フォアローゼズ~土偶の子供たちも誰かを愛でる~

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

文字の大きさ
11 / 30

クロエの場合。【4】

しおりを挟む
「ジーク!」
 
「クロエ、ゴメンね遅れてしまって」
 
 
 
 
 ジークが少しだけ息を荒くしながら、カフェでココアを飲みながら待っていた私の席に腰をかけた。
 ボーイさんを呼びコーヒーを頼むと、ジークが私に済まなそうな顔を向けた。
 
「大丈夫よ。お仕事だもの、仕方ないわ」
 
 
 
 ジークはガーランド国と自分の国、アーデルハイドミレニアカリクバーン──長いので隣国とかアーデルとか皆は言っている──との交易のため、アーデル国のバックアップのもとガーランド国に貿易会社を作り、責任者としてこちらにやって来て3年になる。
 
 もうすっかりこちらに馴染んだようで、このままこっちに永住する予定だと言う。
 
 私は自宅もこちらだからとても嬉しいが、家族になかなか会えなくて寂しくないのか心配したところ、
 
「兄上は後継ぎも出来たし、ド変態なところさえ抜かせば割と仕事出来る人なんだよ。
 両親も田舎でのんびり暮らしてるし、もういい年をした息子がようやく結婚してくれるだけで御の字だそうだから、親の方は兄さん夫婦に任せようかなと。
 まあ交通の便も良くなったし、5時間もあれば行けるから。こちらでの仕事も大切だしね」
 
 と言っていた。
 ド変態と言っているお義兄様だが、畏れ多くもアーデル国の国王陛下である。
 
 初めてお会いした時にはとても穏やかそうな方に見えたのだが、なんと以前に母様を拉致したと思ったら、あんな理想的な美人にセクシーな格好をさせてヒールで踏んづけて欲しい! とずっと思っていたらしく、王族だし逆らえないと母様がドン引きしながら踏んだそうだ。私もそれを聞いてドン引きした。
 
 母様はどうせならとロウソクを垂らしたり女王様的な発言をしたりして腹立ちをぶつけたところ、余計喜ばれたようで、
 
「無理矢理やらされている内に何だかゾクゾクしてきてね。新しい世界の扉が開きそうで困ったわあ」
 
 とコロコロ笑っていたが、父様はそれを聞いて、
 
「リーシャが拐われたと聞いて生きた心地もしなかったのに、見つけた時には破廉恥な格好で美貌と色気を振り撒いてたから、別の意味で血の気が引いたんだぞ。
 王族でなければどうしていたか俺にも解らん。
 新しい世界の扉は鍵をかけて一生閉じてなさい」
 
 と母様に説教していた。
 
 
 
 
「でも待たせたのは事実だから。ゴメンね」
 
 笑いかけるジークは、私が出会った小さな頃からずっと恋い焦がれてやまないエメラルドグリーンの美しい瞳で私を見つめていた。
 
 
 父様もジークも、私の中ではものすごく整った顔立ちで綺麗だと思っていたが、どうもそうではないらしいと気づいたのは5歳位だろうか。
 
 ジークと一緒に町を歩くと、私にはみんな笑顔で話をしてくれるのに、ジークや父様にはしかめっ面というか、余り見たくないといった感じの慇懃無礼な対応をしていた。
 不思議に思って屋敷に帰ってから母様に尋ねると、
 
「父様もジーク様も、世の中では稀に見る不細工なんですって。クロエは私と同じ価値観で、目鼻立ちのはっきりした顔立ちが格好いいと思ってるのよね?」
 
 といい、頷くとそれでいいのよと教えてくれた。
 
「人の好みなんてそれぞれなんだから、誰が何と言おうと構わないの。私は世界一父様……ダークが格好いいと思うし、中身も最高にできた人だと思ってる。
 周りに不細工だと思われてるならライバル減ってラッキーじゃない? 別に見せびらかすために付き合ったり結婚したい訳じゃないもの。
 私たちみたいな価値観の人はフランを入れてもまあ殆どいないのよ。
 だから彼らも不幸な思いをしただろうし、これからも嫌な目に遇う可能性も高いわ。
 王族なのは個人的にはアレだけど、ジークを幸せに出来るのはクロエしか居ないかも知れない。
 もしこのまま他に好きな人が現れたり、年上過ぎて無理だと思ってしまう事がなければ、彼を幸せにしてあげて欲しい。応援してるわ」
 
 確かに18と37というのは結構な年の差だと思うが、小さな頃からの付き合いのせいか、私はそんなに離れてると思った事がない。
 
 昔から大好きで、今も大好きなちょっと年上のお兄さんと言ったところだろうか。
 
 でも子供の時からの付き合いだからなのか、ジークも未だに子供扱いする事が多い。
 再来月には結婚式だと言うのにオデコへのキスしかしてくれないのだ。
 
「お嫁さんに来るまではね」
 
 と頭を撫でられる。それはそれで気持ちいいけど、もっとこう恋人なのだから、激しく燃え上がるモノがないのだろうかと寂しくもなる。
 
 
 
「──おっと芝居に遅れるね。そろそろ行こうか?」
 
 ジークが促し店を出る。
 
 手を繋いで会場へ歩きながらも、私は少しだけモヤモヤしたものを抱えるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...