41 / 51
猫カフェは順調だけど
しおりを挟む
私が王宮の仕事を辞めて三カ月が過ぎた。
町の外れの長く空き家だった古い二階建ての一軒家を、使う予定もないからと言われ、月五万マリタンという破格の家賃で借りて改装した。
二階を私とナイトの住まいにして、一階は大工さんと相談しつつ、木目素材を活かしたログハウスのような温かみのある猫カフェを作り上げた。大した宣伝もせずにオープンしたのは先々月のこと。
……いや、一つ弁解させてもらうのならば、宣伝手段がないと言うかですね、この国では口コミとチラシ作るぐらいしかやれることがないのですよ。
でもキャスリーンおば様や王宮でのメイド仲間、騎士団の人などがあちこちに声を掛けてくれたお陰で、毎日そこそこのお客様が来てくれて、ランチやお茶を飲みながら猫を撫でたりしてくれる。
まだ二カ月も経たない素人経営者なので色々バタバタすることも多いが、既に常連さんも出来たりして忙しいながらも楽しい毎日である。
燻製も好評で、「燻製をあげるという発想がなかった」と自宅の猫や犬に買って下さるお客様も多いし、マタタビクッキーはうちの子が目の色を変えて欲しがるの、と作るそばから売れて行く。
ランチで出すサンドイッチやホットドッグ、パスタもありがたいことに美味しいと言ってもらえてすごく嬉しかった。
いつも満席と言えるほどお客さんが来る訳ではないけれど、元々そんな大きな店ではないし、一人で何とか回せるぐらいで充分だ。店を維持して普通に食べて行ける以上の収入は得られるし、近くに民家もないため庭で燻製も作り放題だし、全く不満はない。
二人掛けのテーブルが四つとカウンターしか置かずに、あとはキャットタワーや猫が遊べる遊具などを置いているので空間を広く取った。猫を愛でるための店だから当然だ。
思った以上に猫好きな人はいるようで、
「アパートでは飼えない規則だから」
「うちと違う種の猫に触りたい」
「家族がアレルギー持ちだから飼えないけど実は好き」
「多くの猫がいる空間で癒されたい」
みたいな話を聞いたりして、ああ日本の猫好きと考えることはあまり変わらないんだなあ、と内心安心したりする。
ナイトもちゃんとお仲間さんに話をつけてくれた。
聞いたら十匹ほど協力してくれる子がいるとのこと。
『店にいる時にお客さんにノミとか移したら大変だから、定期的に体を洗って清潔にすること(これは私が洗う係だ)』
『給料は燻製とクッキーでいいってさ。別の食い物がある時はそれでも構わないって。出来れば家族に持って帰るから、少し多めにくれると嬉しいそうだ』
「了解! あとね、出来ればたまーに愛想を振りまいて、お客さんが撫でる時に怒らないでもらえると嬉しいんだけど」
『それは大丈夫。だってお客さんみんな猫が好きなんだろ? 乱暴に叩いたり蹴ったりされないのが分かってるんだから、あいつらだって問題ないよ。きちんと伝えとくからよ』
ナイトの言葉通り、現れたお仲間さんたちは本当に大人しくシャンプーさせてくれて、爪も伸びすぎた子たちは切らせてくれた。
たまに興奮して店で飛び回ったりする子もいたが、ナイトがびしっと𠮟りつけてくれるとすぐに大人しくなってくれる良い子たちだ。
ナイトも店の仕事を一緒にしているつもりらしく、私が気づかない時に、
『おいトウコ、あっちのお客さん飲み物出してないぞ』
『トウコ、パスタのフォーク忘れてるじゃんか』
などと指示してくれたりする。
「ナイトは何だか人の気持ちが分かるみたいねえ」
とお客さんに言われるぐらい一生懸命ニャーニャー言ってるようだ。これは私が色々ポカをやらかしているせいだろう。反省せねば。
だが、ナイトは不思議とお客さんに好かれるようで、話せることは知らないのに自然に愚痴をこぼしていたり、悩みを打ち明けたりするお客さんも増えた。
話を始めると、ナイトが落ち着いて目の前に座り大人しく聞いているからかも知れない。
時々、自分の家の飼い猫も籠に入れて、連れて来て買い物したりお茶する人もいるのだが、
「最近うちの子があんまりご飯食べてくれなくてねえ……具合は悪そうじゃないけど心配だわ」
などと私に話してくるお客さんを眺めたナイトが、飼い猫ににゃごにゃご尋ねてからそっと私に近づき、
『なんかなー、コイツ奥歯が痛いんだと。だから固めのは噛むのが辛いんだって』
と教えてくれたりする。私に振られてもと慌てつつも、
「私の家で昔飼っていた猫も同じことがありましたけど、病院連れて行ったらなんと虫歯だったんですよー。だから噛むのが嫌だったんだなーって。もしかしたらお客様の家の猫ちゃんもそうだったりして?」
と適当に嘘を織り交ぜて話していたのだが、後日満面の笑みでそのお客さんが現れて、
「トウコ! あれからもしやと思って病院行ったら、うちのマイラも虫歯だったんですって! ひどくなる前で助かったわ!」
