巻き込まれ女子と笑わない王子様

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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ナイトのことは言えない

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「パフは大丈夫だったんだね。良かった……キャスリーンおば様に余計な心配を掛けずに済んだわ」
 普段お世話になっている動物病院へ行きナイトとパフを見てもらったが、パフは撫でられるのが痛くてすぐ逃げたのと、パフを踏んでいた貴族の男性も流石に抑え込んでいるだけで、命に関わるほど全体重を掛けていることはなかったようだ。
 問題はナイトである。
 蹴り飛ばされた時に足に強く当たったようで前右足が骨折しており、少し切れて血も出ていた。
 幸い切り傷は大したことがなかったし、足については細い板のような物を使って簡易のギプスのように固定が出来、二、三週間ぐらい大人しくしていれば元通り動かせるだろうとのことでホッとした。
 先生にお礼を言って病院から出て帰る道すがら、私は横抱きにしたナイトを覗き込んだ。
「……ちょっとナイト、私言ったわよね? あなたは大事な家族なんだから、絶対に危ない真似はしないって。約束したわよね? どうしてああいう無茶をするのよ?」
 安心したら怒りも湧いて来るものだ。彼に万が一のことがあったら今の私は一人ぼっちなのだ。せめて寿命までは元気に生きていてもらわないと。
 思わず説教じみた口調になっても仕方ないだろう。
『本当にすまねえ。俺も夢中だったもんで咄嗟にカバー出来なくてよ。だけどよ、自分の女も守れないような男なんてダメだろ? 自分だけ逃げるような真似は出来ねえよ』
「それはそうだけど……え? 自分の女? ちょちょ、ナイト、あなたパフと付き合ってたの?」
 意外な話が出て来たので思わず問い返した。
『付き合う? っつうのは良く分かんねえけど、俺はパフが好きだ。ツガイにするならパフって決めてる。何か一緒にいて居心地がいいし、トウコと同じぐらい安心感がある』
「パ、パフの気持ちはどうなの? ちゃんとその、結婚の申し込みって言うか」
『ん? パフも俺のことは好きだってさ。ただケヴィンの家に住んでいるから、自分のワガママで勝手なことは言えないって。ご飯も食べさせてもらってるしとても可愛がってくれるから、今すごく幸せなんだと。だから焦るつもりもないし、俺もいずれはトウコに話をしてもらおうと思ってたんだ、ケヴィンの母ちゃんに。ほら、もしツガイになれてもどっちの家で暮らすかとか色々あんだろ?』
「そ、そっか」
 私が思った以上に動揺している姿を見て、ジュリアンとニーナが首を傾げる。
「どうかしたのトウコ?」
「問題があればすぐに話してくれ。こちらも対応しやすいからな。あの貴族連中に関することか?」
「いえ、そうではなくて……」
 私が話すとニーナは満面の笑みで手を叩いた。
「あら素敵! 二人が結婚したらいずれ子供も産まれるわよね? もしかしたらナイトみたいにトウコと話せる子たちもいたりして? ふふふ、そうしたら素晴らしいわね」
「それはどうでしょうね? 私とナイトは違う国から来た迷い人だからだと思いますし」
 迷い人って言ってもナイトは人じゃないんだけど。
 そりゃあ話が出来たら楽しいだろうけど、過度な期待はしない方がいいだろう。
「もしナイトとパフの子供が沢山産まれたら、楽しみだな」
 ジュリアンも笑みを浮かべて頷いている。
『なあトウコ、パフが恥ずかしがってるからもうその話はやめてくれ。第一まだツガイになれるかも決まってねえんだからさ』
「あ、ごめんごめん」
 今日は血の気が引くほど心配したり、花婿の母みたいな高揚した気持ちになったりと感情が上下して忙しい。
 それにしても、ナイトのケガが思っていたほどひどい状態でなくて心から安心した。
 私の声に反応しなかったのも、一時的に木に頭が当たった衝撃で気絶しただけらしいし。後頭部に少したんこぶは出来てるけど、コイツは健康過ぎるぐらい健康だし、骨も丈夫だから心配ないだろうとのお医者さんの言葉にも勇気づけられた。
 ふーん、そうかあ。ナイトとパフがねえ。良くパフのところに遊びに行きたがったけど、あれは単純に仲間の様子を見るとかでなく好意からだったのか。私も大概察し力がないわね。
 私は家族が増えるのは大歓迎だしパフも大好きだけど、キャスリーンおば様に何て言えばいいかなあ。困った困った。でも嬉しい悲鳴ってやつかなこれは。何とか成就させてあげたい。
 祭りの後は馬車で王宮に戻るつもりだったようだが、ジュリアンもニーナも心配だから、と私たちを送ってから帰ると言う話になり、護衛の二人は停車場に止めていた馬車を取りに戻って行った。ケヴィンの家の先(といっても十五分も掛からないが)に私の店兼自宅があるので、ケヴィンの家のところまで運んで来て、その後私の家まで送ってくれるとのこと。
 遠慮したが拒否された。
 本音を言えば少々精神的に疲弊していたので、助かったと言う気持ちはある。
「ケヴィンの家にも挨拶してパフが戻るのが遅れた状況説明する責任もあるしね」
「ありがとうございます。さっき助けて頂いたことも本当に感謝しています」
 私は頭を深く下げる。正直、あの場にジュリアンたちがいたから穏便に収まったのだ。
「気にすることないのよ。トウコやナイトは私たちの友人だと思ってるし、パフだってこれからナイトとトウコの家族になるかも知れないんだもの。私たちで役に立つならいくらでも。……でも最近は傲慢な後継者が増えたものねお兄様」
「そうだな。自分たちは先祖の功績があるから単に貴族の家の子に生まれただけであって、知識も教養も見識も自分で身につけ成長せねばならぬのに。あれでは自分たちが一番守らねばならぬ領地の民をもないがしろにするんじゃないかと不安しかない」
 憂鬱そうに語るニーナとジュリアンを眺めながら、
『王子様たちは難しい話してんなー。そういや腹減ったな。トウコ、今日はこないだの魚の焼いたの食いたいな。あれは美味かったぜ』
 などと呑気なことを言うナイトの頭をぺしっと叩いていた私は、ふと視線を感じた。そっと目をやると、四、五人の赤ら顔の若い男たちが酒びんを抱えて笑っている姿が見えた。
(……道端で飲むぐらいならバーで飲んでくれればいいのにな)
 何度か絡まれたことがあるので道端の酔っ払いは苦手である。
 早く遠ざかろうと思って少し早足になった時、背後を見ていたナイトが慌てたように
『おい王子様危ねえっ!』
 と声を上げた。
 私はそれを聞いて反射的に体当たりでジュリアンを突き飛ばした。
 すいません手が使えなかったもので思いっきり行っちゃって。あとで謝らなきゃ、などと考えていたら頭にすごい衝撃が走った。
『トウコ!』
 立っていることも出来ず、私はその場にうずくまったが、後頭部を触った手には結構な血が付いていた。情けないことに自分の血に驚いて気を失ったのか、ひええ、と思ったその後の記憶はない。
 目覚めた時には自宅ではなく、ハイキングの時と同じ見慣れた王宮の来客用の寝室であった。



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