巻き込まれ女子と笑わない王子様

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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傲慢が招くもの

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 私たちが公園に駆け込むと、ナイトの前には貴族と思われる高そうな格好をした若いカップルが二組おり、一人の男が逃げ出さないようにするためか、パフの体に足を乗せていた。
「ナイト!」
 私が叫ぶと気付いたナイトが振り返り、
『トウコ! 助かったぜ! こいつら話が通じなくてよう』
 とホッとしたような声を出した。そりゃ普通は通じないだろう。
「ちょっと、お兄さんたちウチの子たちに何してるんですか!」
 私が大声を出すと、パフを踏んでいた男がこちらを見て呆れたように言い返した。
「おいおい、お前のところの猫かよ。文句を言いたいのはこっちなんだけどな」
「あなたのところの猫に服をダメにされたのよ私は! その上引っ掛かれたんだから!」
 隣のワンピースの女性が憤慨したようにスカートを指差した。
 確かに少し土で汚れたような部分が見えるが、汚れをはらうか洗うかすれば簡単に落ちそうに思える。だが、パフは大人しい子で、悪さをするようなことは今までなかった。
「……それは申し訳ありませんが、そもそも何故汚されて、引っ掛かれることになったのでしょうか?」
 パフが悪かったのであれば、ナイトと遊びに行くのを知っていた私の責任でもあるし、きちんと謝罪はするつもりだ。だが思いきりでなかろうが、猫を踏んでいるのは許せん。
 聞けば、ベンチの横で大人しそうに二匹で戯れている姿を可愛いと思った女性が、パフを無理やり抱き上げて撫でようとしたのを嫌がって暴れた際に土汚れがスカートに付き、離れる際に爪で引っ掛かれたのだと言う。
「──え? 嫌がる猫を無理やり? それ自業自得じゃありませんか?」
 神妙に聞いていた私は思わず素で答えてしまった。
 後ろに立っていた騎士団の護衛の人からも「だよなあ」「普通に知らない人間に抱き上げられたら怖いだろうしな」などと声が聞こえる。
「彼女が病気にでもなったらどうするんだ! 爪の傷なんて痕が残るって言うじゃないか」
「いやですからそれは、女性が無理やり触ろうとしたからでは?」
『そうだぞ! この女の長い爪が当たって痛いからってパフが逃げようとしたのに、逃がさないよう強引に抑え込んでやがったんだよ! だから苦しくてちょっと引っかいただけなんだ』
 ナイトが必死に訴えるが、分かるのは私だけだ。
「……ニャーニャーうるせえなこの黒猫は。少し黙れよ」
 黙っていたもう一方の男性が舌打ちすると、サッカーボールを蹴るようにナイトを蹴った。
『ギャッッ!』
「ナイトッ!」
 植え込みの方にガザザザッ、と吹っ飛んだナイトに私は悲鳴を上げる。
「俺が行く」
 騎士団のお兄さんが早足で植え込みに向かう。私はナイトを蹴った男性を睨み、
「私の大切な家族に何てことをするんですか!」
 と声を荒げた。
「お前は平民だろう。あのなあ、たかが平民の飼っている猫と貴族の令嬢では、価値が全く違うんだよ。どんな状況であれ、お前んとこの猫がこの女性の服を汚し、ケガを負わせたのは事実だろうが」
「きっちり医者の費用と服の賠償はさせるからな。平民ごときに払えるか分からんが安くはないぞ。ほら名前と連絡先をさっさと言え」
 さもそれが当然のように見下したような目をしている女性たちと、ナイトやパフに暴行をしても悪びれる様子もない貴族の男性たち。
 この国に来て初めて経験する理不尽な地位による圧力と純粋な悪意に、私はただ呆然としていた。