などとやたら感謝された。
他のお客さんにも何度かそんなナイトの聞き込みによる現状指摘をした結果、
「トウコは猫関係の相談に的確にアドバイスをしてくれる」
と噂されるようになり、猫連れのお客さんが増えてしまった。
「ごめんねナイト、何だか仕事増やしちゃって」
私が謝るとナイトは首を傾げた。
『ん? 俺は聞くだけだから別に平気だぜ? 分かることしか伝えらんねえし。それに俺たちが食っていくお金稼がないとな! 騎士団の巡回は夕方以降だから、カフェにいる時はカフェの仕事ってことよ!』
てしてしと私の手を叩く肉球の感触に和みながらも、申し訳ない気持ちになる。
手助けしてもらうばかりで頼りない飼い主だわ。
ちゃんとケヴィンにはあれからすぐ自分の気持ちは伝え、丁重にお断りをした。
「ケヴィンさんのことは好きですが、友情と言いますかお兄ちゃんと言う感じで、率直に申し上げて結婚を考えるようなお付き合いは考えられないんです。本当にすみません!」
「そうか。……まあ確かに十近くも上だしな」
薄々そんな感じはしていた、とケヴィンは苦笑した。
「本当に、ケヴィンさんは素敵だし、私にはもったいないお話だったのですが、そういう気持ちになれなくて……それに、当分お店のこともありますし、正直今はそれどころじゃないかな、と」
「分かった。潔く諦めるよ。──だが、友人としてはこれからも付き合ってくれるだろう? トウコは友人としても尊敬できるし話してて楽しい。大切な猫友だちでもあるしな」
「図々しいですが、私も数少ない友人だと思っているので、それはこちらからお願いしたいぐらいです。ナイトもケヴィンさんのこと好きみたいですし」
私は深々と頭を下げる。
「ハハハッ、そうか。それは嬉しいな」
楽しそうに笑うケヴィンを見て、私の心のつかえも少しだけ取れた気がした。
ジュリアンもニーナもお忍びで絶対行くから、と言われていたのだが、未だに訪れはない。
社交辞令だったのかもな。そりゃそうだよね、私が働いている間少し親しかった程度の平民の店に来るなんて、行けたら行くぐらいのリップサービスだよね。
当然のことだと考えつつも、心の中では寂しいと思う気持ちは消えなかった。
町の外れの長く空き家だった古い二階建ての一軒家を、使う予定もないからと言われ、月五万マリタンという破格の家賃で借りて改装した。
二階を私とナイトの住まいにして、一階は大工さんと相談しつつ、木目素材を活かしたログハウスのような温かみのある猫カフェを作り上げた。大した宣伝もせずにオープンしたのは先々月のこと。
……いや、一つ弁解させてもらうのならば、宣伝手段がないと言うかですね、この国では口コミとチラシ作るぐらいしかやれることがないのですよ。
でもキャスリーンおば様や王宮でのメイド仲間、騎士団の人などがあちこちに声を掛けてくれたお陰で、毎日そこそこのお客様が来てくれて、ランチやお茶を飲みながら猫を撫でたりしてくれる。
まだ二カ月も経たない素人経営者なので色々バタバタすることも多いが、既に常連さんも出来たりして忙しいながらも楽しい毎日である。
燻製も好評で、「燻製をあげるという発想がなかった」と自宅の猫や犬に買って下さるお客様も多いし、マタタビクッキーはうちの子が目の色を変えて欲しがるの、と作るそばから売れて行く。
ランチで出すサンドイッチやホットドッグ、パスタもありがたいことに美味しいと言ってもらえてすごく嬉しかった。
いつも満席と言えるほどお客さんが来る訳ではないけれど、元々そんな大きな店ではないし、一人で何とか回せるぐらいで充分だ。店を維持して普通に食べて行ける以上の収入は得られるし、近くに民家もないため庭で燻製も作り放題だし、全く不満はない。
二人掛けのテーブルが四つとカウンターしか置かずに、あとはキャットタワーや猫が遊べる遊具などを置いているので空間を広く取った。猫を愛でるための店だから当然だ。
思った以上に猫好きな人はいるようで、
「アパートでは飼えない規則だから」
「うちと違う種の猫に触りたい」
「家族がアレルギー持ちだから飼えないけど実は好き」
「多くの猫がいる空間で癒されたい」
みたいな話を聞いたりして、ああ日本の猫好きと考えることはあまり変わらないんだなあ、と内心安心したりする。
ナイトもちゃんとお仲間さんに話をつけてくれた。
聞いたら十匹ほど協力してくれる子がいるとのこと。
『店にいる時にお客さんにノミとか移したら大変だから、定期的に体を洗って清潔にすること(これは私が洗う係だ)』
『給料は燻製とクッキーでいいってさ。別の食い物がある時はそれでも構わないって。出来れば家族に持って帰るから、少し多めにくれると嬉しいそうだ』
「了解! あとね、出来ればたまーに愛想を振りまいて、お客さんが撫でる時に怒らないでもらえると嬉しいんだけど」
