巻き込まれ女子と笑わない王子様

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

文字の大きさ
42 / 51

【ジュリアン視点】頑張る男

しおりを挟む
 私が山積みにされた決裁の書類をせっせと処理していると、窓からニャーン、と声がした。
 ん? と視線をやると、ナイトが庭から座ってこちらを見ていた。
 私は立ち上がると窓を開ける。
「ナイトじゃないか。どうした? トウコも一緒か?」
 期待しながら周りを見るもどうやらナイトだけのようで、少しガッカリしながらも久しぶりに会えたナイトを撫でようとして、首輪のところに細く折り畳まれた紙が結んであるのに気がついた。
「これは私が見てもいいのかナイト?」
「にゃあ」
 嫌がる素振りも見せないので、そっと紙を取って開いた。
「これは……トウコのカフェのチラシか」
「にゃ」
 可愛い黒猫のイラストが入ったチラシで、メニューや値段などが載ったそれには、
『可愛い猫たちと心休まるティータイムを!』
 などと書いてある。
「ナイト、私に宣伝しに来たのかい? 知ってるよオープンしてるのは」
 そう言ったが、何やらナイトはニャーニャーと強く鳴いて、まだ訪問してない私を責めているようだった。トウコがいないと推測するしかないが、あながち間違ってもなさそうだ。
「もしかして何故来ないと聞いているのかな? ……私もニーナもとても行きたい気持ちはあるんだよ。だけど先日、私たちは父上に怒られてしまってね」

 父は私が引きこもりを卒業して、視察や他国の交渉事などに前向きに取り組むようになった姿を見て大変喜んでいたが、ニーナと私の趣味(燻製と釣り)に対してあまり良い顔をしなかった。
「一国の王子と姫が、オーバーオールに麦わら帽子で大漁だ大漁だと楽しそうに釣り竿片手に王宮内をウロチョロしてたり、燻製した魚やウッドチップの匂いを漂わせているのはどうなんだ? いや楽しむのは別に構わんが、お前だってこれから結婚相手も探さねばならんし、ニーナだって嫁入りせねばなるまい? 確かに我が国は農業と酪農が盛んなのどかな国ではあるが、王族には品位と言うものが必要だ。趣味にうるさく言うつもりはないが、ちょっと度が過ぎてはいないかね。トウコのお陰でお前が外向的になったのは嬉しいが、もう少し控えた方がいいんじゃないかと思うのだが」
「お言葉ですが父上。私が町に出て視察が出来たり、他国のお偉方とまともに会話が出来るようになったのは、トウコが私を外に連れ出して釣りや燻製の楽しさを教えてくれたのがきっかけですし、今では釣りも燻製作りも心の拠り所でもあるのです。ニーナも私よりはましですが、普段は読書や編み物が好きで自室に引きこもりがちだったのが、私と一緒に表に出るのを楽しむまでになりました。これは決して悪いことではないと思うのですが」
 私は父を尊敬しているし、今まで言われるまま特に反発などもすることはなかったが、トウコのお陰で自分の人生を豊かに出来て感謝していたので、彼女の話が出ると少し過剰に反応してしまう。
「ふむ。……気になっていたので一つ尋ねたいのだが、お前はトウコが好きなのか?」
「ひゃっ? な、何を仰るのですか」
 思わず動揺して変な声を上げてしまった。
「いや好きでも別に構わんのだがな。彼女は驕ったところもなく、心根が素直で穏やかな良い子だと私も思う。もし結婚したとしても隣で一生懸命お前を支えてくれるだろう。……だがな、トウコは迷い人で平民なのだ」
 父は私を鋭く見た。
「我が国は交易する特産物も豊富でそこそこ裕福な方だ。今のところ周辺国と揉め事が起きている訳でもない。だがな、土地や民に恵まれていようと決して大国ではないのだ。政略結婚で他国の王族や高位の貴族との繋がりを深める、つまり味方を作ると言うのは、この先の国の安定した存続を考えた場合に大切なのはお前にも分かるだろう?」
「……はい」
 私はうつむいた。王族として返す言葉はない。
 そんな私を黙って見つめていた父は、だが、と続けた。
「ジュリアン、お前がどうしてもトウコと結婚したいと言うのならば、方法はない訳ではない」
「──え? どういうことですか?」
「トウコに他国の支援は望めないのであれば、お前が他国の力を必要としないだけの実力をつければいい。要は他国に侮られない、民が安心できる強い後継者になればいい。……まずはそうだな、三カ月後に我が国で開催される主要国会議を成功させて見せろ。あれは怖いぞー、他の国の奴ら側近含めてみーんな百戦錬磨のツワモノのジー様ばっかりだからな。私も就任して暫くは発言する度に睨まれて肝が冷えた。髪の毛が薄くなったのもあれが原因に決まってる」
 丸々とした顔をしかめる父に私は慌てて声を上げる。
「いえ、あの、私がトウコを好きなのは私の片思いなのです! 彼女に伝えたこともありません」
「だからどうした? 彼女が受け入れるかどうかは別問題だ。大事なのは今後トウコを迎えても問題ない状態にお前が出来るのかどうかだけの話だろう。もし仮に彼女に振られたところで、いずれ別の女性を妻に迎えることになる。どんな相手でもお前に守れるだけの力がなければ、幸せになど出来ぬだろうが」
「は……」
 黙って聞いていて、ふと冷静になる。
「──あの父上、今の話を聞くと、トウコが結婚してくれるなら反対はしない、ということでしょうか?」
「まずは会議を成功させて私を安心させてくれたらな。まあ平民と言っても別にどこか公爵家の養女にしてしまえば良いだけだしな。やり方なんぞいくらでもある」
「父上! ありがとうございます! 精一杯頑張ってみます!」
 まさか父にトウコとの結婚を認めてもらえるとは思ってなかったので、まだプロポーズすらしていないのに私の心は高揚した。
「まあやる気になるのはいいことだ。……ちなみにスモークチーズがそろそろ残り少ない。ニーナにでも言って後で部屋に届けてくれるよう伝えてくれんか。あれはワインのいいツマミになる」
 ニヤリとした父は、ポンポンと私の肩を叩いて離れて行った。

