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【閑話】ミリアンの里帰り。
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「ミリ姉ちゃんお帰りなさいっ!」
「お姉ちゃん会いたかったーっ!」
私が実家のドアを開けると、妹と弟が飛びついてきた。
「はいはいただいま~。ちょっとあんたたち重いのよ離れてちょうだいよ。ハウス」
「久しぶりに会った可愛い妹と弟に何てひどい扱いなのっ?悲しいわ」
妹のニコルが涙を拭う振りをした。
弟のアンドリューまでもが
「ただでさえガサツな性格なのにもっとガサツになって……なんて頼もしくなったんだ姉さん。兄貴と呼ばせーー」
「ないわよ。頭のてっぺんから足の先までか弱いレディーだっつうの!
大体2歳3歳のガキじゃないのよ。
16のほぼ成人サイズの女と14の小僧に抱きつかれて軽い訳ないでしょうが。
分かったわ、あんたら土産はいらないのね?」
さっと私から離れる子達。
しつけが行き届いていて何よりだわ。
「はい、ニコルにはまだ必要ないかも知れないけどうちの化粧水と乳液。肌がつるんつるんになるわよ。あと可愛いワンピースがあったから買ってきたわ」
「最近肌荒れになってきたから嬉しいわ姉さん。うわーワンピースも素敵!」
受け取ったニコルは満面の笑みでお礼を言う。
「ほら。アンドリューはあんたの筋力で扱えそうな小ぶりだけど軽めのいい剣あったから」
「すげー格好いい。ちょっと振ってきていい?」
「室内は止めて庭にしなさい」
「うん!ありがとう!」
いそいそと剣を握りしめて庭へ小走りになるアンドリュー。彼は冒険者だがまだF級の見習いのようなものだ。
「おや、思ってたより早かったね」
キッチンで仕込みをしていた母クラウディアが顔を見せた。
ミリアンの家は居酒屋をしているので酒のツマミの下ごしらえだ。
「母さん!」
「ミリアン、お帰り」
寝起きなのかくしゃくしゃになった髪をそのままに父さんも居間に入ってきた。
「父さんと母さんにもお土産あるのよ」
ごそごそとアイテムボックスを探る。
ハルカが時間経過なしの機能をつけてくれたので食べ物も傷まないのがありがたい。
「ショーユとミソと、メンツユと、トーガラシって言う辛い香辛料。それとプリンとクッキーとアップルパイと、バルバロスの唐揚げとバルバロスの肉ね。沢山あるから店で出してもいいんじゃない?」
携帯用アイテムボックスは重さを感じない仕様だが、それでもこの肉は貰いすぎじゃないかとハルカに言ったのだ。
一家族に50キロの肉はないっしょ。それも結構高級品の肉だ。
「え?だってみんなで討伐したし、売るので沢山使ってもまだまだ何百キロってあるのよ?ミリアンちはお店やってるんだし、食材あると便利じゃない?経費削減で」
いや助かるけども。すごく嬉しいけども。
ハルカは違う世界から来たせいか、物への執着とかもほぼないし、大雑把で太っ腹で優しく怒ることもない(食べ物以外で)。
他者への思いやりもあり、料理の才能も魔法の才能もあるのに傲慢なところも一切ない。
ひとつ上なのに、お人好しでほっとけないそそっかしい部分もある。
バカなんじゃないかと思う位食べ物への情熱がある。
その上本人は全く分かってないが、切れ長の二重にダークブラウンの瞳、整った顔立ち。ツヤツヤの黒曜石のような黒い長髪。本人は棒っ切れというがスラリとしたスタイルのいい身体。まごうことなき美人なのだが、プルから聞くところによると、親が美人であることを鼻にかけて何の努力もしないダメ人間になるのを避けるため、凡人以下のように思わせる育て方をしたそうだ。
おかげで、つんけんしたイヤな美人にならなかったのはいいが、自己評価のかなり低い悪人に騙されやすそうな残念な料理バカに育ったのは、親の望むところだったのか疑問だ。
でも残念なところもひっくるめて私はハルカが大好きである。
「ハルカちゃんが作った調味料のおかげでうちの店もレパートリー増えてお客さんも増える一方なのに、またこんな贅沢なモノを……あの子いい子過ぎてたまにアホなのかと思うほどお人好しよねぇ」
母さんは歯に衣を着せなさすぎである。そこっ、父さんもウンウン頷くな。
ハルカは不憫可愛いのだろうか実は家族にも大人気である。
母さんも口は悪いがこれでも世間に疎いハルカをとても心配している。
まぁ異世界から来ましたとは言えないけどね。
