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【閑話】クラインとプルちゃんのひそひそ。

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 ハルカとトラは、晩餐まで時間があるからと言うことで、城下町ゼノンの市場へ、洞窟用の足りない食料の買い出しと、冒険者ギルドと商業ギルドに挨拶に行ってくると言うことで出掛けて行った。

 クロノスは、久しぶりの長距離飛行でかなり体力的に消耗したようで、暫く起こすなと隣の部屋で眠っている。                     


「………で?」


 ハルカが置いていったつぶあん入り人形焼きを口にして、プルはポットから緑茶を注ぐ。

 緑茶とあんこの組み合わせを考えた奴は誰だ。プルは思う。神だな。神に違いない。

 防音魔法をついでにかける。


「………で?とは」

 クラインがどことなく目を泳がせる。

「ハルカが土下座してたのは何でだ?と聞いているんだよ」

「あ、あー、あれな。………うん。してたな、土下座。してたしてた。俺も見た」

「させてたのはクライン、お前だろ。何をやらかしたハルカは」

「やらかした、と言うか、やって頂いたと言うか、まあ…上手く言えないのだが……」

 プルははっきりしないクラインに段々イラついてきた。

「おうおうおうおうおうっ!!」



 バンッ、とシャツから片方だけ脱ぎ肩を出す。

「このプル様の目がごまかされると思ってやがるのか?おぉ?この桜吹雪が目に入らねえかぁぁぁっ」

 クラインが目を凝らすと、本当に桜の絵が描いてあった。

「おー、金さんじゃないか!!すごいな、どうしたんだそれ?」

「トラに描いて貰った。アイツ俺様が作ったのに俺様より無駄に絵まで上手いん………じゃなくてぇ!!この桜吹雪には嘘はつけねえんだよ。さっさと吐きやがれ!プル様の目ん玉の黒いうちは隠し事は許さねえぜ?」

「え?いやプルお前目ん玉はブルー………」

「………そこはフィーリングなんだよ!ソウルを感じろよソウルを!」

「………わ、分かった。実はだな………」


 別にソウルで感じるまでもなく、クラインは別に隠すつもりでいた訳ではない。

 単に恥ずかしくて何と説明したらいいのか分からなかっただけの事なのだが、何となく気圧されて謁見の間でのことを全部話すはめになった。



「はー婚約者ねえ………まあ、あの小心者は、そう逃げるしかないだろうなぁ。ここの皇帝結構オラオラタイプだって聞いてるしな」

「ハルカは『食虫花』だと言っていた」

 プルが首を傾げたので、クラインはハルカからの説明を改めてしてやった。

「なんだ、そんな愉快な格好してたのか?見たかったなぁ勿体ないことしたわ」

「晩餐会で見られるだろ」

「馬鹿だな、滅多に人に苦手意識を見せないハルカが、そこまで毛嫌いしてんのなんか、ある意味レアだぞ?
 むしろそれを見てハルカがどんな顔して言い訳考えてたのかまで見たいだろうが。
 でも、そこまでハッキリ嫌がる位だ、むしろ反動で嫌いから好きになるかもしーー」

「ない!それは絶対ない!」

 緑茶をすすり、ふふん、といった顔でプルはクラインを眺める。

「なんだ?『いっそのこと、嘘から出たマコトでそのまま婚約者にならないか?』位言ったのか?まあ言ってたら土下座ルートにはならないよなぁ………」

「いっ?言える訳なかろうがっ!!」

 クラインは顔を真っ赤にして叫んだ。

「ハルカは、王族とか貴族とか、堅苦しいのが嫌いだ」

「じゃあ、他に譲るか?あの小心者はああ見えてモテてるからな。本人は全く気づいてないが」

「………それは困る」

「あー、パラッツォにもいたよなぁ、グランとか言ったか。あれも貴族だが冒険者もやってるからな、まだ苦手意識はないだろう。
 リンダーベルでもあちこちの若い兄ちゃん達がハルカ目当てでレストランやパティスリーにも来てるしなー」

