気分で指揮官室を後にした。
「おいヒューイ」
「何かなー?」
「大丈夫なのか? 気安い付き合いをさせて戴いてるといえ、マデリーンは未来の女王陛下だ。余り強引に進めるのは問題じゃないか?」
ヒューイはカップに残ったコーヒーを飲み干すと、
「マデリーン嬢はどうみてもカイルにベタぼれじゃんか。むしろカイルは理性が有りすぎだ。お前の若い時を見てるようでモヤモヤする。
恋はもっとこう、激情に流されてもいいだろうが。
いやー青春だねえ。
ミランダと俺の若い頃を思い出すわ」
「俺がリーシャとキスしたのは19なんて年頃じゃないからまだ早いような気もするが」
「ダークと一緒にすんな。アイツは超イケメンで中身が真面目なダークという稀にみる逸材だぞ?
むしろよくあの年まで童貞も唇も食われずに守り抜いたもんだと尊敬するわ。
俺なら速攻でアチコチ味見に行ってたな」
「……シャーロッテにお前の父さんは唇にも下半身にも節操という鍵は付いてなかったと伝えておこう」
「俺の家族仲を壊そうとするの止めて。ミランダも暫く口利いてくれなくなるからほんと止めて。若気の至りだから。ほんと調子に乗ってごめんなさい」
俺が部屋を出てから、父にヒューイおじさんが目を潤ませてペコペコ謝っているとはつゆ知らず、
(ヒューイおじさんは女性関係は頼りになるなー)
などと気持ちを高揚させたままマデリーンとのデートに向かうのだった。
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