ティータイムなのでみんなでお茶とプリンを頂く事にする。
「やっぱり美味しいわねハルカのお菓子は。ご飯も美味しいけど」
「卵と、牛乳か?後は砂糖、と……いやー、材料は推測できるんだが作り方がわかんねぇな」
「ハルカの故郷ではこんなものが普通にあるのよね。行ってみたいわニホンとかいう東の国」
「冒険者レベルが上がれば僕でも行けるよね?」
「……うーん、多分ね?でもそれはまずとっととアタシ位まで上げてから言うのね」
「A級とか何年後なのやら……」
(実は既にS級なのだがミリアンにはまだ伝わってない)
「ただね、私もう冒険者やめてハルカと商業ギルド登録して商売の方を頑張る予定なの」
「ふーん。いいんじゃない?女の子がいつまでも危ないとこに行くよりよほど安心だわ」
「え?でもいきなりランク下からになるじゃない?収入も多分下がるんじゃないかと……」
反対されるかと思ったので肩透かしである。
不安定とか言われるかと思ったわ。
でも今でも充分以上貰ってるし。家に納める金額も上げられたし。
「いやあ、むしろ今うち結構儲かってるしな、ハルカちゃんのお陰で。商売敵が味を盗もうとちょいちょい来てるが、分からないわ美味いわで、結局ただの常連さんになっただけだしな」
「あんたから毎月貰ってる分も今は嫁入りの時の資金で使わずに貯めてるのよ?
でもこれからはいらない、とは言わないわよ?
だって貴女に任しておくとある分も全部使いそうだもの。ちゃんと毎月寄越しなさい」
「え?そうなの?そういや最近忙しいとは聞いてたけど……」
一応私の冒険者の時の収入もギルド時代の給料も、家族に半分は入れていた。それでも結構カツカツだった。育ち盛りの子供が3人もいるのだ。
それほど流行ってもない飲み屋でたいしたツマミもないので、客も昔からの常連とたまの新規客位で、それほど繁盛もしてなかったし。
「それにハルカと仕事するんだろう?上手く行かない訳がないだろ」
甘味があまり好きではない筈の父さんもペロリとプリンを食べ終わり、満足げに笑った。
「……アタシもそう思うわ。
でね、ついでなんだけど、ハルカが家を建てるのよ。アタシの部屋も作ってもらうから、独立したいんだけどいいかしら?」
「ハルカと一緒なら問題ない。
あの子のこと、守ってあげなよ?おバカな子だけどうちの恩人だし」
いや、ぶっちぎりでハルカの方が強いけどね。反則的な魔法とか使うし精霊さんズ達が勝手にパワーアップさせてるし。
「お姉ちゃん、出てくの?」
ニコルが寂しそうに呟いた。
「やあね、まだ土地とか決まってないけどこの町の中だしご近所みたいなもんよ。ちょこちょこ寄るし。それにもう少し先の話。家も出来てないのに」
「そっか。私もハルカさんち出来たら遊びに行くね!」
「いいわよいらっしゃい。ただ暫くは忙しいと思うけど。パティスリーも開く予定なのよ」
「パティスリー?」
「お菓子ばかりのお店よ。ケーキとかクッキーとかの」
「お姉ちゃん、私そこが出来たら是非バイトさせて!」
「えっ?……あー、そうね。どうせ人手も足りなくなるだろうし、ハルカに言っとくわ。でも店の手伝いがあるでしょ?」
「大丈夫だよ。今も人手足りなくてバイトの兄ちゃん二人雇ったから」
「……やだ、本当に忙しいのね。儲かってるのはいいことだわ」
家も心配なさそうだ。
後はテンちゃんやクラインの恋の行方でも楽しもうかしらね。
あれだけ分かりやすく好意を向けられてて全く感じないハルカは、自分がモテてるとか一ミリも思ってないのねきっと。恋愛脳より食べ物脳だもんね。あれがどう変わるのか楽しみねぇ。ふふっ。
私の恋は……どうなるのかしらね。
あの人もボケボケしてるから当分は何もないか。
ひと休みして、ハルカんとこ行く前にギルドでお金下ろして、少し市場で買い物してこうかしらね、久しぶりの地元だし、ちょっと市場の様子でも探ってこよう。パティスリー出すとこも候補地あるか見てみましょ。
「お姉ちゃん会いたかったーっ!」
私が実家のドアを開けると、妹と弟が飛びついてきた。
「はいはいただいま~。ちょっとあんたたち重いのよ離れてちょうだいよ。ハウス」
「久しぶりに会った可愛い妹と弟に何てひどい扱いなのっ?悲しいわ」
妹のニコルが涙を拭う振りをした。
弟のアンドリューまでもが
「ただでさえガサツな性格なのにもっとガサツになって……なんて頼もしくなったんだ姉さん。兄貴と呼ばせーー」
「ないわよ。頭のてっぺんから足の先までか弱いレディーだっつうの!