「……まあそんな訳でね、正直会議までに取り上げる議題など勉強せねばならないことも沢山あってね。ナイトたちに会いたくても時間がないんだ。ニーナにも資料を探してもらったり協力を仰いでいてね。──あ、トウコには絶対に何も言わないでおくれよ? ちゃんと落ち着いたら必ず行くから」
「うにゃー」
「それで、その……ケヴィンとは何か、進展はあったのかな?」
 私が勝手にトウコを妻にしたいと思っても、ケヴィンと良い関係になっていたらおしまいだ。
「んにゃ」
 軽く首を振るナイトに安心してホッと息を吐いた。
 いや、今まで国のことなどろくに考えず、部屋に引きこもって本ばかり読んでいたツケだ。トウコに振られようが、これからも頼りがいのある国王になるための努力を怠るつもりはない。
 ……つもりはないのだが、少しぐらいの希望があれば、より頑張れるものである。
「私は頑張るよ、ナイト」
 喉を鳴らして私の足元にすりすりとしていたナイトにそう告げると、ナイトは私を見上げ、私の靴に前足をてし、と乗せるときびすを返して帰って行った。
 応援してくれた、んだといいけどね。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

「婚約破棄して下さい」と言い続けたら、王太子の好感度がカンストしました~悪役令嬢を引退したいのに~

放浪人
恋愛
「頼むから、私をクビ(婚約破棄)にしてください!」 乙女ゲームの悪役令嬢に転生した公爵令嬢リュシア。 断罪・処刑のバッドエンドを回避するため、彼女は王太子レオンハルトに「婚約破棄」を突きつける。 しかしこの国には、婚約者が身を引こうとするほど、相手の本能を刺激して拘束力を強める《星冠の誓約》という厄介なシステムがあった! リュシアが嫌われようと悪態をつくたび、王太子は「君は我が身を犠牲にして国を守ろうとしているのか!」とポジティブに誤解。 好感度は爆上がりし、物理的な距離はゼロになり、ついには国のシステムそのものと同化してしまい……? 書類整理と法知識を武器に、自称聖女の不正を暴き、王都の危機を救ううちに、いつの間にか「最強の王妃」として外堀も内堀も埋められていく。 逃げたい元社畜令嬢と、愛が重すぎる王太子の、すれ違い(と見せかけた)溺愛ファンタジー!

不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる
恋愛
 フローレス侯爵家の次女のレティシアは、この国で忌み嫌われる紫の髪と瞳を持って生まれたため、父親から疎まれ、ついには十歳の時に捨てられてしまう。  孤児となり、死にかけていたレティシアは、この国の高名な魔法使いに拾われ、彼の弟子として新たな人生を歩むことになる。  レティシアが十七歳になったある日、事故に遭い瀕死の王子アンドレアスを介抱する。アンドレアスの体には呪いがかけられており、成人まで生きられないという運命が待ち受けていた。レティシアは試行錯誤の末、何とか呪いの進行を止めることに成功する。  アンドレアスから、王宮に来てほしいと懇願されたレティシアは、正体を隠し王宮に上がることを決意するが……。  呪われた王子×秘密を抱えた令嬢(魔法使いの弟子)のラブストーリーです。  ※残酷な描写注意 10/30:主要登場人物•事件設定をUPしました。  

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

処理中です...