31 / 47
おじいちゃんは頑張り中
しおりを挟む
ポロっと出たチカ様の「交流試合」。
本当に行われる事になった、と黒須さんから聞いたのは翌週の仕事の時であった。
「ああ、思ったより早く実現するんですね」
「常磐様がなるべく早くと仰るもんでな。再来月の2週目の7の日、千里長屋わっしょいずと洋華きんぐすの試合がウチの一番野球場で行われる事になった」
「キングス……チカ様も出られるんでしょうね」
「ああそのようだな」
草野球チームに国王が出るとか、あっちものんびりしてるなあ。
……まあ常磐様は王とは言えど王宮で寝てばかりだったみたいだし、王宮勤めの人以外は、顔を知られているのは代理として色々とやってる黒須さんらしいからアレだが、あの派手な赤髪のチカ様は常磐様と違ってアクティブに動いてそうだものねえ。恐らく国民に顔は知られまくりではないかと思うのだけど。
「交流試合って、国の長が直接戦って問題ないんですかね? 勝敗で遺恨を残さないか心配なんですけど」
「球技の交流試合そのものが初めてだからなあ。
昔、剣道で交流試合をしたことはあるが、常磐様はその時にはもうとっくに飽きて止めておられたし、祖手近王も出ておられなかった」
「ま、楽しんでやって頂ければ良いですよね」
「そうだな。常磐様が『これから猛特訓して和宝国の王として恥じない戦いをするからね。ちょっと黒須には仕事を任せてしまう事が増えるかも知れないけど、私が何の心配もなく背中を預けられるのは黒須だけだからねえ』などと嬉しい事を仰って下さっていたので、出来れば勝って頂きたいのだがな」
……だから騙されてますよ黒須さん。
それ直訳すると【また仕事サボりがちになるけど、一番仕事を処理出来るの黒須だからよろ】って言われているのと一緒ですからね。本人が喜んでるから敢えて言いませんけども。
好きな人の役に立てるのは、やはり嬉しいものだし。
「……そうですか。それはそれは」
私はどうとでも受け取れるグレー回答で仕事に戻った。
◇ ◇ ◇
「今日はねえ、ひっとになりそうな球を2度も私が捕ったんだよ。長屋の人たちにも『この頃の朱鷺さんは伸びが違うねえ』なんて誉められたりしてさ」
2000年以上生きてて乙女のように照れられても。無駄に可愛いから止めて欲しい。
いや、乙女ではなく小学生の『ボク100点取ったんだよお母さん!』のルートかも知れない。
自分が今一つ球技に向いてないんじゃないか、と思っていたところへの誉め言葉はやはり嬉しいのだろう。
大根おろしをたっぷり乗せて醤油を垂らした厚焼き玉子をモグモグと食べながら、私は微笑ましい気持ちになった。
「朱鷺さん、今度の試合、勝てるといいですね」
「そうなんだよね。でもあちらさんもほら、祖手近が本気だしてかなり熱心に練習しているみたいだから。
洋華国はかなり体つきのいい人たちも多いだろう?」
言われてみれば、チカ様もバトル漫画とかで出てきそうなごつい人だし、となみで働いていた人たちもガタイのいい人が多かった気がする。
こちらの人はしっかり筋肉はついている人も多いが、いわゆる細マッチョ系である。
牛肉とか豚肉とか食べてるから海外体型になるのだろうか。牛乳も背が伸びると言うし。
良く分からないなあ。
今回は難しいかも知れないねえ、と常磐様が残念そうな顔で呟いた。
「体つきの良さは関係ないですよ。要は打って走る、点を取る、その点差を守るを地味に繰り返してれば勝てると思います」
「……そうだよね。私も大分走るのも早くなってきたし、小さなひっとでも重ねて点を取ればいいんだよね」
「と私は思います。まあ勝負は時の運ともいいますしね。今日勝てなくても明日勝てばいいんですよ」
「でもさ、どうせならナノハがいる時に私が活躍してる姿を見せたいじゃないか。ほら、旦那の勇姿を妻が見たら惚れ直すとか良く聞くだろう?」
嘘っこの夫婦ですけどもね。
外で夫婦仲良しアピールしたいのかな?
