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初級学校も地雷源。
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「………ルーシー、私落ち着いた貴族のマダムっぽくなってるかしら?ねえ」
「マダムというより現実逃避気味の腐女子のお嬢様といった風情でございますがそれはそれとして、ブレナン坊っちゃまが一緒に行きたいとお待ちです」
「それはそれとしちゃいけないワードが入ってたのだけどとりあえず置いといて、ブレナンが?」
「はい。何やら『にーさまのかっこいいすがたをみたい』とか『がっこうがみたい』とか『ねやすいイスかどうかたしかめたい』とか」
「そう。最後のは頬っぺたのびーる案件だけど、………そうよね、あの子も身内だものね………いいわ連れて行きましょう」
「ですがリーシャ様、お子様を人避けに使うのは如何なものかと」
「どんなちっこいのでも味方が一人でもいれば心強いのよ。へーいブレナーン」
既に外出着に着替えてリビングのソファーに座って大人しく待っていたブレナンが、たかたかとこちらへやって来た。
「貴方、学校で良い子に出来る?騒いだり、暴れたり、窓ガラス壊して回ったりしたらいけないのよ?」
背後からルーシーが、
「むしろ騒いでくれたらめっけもんという誘導はお止め下さい。途中抜けはミッション未達成とみなしますわよ」
「………分かったわよ。
ブレナン、カイルが恥ずかしい思いをしないように大人しくしていられる?」
「ぼく、いつもしずか」
「………そうだったわね。時には子供らしく叫びたくならないの貴方」
「んー、つかれるから」
「だから煽るのは止めて下さいませ」
「分かったわよ。さ、行くわよブレナン」
「はい」
「なにかしらそのポーズは」
「だっこ。こどものけんり」
「………そう。ここで子供の権利を主張するわけね。
カイルと帰りがけにカフェでパンケーキでも食べるつもりだったけれど、歩けもしないお子ちゃまはお店に入れないからお留守番で。ルーシーあとよろしくね」
私はヒラヒラと手を振って玄関に歩き出す。
ブレナンは普段のゆるゆる感からは考えられないスピードで回り込み、私の手を握ってきた。
「かーさま、ぼくそだちざかり。あるける」
「そうなの?さっき抱っことか言ってなかったかしらね」
「きのせい」
「じゃあブレナンは抱っことか言うお子ちゃまじゃない訳ね?そーよねー4歳だものねー」
「そう。かふぇにもはいれるおとしごろ」
「そ。じゃ、連れていってあげるわ」
「ありがとございます」
私は必死に笑いをこらえながら、てけてけ付いてくるブレナンに合わせて馬車へ向かうのだった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ブレナンを連れてカイルのクラスに入ると、一瞬シーンとした後に親御さんからは溜め息が漏れ、子供たちのキャーキャー騒ぐ声が聞こえた。
「カイルカイル、あれおかーさんだろ?すっげーキレイだなあ!カイルとにてる」
「おかーさんといっしょにいるのおとうと?おにんぎょさんみたいにかわいいね!」
キレイとはカレイの親戚でしょうかね。
私はただの髪と目がたまたま黒いだけのヒッキーですよ。
ブレナンを褒めて頂けるのは有り難いんですけれども、この子も体力温存タイプの面倒くさがりのグータラさんでしてね。私にクリソツなんですよ中身が。
とりあえず、円滑なコミュニケーションという事で笑っておく。
あの先生、頬を染められてもリアクションに困ります。
誰かのお父さまも私ごときに熱い眼差しを注がないで下さい。お母さまもまさかリリー系の方ですか。
………ヤバい。授業が始まる前から疲労を溜めてどうする私。深呼吸だ。
カイルが振り返って笑顔で手を振るので振り返したら、周囲の子供まで手を振るのはなんでだ。
「………えっと、はい、では授業を始めますね。みんな着席ー」
20人位の生徒たちが大人しく席に着く。
黒板には
『ぼくの わたしのおとうさん おかあさん』
と書かれている。
………地雷臭しかしない。
ブレナンがバーサクの呪いにでもかかってくれないかと見下ろすも、遠い目でぼんやりと前を見つめているだけである。
コイツはもう既に終わった後のパンケーキの事しか考えていないに違いない。
役に立たない息子である。
「それじゃ、アンドリュー君からお願いします」
まだ20代後半ぐらいの若そうな先生がニコニコと前の席の生徒を指差して、逃げる隙を見失った。
『ぼくのおとうさんは、いえをたてるしごとをしています。いつもまいあさはやくからよるまでたいへんだと思います………』
んん?思ってたより普通っぽいじゃない。
そうよね。だって小学1年生と同じだもの。まだまだ幼いわよね。
カイルがふんばば踊りだのサバイバルだの言い出さなきゃいいだけよ。
そう。あの子も分かってる筈よ。
カイルの読む番が来る頃には、すっかり凪いだ海のように安心しきっていた。
いやー、子供たち、可愛いね。みんなで川へ遊びにいってカレーを作っただの、おかあさんに編み物を教えてもらってるだの微笑ましいエピソードばかりだわ。
「じゃ、カイル君お願いします」
「はい!」
カイルよ、穏やかにさらっと終わってくれたまえ。
『ぼくのおとうさんとおかあさん』
タイトルを読み上げたカイルは、元気に読み出した。
『ぼくのおとうさんはきしだんでかんりかんというおしごとをしています。4つのきしだんをとうかつするえらいおしごとです。』
うんうん、いいよいいよ。
『けんもつよくてボクはいつもかないません。とてもつよいおとうさんです』
はいフィナーレいっちゃって。
『そんなつよいおとうさんですが、おかあさんのことがだいすきで、ごはんのときやリビングでおちゃをのんでるときに、おかあさんのことを見ながらてくびをギュッとにぎってます。
ボクはふしぎにおもってなにをしてるのかきいたら、「しあわせすぎててんごくにいるんじゃないかとおもって生きているかかくにんをしてるんだ」といいました。』
ダークめ。7年も経つのにまだやってんのか。夜にでも説教しなくては。
しかしこんな恥ずかしい話を堂々としないで欲しい。
周りの目が生暖かくなってきてより居たたまれなくなるじゃないか。
私は、顔が熱くなってきて思わずハンカチで口元を覆う。
『おとうさんは、「おかあさんがいちばんすきで、ぼくたちきょうだいは2ばんめにすきだ」とおしえてくれました』
本当にもう勘弁して欲しい。
ダークも息子に何を言ってるのよ。
『おとうさんは、そんなにかおがカッコよくないのに、おかあさんが「アナタのひとがらがすきだ。わたしがいっしょうかけてしあわせにしたい」といってくれたので、プロポーズするゆうきがでたんだ、おかあさんはおとうさんのメガミだ、生まれかわってもまたおかあさんとであって、けっこんして、おまえたちのようなかわいいこどもがほしい、とギュッとしてくれました。
おとうさんのおともだちのヒューイおじさんは、「あいつらはバカップルっていうんだぞ」といっていましたが、ボクはバカップルなおとうさんとおかあさんがだいすきです。おわり』
………お茶会などメじゃない位のダメージを食らってしまった。
ほぼ後半は、ダークの私への溺愛アピールじゃないか。本人から聞くなら嬉しいけど、息子が友だちも父兄もいるところで堂々と披露する話ではない。
ぱちぱちぱちぱちと、とてもとても温かい拍手が父兄からも鳴る中、私は、身の置き所がなく無意味にお辞儀をしつつ、
(連載一回休みじゃ全然割りに合わない………)
と心で涙の雨を降らせるのだった。
「マダムというより現実逃避気味の腐女子のお嬢様といった風情でございますがそれはそれとして、ブレナン坊っちゃまが一緒に行きたいとお待ちです」
「それはそれとしちゃいけないワードが入ってたのだけどとりあえず置いといて、ブレナンが?」
「はい。何やら『にーさまのかっこいいすがたをみたい』とか『がっこうがみたい』とか『ねやすいイスかどうかたしかめたい』とか」
「そう。最後のは頬っぺたのびーる案件だけど、………そうよね、あの子も身内だものね………いいわ連れて行きましょう」
「ですがリーシャ様、お子様を人避けに使うのは如何なものかと」
「どんなちっこいのでも味方が一人でもいれば心強いのよ。へーいブレナーン」
既に外出着に着替えてリビングのソファーに座って大人しく待っていたブレナンが、たかたかとこちらへやって来た。
「貴方、学校で良い子に出来る?騒いだり、暴れたり、窓ガラス壊して回ったりしたらいけないのよ?」
背後からルーシーが、
「むしろ騒いでくれたらめっけもんという誘導はお止め下さい。途中抜けはミッション未達成とみなしますわよ」
「………分かったわよ。
ブレナン、カイルが恥ずかしい思いをしないように大人しくしていられる?」
「ぼく、いつもしずか」
「………そうだったわね。時には子供らしく叫びたくならないの貴方」
「んー、つかれるから」
「だから煽るのは止めて下さいませ」
「分かったわよ。さ、行くわよブレナン」
「はい」
「なにかしらそのポーズは」
「だっこ。こどものけんり」
「………そう。ここで子供の権利を主張するわけね。
カイルと帰りがけにカフェでパンケーキでも食べるつもりだったけれど、歩けもしないお子ちゃまはお店に入れないからお留守番で。ルーシーあとよろしくね」
私はヒラヒラと手を振って玄関に歩き出す。
ブレナンは普段のゆるゆる感からは考えられないスピードで回り込み、私の手を握ってきた。
「かーさま、ぼくそだちざかり。あるける」
「そうなの?さっき抱っことか言ってなかったかしらね」
「きのせい」
「じゃあブレナンは抱っことか言うお子ちゃまじゃない訳ね?そーよねー4歳だものねー」
「そう。かふぇにもはいれるおとしごろ」
「そ。じゃ、連れていってあげるわ」
「ありがとございます」
私は必死に笑いをこらえながら、てけてけ付いてくるブレナンに合わせて馬車へ向かうのだった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ブレナンを連れてカイルのクラスに入ると、一瞬シーンとした後に親御さんからは溜め息が漏れ、子供たちのキャーキャー騒ぐ声が聞こえた。
「カイルカイル、あれおかーさんだろ?すっげーキレイだなあ!カイルとにてる」
「おかーさんといっしょにいるのおとうと?おにんぎょさんみたいにかわいいね!」
キレイとはカレイの親戚でしょうかね。
私はただの髪と目がたまたま黒いだけのヒッキーですよ。
ブレナンを褒めて頂けるのは有り難いんですけれども、この子も体力温存タイプの面倒くさがりのグータラさんでしてね。私にクリソツなんですよ中身が。
とりあえず、円滑なコミュニケーションという事で笑っておく。
あの先生、頬を染められてもリアクションに困ります。
誰かのお父さまも私ごときに熱い眼差しを注がないで下さい。お母さまもまさかリリー系の方ですか。
………ヤバい。授業が始まる前から疲労を溜めてどうする私。深呼吸だ。
カイルが振り返って笑顔で手を振るので振り返したら、周囲の子供まで手を振るのはなんでだ。
「………えっと、はい、では授業を始めますね。みんな着席ー」
20人位の生徒たちが大人しく席に着く。
黒板には
『ぼくの わたしのおとうさん おかあさん』
と書かれている。
………地雷臭しかしない。
ブレナンがバーサクの呪いにでもかかってくれないかと見下ろすも、遠い目でぼんやりと前を見つめているだけである。
コイツはもう既に終わった後のパンケーキの事しか考えていないに違いない。
役に立たない息子である。
「それじゃ、アンドリュー君からお願いします」
まだ20代後半ぐらいの若そうな先生がニコニコと前の席の生徒を指差して、逃げる隙を見失った。
『ぼくのおとうさんは、いえをたてるしごとをしています。いつもまいあさはやくからよるまでたいへんだと思います………』
んん?思ってたより普通っぽいじゃない。
そうよね。だって小学1年生と同じだもの。まだまだ幼いわよね。
カイルがふんばば踊りだのサバイバルだの言い出さなきゃいいだけよ。
そう。あの子も分かってる筈よ。
カイルの読む番が来る頃には、すっかり凪いだ海のように安心しきっていた。
いやー、子供たち、可愛いね。みんなで川へ遊びにいってカレーを作っただの、おかあさんに編み物を教えてもらってるだの微笑ましいエピソードばかりだわ。
「じゃ、カイル君お願いします」
「はい!」
カイルよ、穏やかにさらっと終わってくれたまえ。
『ぼくのおとうさんとおかあさん』
タイトルを読み上げたカイルは、元気に読み出した。
『ぼくのおとうさんはきしだんでかんりかんというおしごとをしています。4つのきしだんをとうかつするえらいおしごとです。』
うんうん、いいよいいよ。
『けんもつよくてボクはいつもかないません。とてもつよいおとうさんです』
はいフィナーレいっちゃって。
『そんなつよいおとうさんですが、おかあさんのことがだいすきで、ごはんのときやリビングでおちゃをのんでるときに、おかあさんのことを見ながらてくびをギュッとにぎってます。
ボクはふしぎにおもってなにをしてるのかきいたら、「しあわせすぎててんごくにいるんじゃないかとおもって生きているかかくにんをしてるんだ」といいました。』
ダークめ。7年も経つのにまだやってんのか。夜にでも説教しなくては。
しかしこんな恥ずかしい話を堂々としないで欲しい。
周りの目が生暖かくなってきてより居たたまれなくなるじゃないか。
私は、顔が熱くなってきて思わずハンカチで口元を覆う。
『おとうさんは、「おかあさんがいちばんすきで、ぼくたちきょうだいは2ばんめにすきだ」とおしえてくれました』
本当にもう勘弁して欲しい。
ダークも息子に何を言ってるのよ。
『おとうさんは、そんなにかおがカッコよくないのに、おかあさんが「アナタのひとがらがすきだ。わたしがいっしょうかけてしあわせにしたい」といってくれたので、プロポーズするゆうきがでたんだ、おかあさんはおとうさんのメガミだ、生まれかわってもまたおかあさんとであって、けっこんして、おまえたちのようなかわいいこどもがほしい、とギュッとしてくれました。
おとうさんのおともだちのヒューイおじさんは、「あいつらはバカップルっていうんだぞ」といっていましたが、ボクはバカップルなおとうさんとおかあさんがだいすきです。おわり』
………お茶会などメじゃない位のダメージを食らってしまった。
ほぼ後半は、ダークの私への溺愛アピールじゃないか。本人から聞くなら嬉しいけど、息子が友だちも父兄もいるところで堂々と披露する話ではない。
ぱちぱちぱちぱちと、とてもとても温かい拍手が父兄からも鳴る中、私は、身の置き所がなく無意味にお辞儀をしつつ、
(連載一回休みじゃ全然割りに合わない………)
と心で涙の雨を降らせるのだった。
応援ありがとうございます!
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