大体2歳3歳のガキじゃないのよ。
16のほぼ成人サイズの女と14の小僧に抱きつかれて軽い訳ないでしょうが。
分かったわ、あんたら土産はいらないのね?」
さっと私から離れる子達。
しつけが行き届いていて何よりだわ。
「はい、ニコルにはまだ必要ないかも知れないけどうちの化粧水と乳液。肌がつるんつるんになるわよ。あと可愛いワンピースがあったから買ってきたわ」
「最近肌荒れになってきたから嬉しいわ姉さん。うわーワンピースも素敵!」
受け取ったニコルは満面の笑みでお礼を言う。
「ほら。アンドリューはあんたの筋力で扱えそうな小ぶりだけど軽めのいい剣あったから」
「すげー格好いい。ちょっと振ってきていい?」
「室内は止めて庭にしなさい」
「うん!ありがとう!」
いそいそと剣を握りしめて庭へ小走りになるアンドリュー。彼は冒険者だがまだF級の見習いのようなものだ。
「おや、思ってたより早かったね」
キッチンで仕込みをしていた母クラウディアが顔を見せた。
ミリアンの家は居酒屋をしているので酒のツマミの下ごしらえだ。
「母さん!」
「ミリアン、お帰り」
寝起きなのかくしゃくしゃになった髪をそのままに父さんも居間に入ってきた。
「父さんと母さんにもお土産あるのよ」
ごそごそとアイテムボックスを探る。
ハルカが時間経過なしの機能をつけてくれたので食べ物も傷まないのがありがたい。
「ショーユとミソと、メンツユと、トーガラシって言う辛い香辛料。それとプリンとクッキーとアップルパイと、バルバロスの唐揚げとバルバロスの肉ね。沢山あるから店で出してもいいんじゃない?」
携帯用アイテムボックスは重さを感じない仕様だが、それでもこの肉は貰いすぎじゃないかとハルカに言ったのだ。
一家族に50キロの肉はないっしょ。それも結構高級品の肉だ。
「え?だってみんなで討伐したし、売るので沢山使ってもまだまだ何百キロってあるのよ?ミリアンちはお店やってるんだし、食材あると便利じゃない?経費削減で」
いや助かるけども。すごく嬉しいけども。
ハルカは違う世界から来たせいか、物への執着とかもほぼないし、大雑把で太っ腹で優しく怒ることもない(食べ物以外で)。
他者への思いやりもあり、料理の才能も魔法の才能もあるのに傲慢なところも一切ない。
ひとつ上なのに、お人好しでほっとけないそそっかしい部分もある。
バカなんじゃないかと思う位食べ物への情熱がある。
その上本人は全く分かってないが、切れ長の二重にダークブラウンの瞳、整った顔立ち。ツヤツヤの黒曜石のような黒い長髪。本人は棒っ切れというがスラリとしたスタイルのいい身体。まごうことなき美人なのだが、プルから聞くところによると、親が美人であることを鼻にかけて何の努力もしないダメ人間になるのを避けるため、凡人以下のように思わせる育て方をしたそうだ。
おかげで、つんけんしたイヤな美人にならなかったのはいいが、自己評価のかなり低い悪人に騙されやすそうな残念な料理バカに育ったのは、親の望むところだったのか疑問だ。
でも残念なところもひっくるめて私はハルカが大好きである。
「ハルカちゃんが作った調味料のおかげでうちの店もレパートリー増えてお客さんも増える一方なのに、またこんな贅沢なモノを……あの子いい子過ぎてたまにアホなのかと思うほどお人好しよねぇ」
母さんは歯に衣を着せなさすぎである。そこっ、父さんもウンウン頷くな。
ハルカは不憫可愛いのだろうか実は家族にも大人気である。
母さんも口は悪いがこれでも世間に疎いハルカをとても心配している。
まぁ異世界から来ましたとは言えないけどね。
ティータイムなのでみんなでお茶とプリンを頂く事にする。
「やっぱり美味しいわねハルカのお菓子は。ご飯も美味しいけど」
「卵と、牛乳か?後は砂糖、と……いやー、材料は推測できるんだが作り方がわかんねぇな」