「そうですねえ。じゃあホームラン打ったら『貴方素敵!』とか言って抱きついて頬にキスしたりとか」
私は調子に乗って軽口をたたいた。いや甚平着た妻(仮)にそんなことされても仕方ないか。
「……」
「あ、冗談ですよ冗談」
「──いや、やっておくれよ本当にほーむらん打てたら。ここ数百年そんな色気のある事は何にもなかったから、ご褒美があった方が嬉しいよねえ、うん」
常磐様がご機嫌になった。
「いや私で良ければやりますけど、全く色気はないですよ?」
「大丈夫だよ。女性というだけで色気があるんだからね。それにナノハは可愛いよ」
とんでもない美形に言われても説得力皆無です。
まあ数百年レベルで色事もないようなおじいちゃんならこの位がちょうどいいのかしら。
「では旦那様。ナノハはご活躍を心よりお祈り致しております。ご武運を」
「うん。可愛い妻の為にも頑張るよ。……いいね、こういうのも本当の夫婦みたいでさ。急いで片づけるからナノハは銭湯へ行く支度を頼むよ」
そう言うと、いそいそと食器を片づけて洗いに行く常磐様を見て、
(そうですね。どっちが妻なのか分からないけど)
と苦笑した。
そして、気がつけば交流試合はもうすぐそこまでやって来ていた。
本当に行われる事になった、と黒須さんから聞いたのは翌週の仕事の時であった。
「ああ、思ったより早く実現するんですね」
「常磐様がなるべく早くと仰るもんでな。再来月の2週目の7の日、千里長屋わっしょいずと洋華きんぐすの試合がウチの一番野球場で行われる事になった」
「キングス……チカ様も出られるんでしょうね」
「ああそのようだな」
草野球チームに国王が出るとか、あっちものんびりしてるなあ。
……まあ常磐様は王とは言えど王宮で寝てばかりだったみたいだし、王宮勤めの人以外は、顔を知られているのは代理として色々とやってる黒須さんらしいからアレだが、あの派手な赤髪のチカ様は常磐様と違ってアクティブに動いてそうだものねえ。恐らく国民に顔は知られまくりではないかと思うのだけど。
「交流試合って、国の長が直接戦って問題ないんですかね? 勝敗で遺恨を残さないか心配なんですけど」
「球技の交流試合そのものが初めてだからなあ。
昔、剣道で交流試合をしたことはあるが、常磐様はその時にはもうとっくに飽きて止めておられたし、祖手近王も出ておられなかった」
「ま、楽しんでやって頂ければ良いですよね」
「そうだな。常磐様が『これから猛特訓して和宝国の王として恥じない戦いをするからね。ちょっと黒須には仕事を任せてしまう事が増えるかも知れないけど、私が何の心配もなく背中を預けられるのは黒須だけだからねえ』などと嬉しい事を仰って下さっていたので、出来れば勝って頂きたいのだがな」
……だから騙されてますよ黒須さん。
それ直訳すると【また仕事サボりがちになるけど、一番仕事を処理出来るの黒須だからよろ】って言われているのと一緒ですからね。本人が喜んでるから敢えて言いませんけども。
好きな人の役に立てるのは、やはり嬉しいものだし。
「……そうですか。それはそれは」
私はどうとでも受け取れるグレー回答で仕事に戻った。
◇ ◇ ◇
「今日はねえ、ひっとになりそうな球を2度も私が捕ったんだよ。長屋の人たちにも『この頃の朱鷺さんは伸びが違うねえ』なんて誉められたりしてさ」
2000年以上生きてて乙女のように照れられても。無駄に可愛いから止めて欲しい。
いや、乙女ではなく小学生の『ボク100点取ったんだよお母さん!』のルートかも知れない。
自分が今一つ球技に向いてないんじゃないか、と思っていたところへの誉め言葉はやはり嬉しいのだろう。
大根おろしをたっぷり乗せて醤油を垂らした厚焼き玉子をモグモグと食べながら、私は微笑ましい気持ちになった。
「朱鷺さん、今度の試合、勝てるといいですね」
「そうなんだよね。でもあちらさんもほら、祖手近が本気だしてかなり熱心に練習しているみたいだから。
洋華国はかなり体つきのいい人たちも多いだろう?」
言われてみれば、チカ様もバトル漫画とかで出てきそうなごつい人だし、となみで働いていた人たちもガタイのいい人が多かった気がする。
こちらの人はしっかり筋肉はついている人も多いが、いわゆる細マッチョ系である。
牛肉とか豚肉とか食べてるから海外体型になるのだろうか。牛乳も背が伸びると言うし。
良く分からないなあ。
今回は難しいかも知れないねえ、と常磐様が残念そうな顔で呟いた。
「体つきの良さは関係ないですよ。要は打って走る、点を取る、その点差を守るを地味に繰り返してれば勝てると思います」
「……そうだよね。私も大分走るのも早くなってきたし、小さなひっとでも重ねて点を取ればいいんだよね」
「と私は思います。まあ勝負は時の運ともいいますしね。今日勝てなくても明日勝てばいいんですよ」
「でもさ、どうせならナノハがいる時に私が活躍してる姿を見せたいじゃないか。ほら、旦那の勇姿を妻が見たら惚れ直すとか良く聞くだろう?」
嘘っこの夫婦ですけどもね。
外で夫婦仲良しアピールしたいのかな?
「そうですねえ。じゃあホームラン打ったら『貴方素敵!』とか言って抱きついて頬にキスしたりとか」
私は調子に乗って軽口をたたいた。いや甚平着た妻(仮)にそんなことされても仕方ないか。
「……」
「あ、冗談ですよ冗談」
「──いや、やっておくれよ本当にほーむらん打てたら。ここ数百年そんな色気のある事は何にもなかったから、ご褒美があった方が嬉しいよねえ、うん」
常磐様がご機嫌になった。
「いや私で良ければやりますけど、全く色気はないですよ?」
「大丈夫だよ。女性というだけで色気があるんだからね。それにナノハは可愛いよ」
とんでもない美形に言われても説得力皆無です。
まあ数百年レベルで色事もないようなおじいちゃんならこの位がちょうどいいのかしら。
「では旦那様。ナノハはご活躍を心よりお祈り致しております。ご武運を」
「うん。可愛い妻の為にも頑張るよ。……いいね、こういうのも本当の夫婦みたいでさ。急いで片づけるからナノハは銭湯へ行く支度を頼むよ」
そう言うと、いそいそと食器を片づけて洗いに行く常磐様を見て、
(そうですね。どっちが妻なのか分からないけど)
と苦笑した。
そして、気がつけば交流試合はもうすぐそこまでやって来ていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
気がつけば異世界
波間柏
恋愛
芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。
それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。
その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。
これは現実なのだろうか?
私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる