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カイルの場合。【6】初夜前編

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「……はい、誓います」
 
 
 俺が緊張しながら答えると、参列客からわあっという歓声と拍手が沸き上がった。
 
 
 
 とうとう待ちに待った俺とマデリーンの結婚式の当日である。
 
 
 父や母、弟たちやルーシーたちが一緒になって満面の笑みで拍手をしている。
 いや、母は拍手をしながらだーだー泣いていた。
 
「カイルがお婿に行くー、寂しいわあー」
 
「ほらリーシャ、せっかくのガーランド国の女神が普通の美人になっちゃうからチーンってしなさい」
 
 父が後ろを向かせて世話を焼いている。
 相変わらず母の美貌は40間近でも衰えてないようで、
 
「あそこのレディはどこの方だ?」
 
「……え? 花婿の母? いやいや馬鹿言うなよ、精々姉さんだろ。あんな若い母親いる訳ない」
 
「あれが噂のガーランド国の女神か……聞きしに勝るな」
 
「それじゃ、あの眩しいくらい女神に瓜二つの美貌の双子は娘なのか? 急いで息子の釣書を用意せねば!
 家族付き合いも大切にしたい!」
 
「ふざけるなよ、我が家の方が格が上だ! ウチの次男の嫁にする!」
 
 などとザワザワしているせいで、父のご機嫌がどんどん急降下している。
 申し訳ないですが、位で言えばジークライン王子とレイモンド王子の方がぶっちぎりで上です。
 すみませんね、もう嫁ぎ先決まってるもので。
 
 だーだー泣きながらもその辺の空気を読むのは得意な母なので、
 
「ダークぅ、せっかくの晴れの日に眉間にシワ寄せたらダメなんだからねー。とんでもないイケメンが普通のイケメンになるじゃないのよう」
 
 ときゅっきゅっと手でシワを伸ばしている。
 そして母が何より一番と憚らない父は、すぐコロコロと転がされてご機嫌が治るのだ。本当に自分の両親とはいえ、未だに仲が良くて当てられる。
 
 
 ルーシーはルーシーで、グエンおじさんにカバンを持たせてズームカメラを構え、俺たちに向けパシャパシャと忙しくフラッシュを光らせて撮りまくっている。
 
 いつも通りの家族の光景に、ピリついていた神経が収まって来て、ちょっと笑ってしまった。
 
「カイル、お披露目も済んだし、早く着替えてパーティー会場に移動しましょう。母様も父様もカイルと話をしたがってるわ。勿論リーシャおば様たちとも」
 
 マデリーンのウェディングドレスはかなり裾が長いレースになっていて、見た目はいいが歩きにくくてしょうがないらしい。
 
「とても綺麗なのに勿体ないね。……でも俺の奥さんは何を着てても可愛いからいいか」
 
 はい、と腕を絡ませて控え室へ向かう。
 
「やあね、カイルったらもう! イケメンに言われるとお世辞にしかならないわよ」
 
 顔を赤くしてペシ、と叩くマデリーンも可愛い。
 本当に自分の妻になったのかと未だに信じられない。
 
 これから10年後か20年後か分からないが、ヒルダ女王陛下が退位されてマデリーンが女王陛下に即位した時に、彼女の力になれるよう王配としての勉強も頑張らねば。
 
 
 
 
 □■□■□■□■□■□■
 
 
 
「よおし、明日はカイルとマデリーンの成婚記念で、タイを釣りに行くぞー!
 デカいのが来る予感がする!」
 
 すっかりワインでいい感じに出来上がったフレデリック王配……義父上が、父と母を捕まえて離さない。 
 
 親しい人たちだけで大広間で立食パーティーで行っているので、みんな気兼ねせずに過ごしているが、王配がアロハというのはどうなのかとも思う。
 
 しかも季節は春にはまだ少し早いのだ。みんな長袖である。マデリーンが言うには、
 
「もとから父様は暑がりだったんだけれど、ゲイルロードでアロハ買ってから着やすさにすっかりハマってしまって、畏まった席以外は殆どアレよ」
 
 と苦笑していた。まあぷにっとしたふくよかな体型と陽気な丸顔に似合っているけれど。
 
 
「しかし、この間私が釣ったタイを超えられるサイズはまだ出ておりませんでしょう?」
 
 父がミヌーエワインを飲みながらニヤリと笑った。
 
「あらダーク、3ヶ月も前の釣果を未だに誇るなんて大人げないわあ。まあどちらにせよ私が釣り上げた大物のヒラメほどではないけれど」
 
 ふふふふっ、と母が含み笑いをしながらたしなめているが、釣りになると負けん気が顔を出すようで、母も充分大人げない。
 
 ルーシーは義母であるヒルダ女王陛下に捕まり、
 
「だっておかしいだろう? あそこで何でノッティンガー侯爵がマルコを貶めるような真似をするんだ? 好きで好きで仕方ないという状態だったのに」
 
「そこが深みのあるところでございますわヒルダ女王陛下。次の巻ではその理由が明らかになるのです。
 ただ、ここで言ってしまってはせっかくの楽しみが半減してしまいますわ。
 読み直すと伏線があるのがお分かりかと」
 
「なんと! 気を持たせるではないかルーシー。
 最近では、リーシャの本がすっかり眠る前のお楽しみになっているというのに、ああ気になる……読み返すしかあるまい」
 
「読めば読むほど味わいがあるのがリーシャ様の作品です。他の作家様ではここまでのクオリティは中々……」
 
「そうよなあ。私も幾つか別の作家のものも送って貰ったが、やはりリーシャのが一番面白い」
 
「来月新刊が出ますので、ヒルダ女王陛下には発売前にお届け出来るよう手配は済んでおりますわ」
 
「いつも済まぬな。だがもうヒルダで良いと言うておろう? 私の薄い本の先生ではないか。
 リーシャのメイドは恐ろしく気が回ると我が王宮でも評判だぞ? いっそカイルと一緒に来て王宮で働かぬか?」
 
「とんでもございませんわ。女王陛下をお名前で呼ぶなど息子にも示しが付きませんのでお許し下さいませ。
 ちなみにリーシャ様のお側を離れる予定はございませんので宜しくお願い申し上げます」
 
「むー、残念な事よのう」
 
 
 
 ──何だかすっかり同好の士のような関係になっている。グエンおじさんはグレアムがおねむになったので一足早くホテルに引き上げていた。
 
 
 
 のどかな空気もそろそろお開きといったところで、マデリーンがメイドに連れられて下がる。
 
 俺も挨拶をして下がらせて貰う。
 
 
 
 何と言っても今夜は初夜なのである。
 
 酔っ払いたちの相手をしている場合ではないのだ。
 
 
 
 
 
 
 
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