「……失礼ですが、どちらの家の方々なのでしょうか?」
 私が怒りと驚きで何と言えばいいか混乱していると、ニーナがそっと横に立ち男性たちに笑顔で尋ねる。
 彼女の美貌に一瞬驚きが見えたが、ニヤリとしてパフを踏んでいる男性が答えた。
「私はグラーブル伯爵家、ケガをした彼女はミノデール伯爵家だ。友人たちはタイデル子爵家と、名門ハーランド侯爵家だぞ? これだけの貴族相手にするとは気の毒だなあお前の友人も」
「まあそうですの。──ですって、お兄様」
「……そうか。女性は家名を継ぐ人間は少ないだろうからまだしも、ろくでもない跡継ぎしかいないんだなグラーブル家もハーランド家も」
「……何だと? お前誰に対して物を言ってるんだ」
 物静かに話すジュリアンの暴言に呆気に取られた男は、意味を理解するとすぐ怒りを露わにした。
「誰って? 貴族の義務も果たさず権利ばかり主張するバカ息子たちにかな。親も可哀想だと思ったけど、育てて来たのが彼らなんだから、まあ同罪かな?」
「ふざけんなっ!」
 ナイトと蹴りつけた男は血の気が多いのか、ジュリアンに殴り掛かろうとして騎士団のお兄さんに軽くあしらわれてよろめいた。
 私はもう一人の騎士団の人が連れて来たナイトに声を掛けたが反応がなく、それどころじゃなかった。
「ナイト、ナイト?」
「大丈夫だ、息はしてる。でももしかすると足の骨をやってるかも知れないから、早く医者に──」
「お前ら何なんだ一体! たかが猫の一匹や二匹で大騒ぎしやがって! こっちは貴族だぞ!」
 自分たちが軽く見られているのがよほど腹に据えかねるのか、パフを踏んずけていた男の足を払いのけてパフを抱き上げるジュリアンと私たちに大声で威嚇した。
 ナイトを抱いているお兄さんが苦笑した。
「あのなあ、こいつは俺ら騎士団の大切な大切な仲間なの。仲間を助けるのは当然だろうが。正直めちゃくちゃ仕事が出来る奴なんだぞ? 服が汚れただのかすり傷負わされただのよりも、こっちの方がよっぽど被害がデカいっつうの」
「……はあ? 騎士団の仲間だと? 何をバカな……」
 ニーナも見目麗しい美貌に凄みを漂わせる笑みを浮かべた。
「あなたたち本当に貴族なのかしらね? 私やお兄様の顔に見覚えもないなんて、この国で貴族を名乗る資格すらないように思うのだけれど」
「ああ?」
 言い返そうとした男性より一緒にいた女性たちの方が気づくのが早かった。
 素早く淑女の礼の形を取ると、
「ご、ご無礼を深くお詫び致しますニーナ王女殿下、ジュリアン王子殿下!」
 と深々と頭を垂れた。
「え? 王子殿下……王女殿下?」
 と言いながら改めて顔を見て気づいたのか、男の顔はみるみる白くなった。
「し、失礼致しました!」
 慌てて頭を下げる男たちだが、ジュリアンはパフの様子を見ているだけで無反応である。
「トウコ、彼女はケガもなさそうだが、一応ナイトと一緒に医者に見せた方がいいね」
「そうですね」
 私がジュリアンからパフを受け取ると、ジュリアンは彼らに向き直る。
「まあ今更どれだけ謝罪をしようが、これまでの虐待行為や暴言、貴族にあるまじき振る舞いがなかったことになる訳じゃないからね。追って処分は決めるよ」
「そっ、それだけは何とぞお許し下さい! 誠に申し訳ありません!」
「まあ親も情けない子供を持った責任ぐらいは負って貰わないとね。正直言って、真面目に働く平民や、家族と思うペットを傷つけても平気でいられる神経が私は信じられないよ」
「ジュリアン王子殿下、何とぞ、何とぞっ」
 縋りつきそうな男性たちを冷めきった目で見つめると、ジュリアンは私を見て、
「さあ、急いで病院へ行こう」
 と笑みを浮かべた。



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