「ハルカの故郷ではこんなものが普通にあるのよね。行ってみたいわニホンとかいう東の国」
「冒険者レベルが上がれば僕でも行けるよね?」
「……うーん、多分ね?でもそれはまずとっととアタシ位まで上げてから言うのね」
「A級とか何年後なのやら……」
(実は既にS級なのだがミリアンにはまだ伝わってない)
「ただね、私もう冒険者やめてハルカと商業ギルド登録して商売の方を頑張る予定なの」
「ふーん。いいんじゃない?女の子がいつまでも危ないとこに行くよりよほど安心だわ」
「え?でもいきなりランク下からになるじゃない?収入も多分下がるんじゃないかと……」
反対されるかと思ったので肩透かしである。
不安定とか言われるかと思ったわ。
でも今でも充分以上貰ってるし。家に納める金額も上げられたし。
「いやあ、むしろ今うち結構儲かってるしな、ハルカちゃんのお陰で。商売敵が味を盗もうとちょいちょい来てるが、分からないわ美味いわで、結局ただの常連さんになっただけだしな」
「あんたから毎月貰ってる分も今は嫁入りの時の資金で使わずに貯めてるのよ?
でもこれからはいらない、とは言わないわよ?
だって貴女に任しておくとある分も全部使いそうだもの。ちゃんと毎月寄越しなさい」
「え?そうなの?そういや最近忙しいとは聞いてたけど……」
一応私の冒険者の時の収入もギルド時代の給料も、家族に半分は入れていた。それでも結構カツカツだった。育ち盛りの子供が3人もいるのだ。
それほど流行ってもない飲み屋でたいしたツマミもないので、客も昔からの常連とたまの新規客位で、それほど繁盛もしてなかったし。
「それにハルカと仕事するんだろう?上手く行かない訳がないだろ」
甘味があまり好きではない筈の父さんもペロリとプリンを食べ終わり、満足げに笑った。
「……アタシもそう思うわ。
でね、ついでなんだけど、ハルカが家を建てるのよ。アタシの部屋も作ってもらうから、独立したいんだけどいいかしら?」
「ハルカと一緒なら問題ない。
あの子のこと、守ってあげなよ?おバカな子だけどうちの恩人だし」
いや、ぶっちぎりでハルカの方が強いけどね。反則的な魔法とか使うし精霊さんズ達が勝手にパワーアップさせてるし。
「お姉ちゃん、出てくの?」
ニコルが寂しそうに呟いた。
「やあね、まだ土地とか決まってないけどこの町の中だしご近所みたいなもんよ。ちょこちょこ寄るし。それにもう少し先の話。家も出来てないのに」
「そっか。私もハルカさんち出来たら遊びに行くね!」
「いいわよいらっしゃい。ただ暫くは忙しいと思うけど。パティスリーも開く予定なのよ」
「パティスリー?」
「お菓子ばかりのお店よ。ケーキとかクッキーとかの」
「お姉ちゃん、私そこが出来たら是非バイトさせて!」
「えっ?……あー、そうね。どうせ人手も足りなくなるだろうし、ハルカに言っとくわ。でも店の手伝いがあるでしょ?」
「大丈夫だよ。今も人手足りなくてバイトの兄ちゃん二人雇ったから」
「……やだ、本当に忙しいのね。儲かってるのはいいことだわ」
家も心配なさそうだ。
後はテンちゃんやクラインの恋の行方でも楽しもうかしらね。
あれだけ分かりやすく好意を向けられてて全く感じないハルカは、自分がモテてるとか一ミリも思ってないのねきっと。恋愛脳より食べ物脳だもんね。あれがどう変わるのか楽しみねぇ。ふふっ。
私の恋は……どうなるのかしらね。
あの人もボケボケしてるから当分は何もないか。
ひと休みして、ハルカんとこ行く前にギルドでお金下ろして、少し市場で買い物してこうかしらね、久しぶりの地元だし、ちょっと市場の様子でも探ってこよう。パティスリー出すとこも候補地あるか見てみましょ。
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