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授与式【2】

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「リーシャ様、例の月刊誌の【教えてルージュ先生!】コーナーの読者の質問をライラから受け取って来たのですが、校正の都合上なる早で、との事なので、お出掛けの支度の前にサクッとお願いできますでしょうか?」

 ルーシーがポケットから紙を取り出して私に尋ねてきた。

 月刊誌の連載コーナーのようなものである。ルージュのお悩み相談室といったところか。

「まだ時間はあるから大丈夫よ。………っカイル~、ブレナンがそっちにローリングしてるから積み木片づけてーーーっ!」

「あい!」

 アレックと遊んでいたカイルがしゅたっ、と立ち上がり、サササッと何個か出ていた積み木を拾うと、その横をタオルを巻いたブレナンが転がって行った。
 アレックが手でストップさせると、今度はアレックの足に捕まる。

 この私によく似た性格のずぼらな息子ブレナンは、最近ローリングより楽な移動手段を見つけた。
 『つかまり移動』である。

 誰かにぶつかるまでローリングし、ぶつかった相手のスカートや足首にしがみついて運んで貰うのである。

 みんな最初は驚いたがもう慣れたもので、ガシッと捕まれると適度に離れたところまで「何も引きずってないかのように」歩いて行くとブレナンの手が離れる。
 そして、また誰かにぶつかるべくブレナンはローリングしていくのである。

 暫く続けると体が擦れて痛いかも知れない、とサリーがタオルの上をゴムで絞ったマントのようなものを作り(プールの女子更衣室で見るようなアレである)頭から被せたところ、滑りが良くなったのか大変気に入り始終つけている。

 遊びの一環なのか、単に楽に移動したいだけなのか不明だが、私は恐らく後者ではないかと睨んでいる。

 大人しいし、ワガママも殆ど言わないし良く眠るし、転がってるか引きずられて喜んでいる以外は本当に手もかからないが、我が子ながら謎である。
 ただ確実に自分の血だろうと感じる。

 カイルが活発ながらも弟思いの素直な優しい子に育っているのは、きっとダークの血だろう。

 ちょっと申し訳ないような気持ちになっていると、ルーシーから、

「支度が遅れますからボーッとしてないで早く終わらせましょうよリーシャ様」

 と怒られた。

「悪かったわルーシー、急がないとダークの正装を見る時間が減るわね。ちゃっちゃと行きましょうちゃっちゃと」

「『質問。私もマンガを描いていますが、話を盛り上げたり面白くするコツは何ですか?』だそうです」

「よくもエロい話しか描いてない人間にそんなこと聞いてくるわね。
 盛り上がりなんてエロに向かうまでの過程しかないっていうのに。でもきっと聞きたいのは普通のマンガなのよね?
 うーん、そうね盛り上がり………まあオーソドックスな大人の恋愛話なら【事件・事故】【記憶喪失】【実は恋人と血の繋がりが?!→別れの予感】みたいなのをぶちこんでしまえば結構ハラハラして話を引き延ばせるわね。年の差もいけるわよ。
 学園ものなら【ミステリアスな転校生】【恋のライバル】【たまに無意味なスケベシーン】とか出せばスパイスになるんじゃないかしら。
 クラブ活動させるなら大会や秘密の特訓も必ずね。
 バトルものなら【修業】【覚醒】【もいっちょ覚醒】【ファイナル覚醒】【魅力的な敵キャラ】【共闘】【強敵(とも)の死】、ここら辺掴んでおけばばっちりよ。 最悪展開に困ってきたら【最強トーナメント】とか開催すれば闘いだけで何冊かしのげるからお薦めね。まあキャラクターがかなり必要になるんだけれど。
 他にも色々、というか腐るほどあるけれど、ざっくり言うとこの辺りかしらね」

「………ざっくりだけでも結構えげつのうございますね」

「王道を歩まずして成長なし。聞くだけで労せずに盛り上がりを得ようだなんて生ぬるい事を言ってる子は覇王にはなれないわ。
 自分で考えろっつうのよ。エロ担当の私ですら年中頭を悩ませてるのに」

「なるほど………」

 カリカリとメモをするルーシーに、

「でも、適度に柔らかい言い回しでお願いね」

 と付け足す事は忘れない小心者の私だった。

「かしこまりました。
 ………おやもうこんな時間ですか。
そろそろお支度を致しましょうか。今回はカイル坊っちゃまとブレナン坊っちゃまのお世話がありますのでわたくしご一緒出来ませんが、変な人に声をかけられても付いて行かないで下さいね。なるべくマークス様や旦那様とご一緒に居るようにして一人にならないようお願い致します」

「子供じゃないんだから。大丈夫よ」

「子供じゃないから心配してるんですよ。拐われて船に乗せられでもしたらどうするんですか」

「子持ちの人妻に何を言うかと思えば。
 馬鹿な事を言ってないで早く支度しましょ。私先にお風呂入ってくるわ。ドレスの準備お願いね」

「かしこまりました」

 私はダークの正装を妄想しつつ、浮き浮きと風呂へ向かうのだった。





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