「………………」

「クライン、お前さぁ、一緒の家に寝泊まりして何も思わないか?」

「………いや、すごく嬉しいが?」

「誰がそんな幼稚園児みたいな回答を聞きたいと言った。唇奪うだの思いの丈を伝えるだの押し倒すだの18禁的なものがこう、色々あんだろうが」

「そんなことして追い出されたらどうすんだ!」

「王宮に戻りゃいいじゃんか」

「………寂しくて死ぬ」

「どっちにしろ、いずれはハルカも誰かと結婚すんだろうし、長いこと一緒に居たいなら、結婚するしかなかろうが?
 まあその前にまず付き合ってもおらんし。
 他のやつと結婚したら、確実に家は出ないといけないだろう普通?
 俺様はほら、人外だし?一緒にいても旦那も別に困らんと思うがな。
 ただ、出来ればお前の方が付き合いもあるし気心知れてるし、ハルカの旦那にいいんだがなあ」

「………お義父さん……」

「誰がお義父さんじゃボケ。お前のようなヘタレにハルカはやれん」

「そんな、お義父さん、酷いじゃないですか?俺の秘めたる想いを知ってるクセに!」

「お義父さんやめれ。殺すぞ。
 まぁ知ってはいるが、応援すると約束はしていない。秘めたままならないのと同じだ。
 ………しかし気づいてないのかまさか?」

「………何がだ」

「あのシュルツというのはハルカが転生者だという事に感づいてるぞ」

「………まさか」

「当然皇帝陛下も知ってるだろ。そうでなきゃいくらハルカが美人で気立てがよくて控え目に言っても優しくて料理が上手くても、いきなりプロポーズまでは行くまい」

「いや、そこまで揃ってたら即決案件だと思うんだが」

「普通はな。ただ皇帝陛下だぞ?これからいくらでも己の婚姻を政略に使える男が、どこの馬の骨か分からん庶民を妃に迎えようとか、可笑しいだろ。
 お前のようなぶっちゃけ跡継ぎも二番目も立派に息子が育ってるとこの三番目なんて、王族とは言え実質政略の足しにもならん中の下クラス、大したこたぁないだろうが。むしろ領主の跡取りとかの方がなんぼか自由も効くし売れ筋だろ?」

「…………俺が打たれ強くなったのはお前のお陰な気がする」

「何傷ついて胸に刺さった矢を抜く振りをしてやがる。いくらでも放ってやるからエンドレスで抜き続けろ。ハルカがやれば可愛いが無愛想なお前がやってもちっとも可愛くない」

「お義父……」

「今度お義父さんと呼んだら未来永劫ハルカと接見禁止だからな」

「………で、プル、それでシュルツ達はハルカの取り込みを企んでるの………だろうな」

「当然だろ。50年か100年に一度の転生者だ。むしろお前んとこの国のようにのほほんと分かってても手も出さない方が珍しいんだ」

「いや、国王や王妃はまだ」

「知らないと思ってるのお前だけだろ?
 伊達に国を治めてないぞあのオッサン達は。184%バレてる」

「その端数は何だ」

「だからフィーリングなんだよ、フィーリング。
 クライン、お前はそういうとこが頭が固いっつうんだよ。もっとざっくりと物事をファジーに捉えるのも大事だぞ。ほら食え」

 口に突っ込まれた人形焼きをもぎゅもぎゅしながら、クラインは考える。

「そのまま諦めるタイプでもなさそうだから、さっさと予定済ませて帰るのが得策だな。………緑茶お代わりいるか?」

「おお悪いな。
 そうだな。まあハルカも簡単に堕ちるタイプじゃないから、気にするほどでもないかも知れんが、用心に越したことはないからな」


 二人は縁側のご隠居のようにお茶を飲みながら、ハルカが戻って来るのを待つのであった。



 
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