『それは大丈夫。だってお客さんみんな猫が好きなんだろ? 乱暴に叩いたり蹴ったりされないのが分かってるんだから、あいつらだって問題ないよ。きちんと伝えとくからよ』
ナイトの言葉通り、現れたお仲間さんたちは本当に大人しくシャンプーさせてくれて、爪も伸びすぎた子たちは切らせてくれた。
たまに興奮して店で飛び回ったりする子もいたが、ナイトがびしっと𠮟りつけてくれるとすぐに大人しくなってくれる良い子たちだ。
ナイトも店の仕事を一緒にしているつもりらしく、私が気づかない時に、
『おいトウコ、あっちのお客さん飲み物出してないぞ』
『トウコ、パスタのフォーク忘れてるじゃんか』
などと指示してくれたりする。
「ナイトは何だか人の気持ちが分かるみたいねえ」
とお客さんに言われるぐらい一生懸命ニャーニャー言ってるようだ。これは私が色々ポカをやらかしているせいだろう。反省せねば。
だが、ナイトは不思議とお客さんに好かれるようで、話せることは知らないのに自然に愚痴をこぼしていたり、悩みを打ち明けたりするお客さんも増えた。
話を始めると、ナイトが落ち着いて目の前に座り大人しく聞いているからかも知れない。
時々、自分の家の飼い猫も籠に入れて、連れて来て買い物したりお茶する人もいるのだが、
「最近うちの子があんまりご飯食べてくれなくてねえ……具合は悪そうじゃないけど心配だわ」
などと私に話してくるお客さんを眺めたナイトが、飼い猫ににゃごにゃご尋ねてからそっと私に近づき、
『なんかなー、コイツ奥歯が痛いんだと。だから固めのは噛むのが辛いんだって』
と教えてくれたりする。私に振られてもと慌てつつも、
「私の家で昔飼っていた猫も同じことがありましたけど、病院連れて行ったらなんと虫歯だったんですよー。だから噛むのが嫌だったんだなーって。もしかしたらお客様の家の猫ちゃんもそうだったりして?」
と適当に嘘を織り交ぜて話していたのだが、後日満面の笑みでそのお客さんが現れて、
「トウコ! あれからもしやと思って病院行ったら、うちのマイラも虫歯だったんですって! ひどくなる前で助かったわ!」
などとやたら感謝された。
他のお客さんにも何度かそんなナイトの聞き込みによる現状指摘をした結果、
「トウコは猫関係の相談に的確にアドバイスをしてくれる」
と噂されるようになり、猫連れのお客さんが増えてしまった。
「ごめんねナイト、何だか仕事増やしちゃって」
私が謝るとナイトは首を傾げた。
『ん? 俺は聞くだけだから別に平気だぜ? 分かることしか伝えらんねえし。それに俺たちが食っていくお金稼がないとな! 騎士団の巡回は夕方以降だから、カフェにいる時はカフェの仕事ってことよ!』
てしてしと私の手を叩く肉球の感触に和みながらも、申し訳ない気持ちになる。
手助けしてもらうばかりで頼りない飼い主だわ。
ちゃんとケヴィンにはあれからすぐ自分の気持ちは伝え、丁重にお断りをした。
「ケヴィンさんのことは好きですが、友情と言いますかお兄ちゃんと言う感じで、率直に申し上げて結婚を考えるようなお付き合いは考えられないんです。本当にすみません!」
「そうか。……まあ確かに十近くも上だしな」
薄々そんな感じはしていた、とケヴィンは苦笑した。
「本当に、ケヴィンさんは素敵だし、私にはもったいないお話だったのですが、そういう気持ちになれなくて……それに、当分お店のこともありますし、正直今はそれどころじゃないかな、と」
「分かった。潔く諦めるよ。──だが、友人としてはこれからも付き合ってくれるだろう? トウコは友人としても尊敬できるし話してて楽しい。大切な猫友だちでもあるしな」
「図々しいですが、私も数少ない友人だと思っているので、それはこちらからお願いしたいぐらいです。ナイトもケヴィンさんのこと好きみたいですし」
私は深々と頭を下げる。
「ハハハッ、そうか。それは嬉しいな」
楽しそうに笑うケヴィンを見て、私の心のつかえも少しだけ取れた気がした。
ジュリアンもニーナもお忍びで絶対行くから、と言われていたのだが、未だに訪れはない。
社交辞令だったのかもな。そりゃそうだよね、私が働いている間少し親しかった程度の平民の店に来るなんて、行けたら行くぐらいのリップサービスだよね。
当然のことだと考えつつも、心の中では寂しいと思う気持ちは消えなかった。
11
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから
ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。
彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
戸を開いたその先に。~捨てられ縫い姫は、貧乏進士(実は皇帝)に溺愛される~
若松だんご
恋愛
――すまない! 少し休ませてもらえないか!
今日は、門の前で訪れる男性を待つ日。「婿取りの儀式」
門を開け、招き入れた男性を夫とする。
そんなしきたりに従って、家の裏門で訪れる予定もない相手を待っていたのだけれど。
――すまない。連れの具合が良くないんだ。
やや強引に、ぐったりした連れの少年を抱えて入ってきた青年。
十のときに母が亡くなり、父が連れてきた義母と異母姉。
実の娘なのに、屋敷の隅に追いやられ、もっぱら縫い物ばかりさせられていた。
その上、幼い頃からの許嫁だった人からも婚約破棄され、彼は異母姉の夫となった。
「こんな男を夫にするのか!」
彼らに出会ったことで、父親から勘当されたリファ。
そんな彼女を助けてくれたのは、今日が婿取りの儀式だと知らず飛び込んできた青年。
――身の振り方が決まるまで。
妻にする気はない。自由にして構わない。
セイランと名乗った青年は、頼る先のないリファに、とりあえずの暮らすところを提供してくれた。
地方から省試を受けるため上京してきたというセイラン。彼の従者で、弟みたいな少年、ハクエイ。
彼らと暮らしながら、少しずつ自立のために縫い物仕事を引き受けたり、彼らのために家事に勤しんだり。
家族に捨てられ、婚約者からも見捨てられ。
悲しみに、絶望しかけていたリファは、彼らと暮らすことで、少しずつその心を癒やしていくけれど。
――自立。
いつかは、彼らと別れて一人で暮らしていかなくては。いつまでも厚情に甘えてばかりいられない。
そう思うのに。
ずっとここで暮らしていたい。ハクエイと、……セイランさんといっしょに。
――彼女の境遇に同情しただけ。助けたのは、ちょっとした義侠心。
自分の運命に、誰かを巻き込みたくない。誰かを愛するなんてことはしない。
そう思うのに。
ずっとここで暮らしていたい。ただの進士として、……彼女といっしょに。
リファとセイラン。
互いに知らず惹かれ合う。相手を知れば知るほど、その想いは深まって――。
門を開けたことで、門をくぐったことで始まる、二人の恋の物語。
「婚約破棄して下さい」と言い続けたら、王太子の好感度がカンストしました~悪役令嬢を引退したいのに~
放浪人
恋愛
「頼むから、私をクビ(婚約破棄)にしてください!」
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した公爵令嬢リュシア。
断罪・処刑のバッドエンドを回避するため、彼女は王太子レオンハルトに「婚約破棄」を突きつける。
しかしこの国には、婚約者が身を引こうとするほど、相手の本能を刺激して拘束力を強める《星冠の誓約》という厄介なシステムがあった!
リュシアが嫌われようと悪態をつくたび、王太子は「君は我が身を犠牲にして国を守ろうとしているのか!」とポジティブに誤解。
好感度は爆上がりし、物理的な距離はゼロになり、ついには国のシステムそのものと同化してしまい……?
書類整理と法知識を武器に、自称聖女の不正を暴き、王都の危機を救ううちに、いつの間にか「最強の王妃」として外堀も内堀も埋められていく。
逃げたい元社畜令嬢と、愛が重すぎる王太子の、すれ違い(と見せかけた)溺愛ファンタジー!
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる