巻き込まれ女子と笑わない王子様

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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迷い人

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「……なるほど。迷い人みたいだな」
「迷い人?」

 私の振り下ろした枝を軽く受け止めた黒髪のお兄さんは、この国(コンウェイ王国と言うらしい)の騎士団長で、ケヴィン・グラットンと言うそうだ。鍛錬も兼ねて山賊などが潜んでないかなどの見回りを定期的に行っており、物音で私を見つけたようだ。
 そのケヴィンが言うには、何十年も前から数年単位で一人か二人、別の国で暮らしていた人間が森や川やらにポロっと現れるらしい。
 見つかった当初はこの国でも他国のスパイではないかなど疑って色々と調査したりしたそうなのだが、口元の動きを見ても明らかにこちらの言語を喋っている訳ではないのに、こちらの言語で聞こえる。相手側にもちゃんと母国の言語で伝わるらしい。服装も異なるし顔立ちもかなり違う。
 聞き取りすると文化の発展が明らかに我が国よりも上だし、何年も調べるうちに口裏を合わせているのでなければ理解しがたい一致点が多々あり、これは本当に異なる世界からやって来た人間ではないか、と学者の意見が一致したそうだ。そこで、他国に迷い込んだ人=迷い人ということで、発見したら保護しているそうだ。

「はあ……じゃあここはあの世ではなく異世界なんですねやっぱり」

 ケヴィンも他の騎士の人も明らかに外国の顔立ちなのに、確かに会話が出来る。言われてみれば口元の動きは日本語を喋っているようにも思えない。
 あの世ではなく異世界だった時に一番不安だったのは意思疎通が出来るかだったので、これに関しては助かった。

「一応王宮の文官や学者と話し合いはして貰うことになるが、希望の仕事や落ち着き先が決まるまでは生活資金は支給されるし、精神面でも出来る限りサポートをしたいと思っている」

 ケヴィンさんが言うには、迷い人の中には友だちと釣りをしていただけだ、自分の国に帰らせろと暴れて心を病んだ人や、異世界来たら楽しいかもと想像はしていたけど本当に来たかった訳じゃない、と自らの命を絶つ人も何人かいたらしく、心のケアは重視しているそうだ。
 私やナイトのように、明らかに死んだのであろうと予測出来ず異世界に来たのならば、確かに神隠しとか一方的な拉致みたいなものだし、自分の国に戻れないとなれば心を病んでも仕方がないかも知れない。だが、私の場合は呼吸も出来なくなり心臓の鼓動が早鐘のようだったし、人生最大の激痛も味わった。あれで死んでなければ逆に死ぬのが怖くなる。
 この国にしてみれば頼んでもないのに現れて、勝手に病まれたり死なれたりするのはいい迷惑だと思う。不思議の究明も兼ねているのだろうが、面倒見が良い国でありがたい。
 どちらにせよ、【戻れない】と言うのが分かっただけで覚悟が決まるというものだ。

「──ナイト、大丈夫みたいだから降りといで」

 私が頭上に声を掛けると、ナイトがふわりと音も立てずに降りて来た。肉球の仕事すごいな。

『話は上から聞いてたけどよ、要は面倒を見てくれるってことか?』
「そうみたいよ」
『おお、そしたら俺の食事も豊かになんじゃね? 毎日魚焼いてくれ魚。生でも良いけど食べにくいから骨は外してくれ』
「贅沢言ってるんじゃないわよ」

 私たちの会話を不思議そうに見ていたケヴィンが首を傾げた。

「……トウコ、さっきからニャーニャー鳴いてるその黒猫は……」
「え? ああ私と一緒にこっちに来たんです。ナイトと言います。ほら、ご挨拶して」
『おう、兄ちゃんたち、よろしくな!』

 だが、他の騎士も無反応だ。──あれ、もしかして?

「あのう……皆さんはナイトの話って聞こえませんか?」
「──ニャゴニャゴ言ってるのは聞こえますが」

 真面目そうな顔をした赤毛の騎士が返事を返した。

『……ああ、やっぱトウコとしか会話出来ねえんだな。ま、そんな都合の良い話はねえか』
「私という話し相手がいるからいいじゃないの」
『おう。そもそもトウコだけってか、人間と話が出来るだけでもめっけもんだもんな』

 私とナイトがコソコソと話していると、ケヴィンが「おい」と声を上げた。

「もしかして、その黒猫と会話が出来るのか?」
「……はい、まあ。多分一緒にこっちに来た仲間だからかも知れませんね」
「人間以外に異なる世界の迷い人……いや迷い猫か?……が現れたのは初めてかも知れない。悪いが少し学者連中がうるさくなるかも知れないが、協力してやって欲しい。もしかしたら別に話が出来る相手もいるかも知れないしな」
「はい、分かりました」

 私は人が多くなって踏まれたら怖いと思い、オレンジの入っている簡易籠の中にナイトを入れると、騎士のお兄さんたちと一緒に山を下りることになった。
 しばらくはサバイバル生活かと思ったので幸先は良いかも知れないが、ナイトを学者の変な実験などに使おうとしたら一緒に逃げてやる。既にナイトは私の仲間であり、家族なのだ。



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